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抖音、快手のライブECがGMV10兆円越え。事業ポジショニングから見たショートムービーEC

ショートムービープラットフォームによるECが好調だ。なぜ、ショートムービーによるECはここまで受けるのか。それは従来のECと差別化ができ、空白地帯となっていたブルーオーシャンを抖音と快手がいち早く発見したからだと人人都是産品経理が報じた。

 

急成長をするショートムービーEC

ショートムービープラットフォームである中国版TikTok「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)のEC、ライブコマースが急成長をしている。2021年のGMV(流通総額)はまだ公開されていないものの、メディアは抖音が7000億元から8000億元(約14.4兆円)程度、快手が6500億元(約11.7兆円)程度になるのではないかと予想している。これはアマゾンジャパンの4.2倍、3.4倍になる。また、全米小売業協会が公開している「2021 Top 50 Global Retailers」(https://nrf.com/blog/2021-top-50-global-retailers)にあてはめてみると、抖音は世界第3位、快手は第4位となる。上にくるのはウォルマート、アマゾン、シュワルツのみだ。

なぜ、抖音と快手はECとしてもここまで強いのか。その理由のひとつがポジショニングだ。抖音と快手は、すでにレッドオーシャンとなっていた小売、ECの領域で、断片化されていたブルーオーシャンを発見した。

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▲小売業を消費行動と「場」の二軸マトリクスで分類すると、中国の小売業とECはきれいに分散をし、それぞれの差別化ができている。

 

基本は検索型消費行動

それを示すのが小売業の二軸マトリクスだ。縦軸は「人の行動」、横軸は「場」を表している。

最も基本的な消費行動は検索型消費行動だ。例えば、洗濯をしようと思ったら洗剤がないことに気がついた。頭の中で購入できる店舗を「検索」し、コンビニやドラッグストアに行き、商品棚を「検索」して、洗剤を発見して購入する。これが消費行動の基本型だ。

これをそのままオンラインに持ち込むと伝統的ECとなる。洗剤を検索をして購入ボタンを押す。アリババのEC「タオバオライブ」のライブコマースは、この検索型ライブコマースになる。人気のタオバオ達人は紹介する商品のジャンルがほぼ決まっていて、薇(ウェイヤー)であれば女性向けファッション、李佳琦(リ・ジャーチ)であれば女性向け化粧品が主体となり、タオバオで販売をする商品をライブ放送で紹介をする。つまり、タオバオ達人は消費者の検索型消費行動のお手伝いをしている。

このような検索型消費行動は、常に需要があって、消費行動が始まる。洗剤が必要だと思うから洗剤を検索するという行動に結びつく。

 

消費行動そのものを楽しむコンテンツ型消費

では、コンテンツ型消費とはなにか。家の近所に雰囲気のいい書店がある。別に特定の本を買おうとは考えていなくても、その本屋でいろいろな本を見るのが楽しい。そこで、読みたい本と出会って購入をする。あるいは、休日に買い物の予定はなくてもショッピングモールに行き、ウィンドウショッピングをする。さらには映画を見たり、食事をしたりして楽しむ。その中で気に入った商品と出会い、購入をする。

これがオンラインになると、コンテンツECやコンテンツライブになる。コンテンツECの小紅書(RED)は、インスタグラムのようなSNSの形になっている。その中で、著名人や知人の写真などを見ること自体が楽しい。その写真を見ているうちに素敵なバッグの写真と出会う。そのまま購入ができるというのが小紅書だ。抖音もショートムービーを見ていること自体が楽しい。見ているうちに便利なお掃除グッズのショートムービーと出会う。タップをするとそのまま購入することができる。

コンテンツ型消費は、需要があるわけではなく、出会によって突発的な需要が生まれ、それで消費行動が起きる。

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▲10代、20代の女性に圧倒的に人気のある「小紅書」。インスタグラムにEC機能がついたようなコンテンツECだ。

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▲小紅書ではフォローしているインフルエンサーの写真、ムービーに商品タグがついていることがある。これを押すと、商品ページがポップアップされ購入ができる。

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▲商品にタグが表示され、押すと商品ページがポップされるパターンもある。

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▲抖音でショートムービーを楽しんでいると、カートボタンのついたムービーが配信されてくる。カートボタンを押すと、商品ページがポップアップされ、そのまま商品を購入することができる。

 

人を信頼して購入するソーシャル型消費

ソーシャル型消費は、知人の信用によって始まる。友人の家に遊びに行ったら、新しく買ったソファがあり、「このソファは買ってものすごくよかった」と言われる。それで同じブランドのソファが欲しくなる。あるいは知り合いが保険の営業を始め、「この保険はとてもいい。商売抜きに友人として薦める」と言われ、友人の言葉を信用して購入する。あるいはなじみの中国茶の店に行き、店主から「いいお茶が手に入った。お得意さんだけに売っている」と言われ、店主の言葉を信用して購入をする。

これがオンラインになると拼多多(ピンドードー)になる。友人からSNS「WeChat」で、「おいしい金華ハムをいっしょに買わない?以前、買ってすごく美味しかったから」とメッセージがきて、その友人の言葉を信用して共同購入する。

快手のライブコマースは、ソーシャル型だ。快手のライブ配信主は、たとえば紹興酒であれば紹興酒に関連したショートムービーを配信して、ファンを獲得しておく。そして、紹興酒のメーカーや卸業者と提携をして商品の供給を受け、快手のライブコマースで販売をする。ファンからの信頼関係が基本になっている。

そのため、快手では、メーカーや販売業者の責任者が直接ライブコーマスを行う「CEOライブ」も多い。責任者が直接販売をするので、いい加減なことは言わないし、商品も確かだと感じて購入をする。

 

ライブの空白地帯にいち早く参入した抖音と快手

このように小売業には、消費者の行動と販売の場という二軸で分類をすると、9つの販売手法が存在することになる。

20世紀の間に、オフラインの3つのセルが成熟をした。21世紀になると、「検索・EC」の伝統的ECが登場した。2010年代になると、「コンテンツ」「ソーシャル」のECが登場し、タオバオが他に先駆けて「検索・ライブコマース」を始めた。

ところが、「コンテンツ」「ソーシャル」のライブ販売は空白になっていた。そこを抖音と快手がいち早く埋めた。両者は、未開の地の開拓者であったために、この分野で圧倒的に強く、このセルの利益を独占する状態になっている。

抖音と快手のECの強さは、断片化されていたブルーオーシャンを他よりも早く発見し、そこで地位を確保し、ライバルを寄せ付けないことにある。