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ライドシェア離れが進行中。滴滴出行はこの危機を乗り越えられるか

中国版ウーバーと呼ばれるライドシェア「滴滴出行」(ディーディー)が曲がり角を迎えている。ドライバーのなり手が減少し、乗客も少なくなっているというのだ。そのきっかけとなったのは、5月5日に起きた傷ましい事件。ディーディーのドライバーが乗客の女性を殺害するというものだった。それ以来、乗客の減少が続いていると天天快報が報じた。

 

一気に普及した中国ライドシェア

中国の都市部では、以前から慢性的にタクシーが不足しているため、ライドシェアが一気に普及をした。特にタクシーがスマホで呼べるようになってからは、タクシーは走っているものの、ほとんどが迎車で乗れないということが多くなり、どうせスマホで呼ぶなら、料金の安いライドシェアを利用するというのは当然の流れだった。最大手の滴滴出行(ディーディー)は、あっという間に拡大し、ウーバーチャイナも買収してしまった。

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▲ディーディーのライドシェアは、ごく普通の乗用車に乗せてもらう。中国では、乗客は前側の助手席に座るのが一般的だったが、この事件以降、後部座席に座る乗客が増えているという。

 

乗客が殺害されるという傷ましい事件

ところが、5月5日に痛ましい事件が起きた。祥鵬航空の客室乗務員、李明珠さんが、鄭州空港で乗務が終わり、実家のある済南市に夜行列車で帰るため、夜11時50分頃、鄭州駅までディーディーのライドシェアを利用した。ところがこの運転手にレイプされ、殺害されてしまったのだ。

李さんが、若く誰もが認める美人であったこと、乗車中に運転手の異変に気づいた李さんが、SNS「WeChat」で同僚に助けを求めていた生々しいログが遺族により公開されたことなどから、世間の関心を惹きつける大事件となった。

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▲殺害された李さんの遺族が公開した同僚との生々しいやりとり。「私がきれいだと言っている。キスさせてくれって言っている。気持ちが悪い」「そいつは変態ね。空港にまだつかない?」「幸いなことに助手席じゃなくて、後部座席に座っている」「電話をかけて。夫がいるふりをして、もうすぐく空港に着くと言いなさい。出発ロビーで私を待ちなさい。今から、電話する」。同僚は電話をしたが、李さんが意外に落ち着いて、本人もだいじょうぶと言うので安心をした。しかし、最悪の結果となった。同僚も、深く傷ついている。

 

運転手に毎回顔認証で本人確認させるルール

ディーディーでは、すぐに対応策を打ち出し、女性客は女性ドライバーの車にしか乗車できない措置をした。さらに、現状を調査してみると、架空の運転手アカウントを作って、実際には別人が運転している例が見つかったことから、乗客を乗せるときは、運転手は毎回、スマホで顔認証をしなければならないルールを定めた。今回の殺害犯も父親のアカウントを使って運転手をしていた。

しかし、これがライドシェアの利便性を損なってしまい、5月、6月は乗客が大幅に減っているというのだ。

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▲右が殺害された李さん。客室乗務員という憧れの職業について、誰もが認める美人だった。左は運転手だった犯人。犯人も水死体で発見された。自殺と見られている。

 

旧型スマホや回線状況により10分以上もかかる顔認証

まず、運転手が毎回顔認証をしなければならないというのがたいへん評判が悪い。運転手は、最新のスマホを持っているわけではない。安価な旧型のスマホを使っている人も多い。それでも、ルート案内や業務には差し支えないのだが、顔認証には問題がでる。カメラの解像度が不足していることや、電波をうまくつかめないことから、認証失敗が多く、場合によっては10分以上も時間がかかってしまうことがあるのだという。当然、乗客は焦れて、他の車を探すということになる。

そのような体験を何度かした乗客は、ライドシェアではなく、公共交通機関やタクシーを利用するようになってしまう。

 

運転手への優待施策も打ち切られ始めている

運転手のなり手も少なくなっている。元々、ライドシェアには構造的な問題がある。タクシーと比べて、かかっているコストは基本的に同じなのに、料金は安い。それだけ運転手の報酬が低いのだ。

それでも、運転手のなり手があるのは、ディーディーが運転手を集めるため、さまざまな優待策を打ち出していたからだ。「1日何組以上乗車させるとボーナス」「ラッシュ時間は報酬○%アップ」などで、運転手を優遇することで、運転手を集めていた。

ところが、ビジネスが軌道に乗ってきたため、このような優待策が続々と打ち切られている。運転手としては、これでは生活ができないと、他の仕事に移る人が増えている。

 

問題の多い「お客様絶対」の評価システム

もうひとつは、ユーザー評価の悪い面が出てきていることだ。中国には、日本のような「お客様を大切にする」というマインドはない。その中で、どうやって質の高い接客サービスを実現するか。その方法がユーザー評価だった。乗客が利用した後に、スマホで運転手の評価をする。その評価が低い運転手は、報酬条件が落とされたり、場合によっては乗務禁止の措置を受ける。

中国のユーザー評価の特徴は、低評価をつけられたら、乗客側に問題があったとしても、低評価とみなすというもの。そのため、乗客には絶対口ごたえしないという中国ではあり得ない接客が実現できている。

しかし、そのことを知っている悪い乗客は、運転手に無理な注文を出したり、わがままな要求をしたりすることもある。上目線で失礼な言葉使いをする乗客もいるという。それでも運転手は、低評価をつけられないために我慢をしなければならない。それに嫌気がさして、やめてしまう運転手も多い。

 

運転手不足が乗客離れにつながる悪いサイクルが始まっている

運転手不足は、配車不足に直結し、平均待ち時間を悪化させ、乗客の利便性を損なうことになる。それで乗客離れも起きている。

痛ましい事件後の一時のことなのかもしれないが、ディーディーが何か手を打たないと、ディーディー離れにつながるのではないかと懸念されている。いずれにせよ、一気に普及した中国ライドシェアが、次のステージに進むための踊り場を迎えていることは確かだ。