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スマホのアリペイアプリで電子政府を実現している南京市

江蘇省南京市は、約400の行政サービスにスマホ決済「アリペイ」アプリの中からアクセスできる電子政府を実現している。全国の都市から視察が相次いでいると愛听聞が報じた。

 

約400の行政サービスがスマホで利用できる江蘇省南京市

電子政府というとエストニアが有名だ。行政サービスの99%がネットで完結するという。しかし、南京市はエストニアよりも便利かもしれない。約400の行政サービスにスマホの中からアクセスできるのだ。南京市の夏は暑く、外を出歩くのも危険な日があるほど。そんな日でも役所の用事がスマホで済んでしまう。

すべての行政サービスが電子化されているわけではないが、市民がよく使うサービスはスマホひとつで用が済むようになっている。

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江蘇省では、行政サービス専用のアプリも開発し、以前から電子政府化に積極的だった。

 

生活関連サービスのほとんどがアリペイの中からアクセス可能

この電子政府を実現するポイントになったのが、スマホ決済「アリペイ」アプリだ。アリペイアプリには「ミニプログラム」という機能がある。これはアリペイアプリの中で動かせるアプリのようなものだ。最もよく使われるのは、中国版新幹線「高鉄」の予約ミニプログラムで、アリペイの中からタップをして、列車を検索、空き座席数もリアルタイムでわかる。列車を選んで購入をすれば、代金はアリペイで支払いができる。後は、駅に行き、自動発券機でスマホと身分証をかざして、チケットを発券するだけだ。

この他、タクシーやライドシェアを呼ぶミニプログラム、出前を注文するミニプログラムなどさまざまなものがあり、現在でもどんどん増えている。

キャッシュレス決済ができるだけでも便利なのに、こういった生活関連のサービスが使えるため、アリペイアプリは現代の中国人にとってなくてはならないものになっている。

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▲アリペイの中にはミニプログラムが追加できる仕組みがあり、多くの生活関連サービスが提供されている。アリペイは、もはや中国人にはなくてはならないアプリになっている。

 

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▲アリペイアプリの中から中国版新幹線のチケット予約もできる。支払いはもちろんアリペイ決済。同じ路線の飛行機も同時に表示されるところが便利。

 

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▲アリペイには、交通カード、チケット、身分証などを収納する機能もある。ここにも対応してくれると、すべてがアリペイアプリの中で完結するようになる。

 

電子政府化に最も積極的な江蘇省と南京市

地方政府もこの波に乗り、現在、多くの都市で光熱費の支払いはアリペイの中からできるようになっているし、税金の支払いもアリペイからできる、交通違反の罰金もアリペイから支払えるという都市が多くなっている。

このようなアリペイへの対応が最も積極的なのが、江蘇省とその首都である南京市だ。納税、各種申請などから始まり、バスや地下鉄の運行状況、道路の渋滞情報、大学入学試験である高考の結果閲覧、結婚登記の申請、ビザの申請、医療機関の検索、社会ボランティア団体の検索、法律相談、営業許可書申請など400もの行政サービスが、アリペイアプリの中からできるようになっている。

特に評判がいいのが、手続き費用のかかる申請関連で、手続き費用は申し込みとともに、そのままアリペイで支払うことができ、書類ができあがったら取りにいくか、郵送してもらえばいい。

わざわざ役所に足を運ばなくてもいい、窓口に並ばなくていいと大好評なのだ。

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江蘇省のアリペイ内のミニプログラム。約400の行政サービスがアリペイの中から利用できるようになった。

 

バス運賃もアリペイ支払いに対応

南京市では、バスの運賃も完全にアリペイ支払いに対応をすることにした。それまでは現金か、「金領通」という南京市のプリペイドカードを使って、バスに乗車していたが、アリペイアプリのカードなどを収納できる機能を生かして、電子化してしまった。アリペイに金領通を入れると、アリペイのQRコードをかざすだけでバスに乗車ができるようになる。バスの場合、カードへのチャージがバス車内か営業所でしかできないため不便だったが、アリペイに対応したことでオートチャージができるようになった。

南京市は、この金領通の電子化に相当力を入れているようで、運用が開始された1週間、先着50万名まで、バス料金を半額にするキャンペーンをおこなった。このキャンペーン目当てで、多くの南京市民が、バスカードを電子化したと思われる。

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▲南京市では、バスのアリペイ決済を周知するため、先着50万名にバス代を半額にするという大キャンペーンを展開した。

都市競争に重要な優秀な大学と住みやすさ

地方政府という役所なのに、まるで小売店のようなキャンペーンを実施して、競うようにして電子化を進めている。その理由は、厳しい都市間競争があるからだ。中国で、現在成長しているのはIT系の企業が主役。IT企業は、オフィスがどこにあってもかまわない。税制上有利な都市を選ぶだけでなく、人材を確保するため、レベルの高い大学があり、卒業生がその都市に居続けたいと思うような都市にブランチオフィスを開設する。

南京市には南京大学があり、卒業生が南京市は暮らしやすいので、郷里に帰らずすみ続けたいと思ってもらうことが、IT企業を呼び込むことになる。そのため、行政サービスの利便性を高めておく必要があるのだ。

電子政府化を怠ける都市は、あっという間にIT企業のオフィスが移転してしまい、大きな税収と大量の高額所得者を逃してしまうことになる。競争があるから行政も進化する。中国は、その競争があるから全体として成長をしている。