中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

手数料ゼロでも利益が出るアリペイの秘密

日本の電子決済と異なり、中国のQRコードスマートフォン決済「アリペイ」「WeChatペイ」は、加盟店手数料などが原則不要だ。それでなぜ利益を上げられるのか。今日頭条が報じた。。

 

踏んだり蹴ったりの電子決済

日本で電子決済が広まらない理由。それは手数料だ。加盟店は一般的に3%から5%程度の手数料を支払わなければならない。お客さんが1000円のランチを食べても、電子決済で支払われたら、実質の実入りは950円で、50円は決済運営企業に支払わなければならない。

これは、ギリギリのコスト、ギリギリの利幅で経営している小規模飲食店にとって、かなりきつい。電子決済をする客が増えてきたら、値上げをせざるを得なくなり、値上げをすれば客数が減り、客数が減れば売り上げが下がるという悪い循環に入ってしまうのではないかという恐怖がある。

そのため、飲食店では、電子決済に対応していることを積極的にアピールしないことも多い。ネットのレストランガイドに掲載する時も「対応クレジットカード」の欄は空白にし、店舗の入り口にも電子決済のロゴシールを貼らない。しかし、お得意さんが「電子決済で支払いたい」と言った時のために、カードリーダーは用意している。

個人経営の飲食店にしてみれば、セキュリティ基準に適合したPOSレジを購入し、カードリーダーなどの装置も購入しなくてはならず、挙げ句の果てに手数料を削り取られる。踏んだり蹴ったりで、電子決済対応により、客数が大幅増加するという確証でもなければ対応したくないと考えるのもうなづける。

そして、消費者は、対応している店舗が少ないので、電子決済を使わず、現金を持ち歩くという悪循環になっている。

 

手数料ゼロの中国QRコード決済「アリペイ」

中国でQRコードスマホ決済が広まった理由。それは手数料がかからないからだ。アリペイは一切の手数料を取らない(現在では一部徴収をしている。後述)。POSレジもカードリーダーも必要がなく、自分が使っているスマートフォンだけで対応できる。飲食店経営者にしてみれば、投資ゼロ、リスクゼロなのだから、対応しておいて損はない。こうして、露店の焼き芋屋まで対応する環境が生まれ、消費者は現金と同じようにどこでも使える利便性に惹かれて、一気に利用が広まった。

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▲露店ですら、電子決済に対応している。手数料不要。スマホがあればPOSレジ、カードリーダーの購入も不要とハードルが低いからだ。

 

現金化をする時に0.1%の手数料

ただし、厳密には手数料が完全にゼロではない。アリペイにチャージされているお金を、現金化するために銀行口座に振り込む時に、2万元(約33万円)を超えた分について0.1%の手数料がかかる。

わずか0.1%だ。個人経営の店主は、売上をアリペイで受け取って、現金化せずに、自分もアリペイで支払いをすればいいのだから、この手数料とは無関係だ。アリペイには余額宝という仕組みがあって、そこに入れておけば、銀行口座よりも高い利息がつく。この手数料は、アリババが利益を得るためではなく、お金をアリペイから外に出しづらくするための方策にすぎない。

 

消費者金融機能で利益をあげる

では、アリペイは一体どうやって利益をあげているのだろうか。それは多くのITサービスと同じように、付帯サービスで利益をあげているのだ。

最も大きいのは、花唄、借唄と呼ばれる消費者金融機能だ。直接必要な金額を借りることもできるが、多くはクレジットカードの分割払いやリボルビング払いのように使っている。「先消費、後支払」体験と呼ばれ、若い世代を中心に利用が進んでいる。この利子収入が大きい。国際的なクレジットカードも、加盟店からの手数料よりも、リボ払い、キャッシングの利子収入が大きいのと同じだ。

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▲花唄の画面。現在2097元しかチャージしてなく、6252元が借入金となっている。これに利子がつく。

アプリ広告収入も小さくない

次に広告収入だ。アリペイアプリは、すでに5億人が利用し、1日2億件の決済に使われている。つまり、毎日最低でも2億回はアリペイアプリが起動されているということだ。アプリに広告を配信するだけ、相当額の収入になる。

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▲アリペイの画面。下部に小さな広告が表示される。5億人が使うアプリなので、広告効果は極めて高い。

 

大きなビジネスに成長する社会信用スコア「芝麻信用」

アリペイでは、支払い状況などから信用度を算出する社会信用スコア「芝麻信用」と呼ばれるサービスを提供している。支払い状況だけでなく、SNSの交友範囲や付帯サービスを利用した結果などが加味される。一定スコア以上であると、ビザの取得申請が簡素化されたり、ホテル、レストランが優先予約できるなどさまざまな特典がある。

この信用スコアは、金融系業者だけでなく、ホテルやレストラン、シェアリングサービスなども使いたい。どの業者も、信用度の高い顧客を優先したいからだ。この芝麻信用の利用料を利用する業者から徴収している。

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▲芝麻信用の画面。芝麻とはゴマのことで、ゴマ粒のように信用スコアが上下する。アリペイの支払い履歴だけでなく、身分、行動、人脈なども加味され、スコアが算出される。与信情報が生成しづらい中国では、さまざまなビジネスの起点になる。

 

公的機関からは銀行と同じように手数料を取る

アリペイでは、光熱費などの公共料金や税金、交通違反の罰金などを支払うことができる。このような公共料金については、手数料を受け取り機関から徴収している。銀行引き落としでも手数料をとっているので、同じ額を徴収している。大きくはないが、これもアリペイの収入になっている。

 

支払い履歴から得られるビッグデータが狙い

さらに、アリペイの膨大な利用履歴は、そのままビッグデータとして活用できる。芝麻信用もまさに利用履歴ビッグデータを使ったサービスであるし、すでにそれを活用したビジネスコンサルティングなどの業務を行っている。

ここはまさにアリペイの宝であり、今後さまざまなビジネスが展開できていくことになる。

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銀行が自ら変わろうとしないのであれば、私たちが変えてみせる

アリペイは、ITサービスの基本に極めて忠実だ。それは「マネタイズは後で考える」「まずは広く普及することに集中をする。普及をすれば、どのようなビジネスを展開しても大きな利益が期待できる」というシンプルな原則をそのまま守り、それが類を見ないほどうまくいった。

それを可能にしたのが、ジャック・マーの強い信念だった。アリババが運営するECサイトタオバオ」で、銀行振込しか決済方法がない時代に、アリババは振込手数料や振込処理にかかる時間など、eコマース時代に合わせて銀行も業務を効率化してほしいと何度も注文をつけた。しかし、当時の金融を牛耳っていた銀行は、アリババをまったく相手にもせず、なにも変えようとしなかった。

タオバオの利益だけのことではない。このままでは、中国はネットを活用した社会に進化することができないと感じたジャック・マーは「銀行が自ら変わろうとしないのであれば、私たちが銀行を変えてみせる」と宣言して、アリペイのサービスを拡大していった。

そして、当初は「ホラ吹き」とまで言われたジャック・マーの発言通り、銀行は今、変わらざるを得ない状況になり、中国社会は明らかに次の時代に進んだのだ。