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生鮮ECがこぞって始めた半調理品「お惣菜」。実体スーパーはますます窮地に

実態店舗のスーパーが、コロナ禍の回復策として始めた半調理品「お惣菜」の販売は、すぐに生鮮ECに模倣をされることになった。生鮮ECを利用する消費者は、お金よりも時間を貴重と考えるため、このお惣菜が受け入れられている。そればかりか、数々の生鮮ECの課題を解決することになり、スーパーはますます窮地に立たされていると龍商網超市週刊が報じた。

 

客足を取り戻すための半調理品「お惣菜」

今年2020年の春節から感染拡大が始まった新型コロナにより、市場を大きく拡大したのが生鮮ECだ。野菜、肉、魚などの生鮮食料品をスマートフォンで注文をすると、1時間から2時間程度で宅配をしてくれるネットサービス。コロナ禍では需要が一気に3倍から7倍に増加した。

一方で、実体店舗であるスーパーは利用客の減少に苦しんでいる。新型コロナが終息し、客足は戻りつつあるものの、消費者の習慣が「買い物」から「スマホ注文」に変わってしまったケースも多く、以前と同じ賑わいが取り戻せるかは不透明だ。

そこでスーパーが対抗策として始めているのが「中国版お惣菜」だ。半調理品を販売し、それを自宅で温めたり、具材を追加して食べてもらうというもの。店舗に足を運ばなければならないという不便さの分、調理時間が短くなるという利便性で客足を取り戻そうとしている。

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▲実体店舗スーパーは、コロナ後の客足回復策として、半調理品の「お惣菜」の販売を始めた。ところが、これはすぐに生鮮ECに模倣されることになり、生鮮ECの課題を解決することになるという皮肉な結果になった。

 

生鮮ECの課題を解決するという皮肉な結果に

しかし、その動きを生鮮ECが見逃さないわけがない。生鮮EC各社は続々と半調理品の販売を始めた。

上海を中心にサービスを提供している生鮮EC「叮買菜」(ディンドン)は、注文ミニプログラムに「快手菜」というコーナーを新設し、宮保鶏丁、酸湯肥牛などの料理を冷凍した食品やザリガニ、サラダ、フライドポテトなどの半調理品などの販売を始めている。

この「中国版お惣菜」は、スーパーよりも生鮮ECに大きな効果をもたらした。生鮮ECの難題のひとつが、スーパーに比べて商品の種類を増やしづらいという問題だ。生鮮ECは短時間配送を実現するために、配送エリアの中に小さな倉庫を設置する「前置倉」と呼ばれる考え方を採用している。前置倉を多数配置することで、市内全域をカバーするというものだ。

しかし、前置倉のひとつの倉庫は大きくないので、扱える商品種類には限界がある。日常の生鮮食料品を買うには便利だが、少し変わった食材が欲しい時は、生鮮ECではことが足りず、大手スーパーの店舗に足を運ばなければならなかった。

しかし、半調理品が登場したことで、生鮮ECを利用している家庭の食卓メニューは広がり、同時に購入する食材の種類は少なくて済むようになる。生鮮ECだけで生鮮食料品の買い物が済むようになる。既存スーパーが考えたアイディアが、生鮮ECの大きな課題を解決してしまうという皮肉なことになっている。既存スーパーは、生鮮ECのこの動きに警戒感を強めている。

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スマホで食材を注文して、1時間程度で配達してくれるディンドン。お金よりも時間を惜しむ人たちに利用され、半調理品「お惣菜」が利用者から歓迎されている。

 

複雑な仕組みだからこそデジタル化が進む

既存スーパーは、今や生鮮ECや新小売スーパーの動向に敏感になっている。なぜなら市場を大きく蚕食されているだけでなく、このままでは伝統的なスーパーの経営が立ち行かなくなる可能性もあるからだ。

最も大きな脅威が価格だ。当初、生鮮ECの販売価格が安いことを、スーパー側は過小評価をしていた。市場を拡大するためのダンピング、品質の悪い生鮮食料品の安売りと見ていた。確かにそのような側面もあったが、生鮮ECは本質的に生鮮食料品を安く提供ができる。なぜなら、前置倉という複雑な仕組みを実現するには、商品を標準化し、クラウドで在庫管理をする必要がある。これにより、自然に無駄な管理コストが不要となり、販売価格を抑えることができるようになってきた。POSが複雑なチェーン形態であるコンビニから始まったことと似ていて、複雑な仕組みを実現するためにデジタル化をし、それが価格を抑えることにつながっている。

 

生鮮ECの痛点だった鮮度も大きく改善

もうひとつが、現在では生鮮ECの方が鮮度がいい生鮮食料品を買えるようになっていることだ。

当初は、生鮮ECが配達してくる野菜や魚には、鮮度が落ちたものが混ざっていたことも多かった。それに対して、クレームがあれば返金をすることで対応していた。しかし、生鮮ECを利用する上での最大の不安は鮮度であり、この鮮度問題を克服することが生鮮ECのキモであることは明らかであるので、各生鮮ECでは、物流から配達までの温度管理、商品品質の標準化、鮮度を維持する包装などに取り組み、現在では鮮度に対するクレームは少なくなっている。

一方のスーパーは、実は鮮度の管理については遅れている。売り場担当者が鮮度の落ちた商品を取り除いて廃棄をする、来店客が見比べて鮮度の高い商品を選ぶという伝統的な仕組みで鮮度を維持しているのが実情だ。もはや、生鮮ECとスーパーの鮮度面の違いは解消されている。

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▲ディンドンの「快手菜」コーナー。温めたり炒めたりするだけで調理が終わる半調理品やお惣菜が販売されている。これが商品種類を増やしづらい生鮮ECの課題を解決することになった。

 

生鮮ECを利用する人は時間を貴重だと考える

ディンドンや毎日優鮮などの生鮮ECは、このような半調理品を開発するにあたって、西貝や紫光園などのチェーンレストラン、伊賽牛肉、福成食品などの著名食品メーカーと提携をしている。

生鮮ECを利用する消費者は、お金よりも時間を重視する人たちだ。スーパーに買い物に行く時間が惜しいというのが生鮮ECを利用する動機になっている。同様に、自宅で料理を作る時間が惜しい、飲食店に食べに行く時間が惜しいと考え、このような半調理品が受け入れられている。

実体店舗を中心にしたスーパーは、大きな転換を迫られている。