中国で普及する外売サービス。外売アプリを開いた時に、近隣店舗一覧に表示されなければ注文もしてもらえないということから、キッチンを共有するシェアリングキッチンサービスが始まっていると好奇心研究所が報じた。
一般客は利用できない謎の店舗
中国でもはやなくてはならなくなったサービス「外売」。ほぼどこのレストラン、ファストフードの料理でもスマホで注文し、届けてもらえる出前サービスだ。日本でも、ウーバーイーツが同様のサービスを提供している。
ところが、美団(メイトワン)や餓了么(ウーラマ)などの外売アプリの注文画面に表示される店舗一覧で、そこに行っても店舗が見当たらない謎の店が存在することが話題になっている。
例えば、美団のアプリに「dicos(吉刻美食城店)」という店舗情報が表示されるのに、その住所に行ってもdicosの店舗はない。吉刻美食城というビルも見つからないが、吉刻という看板ロゴだけが見つかり、「外売配達員はこちら」という掲示が見つかる。一般の客は入ることができない。
これは複数のレストラン、ファストフードが集まったシェアリングキッチンで、すでに200以上のシェアリングキッチンが存在する。シェアリングキッチンは吉刻だけでなく、熊猫、黄小逓などのスタートアップがシェアリングキッチンを運営している。吉刻はすでに米国のクラウドキッチンに買収をされていて、熊猫は5000万ドル(約55億円)の投資を募集中、黄小逓はプレAラウンド投資を獲得した。
▲dicosの吉刻美食城店の住所に行ってみると、そこに店舗はなく、「外売配達員の受け取りはこちら」という看板が見つかる。
▲現在のシェアリングキッチンの開設状況。当然ながら、北京、上海の大都市に集中している。
地理的なSEO対策から生まれたシェアリングキッチン
このようなシェアリングキッチンは、外売専用として、オフィスビルやマンションが密集しているものの、賃貸料が安い場所に開設される。広さはさまざまだが、ここに3店舗から10店舗のレストラン、ファストフードのキッチンだけが入居をする。美団などの外売アプリを開くと、現在の自分の場所から近い店の一覧が表示され、店を選んで、メニューの中から料理を注文する。そのため、顧客が多い場所に店舗がないと、注文をしてもらえない。しかし、そのような場所は、賃貸料も高く、店舗を出店するのは簡単ではない。それで、キッチンだけ置いて、外売の利用客を獲得しようというものだ。
いわば、外売の地理的なSEO対策のようなもの。これに目をつけたシェアリングキッチンビジネスが興り始めている。
▲シェアリングキッチンの廊下。各部屋がキッチンになっていて、さまざまな飲食店が入居をしている。
▲外売配達員は、このような各飲食店専用の窓から商品を受け取り、配達をする。
各種手続きが取得済みであるためすぐに開店ができる
レストラン側から見た場合、シェアリングキッチンはありがたいサービスに映る。例えば、北京市の場合、レストランを開店するには、衛生許可証、従業員健康証、食品営業許可、消防許可などが必要で、店舗面積は最低でも60平米でなければならない。手続きには3ヶ月ほどかかるのが普通で、その間、さまざまな検査に立ち会わなければならない。
しかし、シェアリングキッチンの場合、このような許可は、シェアリングキッチン全体ですでに取得済みなので、入居時に再申請をすればいいだけだ。必要な調理器具を持ち込むだけで、すぐに営業が始められるのが魅力だ。
▲シェアリングキッチンは、客席がなく、キッチンだけ。複数の飲食店が入居をする。そこに外売の配達員が商品を受け取りにくる。外売サービス専用のキッチンだ。
成長の限界をどう打破するかが大きな課題
黄小逓の創業者、黄献興は好奇心日報の取材に応えた。「原則として、3km圏内の1ヶ月の外売注文量が100万件以上の場所を選んで、シェアリングキッチンを設置しています」。
しかし、シェアリングキッチンビジネスの限界が早くも見えてきている。このビジネスは、商業ビルなどのフロアを賃貸して、そこに厨房設備を入れ、ファストフードに貸し出すという又貸し業にすぎないからだ。
そこで、より広いフロアを賃貸して、そこにシェアリングキッチンと、客席を設置したフードコートをオープンする例も見られるようになってきた。外売の需要と来店の需要の両方を取りに行くという発想だ。
しかし、そもそもシェアリングキッチンは、外売需要は多いが、人の流量が少ない場所に設置し、家賃コストを抑えながら、外売売上を上げるというものだったのだから、フードコートを出店すると、家賃コストが上昇するか、あるいは人の流量が少ないため店舗売上が上がらないかという問題を抱えることになる。
それでも、大都市ではシェアリングキッチンが増え続けている。シェアリングキッチンは、始まったばかりの新しいビジネス。成長するまで、まだまだ紆余曲折がありそうだ。
▲シェアリングキッチンだけでは成長に限界があるので、客席を設けて、複数のキッチンを入居させ、フードコート形式にする工夫もされている。
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