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アリペイが打ち出したLive@Alipay構想。既存小売店のデジタル化が進む

アリペイは、3月のパートナー大会でLive@Alipay構想を打ち出した。これは既存小売店をデジタル化し、ECと同じようにデータに基づいた販売促進策を打てるようにするものだ。これによりアリペイアプリが大幅アップデートされ、美団アプリと似通ってきたことが話題になっている。多くのメディアが、これはアリババが美団と直接対決する意思を示したと見ていると、IT烽火台が報じた。

 

匿名の顧客が記名の顧客に変わるキャッシュレス決済

世界各地で進むキャッシュレス決済。キャッシュレス決済は、紙のお金を電子化するということだけであれば、大きな意味はない。レジの業務負担が減る程度のことで、そろばんが電卓に、電卓がスプレッドシートに変わったのと同程度の業務効率化にすぎなくなる。

核心は、現金は匿名決済であったのに、キャッシュレスは記名決済になるということにある。例えば、街の食堂は、どのような人が食べにきているのかまるで把握ができていない。しかし、キャッシュレス決済になると、来店客の性別、年齢、居住地などがわかり、個人情報の扱いの問題はあるが、居住地、職業、年収、行動まで知ることが可能だ。

単純に、近所の人しかこない店なのか、それとも駅の乗換客が寄っていく店なのかで、宣伝の看板を出すべき場所が変わってくる。店主が顧客のプロフィールを知ることで、最適なメニュー、最適なサービスに改善をしていくことができる。

 

デジタル生活を普及させるLive@Alipay構想

3月11日に、アリペイは「2020アリペイパートナー大会」を開催し、アントフィナンシャルの胡暁明(フー・シャオミン)CEOが登壇し、アリペイをデジタル生活プラットフォームにするLive@Alipay構想を発表し、「3年で、5万社の協力パートナーとともに、4000万社の生活サービス業をデジタル化する」と宣言した。

生活サービスのデジタル化は、アリペイは以前から進めていた。例えば、光熱費の支払いなどはアリペイの中からできるようになっている。また、地方政府への申請、支払いなどもアリペイの中から可能になっていた。

また、新型コロナウイルスの影響もあり、外売(フードデリバリー)、生鮮EC、オンライン診療、オンライン教育なども強化をしてきた。Live@Alipayはこのようなデジタル化を生活関連サービスを提供する民間企業にまで大々的に広げるというものだ。

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▲3月に開催されたアリペイパートナー大会で、アントフィナンシャルの胡暁明CEOはLive@Alipay構想を披露した。既存小売店をデジタル化し、生活サービスをより充実させていくというものだ。アリペイは決済サービスから、生活サービスになっていく。

 

既存小売店もECと同じ戦略が立てられるようになる

このような戦略は以前から進められている。例えば、豚肉と生鮮野菜の小売チェーン「銭大媽」(チエンダーマー)では、アリペイ内のミニプログラムから、商品を注文することができるようになっている。どのようなプロフィールの人が購入したか、個々の情報を銭大媽が知ることはできないが、一定期間集計した匿名情報から、スマホから注文する顧客の全体プロフィールを知ることはできる。

このようなサービスをプラットフォーム化して、大々的に他の企業まで広げていこうというのがLive@Alipayだ。現在でも、多くの商店がアリペイやWeChatペイのキャッシュレス決済に対応をしている。しかし、それは現金を電子化だけで、顧客情報は匿名のままのところが多かった。これが記名情報が得られるようになり、街の小さな商店まで、顧客のプロフィールに基づいた施策、改善が可能になっていく。

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▲アップデート後のアリペイ。外売、グルメ、ホテル、映画、行政などの生活関連サービスのアイコンが上に並ぶようになった。アリペイが決済だけではない、生活サービスのプラットフォームであることを示した。

 

アリペイアップデートにより美団との対決姿勢が鮮明に

この戦略により、アリペイアプリが大幅にアップデートされた。そこで注目をされたのが、アリペイが「美団」アプリときわめて似通ってきたことだ。どちらのアプリも「外売」「美食」「ホテル」「映画イベント」のアイコンが上位に並ぶようになった。

アリペイは、需要の高いサービスを上位に配置しただけと主張しているが、多くのメディアがアリババが美団を意識し始めたと捉え、全面対決の時代に入ったと見ている。

アリババと美団は、外売では「ウーラマ」「美団外売」でライバル関係にある。また、美団の創業者、王興(ワン・シン)は、アリババの創業者ジャック・マーを「不誠実な人」と公然と批判し、アリババのビジネス手法を否定する反アリババのリーダー格のような人だ。美団は、現在でもWeChatのみで、アリペイへの対応を拒否している。王興に目には、アリババのビジネスが、すべての民間企業をアリババの支配下に置く帝国主義的なものに映っている。

美団は、外売、レストランガイドを中心に生活サービスを充実させていき、美団側でもアリペイに似通ってきたところがある。美団もアリペイも、消費者の需要がある生活サービスをすべてカバーしたいと考えているため、似通ってくるのは必然で、競争状態になるのも当然だった。

アリペイの今回のアップデートと新戦略が、メディアの主張するように美団対策なのかどうかはわからないが、両社の提供するサービスが似通ってきたことは事実で、今後、アリペイと美団が激しい競争をすることで、商店のデジタル化が進んでいくことになるのは間違いない。

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▲反アリババのリーダー「美団」のアプリは、元々生活関連サービスのアイコンが上部に並んでいた。アリペイと美団のアプリが似通ってきたと話題になっている。メディアは、アリババと美団の激しい競争が始まると見ている。