中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ライブコマースの女王「薇娅」。その影響力の秘密は、商品を見極める目(上)

コロナ禍で急速に盛り上がるライブコマース。しかし、ライブコマースの世界には「女王」と呼ばれる桁外れの配信主が存在する。1日ライブコマースをやれば、マンションが買えると言われる薇(ウェイヤー)だ。その人気の秘密は、芸能人などとは違い、商品を見る目に対する信頼だと霓虹風筝的人物長廊が報じた。


ライブコマースの女王「薇

中国では、新型コロナの感染拡大をきっかけに、ライブコマースが重要な小売りチャンネルになってきている。ライブ配信を使い、商品を紹介し、そのライブ配信画面から直接商品をEC注文できるという仕組みだ。

そのライブコマース配信主の第一人者が、薇(ウェイヤー)だ。薇は、アリババの淘宝網タオバオ)ライブで、数々の伝説を作ってきた。2019年の11月11日の独身の日セールは、わずか1日のライブコマースで27億元(約410億円)の商品を売り上げるという記録を作っている。薇の収入は商品価格の20%前後なので、1日の稼ぎは約60億円になる。よく「薇は1日ライブコマースを行うことで、マンションが1つ買える」と言われるが、それが嘘ではないことが証明された。

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▲ライブコマースの女王「薇」。2019年の独身の日には1日で約410億円の商品を売り上げた伝説をつくっている。

 

の強みは、商品を見る目への信頼感

は、中国人であれば誰もが知るネットの人気者=網紅(ワンホン)だが、タレント的な人気だけでこれだけの販売力があるわけではない。服飾品を中心に、女性が好む商品を販売し、多くの女性から「薇が紹介する商品なら間違いない」という信頼を得ているのだ。カジュアルファッションについても、さまざまな提案をし、薇発の流行を起こし、ファッションリーダーとしても認知されている。

芸能人がライブコマースをする「明星帯貨」も盛んに行われているが、薇の売上と比べると桁違いに小さい。芸能人の場合、その芸能人のファンは商品を熱心に買ってくれるが、ファンでない人は買ってくれない。しかし、薇は多くの人から「商品を見る目利き」での信頼を得ているため、薇が好きであろうと好きでなかろうと商品を買ってくれる。

の強みは「商品の目利き」であり、それが消費者から信頼をされていることだ。

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▲薇と支えるチームメンバー。自分たちの強みは、自分たちで欲しくなる商品を紹介すること。それがブレないために、多くの視聴者から信頼をされている。

 

北京で芸能界に入ることを夢見ていた少女

は、このような地位をどうやって築いてきたのだろうか。薇の本名は、黄薇(ホワン・ウェイ)。1985年生まれの80后(バーリンホウ)だ。80后は、それまでの中国人とは価値観が異なり、現代の中国を作ってきた世代だ。両親は服飾関係の仕事をしていた。

両親が経営していた服飾工場は、安徽省廬江にあった。現在は合肥市に編入されたが、当時は田舎の小さな町にすぎなかった。両親は忙しかったため、薇は乳母に育てられた。歌を歌うのと踊りを踊るのが好きな女の子だった。

少女にありがちなこととして、薇も、このような田舎町ではなく、都会に行って歌か踊りで身を立てたいという夢を抱くようになった。薇は、大都会である北京に行き、そこで芸能界に入ることを夢見るようになった。

 

16歳で芸能学校に入学、北京での華やかな青春

偶然にも、薇の両親は、北京に移転して、服飾関係の商売を始めることを決断した。薇に都会の質の高い教育を与えてやりたいということもあったようだ。16歳の薇は、迷わず北京の芸能学校に入学をした。

の交際範囲は、芸能学校だけでなく、役者のたまご、劇作家のたまごなどにも及んだ。そこで、董海峰(ドン・ハイフォン)という大学生と知り合い、恋をした。薇と董海峰は、その後結婚し、二人三脚で人生を歩んでいくことになる。

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▲薇と董海峰。2人は、北京、西安セレクトショップを開いて成功する。さらに、薇はライブコマースでもより大きな成功をした。

 

結婚と芸能界入りを反対する両親

2003年、18歳になった薇は、董海峰と正式に結婚をしようとした。しかし、両親から猛反対される。両親が反対をした気持ちもわかる。芸能界などという不安定な世界に飛び込もうとし、しかもまだ学生の身分で結婚をして、どうやって食べていけるのかを心配した。また、両親は、そもそも薇が芸能界に進むことに反対だった。明朗快活で素直な薇は、芸能界のどろどろとした人間関係に傷つくことになるだろうと感じていた。本音を言えば、薇にも親の服職業を手伝ってほしかったのだ。

 

SARSで閑古鳥が鳴く服飾卸市場に逆張り

当時、北京で最も人気のある服飾関係の売り場は、北京動物園の近くにある服飾卸売市場だった。大型のビルの中に、一間間口の小売店が大量に入っている。良質の品物から劣悪な偽物商品までが売られている。販売価格はあってないようなもので、すべては顧客と店主の値段交渉で決まる。常に活気に満ちている卸売市場だった。

ところが、2003年に中国でSARSが流行をする。人々は感染を恐れ、外出をしなくなり、街から人が消えた。これにより、ECを生業にしたアリババや京東が頭角を表してくることになる。

北京動物園服飾卸売市場でも買い物客がいなくなった。経営ができなくなり、撤退をする店舗も現れるようになった。平常時であれば、北京動物園服飾卸売市場に出店をしたくても、空きがないために簡単には入居できない。しかし、今であれば、空きが出て出店ができる。

両親が芸能界に進むことを反対し、服飾業へ進むことを望んでいるのであれば、これは大きなチャンスだと薇は考えた。しかし、両親は反対をした。こんな難しい時期に、素人同然の薇が店を開いてもうまくいくわけがないと感じたのだ。

しかし、薇を止める手立てはなかった。恋人の董海峰は、6000元(約9.6万円)の貯金をはたき、卸売市場の店舗の権利を買った。しかし、わずか6平米しかない小さな店だった。ここから、薇と董海峰の人生が大きく開ていくことになる。

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▲薇が最初に店を開いた北京動物園服飾卸売市場。目の前は、大学生の通学路となっていた。

 

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北京動物園服飾卸売市場の他の店舗。あまり質のよくない安価な商品が大量に並べられているというのが一般的だった。

 

自分をマネキンにすることで成功する薇

2人は、若い女性向けの服飾を扱うことにした。ひとつは、薇自身がファッションが好きで、そのセンスは芸能学校の同級生たちからも一目を置かれていたことがある。

もうひとつは、この卸売市場は、全世代向けの服飾が販売されていたが、若者向けにも適した立地であることがあった。近所には、北京外国語大学、北京舞踏学院、中央民族大学などがあり、卸売市場は駅から大学までの通り道にあり、目の前を大学生たちが毎日行き交っている。しかも、いずれも、中国の大学の中では垢抜けた人たちが通う大学で、ファッション性の高い服飾品を販売すれば、感度の高い女子大生たちが買ってくれるのではないかと目論んだ。

董海峰は、流行の発信源は芸能人だと考えていた。歌手や女優が着ているのと同じ服をファンたちは着たがる。そこで、人気のある芸能人が着ている服のブランドを調べて、広東省の服飾卸売市場を回って、同じブランドの服飾を仕入れ、それを北京で販売するということを行なった。

しかし、成功の鍵は薇だった。董海峰が仕入れてきた服を、薇の視点でコーディネートをし、自分でマネキンとなって着た。それで接客をし、卸売市場の中を歩き回った。もともと芸能界を志望するほどルックスのいい薇であったため、すぐに話題となり、2人の店は女子大学生たちであふれることになった。

開店してわずか3ヶ月で、10万元(約160万円)を売り上げた。わずか6平米の小さな店で、当時の貨幣価値を考えると、驚異的な売上だった。

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北京動物園服飾卸売市場の店舗で販売されていた商品。当時としては最先端のファッションで、近隣の女子大生が薇の真似をした。

 

芸能界でも成功の兆しが見えた

2人の店は、若者に絶大な人気を誇るカリスマ店として、たびたびメディアで取り上げられるようになり、薇もちょっとした有名人になっていった。その中で、安徽電子台の人気コンテスト番組「スーパー勝利者」の司会者である劉剛と知り合った。劉剛は、薇のスター性を見て、コンテストに出場すべきだと強く勧めた。

は、二人組でコンテストに参加し、なんと優勝してしまう。薇の芸能界に対する憧れが再燃した。テレビ番組やCMへのオファーも舞い込むようになった。

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▲安徽電子台の人気コンテスト番組「スーパー勝利者」に出場した薇(左)。優勝をして芸能界の仕事のオファーも舞い込んだが、すぐに服飾販売の仕事に戻っている。

 

芸能界をすぐに引退、服飾販売専念

しかし、薇はすぐに芸能界の仕事をやめてしまい、北京動物園の卸売市場に戻ってきた。薇は当時のことを振り返って、こう語っている。「何がしたいのかはまったくわからず、目先のしなけれいけないことしかわからない状態でした。私の行動は、すべて他人に決められてしまい、すべての行動に人の目があります。私は私でなくなってしまったのです。それで、この世界を離れて、元の居場所に戻らなければならないと思いました」。

このコンテストに参加した人たちの中からは、李宇春、張靚穎などのスターが生まれている。薇は、短い芸能活動期間を経て、自分の一生の仕事を見極めた。

しかし、2008年の北京五輪が近づくにつれて、店舗の売上が下がり始めた。薇が初めて直面した困難だった。

 

明日に続きます。

 

 

再び大規模開発が行われる深圳。2026年に完成するテンセント「ネットシティ」

昨2020年12月25日、深圳市は第3期開発計画の着工式を行った。この開発計画の目玉となっているのが、テンセントのネットシティだ。投資金額は319億元(約5100億円)。テンセントのマスコットにちなんで、このネットシティは、ネット民から「ペンギン島」と呼ばれるようになっているとGameLookが報じた。

 

テンセントが深圳に建設する新都市「ペンギン島」

このペンギン島のある場所は、深圳市宝安区西郷街道の大鏟湾A002-0076。用地面積は80.9万平米(東京ドーム17個分)で、テンセントは85.2億元(約1360億円)で取得した。大きな半島の形状をしているため、ネット民からは「ペンギン島」と呼ばれるようになっている。

開発総床面積は200万平米を超える。最も多いのは研究開発ラボで150万平米、社員寮19万平米、ビジネスオフィス14万平米などで、この他、科学展示館、データAIセンター、会議センター、ホテルなども建設される。

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▲テンセントのネットシティの完成予想図。オフィスだけでなく、商店、住居も併設される「都市」になる。2026年完成予定。

 

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▲ネットシティの建設用地は、大きな埠頭になっている地域。ネット民からは、テンセントの企業マスコットに合わせて「ペンギン島」と呼ばれるようになっている。

 

オフィス面積がいつも不足しているテンセント

いわば、ひとつの小さな都市を作ってしまうことになるが、テンセントによると、それでも足りないのだという。

深圳市で働くテンセント社員は、すでに3.8万人に達している。本来なら70万平米のオフィスが必要となるが、テンセントが深圳市内に所有するオフィスは33万平米でしかない。残りの37万平米は賃貸をすることで補っている。

しかし、テンセントの試算によると、テンセントの社員数は毎年13%の割合で増えており、このままでは7年後に8.9万人となる。この時になると、178万平米のオフィスが必要となり、130万平米のオフィスが不足をすることになる。

テンセントはこの問題に対処するために、深圳市と協議をし、大鏟湾の広大な土地を購入することになった。深圳市でも、この問題に対応しないと、テンセントが、より土地の広い他都市に移転する可能性もあるため、話がまとまった。

大鏟湾には、深圳市地下鉄15号線の建設計画があったが、深圳市でもこの建設計画を10年も前倒しして、テンセントのペンギン島に合わせて開通させる計画を進めている。

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▲現在のテンセントのオフィス。この他に本社ビルもあるが、オフィス面積は常に不足しているという。このオフィスもNBBJの設計。

 

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▲深圳市にとっても、テンセントは重要な税収源。他都市に移転されないように、ペンギン島を通る地下鉄計画を立て、ネットシティ建設に合わせて計画を前倒しした。

 

人の移動を中心にデザインされるデータ駆動設計

ペンギン島の完成は2026年が目標となっているが、全体を2期に分けて開発する計画だ。第1期開発では、オフィスだけでなく、会議センター、ホテル、科学展覧館、9年制の学校(小中学校)などが建設される。

このペンギン島の設計は、米国シアトルの設計事務所NBBJが担当をする。NBBJは、人の動きのデータを分析し、それに基づいて建築物を設計するデータ駆動型デザインの手法で、グーグルやアマゾン、サムスンなどのオフィスの設計を手がけてきた。中国でも、アリペイ、テンセントの本社ビルを設計している。

NBBJの設計士ジョナサン・ウォードは訪中した時に、中国メディアに対してこう語っている。「典型的な現代都市は、シンプルで効率的なことが求められていました。特に、物流と自動車、人の流れを精密に制御する必要がありました。しかし、これは工業時代の考え方です。今は、IT、情報時代なのですから、必ずしもこの原則に従う必要はないのです」。

ペンギン島は、人の流れを中心にし、物流や交通機関は地上や地下に収められ、歩行者とは階層分離される。人は、徒歩だけで、必要な生活が送れるにように建築物がデザインされるようになる。

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▲新しい都市コンセプトの違い。工業時代の都市は、物流などの効率を考え、車道を中心に考える(左)。情報時代の都市は、人の生活を考え、人の移動を中心に考える(右)。

 

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▲ネットシティの完成予想図。自動車と鉄道は、1層と地下に収められ、2層以上は徒歩だけの移動エリアになる。徒歩移動だけで生活ができるように、オフィス、商店、住居などが配置される。

 

若者の心をつかむこと、すなわち未来をつかむこと

中国テック業界には、「若者の心をつかむことが、すなわち未来をつかむことだ」という言葉がある。テンセントがただのオフィスではなく、近未来都市を作ってまでオフィスを拡大しようとしているのは、優秀な若者を獲得しようという狙いもある。

ペンギン島は、深圳という巨大都市の中にありながら、海に面して、自然も多く残され、利便性と自然を両立させた次世代都市となる。テンセントはそこに若い人材を呼び込もうとしている。

 

 

農村ママが起業した「辣妹子」は年商3億円。農村女性の意識が変わる

江西省宜春市宜豊県の橋西郷習峰村で、ママさん40人が集まって起業をし、地域の特産品を拼多多(ピンドードー)などで販売し、年間2000万元(約3.2億円)の売上をあげているというママさん会社が話題になっていると央広網が報じた。

 

農村で始まるママさん起業

このママさんECチームのリーダーは、彭敏芳(ポン・ミンファン)さん。12年前、看護学校を卒業した彭敏芳さんは、多くの卒業生がそうするように、広東省の都市に出て仕事を求めた。そこで、ある医師と知り合い結婚をした。夫となった医師は、無医村だった習峰村で診療所を開設し、彭敏芳さんもその診療所を手伝った。

それから1年、彭敏芳はECを起業することを思いついた。「都会で働いている時、周りの人が農村の特産品をほしがっていました。でも、当時は、売っているところがなく、手に入れるのが難しかったのです。もし、特産品を村の外に出荷する方法があれば、大きな市場があると思っていました」。

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▲彭敏芳さんは農村のママを集めて起業し、辣椒醤などの村の特産品を拼多多で販売をしている。年商は3億円を超えた。

 

村の特産品を拼多多で販売し年商は3億円+

最初は、家の中で特産品を作り、包装をし、EC向けに出荷するという小規模なものだったが、次第に大きくなり、今では専用の工場を作り、扱う品目も、辣椒醤、豆腐乳、蜂蜜、米酒、干しタケノコなどと増えてきた。

工場では生産、加工、包装、出荷までを一貫して行い、現在ではライブコマースも行っている。年商は2000万元を超え、そのうち半分以上が拼多多によるものだ。

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▲農村に残っているママさんたちは、夫の稼ぎだけに頼り、自分のお金を持っていなかった。それが働くことにより、自分のお金を持つことができるようになった。これが農村の女性の意識に大きな変化を与えている。

 

農村ママを経済的に自立させる農村起業

彭敏芳さんが起業をするとき、農村には人手が余っていることに気がついた。現在の農村では、高齢者が農作業を行い、現役世代の男性は都市に働きにいく。女性は家にいて、子育てをし、仕事もないし、収入もない状態に置かれている。彭敏芳さんは、この留守を守るママさんたちを活用しようと考えた。習峰村だけでなく、近隣の村にまで声をかけてみると、働きたいというママさんが多く集まった。

彭敏芳さんの会社で働くママさんは、平均して月3000元(約4.8万円)の収入を得ている。「以前の農村のママさんたちは、夫が都会で稼ぐお金で生活するしかなく余計なお金は持っていませんでした。夫に、稼ぎが少ないと文句を言うことも多かったのです。それが今では、自分でお金を稼ぐようになりました。お金を稼ぐことの大変さもわかるようになり、夫婦の関係も以前とは違ったものになったと思います」。

彭敏芳さんは、この会社をまだまだ拡大していこうと考えている。それはお金儲けだけでなく、農村の女性の意識改革にもなっているからだ。「重要なのは、家庭を守る女性にもできることはあるということを知ってもらうことです。家事と仕事は両立できるということを知ってほしい」。

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▲仕事中の彭敏芳さん(左)。最近では、大学を出た若者が故郷に帰り、特産物の販売を事業化する例も増えている。

 

地方政府も後押しをするママさん起業

県政府も後押しをしてくれた。彭敏芳さんが起業したばかりの頃は、自宅で辣椒醤を作り、出荷をするという小規模なものだった。しかし、素人の集まりであったため、包装がしっかりしていない、異物が混入するなど、クレームばかりだった。衛生管理がしっかりとできる工場が必要だと考えた彭敏芳さんが県政府に掛け合うと、1000万元(約1.6億円)の投資をしてくれた。これにより工場が設立でき、彭敏芳さんの仕事は軌道に乗った。

さらに拼多多の出現が大きかった。「辣妹子」(ラーメイズ)というブランドを作り、辣椒醤がよく売れた。これにより、農村の企業としては、かつてない速度の成長をした。

このような農村起業は、辣妹子だけではない。EC、特に地方特産品の販売に力を入れている拼多多では、無数の農村企業が特産品を販売している。辣妹子のようにママさんの会社や、高齢者が集まった会社が多いが、最近では、大学を卒業した若者が、わざわざ故郷の農村に帰って、EC企業を起業する例も増えている。

農村の収入を上げる政策はずっと昔から行われてきたが、大きな効果があったとは言えない。しかし、ECの登場により、この10年で、農村でも収入が得られる道が増えている。

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▲彭敏芳さんが創業した「辣妹子」。拼多多ではよく知られたブランドになっている。

 

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テック企業に蔓延する996。社会問題化する長時間労働問題

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 057が発行になります。

 

「996工作制」という言葉を聞いたことがあるかと思います。996とは朝9時出勤、夜9時退社の週6日勤務ということで、いわゆる長時間労働のことです。元々、テック企業では長時間労働が常態化をしていましたが、2019年にプログラミングコードの共有プラットフォームであるGitHub上に996.ICUhttps://github.com/996icu/996.ICU)というリポジトリが匿名のエンジニアによって開設されました。996.ICUとは、996で働いていたら、病気になってICUに入院することになるという意味です。

すると、ファーウェイ、アリババ、アントグループ、京東、58同城、蘇寧、ピンドードーなどの社員から「うちも996になっている」という通報が相次ぎました。

 

中国の「中華人民共和国労働法」に定められた労働時間の規定は、常識的なものです。第36条には、1日の労働時間は8時間を超えて定めてはならず、1週間の労働時間は44時間を超えて定めてはならないと規定されています。

また、第41条には、残業に関しては、労働者の健康をそこなわない条件で、1日に3時間、月に36時間を超えてはならないとされています。

この労働法によると、1月(4週間)で最大に働いても212時間となります。しかし、996では288時間にもなります。労働法で許された最大限の働き方よりも、1日あたり3時間近くも長く働いていることになります。

 

この問題が大きな社会的な関心を呼んだのは、テック企業の経営者たちのあまりにもかけ離れた考え方でした。

この996ICUが話題になった直後の2019年4月11日、アリババの創業者ジャック・マーは996を肯定する発言をアリババ内部で開催された従業員との対話集会の中で語りました。これが大きな議論を呼んだのです。もちろん、「ジャック・マーはひどすぎる経営者だ。従業員の命をなんだと思っている」という非難が大半です。しかし、ごく少数ですが、「ジャック・マーの言うこともわかる」と理解を示した人もいます。

少し長くなりますが、ジャック・マーの発言をご紹介します。ぜひ、ご自身で、ジャック・マーの発言に納得がいくかどうかを判断してみてください。

 

「996について、国内で話題になっている。私個人の見方だが、996は一種の大きな福だと思っている。なぜなら、多くの企業、多くの人は、996が絶好のチャンスだとは考えていないからだ(ライバル企業に勝てるチャンスになるという意味)。若い時に996をやらなくて、いつやるのか?一生996をしないで生きてきたことが、自慢になるのか?この世界では、誰もが成功しようと思い、誰もが美しい生活をしたいと願い、誰もが尊敬されたいと願っている。みなさんに問いたい。人よりも努力をし、人よりも時間を注ぎ込まないで、どうやって成功できるのだろうか?

996の話は今日以降しない。でも、私自身は12時間労働を週に12日やってきた。この世界に996の人はたくさんいるが、1日12時間、13時間働く人もたくさんいて、私たちよりも苦労をし、私たちよりも努力をし、私たちよりも聡明な人がたくさんいる…(中略)。

アリババとはどんな企業か。この世から不可能なビジネスをなくす(すべての社会課題をビジネスによって解決できることを実証するという意味)。それがアリババのミッションだ。そのために私たちはつらい仕事をしている。あなた方に、アリババは楽な仕事だなどと言って騙したことは一度もない。「不可能なビジネスをなくす」などと言うことは信じられないだろうか。私たちはそれをやってきた。

今日、私たちはこれだけ大きな企業になり、遠大なミッションを持っている。それを実現するために、代価を払わないなどということが可能だろうか。絶対に不可能だ。だから、私たちは、アリババにくるなら、毎日12時間働くつもりできなさいと言っている。それが嫌なら、あなたはアリババにきて、いったい何をするつもりなのだろうか。私たちは8時間しか働かないお気楽な人たちではないのだ」。

 

ジャック・マーはこの問題に興奮をしたようで、発言全文はこの3倍ほどあります。ジャック・マーが従業員を鼓舞するために、大袈裟、強い言葉を使っていることは割り引いて考えなければなりませんが、要は人より努力しなければ成功はおぼつかないという話です。一方で、過労死をしかねない長時間労働を推奨ではなく、当然と考えているところは、多くのネット民から批判をされ炎上をしました。

この996問題は、時間とともに沈静化をしてきましたが、コロナ禍により再び再燃をしています。それは多くの企業でリモートワークが導入され、自宅で長時間労働するという「隠れ残業」が問題になってきたからです。

そして、2020年12月末に、ピンドードーの女性社員が亡くなるという痛ましい事件が起き、996問題が再燃しています。さらに、ピンドードーでは、飛び降り自殺をする従業員も出て、ネットには労働環境の悪さを指摘する内部告発の書き込みが相次いでいます。

今回は、このピンドードーにまつわる事件をご紹介し、そして、北京義聯労働法援助研究センターが行った「ハイテク企業従業員労働時間調査研究」から見えてきたテック企業の労働環境の実態をご紹介します。

 

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vol.056:広告のコンテンツ化が進むビリビリとTik Tok

 

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デリバリー企業の核心技術=配送計画アルゴリズムはさらなる改善へ

新小売、O2Oの要である即時配送騎手。出前や商品を電動バイクで、短時間で宅配する業務だ。騎手用アプリを開くと、ピックアップと配達が効率よく組み合わされた配送計画が表示されるので、それに従って配達をすればいいようになっている。しかし、現実には数々の問題が発生する。美団、ウーラマともに、このシステムをより洗練させる改革に乗り出していると網約配送員が報じた。

 

新小売、O2Oを担う騎手たち

中国のフードデリバリーの配送員は、最近では「騎手」と呼ばれることが多くなっている。アリババ系の「餓了麼」(ウーラマ)は青色がコーポレートカラーであることから「藍騎士」、美団(メイトワン)は黄色がコーポレートカラーであることから「黄騎士」と呼ばれることもある。

当初は、ギグワークの典型で、騎手が稼ぐために交通ルールを無視して急ぐために、交通事故が多発した。上海市公安局交通警察では、2017年に、2.5日に1人、騎手の致傷事故あるいは死亡事故が発生しているというデータを公開して、取り締まりに乗り出している。同じ年、深圳ではわずか3ヶ月で12人の騎手が交通事故で死亡し、問題になった。

そこから、ウーラマ、美団ともに改革に乗り出している。地区ごとに騎手のグループを組織し、運営幹部が対話集会を持つことで、現場の問題点を把握しようと言うものだ。

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▲ウーラマのコーポレートカラーは青。青は中国で藍と表現されるため、藍騎士と呼ばれる。

 

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▲美団のコーポレートカラーは黄色。そのため、黄騎士と呼ばれる。

 

騎手の安全に配慮を始めた即時配送企業

美団では、このような対話集会を経て、昨2020年11月の創業7周年記念大会で、「同舟計画」を打ち出した。内容は2つある。ひとつは、騎手の中からの公募で、約100名の「プロダクト体験官」を設置することだ。体験官は、騎手アプリの賢い活用法や、効率的な配送テクニックという「稼げる技」を伝えるだけでなく、交通ルールや接客マナーについても指導する。同時に、現場の課題を聞き取りし、運営と現場の橋渡し役を務める。

もうひとつは、全員に無料でオンライン診療のサービスを提供する。ケガだけでなく、発熱などの場合も、スマホから診療を受け、適切な治療を受けることができるようになる。

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▲ウーラマの騎手用アプリ。ピックアップと配達が複雑に組み合わされた配送計画が表示され、騎手はこれに従って任務を遂行する。移動距離が短く、バッグが空になることがない効率のいい配送計画を立案するアルゴリズムのできが、即時配送企業の収益と騎手たちの賃金に直接影響をする。

 

CEOが直接質問に回答。騎手たちが抱える5つの不満

ウーラマでも、昨2020年12月に開催された「藍騎士フェスティバル」に、王磊CEOが出席をし、現場の騎手たちの不満、疑問にひとつずつ答えた。そして、問題を解決するのに、長い時間はかからないという約束をした。

その席上で、騎手たちから出された不満は、主に5つあった。

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▲ウーラマが開催した藍騎士フェスティバル。現場の騎手も出席し、CEOに直接不満をぶつけた。CEOはその場で、改善を約束した。

 

1:飲食店の出荷が遅い

飲食店が標準時間を守らずに待たされることが多い。騎手は複数の配達を同時並行でこなしているため、ひとつの飲食店で待たされると、他の配達までが遅れることになる。配達の遅れは、騎手の評価を下げることになる。これが多くの騎手から出された不満だった。

王磊CEOは、現在、システム上、一律の待ち時間で、配達計画を組むようにしていたが、これを改め、飲食店ごとに実際の待ち時間を測定し、これに応じて、飲食店ごとの平均待ち時間を用いた配達計画を騎手アプリに表示できるように改めると約束した。

 

2:顧客の連絡がつかなくなる

配達をしたのに、顧客が不在で、しかも連絡がつかないことがある。こうなると、無視して次の配達をするわけにもいかないし、そこで待ち続けることもできない。騎手としては最も困ってしまう状況になる。

王磊CEOは、騎手アプリでトラブル通知ができる機能をつけることを約束した。一定時間待っても顧客との連絡がつかない場合は、注文は自動キャンセルとなり、騎手への配達料は支払われ、その顧客からの低評価は無視されるようにするという。

 

3:顧客の登録した住所が間違っている

指定された住所に配達をしたら、そこに顧客がいない。連絡をしてみると、顧客が間違った住所を登録しているということがある。そこから、正しい住所に届けるとなると、時間も余分にかかることになる。しかし、住所を入力し間違えた顧客を責めることはできないと騎手は主張する。中高年など、スマートフォンを使い慣れていない人はしばしば住所入力を間違えることがあるからだ。

王磊CEOは、顧客アプリの操作性を改善するとともに、正しい住所に再配達をする場合は、その時間を考慮して、自動的に以降の配送計画を組み直す機能を追加し、一定距離以上の再配達の場合は、騎手に補助金を出すことを約束した。

 

4:建物内に入れない場合がある

オフィスビル、マンションなどでは、中に入れない場合がある。この場合、門の前から顧客に連絡をし、取りにきてもらうことになる。騎手にとっては余分な待ち時間がかかり、顧客はドアまで持ってきてくれないと、騎手に低評価をつけることもある。

王磊CEOは、偽造のできない騎手身分証を作ることを約束した。そして、各オフィスビル、マンションなどと交渉し、その身分証の提示で中に入れるオフィスビル、マンションを増やしていくと約束した。

 

5:交通状況により遅配が起こる

交通渋滞、道路工事による迂回などで配達に時間がかかることがある。また、天候要因も、雨や雪などの場合は、速度を落とすために配達に時間がかかる。

王磊CEOは、道路状況も考慮して配送計画を提示するような仕組みを構築すると約束した。配達時間を一律で計算するのではなく、交通渋滞や道路封鎖を考慮し、天候条件も考慮に入れて配達時間を計算し、配達計画を提示するようにシステムを改善する。また、悪天候の場合には、騎手に補助金を支給することも約束した。

 

よりシステムは洗練をされていくことになる

王磊CEOは、これらの問題の改善には、長い時間はかからないと語った。フェスティバルに出席し、直接、王磊CEOに不満をぶつけることができた騎手たちは、このような対話の場が設けられたことを評価している。

美団、ウーラマともに、騎手アプリを起動すると、現在地を取得し、配送計画が提示されるようになっている。ひとつの配達をひとつずつ行うのではなく、専用バッグの容量を考慮して、商品のピックアップ、配達が組み合わされた効率的な配送計画になっている。これにより、即時配送は顧客を満足させる短時間での配送が可能となり、騎手は単価は安くても、効率よく配達をこなせるので、トータルの収入が高くなる。この配送計画を立案するアルゴリズムが、即時配送企業の収益を上げる核心テクノロジーになっている。

即時配送企業としては、現場の不満に耳を傾けることで、配送計画アルゴリズムをより洗練させ、競争力を高めることにつながると考えている。

 

 

インドiPhone工場の暴動と略奪が発生。課題が露わになるインドの製造業

iPhoneの組み立てを行なっているEMS「ウィストロン」のインド工場であるナラサプル工場で暴動と略奪が発生をした問題は、結局ウィストロン側の労働管理問題に原因があったと結論づけられた。しかし、ウィストロンの当初の主張は違っており、同様の問題は他のインドの外資系製造業が抱えていると中央政法委長安剣が報じた。

 

インドのiPhone組み立て工場で暴動と略奪

iPhoneなどの組み立てを行う台湾のEMS「ウィストロン」のインドのバンガロール郊外のナラサプル工場で暴動が発生し、工場は破壊、放火され、無数のiPhoneが略奪された。

暴動の理由は賃金だ。労働時間は数度にわたって引き伸ばされたのに、給与は数度にわたって下げられた。ウィストロンで働くインド人工員によると、工学系の学部卒業生の給与は元々2.1万ルピー(約3万円)であったものが、この数ヶ月は時間あたりの換算にすると、半分近くになってしまっていたという。一般の工員では、月に500ルピー(約700円)まで下げられた例があり、これが暴動の要因となった。

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▲ナラサプル工場のストライキは、暴動に発展をした。ウィストロン側は、暴動は工員ではなく、外部から侵入した集団が起こしたものだと主張している。

 

見解が食い違う工員、ウィストロン、州政府

しかし、問題は複雑だ。ウィストロン側の主張はまったく違っている。ウィストロンは、現地の派遣会社に正規の給与を支払っており、給与水準を下げたことはないとしている。また、暴動を起こしたのは工員ではなく、外部の人間が工場内に侵入して起こしたものだと主張している。

一方で、現地のカルナータカ州政府は、労働条件が悪化していることを確認したというレポートを公表し、急速に膨れる労働力の管理をウィストロンができていなかったと結論づけた。

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▲工場内の施設が破壊されただけでなく、相当数の完成したiPhoneが略奪された。

 

以前から指摘されていたインドの難しさ

このナラサプル工場は、2017年に設立されたもので、インド政府が輸入スマートフォンに高額の関税をかけたため、インド向けのiPhoneをインド国内で製造するためのものだった。

ウィストロンは、以前、中国江蘇省崑山にアップルのEMS工場を持っていたが、売却をし、インドや東南アジアに移転をしている。中国の賃金の上昇や米中貿易摩擦の状況を見て、脱中国を図った。

しかし、多くの専門家は以前から脱中国の難しさを指摘していた。確かに、インドや東南アジアの労働コストは安いものの、工員の熟練度は中国にまだまだ及ばない。さらに、工場が設置される郊外の地方政府は、貧困問題に追われていて、行政能力は高くない。さらに、インドは中国や台湾とはまた異なる労働文化があるため、インド工場で成熟した製品が製造できるようになるためには、少なくとも10年はかかると指摘されていた。

その専門家の指摘が、わかりやすい形で現れたことになる。

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▲ウィストロンの中国工場。以前は、中国に製造拠点をもち、アップルのiPhoneなどの組み立てを行なっていた。インドが輸入スマホに高い関税をかける政策をとったため、工場をインドに移転させている。

 

工場の熟練度が大幅に低下するインド製造業の課題

このような問題を抱えているのは、ウィストロンだけではない。外資系工場の多くが同様の問題を抱えている。インドのコロナ禍は傾向としては終息に向かっているものの、累積の患者数が1000万人を超え、感染者数では米国に次ぐ多さになっている。

このため、現地経済は大きな打撃を受け、大量の失業者が生まれている一方で、工場では熟練工が不足をするという状況になっている。このため、熟練工に対しては過剰な残業を強制し、さらに失業者を低賃金で雇用をするということになっていて、工場全体の熟練度が著しく低下するという問題が起きている。

ウィストロンでは、工員が匿名で社内問題を通報できるホットラインを設置するなど、改善を急いでいるが、コロナ禍が問題が発生する根源的な要因となっているため、いずれにせよ、終息をして、通常の経済活動ができるようにならないと、有効な手は打てないと見られている。アップルのインド向けiPhoneの供給にも大きな影響があることは必至だ。

 

 

運転席がなくなった自動運転トレーラー。港湾では完全無人運転の時代に

自動車メーカー「一汽解放」の展示会に出品された港湾トレーラーが話題を呼んでいる。運転席がなくなり、そこには大容量バッテリーが積まれた完全無人運転トレーラーだ。管理をされ、走行ルートも決まっている港湾では、一足早く完全無人運転の時代がやってくることになると卡車之家が報じた。

 

閉鎖区間では、実践投入されている自動運転車

各都市でロボタクシー、ロボバスの乗客を乗せた試験運行が始まっている中国だが、自動運転にとってより条件のいい閉鎖区間では、すでに自動運転車が続々と導入され、日々の業務に活用されている。

例えば、公園内の清掃車だ。夜間は公園が閉鎖となるので、歩行者と遭遇することもなく、自動運転の清掃車が定められたルートを清掃しながら巡回をする。

また、工場や企業キャンパス内での物流にも利用されている。書類などを棟から棟へ運搬する無人カート、製造物を運搬する無人カートなどだ。固定路線を走行し、歩行者は関係者であるために事故が起きるリスクは非常に小さい。

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▲運転席がなくなった一汽解放の港湾トレーラー。運転席だった部分には、大容量バッテリーが搭載されている。

 

港湾でも自動運転車の導入が進んでいる

同様に自動運転車の導入が進んでいるのが港湾だ。貨物コンテナを牽引するトレーラーの自動運転化が進んでいる。ほぼ固定路線を走行し、歩行者は作業員のみで、走行の安全対策も元々講じられているため、自動運転にとっては導入しやすい環境になっている。

ただし、現状では、無人運転までは至っていない。トレーラーの運転資格を持つ運転手が、安全監視員として運転席に座り、自動運転を行う。万が一の場合は、安全監視員が運転操作を行う。運転手の負担軽減にはなっているものの、人件費の軽減までには至っていなかった。

現実問題として、港湾のような管理された閉鎖区間では、リモート監視とリモート緊急停止ができれば、安全監視員の乗務は必要がない。しかし、万が一のことを考えて、安全監視員を乗務させていることが多い。この安全監視員を廃止し、完全な無人運転に切り替えることができるかどうかが焦点になっていた。

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▲レーダーが搭載されたL4自動運転車。閉鎖区間であり、管理され、走行ルートも固定している港湾では、条件が整っているため、いち早く完全無人運転が可能となる。

 

運転席がなくなった港湾トレーラーが登場

2020年末に開催された業務用自動車メーカー「一汽解放」の展示会で、港湾牽引車の未来を示すモデルが発表され、話題を集めている。L4自動運転機能を備えた牽引車だが、運転席が存在しない。運転席であった部分には大型バッテリーが搭載されている。つまり、完全無人運転をすることが前提になっている。

量産と販売はこれからのことになるが、港湾作業では、自動運転から無人運転への転換が始まろうとしている。