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アリババと海底撈の間で勃発した「火鍋戦争」。半調理品販売が鍵になったアフターコロナの流通小売業

アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」、店舗型火鍋専門チェーン「海底撈」のいずれもが家庭で楽しめる火鍋セットを販売し、どちらが美味しいかと話題になっている。新小売にとっては重要な戦略商品、店舗チェーンにとっては復活の決め手として半調理品が重要な商品になってきている。「飲食の小売り化」が広がり始めていると電商頭条が報じた。

 

オンライン火鍋とオフライン火鍋の対決

アリババと海底撈の間で、火鍋戦争が勃発している。アリババは、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)で火鍋セットの販売を始めていて、好評を得ている。一方、「海底撈」(ハイディーラオ)は店舗型の火鍋専門店チェーンだ。1994年に創業し、その味から人気となり、2018年には香港市場に上場をしている。店舗数は600店舗となり、海外展開もしている。

アリババと海底撈の火鍋戦争が話題になっているのは、何から何まで対極的だからだ。フーマフレッシュはオンラインで注文をすると30分で宅配してくれる。そして、自宅で火にかけ火鍋を楽しむ。一方で、海底撈は来店体験を重視している。飲み物は無料、薬味も無料、スタッフがお勧めのタレを作ってくれたり、無料で果物やデザートを振舞ってくれる。店内には、なぜか靴磨きコーナーやネイルコーナーがあり、来店客は無料で利用することができる。お客が喜ぶことはなんでもやるというチェーンだ。

つまりオンライン火鍋とオフライン火鍋の対決なのだ。しかも、アリババのCEOは張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)だが、海底撈の創業者も張勇。偶然だが、同姓同名なのだ。どちらの張勇の火鍋がおいしいか、消費者の間での話題となっている。

 

フーマの火鍋は北京風味

フーマフレッシュは、最近になって火鍋セットの販売を始めたわけではなく、2018年から火鍋セットの販売を始めている。北京の老舗肉料理店「月盛」と共同開発した北京風味の羊蝎子火鍋だ。羊蝎子とは羊の背骨のことで、火鍋で煮込んで、骨の周りについた肉をかぶりついて食べる。

フーマフレッシュは、元京東にいた侯毅(ホウ・イ)と張勇の2人が練りに練って始めた新しいスタイルのスーパーだ。スマホ注文、30分宅配をすることで、消費者は店舗にきて買うことも、宅配してもらうこともできる。来店客数には物理的な限界があるが、宅配注文には限界がない。フーマフレッシュの売上の60%以上はオンライン注文になっている。

新小売スーパーは、世界で誰もやったことない試みであったため、侯毅には参考にできるビジネスモデルが存在しなかった。そのため、思いついたことはなんでもやってみて、だめだったらやめるという試行錯誤が必要だった。火鍋セットも、そのような試行錯誤のひとつだった。

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▲フーマが販売をする火鍋コーナー。半調理品は、新小売の弱点を打ち消すだけでなく、オプション食材もついでに売れるという重要な戦略商品になってきている。

 

商品点数が少ないのが都市型スーパーの弱点

しかし、小規模な販売テストをしてみると、火鍋は重要な戦力商品になることがわかってきた。火鍋だけでなく、家庭で温めて食べられる半調理品が重要な商品であることがわかってきた。

新小売スーパーの最大の弱点は、高い効率を必要とするため、商品点数を増やすことが難しいことだ。例えば、一般的なスーパーでは、食品以外にも洗剤や食器、場合によっては家電製品まで売っていることがある。このような商品には賞味期限がない。そのため、在庫回転率が悪くても問題ない。しかも、生鮮食料品に比べて利益率が高い。そこで、大型郊外店では、日用品で利益を出し、その分、生鮮食料品の価格を下げて、顧客を呼び込むという戦術をとっていた。

しかし、これは郊外大型店だから可能なことだった。土地が安い郊外であれば、大型倉庫を併設することができる。一方、食材スーパーのような住宅地の中に設置するスーパーでは倉庫コストが高くなるため、品揃えをよく回転する商品に絞らざるを得ない。特に、フーマフレッシュのように、店舗を倉庫とし、ピックアップをし、宅配をするというスーパーでは、高い効率を維持するために、回転率の高い商品に絞らざるを得ない。

 

新小売の弱点を補う半調理品

これが新小売スーパーや店舗を持たない生鮮ECの大きな弱点となる。平日の食事用の買い物はスマホ注文で済むかもしれないが、週末に少し変わった調味料、食材を買おうとすると、扱っていないということが起きる。そうなると、結局、スーパーに出かけていき、買い求めなければならなくなる。スマホだけで買い物が終わらない。

半調理品を揃えることで、この弱点を補うことができる。半調理品を購入することで、珍しい食材を買う必要はなくなる。例えば、羊蝎子火鍋の場合、羊蝎子という食材は小規模スーパーではなかなか売っていない食材だ。それを火鍋のセットにすることで、回転率をあげることができ、消費者は他のスーパーに行く必要がなくなる。半調理品は、新小売スーパーの弱点を打ち消してくれるのだ。

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▲フーマのの火鍋基本セットは低価格に設定されている。多くの人が、オプションの具材を追加注文するため、基本セットは原価ギリギリまで落とすことができる。

 

店舗型飲食店も半調理品販売に活路を求める

新型コロナの感染拡大期、このような火鍋セットの売上が急速に伸びた。外出が控えられる中、温めるだけで、飲食店に行ったかのような味を楽しめるからだ。また、感染拡大が収まってからも売れ行きは好調で、10月上旬の国慶節連休でもピーク時の8割ほどの売上を維持したという。

一方で、店舗体験を売りにする海底撈は苦しんでいる。1月下旬から3月上旬まで営業自粛をし、50億元程度の損失を出していると見られる。銀行グループが緊急融資を行い、政府に対しても税金面での優遇策を話し合っているが、それでも約30%の値上げをせざるを得なかった。

それでも客足は戻り切らず、自宅で楽しめる火鍋セットの販売に活路を見出している。

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▲海底撈が販売するミニ火鍋セット。海底撈の味を家庭でも楽しめると好評だが、コロナ禍により落ち込んだ売上を補うほどにはなっていない。

 

地域によって風味を変えられる半調理品

しかし、半調理品の火鍋セットとして、フーマフレッシュと海底撈を比べると、フーマフレッシュの方に明らかに分がある。

ひとつはフーマフレッシュは、店舗によって火鍋の味を変えることができることだ。火鍋の味はひとつではない。四川風、モンゴル風、老北京風などさまざまな味があり、その土地土地で好まれる味が違っている。店舗によって、よく売れるものを置くというのはフーマフレッシュとしては当然ことで、店舗によって置かれる火鍋セットが違ってくる。

一方で、海底撈は「四川火鍋」が売りであり、海底撈の味がある。薬味などを大量に用意して、さまざまな味を楽しめる工夫はしているものの、「海底撈の味」という枠の外に出ることはできない。店舗展開では、海底撈の味が好まれる地方に集中展開をすることができるが、オンライン販売となると、どうしても強い地域と弱い地域が出てしまう。

 

オプション具材で利益を取りにいく

2つ目は、フーマフレッシュはオプション販売が可能になることだ。火鍋の具材の多くは、フーマフレッシュが日頃から販売している生鮮食材だ。これを「野菜具材セット」「海鮮具材セット」としてオプション販売が可能になる。しかも、このようなセットはフーマフレッシュで販売している食材を集めたものなので、鮮度の高い食材が提供できる。基本セットを低価格にして、オプションセットで利益を取るなどさまざまな売り方が可能になる。

そのため、基本セットの価格は88元から188元と安い。感覚的には、値上げをした海底撈の半額ぐらいの印象を受ける。これでオプションセットを購入し、ついでに他の生鮮食料品を買うことになる。極端なことを言えば、フーマフレッシュは、赤字ギリギリのラインまで火鍋の価格を下げることが可能で、火鍋セットだけで利益を上げなければならない海底撈は、価格面で太刀打ちができない。

さらにフーマフレッシュはフーマフレッシュのスタッフが、30分で宅配をする。一方で、海底撈の場合は、ECで注文した場合は早くても翌日、店舗のデリバリーを注文した場合でも、宅配はデリバリー企業に委託をされるため、1時間から2時間程度かかる。時間がかかるということよりも、いつくるかよくわからないというのが問題になる。海底撈の場合、「今日の夕飯は海底撈の火鍋にしよう」ではなく「海底撈の火鍋を買っておき、明日食べよう」になる。その場合、冷蔵庫のスペースを占有し、しかも食材の鮮度は落ちていく。

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▲海底撈は火鍋チェーンなのに、なぜかネイルサロンや靴磨きコーナーが併設されている。利用は無料。客席で麺打ちのパフォーマンスをするなど、店舗体験を重視するチェーンでそれが人気を呼んでいた。しかし、コロナ禍が直撃し、現在の海底撈は苦しんでいる。

 

外食の客足が戻らない要因は、不安か、それとも習慣か

張勇vs張勇の火鍋戦争は、現在のところ、明らかにフーマフレッシュに分がある。海底撈にとっては、コロナ禍の上に新小売勢による蚕食も受け、つらい立場に追い込まれている。来店体験を売りにする海底撈は、とにかく客足が戻らなければ、戦いようがない。

中国は5月以降、新型コロナは終息したと言っていい安定状況が続いているが、それでも飲食店や旅行の客足は戻りきっていない。これがいまだに不安があったり、慎重になっているのであれば、いつかは再び店舗に人が戻り始めることになるが、消費者の習慣が変わったのだとしたら、もはや客足が戻ることには期待できない。海底撈だけでなく、店舗を主軸にするすべてのビジネスが決断を迫られている。