iPhoneの組み立てを行なっているEMS「ウィストロン」のインド工場であるナラサプル工場で暴動と略奪が発生をした問題は、結局ウィストロン側の労働管理問題に原因があったと結論づけられた。しかし、ウィストロンの当初の主張は違っており、同様の問題は他のインドの外資系製造業が抱えていると中央政法委長安剣が報じた。
インドのiPhone組み立て工場で暴動と略奪
iPhoneなどの組み立てを行う台湾のEMS「ウィストロン」のインドのバンガロール郊外のナラサプル工場で暴動が発生し、工場は破壊、放火され、無数のiPhoneが略奪された。
暴動の理由は賃金だ。労働時間は数度にわたって引き伸ばされたのに、給与は数度にわたって下げられた。ウィストロンで働くインド人工員によると、工学系の学部卒業生の給与は元々2.1万ルピー(約3万円)であったものが、この数ヶ月は時間あたりの換算にすると、半分近くになってしまっていたという。一般の工員では、月に500ルピー(約700円)まで下げられた例があり、これが暴動の要因となった。
▲ナラサプル工場のストライキは、暴動に発展をした。ウィストロン側は、暴動は工員ではなく、外部から侵入した集団が起こしたものだと主張している。
見解が食い違う工員、ウィストロン、州政府
しかし、問題は複雑だ。ウィストロン側の主張はまったく違っている。ウィストロンは、現地の派遣会社に正規の給与を支払っており、給与水準を下げたことはないとしている。また、暴動を起こしたのは工員ではなく、外部の人間が工場内に侵入して起こしたものだと主張している。
一方で、現地のカルナータカ州政府は、労働条件が悪化していることを確認したというレポートを公表し、急速に膨れる労働力の管理をウィストロンができていなかったと結論づけた。
▲工場内の施設が破壊されただけでなく、相当数の完成したiPhoneが略奪された。
以前から指摘されていたインドの難しさ
このナラサプル工場は、2017年に設立されたもので、インド政府が輸入スマートフォンに高額の関税をかけたため、インド向けのiPhoneをインド国内で製造するためのものだった。
ウィストロンは、以前、中国江蘇省崑山にアップルのEMS工場を持っていたが、売却をし、インドや東南アジアに移転をしている。中国の賃金の上昇や米中貿易摩擦の状況を見て、脱中国を図った。
しかし、多くの専門家は以前から脱中国の難しさを指摘していた。確かに、インドや東南アジアの労働コストは安いものの、工員の熟練度は中国にまだまだ及ばない。さらに、工場が設置される郊外の地方政府は、貧困問題に追われていて、行政能力は高くない。さらに、インドは中国や台湾とはまた異なる労働文化があるため、インド工場で成熟した製品が製造できるようになるためには、少なくとも10年はかかると指摘されていた。
その専門家の指摘が、わかりやすい形で現れたことになる。
▲ウィストロンの中国工場。以前は、中国に製造拠点をもち、アップルのiPhoneなどの組み立てを行なっていた。インドが輸入スマホに高い関税をかける政策をとったため、工場をインドに移転させている。
工場の熟練度が大幅に低下するインド製造業の課題
このような問題を抱えているのは、ウィストロンだけではない。外資系工場の多くが同様の問題を抱えている。インドのコロナ禍は傾向としては終息に向かっているものの、累積の患者数が1000万人を超え、感染者数では米国に次ぐ多さになっている。
このため、現地経済は大きな打撃を受け、大量の失業者が生まれている一方で、工場では熟練工が不足をするという状況になっている。このため、熟練工に対しては過剰な残業を強制し、さらに失業者を低賃金で雇用をするということになっていて、工場全体の熟練度が著しく低下するという問題が起きている。
ウィストロンでは、工員が匿名で社内問題を通報できるホットラインを設置するなど、改善を急いでいるが、コロナ禍が問題が発生する根源的な要因となっているため、いずれにせよ、終息をして、通常の経済活動ができるようにならないと、有効な手は打てないと見られている。アップルのインド向けiPhoneの供給にも大きな影響があることは必至だ。