各大学でAI代筆を判定する測定ツールの導入が始まっている。しかし、自分で苦労をして書いたのにAIが代筆したと判定される事態が起き、大学生たちは論文を書くだけでなく、AI率を下げる作業に忙殺されていると澎湃新聞が報じた。
自分で書いたのに「AI代筆」と判定される卒業論文
自分で苦労をして書き上げた卒業論文が「AIが代筆したもの」として受け取り拒否をされる。そんな悪夢のような事態が起きている。
今の時代、卒業論文を書くのに生成AIを使わない学生はいない。調べ物をする、より優れた表現を探す、事例を探す、誤字脱字を探す、よりわかりやすい表現に改めるなどで生成AIを活用するのは当たり前になっている。よくあるのは、最初に提出した時に指導教官から低評価を受け、全面見直しを迫られた時、生成AIに評価をしてもらい、問題のある部分を修正していくというものだ。
このような使い方を不正だと考える人はいないが、では要素だけ生成AIに提示して、全面的に論文形式で出力をさせたら、それは多くの人が不正だと考える。不正ではない活用と不正の境目は曖昧で、多くの学生が困惑をしている。
AI率を測定し始めた各大学
2023年、学位法の改正案が公開され、その中で「人工知能を利用し論文などを代筆させる行為」に関する規定が盛り込まれた。これを受けて、2024年から多くの大学で、提出された論文の「AI率」を測定するツールが導入されている。ただし、AI率の測定方法については専門家からも異論が出て、最終案では「人工知能」の文言は削除された。
それでも、天津科技大学では、AI率が40%以上の論文に対して学生に警告を出し、再提出を求めるようになっている。湖北大学や福州大学では、再提出は求めないものの、学生にAI率の結果を通知するようになっている。
AI率が基準値越えで受取拒否
澎湃新聞が取材をした大学4年生、舒然さんはこのAI率に翻弄をされた。ある企業のインターンシップに採用されたため、平日の昼間は企業で研修をし、夜と休日に卒論を書く毎日が続いた。書き上げた論文は2万3000字に及んだ。
論文執筆はたいへんではあったものの、事前に指導教官と概要についてよく話し合っていたため、スムースに進み、指導教官も問題がないと受領した。しかし、その後、AI率の検査で37%と判定された。舒然さんの大学はAI率が30%以下でないと論文の審査を通さないことになっていた。
AI率は既存論文との類似度で算出されていた
舒然さんは自分で書いた論文がAIの代筆だと言われて困惑をしたが、なんとかAIっぽさを減らさなければならない。しかし、何がAIっぽいのかがわからない。どうしたらいいかを、AIを使ってネットで調べた。
すると、AI率の判定の基本的な仕組みは実に単純で、主要なウェブや論文との類似率を調べているようだということがわかった。つまり、何かで読んだ資料のフレーズをそのまま引き写してしまうようなことをすると、「AIが書いた」とみなされてしまうようなのだ。
しかし、AIっぽくなくするための作業は難航をした。彼女の専攻は国際経済と貿易であり、そこには専門用語が大量に登場する。その専門用語の解釈部分は、一定の権威がある論文が示しているものをそのまま流用をすることになる。一大学生が勝手な解釈をして提示することはできない。どうしても評価の高い論文と同じにならざるを得ないのだ。
結局、彼女にできたのは、同義語で置き換えをしたり、文章の順番を入れ替えるなど場合たり的なことばかりだった。
AI率を下げるAIツールも登場
しかし、大学が公開しているAI率判定ツールに通してみると、AI率はわずかしか下がっていない。そこで、生成AIを使って、AI率を下げる方法を尋ねてみると、AI率を下げる校正をしてくれるAIツールがあるということを知った。早速インストールし使ってみたが、まったくの無駄だった。
他の大学生のブログを発見し、AI率を下げた経験を披露していたが、それによると余計な接続詞をすべて削るといいと言う。また、複雑な文章は複数に分けて、単純な文章を積み重ねるといいとも言う。さらには、人間らしい文章を入れるといいと言う話もあった。人間らしいとは、主語と述語の関係が微妙にずれているような人間特有の短所をあえて入れていくのだという。
論文の提出期限が迫っており、AI率を下げないことには、卒論が通らず、卒業ができなくなる。彼女は、調べた方法がどれほど有効なのかを検証することなく、片っ端から試していった。
AI率判定は通ったものの、虚しさしか残らない
これにより、提出期限ギリギリでAI率30%を切ることができ、卒論を提出することができた。
しかし、彼女は虚しい思いでいる。論文は、指導教官と何度も打ち合わせをして時間をかけて書いたものだ。内容に関しても自信を持っており、文章に関しても論文の格調を表現できたのではないかと自負をしている。
ところが、提出をした論文はもはや残骸のようなものだった。文章は途切れ途切れで、箇条書きをなんの工夫もなく連結したもののようになってしまった。彼女独自の主張も薄まり、平凡なものになってしまっている。卒業をするために仕方がないとは言え、これは正しい教育なのかと疑問を感じている。しかも、論文の最終稿は、彼女の感覚からすれば「できの悪い機械が書いた」ようなものになっている。
いったん外国語に翻訳して、翻訳し戻すテクニック
問題は、AI率を判定するAIの精度だ。AI率測定AIはほんとうにAIによる代筆を見分けられるのか、多くの専門家が疑問を呈している。しかし、AI率測定AIの精度も今後あがっていくのだから、導入することは多くの専門家が支持をしている。それでも現状は、AI率を学生に通知をするだけで合否の判定には使わない大学が大半だが、舒然さんの大学のように合否基準に採用してしまっているケースも出てきている。
今、SNSでは、AI率を大きく下げる裏技が出回っている。それは中国語で書いた論文をAIを使って、中国語とはかけ離れている外国語、例えばエストニア語に翻訳をする。それからエストニア語になった論文を中国語に翻訳し戻す。すると、AI率が大きく下がるため、それを手直して提出すればいいというものだ。多くの学生が、効果が高いと言ってこの裏技を使い始めている。
ただし、できあがった論文は言葉の残骸だ。読みづらく、論理は追いづらく、論文の格調などどこにもない。それでも卒論が受理されることの方が重要なのだから、多くの学生が使うことになっている。