中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ギグエコノミーに苦しむライドシェア運転手

中国ライドシェア滴滴出行のドライバーが減少し始めている。仕事がキツイのに報酬が上がらないというのが原因だ。以前、月に1万元(約17万円)を稼いでいた優秀ドライバーが滴滴出行をやめた。そのドライバーを天天快報が取材した。

 

ライドシェアはギグエコノミー(片手間経済)?

米国ではウーバー、アジアではグラブ、中国では滴滴出行というライドシェアが生活に定着している。一般の運転手が自分の車でタクシーサービスを提供するシェアリングエコノミーサービスだ。

しかし、シェアエコノミーで生活を立てることは難しい。本来は「自分の用事のついでに利益も得る」というのがシェアエコノミーだった。例えば、私が東京から横浜まで車で行く用事がある。コストは車両の減価償却費、ガス代、高速代で5000円ほどだとしよう。ウーバーのようなサービスに登録をして、たまたまその時、横浜まで行きたい人を拾う。そして、彼は例えば、2000円を支払ってくれる。

私は5000円かかるところが3000円で済み、彼は5000円かかるところが2000円で済む。互いにメリットがある。

しかし、これが業務だとなると話が違う。5000円のコストがかかる上に、私の報酬、例えば3000円をプラスして、8000円ぐらいを支払ってもらわないと赤字になってしまう。

シェアエコノミーの場合、「私はそもそも横浜に行く用事があり、そのついでに人を乗せる」というところがポイントなのだ。請負業務としてやるなら、既存のタクシーと同じ料金にならなければやっていけない(既存企業が高コスト体質であるということはあるにしても)。

そこから、シェアリングエコノミーの正体は、ギグエコノミー(片手間稼ぎ経済)ではないのかという議論がある。暇を持て余している運転手の足元を見て、最低賃金以下で働かせ搾取し、それをマッチングするサービス主体だけが株式公開をして、大金をつかむ。そういう批判をする人もいる。

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滴滴出行のドライバーは、車の中にタブレットスマートフォンを装備している。乗客とのマッチング情報が表示される。


毎月1万元稼いでも続けられないライドシェア運転手

天天快報は、滴滴出行のドライバーだった人に取材をした。彼は、毎月1万元(約17万円)をライドシェアで稼ぐという有能な運転手だった。しかし、これ以上、仕事を続けることができなくなったという。

ひとつはシステム上の問題だ。滴滴出行で乗客が車を呼ぶと、3km以内にいる車がマッチングされ、乗客がいる場所に迎えにいくことになる。この迎車時のガソリン代などは運転手持ちだ。実際には2km程度迎車走行することが多く、そのガソリン代、時間の浪費などがバカにならない負担になっている。ましてや渋滞に巻き込まれたりすると、迎車に15分ほどかかってしまうこともある。そのとき、ほとんどの乗客に文句を言われてしまうのだ。

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客から何を言われても我慢できるメンタルの強さが必要

文句を言われる程度であればまだいいが、怖いのは運転手の評価だ。滴滴出行は、乗客の評価ポイントを元に、評価の高い運転手から優先してマッチングをする。そのため、評価が下がると、お客はいるのになかなか乗客を回してもらえなくなる。

それが怖いため、どの運転手も過剰に低姿勢にならざるを得ない。なにを言われても耐え、笑顔を絶やさない。それが大きなストレスになっている。

運転手が低姿勢であるために、一部の乗客は増長をして、理不尽なことを言ったり、見下した態度をとる。メンタルが強くないとこの仕事は続けられないという。

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滴滴出行は、自分の車を使ってタクシーサービスを行う。中国では、乗客はバックシートではなく、助手席に座るのが一般的。

 

整備不良は罰金、乗務停止

さらに、政府の規制が厳しくなり、自動車の安全整備、運転手の免許書資格などが厳しく問われることになった。もし、整備不良などがあった場合は、違法白タクシーとして、かなりの額の罰金を取られ、一定期間、滴滴出行の仕事ができなくなる。

警察に整備不良を摘発されたことをきっかけに、ライドシェアの運転手をやめるドライバーが増えているという。

 

なくなっていく報奨金

さらに、収入がどんどん減っている。以前の滴滴出行は、ドライバーの数を増やすことを優先し、莫大な額の資金を投入し、ドライバーの収入に補助を出していた。走行距離に応じて報奨金を出したり、1日の乗客数が一定数以上になるとガソリン代の補助をしてくれたりした。

しかし、滴滴出行が有名になり、ドライバーの成り手がたくさんいる今、このような報奨金制度が次々と打ち切られている。

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物価が上昇する中で、あがらないドライバー報酬

滴滴出行のドライバー登録をするには、350元(約6000円)の登録料を納める必要がある。そして、多くのドライバーが毎日12時間は働く。これで平均して18組の乗客を乗せ、ガソリン代などの経費を引くと、ドライバーの収入は1日150元(約2500円)程度にしかならない。休日なく働いて4500元(約7万7000円)。

これは数年前の中国では、決して悪い給与水準ではなかった。しかし、物価が上昇する中国では、もはや高い給料とは言えない。

滴滴出行のドライバーは、減少傾向にあり、走っている車が少なくなっている。ということは街中で呼んでも来るまでに時間がかかったり、場合によっては3km以内に車が見当たらず、呼べないという現象も起き始めているようだ。これを放置すると、利便性が悪いと感じられるようになり、消費者の滴滴出行離れが起きるようになる。

ウーバー中国を駆逐して、中国ライドシェアのリーダーになった滴滴出行だが、このままだと苦しい局面を迎えることになるかもしれない。

GIGAマップル でっか字関東道路地図 (GIGA Mapple)

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