中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

会議室はベランダ。マンションの一室から始まったTikTok運営のバイトダンス

今日、世界中で10億人以上の利用者を獲得するTikTokを開発、運営しているバイトダンスは、10年前に北京市のあるマンションの一室から始まった。当時は、ベランダが社食であり、会議室だったと字節范児が報じた。

 

マンションの一室から始まったバイトダンス

今日、TikTokで知られるバイトダンスは、2012年3月、北京市の知春路にあるマンション「錦秋家園」の一室で創業された。4部屋しかない普通のマンションで、研究開発、経理、会議室、応接室でいっぱいになってしまう。食事はキッチンでつくり、デスクかその場で立って食べるが、室内に食べ物のにおいが充満をしてしまうため、次第にベランダで立って食べるようになっていった。バイトダンス最初の社食はベランダだった。

▲バイトダンスの創業の地「錦秋家園」。

 

バイト(情報)を社会でダンス(拡散)させる

バイトダンス創業時のミッションは、人と情報を連結させ、情報を効率的に拡散させる方法を確立することだった。

社名のバイトダンスもこのミッションから名づけられた。情報の拡散は本質的には情報のトラフィックであり、トラフィックの最小単位はバイトだ。このバイトを使って社名をつくろうと創業メンバー全員が集まって、目を閉じて考えた。その中である人が「バイト・ジャンプ」という名前を提案した。しかし、現在の梁汝波(リアン・ルーポー)CEOが、今ひとつピンとこないと発言した。ジャンプは確かに勢いのある言葉だが、下から上の一方向へのトラフィックのイメージになる。もっと複雑にトラフィックが交錯するイメージが適していた。

そこで出てきたのが「バイト・ダンス」という言葉だった。中国名はこのバイトダンスを直訳して「字節・舞動」とされたが、ダンス教室と勘違いされるという意見が出て、「字節・跳動」に決定された。

▲マンション時代の開発室。貧弱な設備の中で数々のプロダクトが開発された。タコ足配線なども見られる。

 

最初は面白画像の共有サービスから始まった

情報を効率的に拡散させると言っても、具体的には何をしたらいいのか?創業メンバーは最初は何をすべきかの議論に時間を費やした。情報というのはフォーマットとテーマの2つの側面がある。フォーマットは画像、長文テキスト、短文テキスト、動画などさまざまある。テーマは教養、娯楽、生活などさまざまある。その中で何をするのか。

創業メンバーが最初に企画をしたのは「画像×面白」で、最初のプロダクト「敲笑図」(ガオシャオジョントゥー)だった。面白画像を配信するアプリだ。これが受けて、1ヶ月で100万人の利用者を獲得した。

その後のプロダクトが、「長文テキスト×ニュース」の「今日頭条」(ジンリートウティアオ)だった。読者の嗜好を学習し、その人が読みたいニュースを配信するアプリだ。これが非常に広く使われるようになった。日間アクティブユーザー数(DAU)が100万から1000万になるのに1年ほどしかかからなかった。

▲学習会で講義をする創業者の張一鳴。AI教材がないために、自分たちで教材をつくるところから始めた。

 

ベランダが社食、ベランダが会議室

社食となっていた錦秋家園のベランダは、ブレーンストーミングを行う会議室にもなった。開発チームが方向性が見えなくなると、このベランダで激しい議論をすることが多かった。

後のバイトダンスの方向を決定づける議論もこのベランダで行われた。今日頭条はニュース配信アプリだが、新聞社や雑誌社が運営をしているニュースアプリでは、編集者が重要なニュースを決定し、それを配信する。しかし、バイトダンスにはこのようなプロの編集者がいなかった。

さらに問題は、編集者も人であるということだ。読者の全員が編集者の編集方針に納得をしているわけではなく、自分が読みたいニュースが配信されていないと感じている読者もいる。つまり、どのようなニュースを読みたいのかは個人によって異なり、編集者はどうやっても最大公約数をねらうしかない。

しかし、アプリであれば、全員にすべて異なる内容のニュースを配信することも可能だ。では、どうやって、読者全員それぞれに最適のニュースを決定すればいいのか。

そこで注目されたのが、AI、機械学習だった。

▲ベランダからの風景。北京市の中にあり、眺望はものすごく悪い。この風景を見ながら、従業員たちは食事をし、議論をしてきた。

 

AIを学ぶためにAIの教材をつくり、その作業が学びになる

ところが、AIを学ぼうにも当時は教材そのものがなかった。中国にもすでにAIの研究者は生まれていたが、自分の仕事が忙しく、バイトダンスのような企業のために授業をしてくれるはずもない。

そこで、開発チームは、ネットの英語情報を探して、それを中国語に訳して教材をつくることから始めた。この教材をつくるプロセスそのものが、開発チームにとってはうってつけのトレーニングとなった。教材ができあがる頃には、全員がAIを近いをするようになっていた。

この教材は、世代から世代へと受け継がれ、改訂と追加が行われ、現在でも重要なテキストとして使われている。

 

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プロダクトが立派だから成功した。オフィスが立派だからではない

2013年5月、バイトダンスは知春路のオフィスビル「盈都ビル」10階に引っ越しをする。フロアは700平米もあり、全員が「豪華すぎる」と感じたという。しかし、実際はすでにバイトダンスは数百人規模に成長をしており、分散していたオフィスを1箇所に集めるには、すでに盈都ビルでも手狭になっていた。

2016年2月には、海淀区の中航広場ビルにさらに引っ越しをすることになる。創業者の張一鳴(ジャン・イーミン)は、引越しの翌日、全員にメールを発信した。まるで大企業のようなオフィスに入り、世界中にもすでにオフィスが数百も出来始めていたが、くれぐれも大企業の社員の気持ちになってはいけないという内容だ。バイトダンスが成果を上げられたのは、プロダクトが立派であったからで、オフィスが立派だったからではない。私たちはプロダクトの開発に集中をしなければならないというものだった。

その言葉通り、この新しいオフィスで、TikTokの原型となる「抖音」の開発が始まる。

▲創業から1年後、バイトダンスは盈都ビルに引っ越しをする。同じ知春路にあるオフィスビルでようやくまともなオフィスに入ることができた。

▲再度引っ越した中航広場ビル。ここから抖音やTikTokが生まれてくる。

 




拼多多が黒字化。アリババの不安が現実に。アリババが拼多多の黒字化を恐れる理由

2021年Q4で拼多多の黒字が3期連続となり、安定経営の段階に入ったことが確実となった。アリババはこの事態を最も恐れていた。淘宝網の販売業者が拼多多に流れ、淘宝網内での競争が緩和されることにより、アリババの収益力が低下をするからだと捜狐が報じた。

 

拼多多が3期連続で黒字化を達成

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の2021年の財務報告書が公開され、多くの人が驚いた。2021年Q4は営業収入272.31億元と伸ばしながら、純利益も66.195億元となったからだ。これで3四半期連続で黒字となり、いよいよ拼多多の黒字運営が確実となってきた。

この黒字化により、研究開発費も大きく伸びている。2021年の研究開発費は89.926億元となり、昨年から30%増となっている。

拼多多はこれまで「100億補助」などの大型キャンペーンを行い、大量の資金を投入し、売上と利用者数を獲得するという戦略をとってきた。それが2021年に入り、このような大型キャンペーンが鳴りを潜め、メディアやSNSを賑わす機会は減ったものの、キャンペーン費用を支出しない分、しっかりと黒字化を達成するようになった。売上と利用者数拡大をねらう戦略から、利益を確保する戦略に転換をした。

▲拼多多の営業収入と純利益。2021年Q2から黒字化をし、3期連続の黒字となった。拼多多は安定経営の段階に入った。

 

拼多多の安定経営を恐れるアリババ

この事態を最も恐れているのはアリババだと言われる。アリババにとって、拼多多が「100億補助」などの大型キャンペーンを行っても怖くはない。拼多多の利用者が8億人を突破し、淘宝網タオバオ)の利用者を超えても怖くはない。しかし、拼多多が黒字化をすることだけが怖いと言われていた。その不安が現実になった。

 

販売業者の流出をアリババを恐れている

なぜ、アリババは拼多多の黒字化を最も恐れるのか。派手なキャンペーンで消費者を惹きつけている間は、アリババは何も怖くない。黒字化ができなければ、いずれキャンペーンも息切れをして、売上は低下をし始め、利用者も離れていくからだ。

しかし、黒字化をしたとなると話は違う。堅実な運営ができるということになり、販売業者がタオバオから拼多多に移っていく可能性があるからだ。

アリババはこの可能性を警戒して、2020年3月から「淘特」(タオター、淘宝特価版)をスタートさせている。拼多多と同じように、農産品や激安日用品を販売するECで、タオバオから拼多多に移行しようとする出品業者を逃さないための受け皿とするのが目的だ。

では、なぜアリババは販売業者の流出を恐れるのか。

▲左が拼多多、右が淘特。見た目もそっくりで、販売されている商品の価格帯もそっくりになっている。

 

タオバオ内の過当競争がアリババの収益力の源泉

アリババのEC「タオバオ」は、出店料、販売手数料とも無料だ。これにより、多くの販売業者が参加をして、タオバオはどんな商品でもあるオンラインバザールとして成功をした。しかし、これだけではアリババは1円も儲からない。そこで、アリババは有償のプロモーションを行う。出品業者がお金を払って、タオバオ内に広告を出したり、キャンペーンに参加をしたり、検索順位を上げてもらう。これがタオバオの収益源になっている。

出品業者がなぜこのような費用を払うかと言うと、それはタオバオ内が出品業者の激しい競争状態にあるからだ。タオバオに参加をしてただ商品を出品しただけでは、よほど目立つ商品でもない限り売れない。検索をしても下位にしか表示されず、広告も出さなければ、消費者から存在を認知してもらうことができない。この過剰な競争状態にあることが、プロモーション費用を支出することにつながり、それがアリババの強力な収入源となっている。

しかし、出品業者が拼多多に流れ、タオバオの競争状態が緩和をされると、出品業者のアリババに対する支出圧力は弱くなる。アリババはこれを恐れている。

 

ECビジネスは公域流量から私域流量へと移り始めている

ネットサービスは、極論をすればトラフィックの奪い合いだ。多くのトラフィックを集めた人が勝つようにできている。アリババは、出店料、販売手数料を無料にするという手法で、大量の出品業者を集め、それが「なんでも売っている」状態を生み出し、多くの消費者を惹きつけ、大量のトラフィックを獲得することに成功した。

アリババの仕事は、この獲得した大量のトラフィックを販売業者に分配をすることだ。ここがお金になる。アリババはそれで急成長をしてきた。

出品業者から見て、このような分配をしてもらう他人のトラフィックは、「公域流量」(パブリックトラフィック)と呼ばれる。検索エンジンからの流入なども公域流量だ。今まで、中小の販売業者は、自分でトラフィックを獲得する力がないため、このような公域流量に頼ってビジネスをせざるを得なかった。

しかし、今では、中小販売業者でも自分でトラフィックを獲得することが可能になっている。SNSとショートムービーの活用だ。独自の情報を発信し、消費者を惹きつけることで、ダイレクトにトラフィックを集めることが可能になっている。このような自分で集めるトラフィックは「私域流量」(プライベートトラフィック)と呼ばれる。

拼多多はSNSで消費者自身が共同購入を誘うという私域流量に基づいたECになっている。SNSやショートムービーに発信をして、自力で私域流量を集めてビジネスを進める販売業者も現れている。

つまり、アリババの公域流量分配型のビジネスモデルが金属疲労を起こし始めているのだ。拼多多が黒字化をして、経営が安定すると、ますます販売業者が安心をして拼多多に流れる可能性が生まれている。アリババにとって、最も恐れている事態が始まろうとしている。

 

 

半年で5800億年の巨額赤字。営業を再開しても、業績回復と上場廃止というかつてない危機がのしかかる滴滴

滴滴が創業以来の危機に見舞われている。2021年6月からの事実上の営業停止処分となり、306億元もの巨額赤字を出した。さらに、ニューヨーク市場からは上場廃止をしなければならなくなったが、その巨額資金をどうやって手当てをするのかという難問がのしかかっていると創始人観察が報じた。

 

巨額赤字306億元。かつてない滴滴の危機的状況

中国のライドシェア市場の80%のシェアを持ち、2021年6月に米ニューヨーク市場に上場を果たした滴滴(ディディ)が窮地に立たされている。

上場3日後に、国家インターネット情報弁公室は、「国家のデータ安全と公共の利益を守るため」という理由で、滴滴アプリの安全審査を始めた。さらにその2日後に、審査の結果、個人情報を違法に収集していたとして、滴滴アプリの配信許可を凍結した。ミニプログラムも同様で、これで滴滴は営業停止処分とほぼ同じ状態になった。

12月になって、アプリの配信停止は解除され、営業が再開できるようになったが、この半年間で306億元(約5800億円)もの巨額赤字が発生した。さらに、滴滴はニューヨーク市場から上場廃止をしなければならず、創業以来の危機に立たされている。

▲滴滴の創業者、程維(チャン・ウェイ)。滴滴は過去にいくどもの危機を乗り越えて成長をしてきたが、今回の危機ばかりはそう簡単に乗り越えることはできないと見られている。

 

トリッキーな手法で米国上場する中国企業

そもそも、中国のネット企業が海外に上場をすることはできない。ネット企業は商務部の「外商投資産業指導目録」の禁止類に指定されており、外国人が株主になることはできないからだ。

しかし、2000年前後から生まれたネット企業は、海外の潤沢な投資機関の投資を必要としていた。そこで、VIEスキーム(Variable Interest Entity、変動持分事業体)を使って海外証券市場に上場し、投資資金を集めるということが行われた。

これは簡単に言えば、海外に架空のシェルカンパニーを設立し、このシェルカンパニーと国内の事業会社の間に親子会社同然とする契約を結ぶ。資本関係ではなく、契約関係で結ばれるので、商務部の外資参入規制にひっからない。そして、このシェルカンパニーの方を海外の証券取引所に上場させるという方法だ。

何か怪しげな手法のように感じる人もいるかもしれないが、米国の法律では合法であり、中国の法律では想定外であるため違法とも合法とも言えないグレーゾーンになる。これにより、アリババはニューヨークに、百度、京東、ビリビリなどはナスダックに上場を果たしている。

 

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香港に重複上場し、上場廃止リスクに対応する

しかし、近年、中国政府は外資参入規制を厳格運用するようになり、VIEスキームによる海外上場を問題視するようになっている。

理由のひとつは、国内で収集された個人データが海外に流出する危険を考えた情報の安全保障の問題だ。データ持ち出しについても、EUGDPREU一般データ保護規則)並みの規制を整備し始めていて、アップルは中国人専用のiCloudデータセンターを貴州省に建設して、中国市民のデータを国外送信しないで済む環境を構築している。

もうひとつの理由が利益の海外移転だ。海外に株主がいるということは、中国国内のビジネスで儲けたお金が海外の株主に移転されることになる。安定成長時代になり、共同富裕政策を進める中国としては、これも抑えたい。

そのため、海外に上場する企業は、いつ中国政府から上場廃止の圧力がかけられるかもわからないため、アリババ、百度、ビリビリなどは、海外市場に上場しながら、同時に香港にも上場するという重複上場を行なっている。

▲アップルが貴州省に建設した中国専用のデータセンター。中国がデータの国外持ち出し規制を厳しくする中で、アップルは中国専用のiCloudデータセンターを建設した。

 

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賭けに出て失敗をした滴滴

滴滴は、このような状況をわかっていなかったわけではなく、わかった上で賭けに出たとも言われる。なぜなら、滴滴は6月10日にSEC(米国証券取引委員会)に上場申請をし、6月30日は上場が認められている。わずか20日で審査が行われたことになる。異例の早さだ。

さらに、滴滴の上場はニューヨーク市場にとって、アリババ以来の中国企業の大型上場になるという話題性もあったが、滴滴はひっそりと上場申請をした。通常は、メディアなどに上場計画があることをリークし、市場の雰囲気づくりをしていくものだ。その方が株式に人気が出て、上場がうまくいく。しかし、滴滴の場合はそのようなことをせず、「こっそり」という表現が似つかわしいほど静かな上場だった。

一部には、滴滴は次のステップに進むため、大きな事業計画を持っており、その資金を得るために上場を焦ったのではないかという人もいる。また、10年以上もの間、赤字運営が続く滴滴に対して、投資家が痺れを切らし、上場を迫ったのではないかとも言われる。ただし、なぜ、滴滴が上場を急いだのか正確なことはわからない。このような話は、すべて外から見た憶測にすぎない。

 

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赤字よりも重い上場廃止の作業

結局、営業停止処分となり、大きな損失を出し、滴滴は「ニューヨーク市場から上場廃止をすること」「香港市場の上場を目指すこと」の2つを表明し、アプリの凍結が解除され、営業は正常化をされた。

しかし、上場廃止は簡単なことではない。すでに、米国の投資家からは訴訟を起こされている。営業停止処分を受けたことで、株価が下落をして損をしたことの経営陣の責任を問うものだ。

また、売り出し価格は14ドルであったものが、現在は2ドル以下まで下落をしている。上場廃止をするには、株式を買い戻す必要があり、当然ながら現在の2ドル前後の株価では株主は納得しない。売り出し価格の14ドルかそれ以上で買い戻す必要がある。この莫大な資金をどうやって用意をするのか。

アリババなどが香港に重複上場をしているのは、米国市場の上場廃止対策になっている。米国で上場を廃止した場合、その株主には香港の株式に振り替えてもらうことができる。それでもある程度の補償は必要になるが、株式をまるごと買い戻すことを考えれば、小さなコストで上場廃止が可能になる。

しかし、滴滴はこれから香港に上場をしなければならない。巨額赤字を出し、上場廃止問題を抱える滴滴が、果たして香港に上場できるだろうか。まさに、どちらに進みようのない穴ぼこに落ちてしまい、身動きが取れない状況になっている。

滴滴は過去何度も経営危機を迎えながら、そのたびに克服をし、成長をしてきた。しかし、今度の危機だけは解決の糸口が誰にも見えない状態だ。滴滴はかつてないほどの苦境に立たされている。

▲滴滴の上場以来の株価推移。上場以来、一定して下落し続けている。2021年9月あたりで一旦下げ止まり、営業再開後の業績に期待する空気もあったが、2021年12月に上場廃止宣言をしてからは下がり続けている。

 

WeChatチャネルズの収益化が順調。プロモーションツールとして注目されるWeChat

テンセントの年度報告書が公開され、SNS「WeChat」内のショートムービー機能「WeChatチャネルズ」の記述が大幅に増え、テンセントにとって重要なツールになってきたことが伺える。ショートムービーで消費を集め、モーメンツ広告を打ち、SNSで拡散し、ミニプログラムで消費させるというサイクルが成立し、各企業から注目をされていると捜狐が報じた。

 

テンセントの成長に寄与をしたWeChatチャネルズ

2021年は、多くのテック企業にとって受難の年となった。その中で、騰訊(タンシュン、テンセント)は堅調な成長を見せた。2021年の年度報告書によると、営業収入は5601.8億元(約11.0兆円)となり、前年から16%の伸びとなった。

特に重要なのが、2020年に微信(ウェイシン、WeChat)に搭載された「視頻号」(WeChatチャネルズ)による収入が大きくなってきたことだ。

WeChatチャネルズは、ショートムービーが閲覧、投稿できる仕組みで、勢いのあるTikTokに対抗をしたもの。TikTokの中国版「抖音」(ドウイン)では、商品を紹介したショートムービーを配信し、そこから購入ができるというECが始まっており、2021年は流通総額が8500億元(約16.7兆円)と急成長をしている。WeChatチャネルズでも、このようなECによる収入増を狙っている。

WeChatには、抖音にない強みがある。SNSであるということだ。抖音の場合、どのショートムービーを配信するかは、その人の嗜好に合わせてAIが決めているが、WeChatチャネルズは、WeChatの中でできあがっている友人知人関係が評価した動画が中心に配信をされてくる。さらに、メッセージにより動画や商品のリンクを友人知人に送ることもできる。「友人知人は似たような商品に興味を持つ」という仮説に基づいた仕組みだ。

▲WeChatチャネルズ。中国版TikTok「抖音」とそっくりのショートムービープラットフォームだが、WeChatにはSNS、ミニプログラム、WeComなどの機能があり、企業プロモーションがWeChat内で完結できる強みがある。

 

チャネルズに対する言及が急増した年度報告書

2021年の年度報告書の中では、WeChatチャネルズに対する言及が13ヶ所もある。それだけテンセントがWeChatチャネルズを重視しているということだ。

「2021年は挑戦の年となり、私たちは積極的に変化を受け入れ、長期に持続可能な発展を可能とする措置を行ってきました。しかし、収入の増加に対する影響は緩慢で、財務に対する影響はさらに緩慢です。それでも私たちは、企業向けソフトウェア、ツールの提供、WeChatチャネルズの投稿数、視聴数の増加、海外ゲーム市場の開拓という戦略を継続してきます」。

つまり、法人向けIT、WeChatチャネルズ、海外ゲーム市場の3つは、収入に反映するまでは時間がかかるが継続をしていく重要戦略だとしている。

 

チャネルズを成長させたウェストライフのオンラインコンサート

2021年の年度報告書では、具体的な数値は明かしていないものの、2021年は、WeChatチャネルズの一人あたりの平均利用時間、総再生数が前年の2倍以上になったという記述がある。

これに大きく貢献したのが、独占放映をしたウェストライフのオンラインコンサート映像で、約2700万人が視聴をした。

▲ウェストライフは、初のオンラインコンサートをWeChatチャネルズのライブ配信で行った。2700万人が視聴し、WeChatチャネルズの注目度を大きく上げた。



収益が上がり始めているチャネルズ

また、年度報告書にはWeChatチャネルズについて、次のような記述がある。

・目下の重点は、ユーザーの関与度を上昇させることです。WeChatチャネルズが、ショートムービー広告、ライブ配信投げ銭、ライブコマースなど重要なマネタイズの機会を与えてくれると考えています。

・WeChatチャネルズのライブ配信サービス、有料動画サービス、2020年に合併をした虎牙(弾幕付き動画共有サービス)などの貢献により、SNS収入は1173億元(約2.3兆円)となり、8%成長となりました。

WeChatチャネルズがWeChatの収益に貢献し始めていることは間違いがないようだ。

 

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チャネルズ、モーメント広告、ミニプログラムが連携し始めている

さらに、注目されるのが次の記述だ。

「2021年第4四半期、WeChatのデイリーアクティブ広告主は30%以上増加をしました。朋友圏(WeChatモーメント)の広告収入の1/3以上は、ミニプログラムに誘導する広告と企業微信(WeCom)のユーザーの広告によるものです」。

WeChatの中には、WeChatモーメントと呼ばれるタイムライン画面がある。ここには友人知人の動向やメッセージなどが表示される。企業はここに広告を掲載することが可能だ。

ただし、やみくもに広告を配信してもあまり効果は上がらない。そこで一般的に行われるのが、企業の公式アカウントをフォローした利用者に対して、その企業が広告を配信する。アカウントをフォローするぐらいだから、その企業の製品に興味があるわけで広告の効果は高くなると期待できる。企業側は、このような広告配信を企業微信(WeCom)というソフトウェアを使って管理をしている。WeChatのエンタープライズ版だ。

つまり、企業はやみくもに広告を配信するのではなく、企業アカウントをフォローしてもらい、その利用者と知人に対して広告を打っていくようになっている。この企業アカウントをフォローしてもらうのに有効なのがショートムービー、つまりWeChatチャネルズだ。ショートムービーで製品に興味を持ってもらい、企業アカウントをフォローしてもらい、そこに広告を出して、商品の購入やサービスの利用に結びつけていく。

 

企業が私域流量を確保するツールとなっているWeChat

このように企業が自分で流量を集めてビジネスを行うことは「私域流量」(プライベートトラフィック)と呼ばれる。一方で、マスメディアのように満遍なく広告を配信することは「公域流量」(パブリックトラフィック)と呼ばれる。

ビジネスを行うには、私域流量を集めた方が圧倒的に効率がいい。見込み客ばかりが集まっている状態をつくることができるからだ。そこで、どの企業も、私域流量をどのようにして確保するかが大きなテーマになっている。

WeChatチャネルズは、ショートムービーを配信、拡散させて、公域流量を私域流量に変換させる触媒として企業から注目をされている。その私域流量による広告収入が全体の1/3を超えてきたということだ。

 

私域流量確保の点では、ツールが完結していない抖音

抖音でも企業は同じように私域流量をいかに集めるかを考えている。ショートムービーで利用者を惹きつけ、アカウントを関注(フォロー)させ、ライブコマースに誘導をする。しかし、集めた私域流量を維持するには、WeChatの公式アカウントをフォローさせるか、自社のアプリやミニプログラムに登録をさせるという外部のツールの助けが必要になる。

一方で、WeChatでは、私域流量を集め維持をすることが、公式アカウントやモーメントへの広告配信、WeComによる管理など、WeChatの中で完結をするようになっている。

ショートムービープラットフォームとしては、抖音はすでに月間アクティブユーザー数が8.6億人もいる巨大な存在になっているが、企業から見て私域流量を獲得する装置としては、WeChatチャネルズを入り口にしたWeChatの方が優れている。消費者にとっては、抖音の方がはるかに大きな存在だが、企業にとっては抖音もWeChatチャネルズも甲乙つけ難い、どちらも重要な存在になってきている。

企業のプロモーションツールという側面で、抖音とWeChatが競い合う局面が続きそうだ。

 

 

5分でバッテリー交換。急速充電の次の方式として注目をされ始めたバッテリー交換方式EV

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今回は、バッテリー交換式のEVについてご紹介します。

 

5月20日に日産と三菱が新型軽EVの合同発表会を行いました。自動車としての評価、EVとしての評価はいろいろあるかと思いますが、「軽+EV」という組み合わせは相性がよく、日本でも本格的なEVシフトが始まるきっかけになる可能性があります。

「vol.095:大ヒットする「宏光MINI EV」の衝撃。なぜ、50万円で車が販売できるのか。その安さの秘密」でご紹介したように、中国のEVシフトは日本の軽自動車サイズにあたる上汽通用五菱の「宏光MINI EV」が牽引したと言っても過言ではありません。最高時速は100km/h、満充電航続距離は120km、エアコンなし、カーナビなし、USB充電コンセントありという思い切ったスペックで、2.88万元(約55.2万円)という安さです。

 

自動車には大別してコミューターとツアラーという2つの役目があります。コミューターは、通勤や買い物といった日用用途のことです。ツアラーは高速道路を使って遠出をすることです。このまったく異なった2つの使い方を、1台の同じ自動車に担わせなければならないことが日本の自動車ライフを不幸にしてしまっています。

ツアラーとして使うことを考えると、やはりある程度のグレードの車が必要で、高速道路を安定して走れる車が欲しくなります。また、いい車に乗っているという心地よさも楽しみたくなります。しかし、コミューターは自転車がわりであり、さほど車のグレードは関係なく、むしろ用途にあった仕様であるかどうかの方が重要です。しかし、2台所有するわけにはなかなかいかず、大きめのRVを買ってしまい、コインパーキングでで四苦八苦して駐車するようなことになっています。

 

コミューターにはEVが非常に向いています。この辺りの事情は、「vol.097:始まった中国の本格EVシフト。キーワードは「小型」「地方」「女性」」で、広西省チワン自治区柳州市の実例をご紹介しました。

自動車ライフを豊かにするには、コミューターとツアラーをはっきりと区別し、メリハリをつけることだと思いますが、多くの人が兼用した車を購入するため、どちらの用途にも不満が残ることになってしまっています。軽自動車というカテゴリーは、本来は、取得費用や税制で優遇をして、このメリハリをつけるための制度だったはずです。普段は軽自動車EVに乗り、休日には憧れの車をレンタル、シェアリングしてロングドライブを楽しむ、キャンピングカーで旅に出る。そして、お金のある人には中途半端な高級車ではなく、自分の趣味に惜しげもなくお金を注ぎ込んでいただく。その方が、社会全体の自動車文化は豊かになるように思います。

 

EVのオーナーが直面する問題が、充電ステーションの少なさです。これはタマゴとニワトリの関係になっていて、消費者は充電ステーションが少ないからEVを買うのはまだ早いと考え、業者側はEVの普及がまだなので充電ステーションを拡大できないと考えがちです。

コミューターEVはこのような問題も回避することができます。なぜなら、通勤、買い物に使うのが主目的なので、満充電にしておけば1日分はじゅうぶんに持ちます。そして、自宅に帰ってきたら使わないのですから、その間に充電をすればいいのです。しかも、夜は寝ているのですから、急速充電などの機能がなく充電に数時間がかかるEVでも大きな問題になりません。スマホの充電とほぼ同じ感覚です。このような点もコミューターとEVの相性がいいのです。現状での課題は、冬季にバッテリー性能が著しく落ちるということぐらいです。

 

しかし、ツアラーや商用車などでは問題が出ます。特に問題になるのがタクシーです。一般的にタクシーは1台の車を2人のドライバーが共有をしています。シフトはいろいろ異なりますが、朝から午後までの10時間ほど、夕方から深夜の10時間ほどを担当する2人のドライバーが組になります。受け渡しの間に洗車をしたり、給油をしたりします。

しかし、これがEVだと充電に数時間かかるため、交代に数時間かかってしまうことになります。ドライバーの実動時間が削られてしまい、収入減につながってしまいます。また、担当時間の終わり頃は、バッテリー残量も少なくなりがちです。その時、長距離の客を捕まえても断らざるを得ません。長距離客はドライバーにとって稼げる客なのに、それを逃すのは大きな問題になります。

そこで、この問題を解決するために、急速充電とバッテリー交換方式の2つが登場してきています。急速充電は、30分から60分で満充電にできるというもので、最新の規格では5分で80%充電できるものも登場しています。深セン市では、この急速充電タクシーを推奨しているため、俗に深センモデルとも呼ばれます。

一方、杭州市ではバッテリー交換方式を推奨しています。交換ステーションに行き、充電済みのバッテリーに交換するというやり方で、交換時間は5分以内で、ガソリンの給油と感覚的に変わりません。タクシー会社が自社で交換ステーションを運営すれば、バッテリー残量がまだあっても、都合のいい時に交換をすることができ、充電問題から解放されます。これは俗に杭州モデルとも呼ばれています。

 

中国政府は、EVを普及させるために、充電方式の充電ステーションを整備する方向で進んできましたが、近年、バッテリー交換方式も充実させる方向に進み始めました。

2019年に公表された「産業構造調整指導目録」の中に、政府が支援をする産業として初めてバッテリー交換産業の名称が記載されるようになり、2020年、2021年に公開された「電動自動車バッテリー交換安全要求」「2022年自動車標準化工作要点」などで、バッテリー交換の規格の標準化ガイドラインが定められました。現状は、統一規格というところまでは到達していませんが、将来的には充電設備と同程度の規格統一が進むと見られています。

そこで、今回は、バッテリー交換方式のEVの利点と、ビジネスとしての可能性、普及への見通しなどをご紹介します。中国のEVシフトは第2段階に進み始めました。

 

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vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

 

 

弱小だから生き残れた。最後にシェアリング自転車市場を制したのは第3位だったハローバイク

現在、シェアリング自転車の最大手はハローバイク。アリババから資金を調達し、各都市に展開をしている。ハローバイクは、ofoとMobikeという大手に隠れた弱小企業だった。しかし、逆境の中で生き延びる術を身につけ、最後に市場を制することになったと捜狐が報じた。

 

弱小が生き残ったシェアリング自転車

中国では、新しいビジネスが登場した時の法則がある。それは1位と2位が激しい競争をして、3位以下は消え去ってしまうというものだ。

外売(フードデリバリー)では美団(メイトワン)と「ウーラマ」が激しい競争をし、百度外売以下の小さなプレイヤーは買収されたり撤退したり倒産したりして消えた。ワクチンソフトでは、金山(キングソフト)と「360」が激しい競争をして、カスペルスキーが消えた。

ところが、この法則が通用しなかったのが、シェアリング自転車だ。第1位の「ofo」と第2位の「Mobike」が激しい競争をしたが、ofoは資金が途絶え、Mobikeは美団に買収されて消えた。残ったのは3位以下の弱小だった哈囉(ハローバイク、https://www.hello-inc.com/index.html)だった。

これは極めて珍しいことで、企業セミナーのケーススタディーに使われることも多い。

▲シェアリング自転車1位のofo(左)と2位のMobike(右)は、各都市で過剰な投入競争を行い、最終的に共倒れとなり、弱小だったハローバイクが浮上をした。

 

学生企業で成功したハローバイクの創業者

ハローバイクを創業した揚磊(ヤン・レイ)は、典型的な80后(80年代生まれ)で、小さな時からゲームが好きだった。大学一年生の夏休みには、電子製品店でアルバイトをした。そこであるお客と親しくなった。そのお客は、揚磊が電子製品に詳しいことを信頼し、一緒に商売をしないかと誘ってきた。その客とは、中国では有名な広州光大集団の副総裁だった。

すぐに話がまとまり、揚磊が3万元、副総裁が7万元を出資し、電子部品を製造する会社を設立し、それがうまくいき、揚磊は学生としてはあり得ない額のお金を手にすることができた。

▲ハローバイク創業者の揚磊。現場に出るCEOで、それが少数精鋭のチームに大きな影響を与えた。

 

投資が獲得できずに困難に直面するハローバイク

大学を卒業すると、揚磊はそのお金を元手に起業を考え、スマート駐車システムを開発する企業を始めた。しかし、1年経ってもまったく商売にならない。会社の経営が苦しくなる中で、2016年9月には、流行の兆しがあったシェアリング自転車にピボットをしようと考えた。

しかし、その頃はすでにシェアリング自転車は競争時代に入っており、ofoとMobikeが大量のクーポンを発行し、大量の自転車を街中に投入し、過剰な競争が行われていた。2017年になると、主だった投資機関はすべてと言っていいほどこの2社に投資をし、揚磊の始めたハローバイクなどという弱小企業に投資をしようという投資機関は現れない。揚磊の方から探しに行っても断られる。ハローバイクはすぐに従業員の給料すら支払えなくなっていった。

▲ハローバイクは、大手のいない地方都市での展開を余儀なくされたが、それがしっかりとしたサービスを構築する機会にもなった。

 

お金がないことが、後々大きく作用する

しかし、この資金がないということがうまく作用した。ハローバイクはお金を失うことが何よりも怖いため、細かくシェアリング自転車を管理するようになっていった。自転車が破損する、盗難に遭うというのは何よりも痛い。このような扱いを受ける自転車は決まって駐輪の仕方に問題がある自転車だ。じゃまな場所にある自転車、人目がないところに放置された自転車は、壊されたり盗まれたりする。そこで、ハローバイクはスマート駐車システム時代の資産を活かし、早くから電子フェンス技術を取り入れていた。駐輪場を定め、その中に停めないと返却できない仕組みだ。

さらに、社員数を増やさない方針をとった。社員が増えると、社員の管理に時間が取られ、事業に集中できなくなっていくからだ。そして、現場で働くことを重要視した。揚磊自身、執務室にいる時間は少なく、駐輪場を回っては自転車を整理したり、回収作業、修理作業を手伝っている。現場にいることで、肌で市場の動向を知ることができる。リーダーが現場で働くことで、社員も自然と働くようになる。

CEOが熱心に働いている姿を従業員に見せていれば、社員の管理などはほとんど不要になる。

tamakino.hatenablog.com

 

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配牌が悪い逆境の中で生き延びる術

しかし、それだけでは成長していくことはできない。揚磊は言う。「大手企業は100万台単位で大都市に次々と自転車を投入していきます。それは私たちから見れば、1年分の投入量なのです。とても、大手のように自転車を投入することはできません。私たちは大手のいない小さな都市で、小さなパイを守っていく他なかったのです。配牌が悪い中で、私たちは逆境の中で生き延びる術を学んでいきました」。

ハローバイクは、大手が興味を示さない地方都市を集中的にねらって自転車を投入していった。大都市ではofoとMobikeにまったくかなわないからだ。

これは思わぬ効果があった。ひとつは地方の方が利用時間が長くなる傾向があることだ。公共交通が発達している大都市では、公共交通が届かない「最後の1km」にシェアリング自転車を使う。しかし、公共交通が未発達な地方都市では長距離であってもシェアリング自転車を使う。

また、地方都市政府は、どこも公共交通の整備に頭を悩ませているため、シェアリング自転車の進出を歓迎した。進んで、駐輪場を提供してくれたり、放置自転車整理のボランティアを組織してくれたりする。

また、地方都市は観光が大きな産業になっている。大都市の市民が地方都市にやってきて観光をする時に、ハローバイクを利用する。そこでハローバイクの名前を知ってもらうことにより、後に大都市に進出をする足がかりになる。

▲現場に出る揚磊CEO。自ら駐輪場の整理をする。この作業により、市場を肌感覚で理解をすることができ、その姿勢に従業員たちがついてくるようになった。

 

1台あたりの利用率を高めるためにテクノロジー開発

ハローバイクが重視をしたのは、1台あたりの利用率だ。破損や盗難で失う自転車を最小限に抑えた上で、1台の自転車をできるだけ使ってもらい、利用効率を高めようとした。ここにテクノロジーを活用した。

高徳地図と提携し、高徳地図が持つ移動データとハローバイクが持つ移動データを合わせて機械学習をさせ、どこに何台設置すべきかを割り出して配置をしていく。また、駐輪場に戻してくれない利用者には次第に利用料金が上がっていく仕組みも導入した。これにより、ルールを守ってくれない利用者はやめていくか、ルールを守るようになる。

 

大都市での投入量規制がチャンスとなった

このような改善をおこなっていると、ハローバイクにも大都市に進出をするチャンスが巡ってきた。

ofoとMobikeの競争は限界を越え、大都市では放置自転車が社会問題になっていた。必要量が400万台である都市に対して、ofoも400万台投入し、Mobikeも400万台を投入するため、自転車の総台数が過剰になってしまったからだ。放置自転車があふれ、通行の妨げとなり、景観も悪くなった。

この問題を解決するために、各都市政府は、2018年から投入自転車台数の規制を始めた。駐輪場を設置しているか、回収を小まめにおこなっているかなどの観点で、各シェアリング自転車企業を評価し、その評価に応じて投入自転車台数を按分するようになった。

以前から、1台あたりの利用率を高める工夫をしていたハローバイクは、この評価が高く、どこの都市でも1位か2位を獲得し、大きな投入枠を獲得した。これにより、ハローバイクは北京、上海、深圳、成都などの大都市に進出をしていく。

▲街にシェアリング自転車があふれ、扱いは雑になっていった。通行の妨げになる場所に放置された自転車が、一箇所に積み上げられるからだ。社会問題にもなった。

 

弱小3位が最後に市場を制したレアな事例

この規制により、成長の可能性を失ったofo、Mobikeには投資が進まなくなる。ofoは資金が枯渇をし崩壊、Mobikeは美団に買収されることになった。一方のハローバイクには大都市という成長空間が生まれ、アリババ傘下のアントグループが6回に渡って投資をし、資金力の面でも安定をし、アリババ傘下企業として、アリババの他のサービスとの連携も可能になった。

シェアリング自転車の世界では、第3位以下だった弱小企業が最後に業界を制するという珍しいことが起きている。しかし、それは創業者の揚磊が、逆境の中でできることをひとつづつ行い、放棄をせずに続けてきたからだ。

 

 

ハイエンドスマホに挑戦するシャオミ。簡単ではないiPhoneの壁

ミドルレンジのコストパフォーマンスに優れたスマートフォンでブランドを築いてきた小米(シャオミ)がハイエンドスマホに挑戦をしている。ハイエンド化することで広告収入が大きく伸びることを期待している。しかし、ハイエンドユーザーは増えたものの、シャオミのミドルレンジユーザーからの移行組が多いと見られ、ハイエンド化の難しさに直面していると投資界が報じた。

 

全方位に躍進をしたシャオミの2021年

2021年は小米(シャオミ)にとって重要な1年となった。販売店であるシャオミストアを1年で7000店を出店し、店舗数は一万店を突破した。2021年は、毎日19店以上を開店したことになる。

さらに、自動車製造にも乗り出し、まずは100億元を投資し、10年で100億ドル規模の投資をしていくと発表した。

また、主軸事業のスマートフォン販売では、これまでコストパフォーマンスに優れたミドルレンジ製品で伸びてきたが、いよいよハイエンドへの進出を始め、Xiaomi 12はiPhone13に対抗する機種として開発されている。

小米が全方位で躍進をするための環境を整えるための1年となり、その成果がどうなるのか、多くの投資家が小米の財務報告書が公開されるのを心待ちにしていた。

 

絶好調の2021年の財務報告

小米の2021年の財務報告書によると、2021年の営業収入は3283億元で、33.5%の伸びとなった。純利益も220.4億元で69.5%増と大幅に伸びた。絶好調と言っていい数字だ。

主力事業である「スマートフォン」「生活用品(家電)」「ネットサービス」のいずれも順調に成長をしており、営業利益率も順調に伸びている。また、小米のAndroidベースのOS「MIUI」の月間アクティブユーザー数(MAU)が5.09億人となり5億人を突破、IoT機器の接続デバイス数も4.34億台と4億台を突破、2021年だけが絶好調というわけではなく、着実に成長してきた結果だと評価されている。

▲小米の営業収入の推移とその内訳。スマートフォンが主力事業だが、近年は広告を含むネットサービスの貢献が大きくなってきている。

▲小米の営業利益率の推移。営業収入だけでなく、利益率も着実に高くなってきている。



ハイエンド化により広告収入が伸びる

この成長に大きく寄与しているのが広告ビジネスだ。主なものはスマホのアプリなどに表示される広告で、2021年の広告収入は181億元で、42.3%も成長した。

2021年の四半期ごとの収入も39億元、45億元、48億元、49億元となり順調に成長をしている。

これは、Xiaomi12などのハイエンドスマホが伸びていることと関係している。ハイエンドスマホユーザーが増えるということは、高価格商品の広告が表示できるということで、これにより小米は単価の高い広告主を獲得できていると見られている。

2021年、価格3000元以上のハイエンドスマホの出荷量は全体の13%となり、昨年より6%ポイントも増加した。これが利益率の高い広告ビジネスを成長させ、さらに今後ハイエンドスマホが増えることにより、より広告による収入と高い利益率が確保できると見られる。

実際、主要事業の営業利益を見ると、スマートフォンとネットサービス(含む広告)の貢献が競い合っている。

▲小米の利益の内訳の推移。生活用品(家電)は収入は大きくなるものの利益はさほど大きくならない。利益に貢献しているのはスマートフォンと広告を含むネットサービスだ。

 

収益面では、スマホと広告が牽引している

つまり、小米は事業という点では、スマートフォンであり、家電が主体だが、利益という点で見ると、スマートフォンとその上で展開する広告の会社ということになる。

小米によるハイエンドスマホへの挑戦、iPhoneにねらいを定めた挑戦は、スマホメーカーとしての挑戦ではあるが、ハイエンドスマホユーザーの割合が増えることにより、単価の高い広告が得られ、その利益でさらに技術開発をし、ハイエンド化を進めるという循環を生み出すという戦略にもなっている。

 

ハイエンドではアップル、ローエンドではオナーというライバル

ただし、死角もある。ユーザーからはすでに小米のスマホは広告が多すぎるという不満が起き始めている。また、小米のアプリストアの検索結果は、ダウンロード数の多さや評価の高さだけでなく、広告を出しているアプリも優先されるようになっており、これ以上の広告シフトはユーザーの不満を招きかねないところまできている。

また、ハイエンド化には避けて通れないアップルの壁は決して低くない。小米の雷軍CEOは、2021年で最も興奮した出来事として、Q2に小米の販売台数がアップルを抜き、サムスンに次ぐ第2位になったことを挙げている。

そのことは素晴らしいことだが、アップルがiPhone13を発売する前の販売数が最も少なくなる時期のことであり、Q4にはアップルはiPhone13の販売により、小米とサムスンを抜き、第1位の座に返り咲いた。それどころか、iPhone13は中国でも人気となり、中国でも第1位のシェアを獲得した。さらに、OPPOvivoが強く、小米は国内では第4位の座に甘んじている。アップルまでの距離は、国内でも国外でも遠い。

さらにファーウェイから独立した栄耀(オナー)はMagic 4により、欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋地区でのセールスを強化することを発表しており、この地域は小米が得意としている地域とまったく重なる。小米にとっては、ハイエンドでアップルに追いつこうするだけでなく、ローエンドではオナーに追いつかれないようにしなければならない両面作戦を強いられている。

▲小米のアプリストア。検索順位が広告出稿をしているアプリが優先されるため、ユーザーから不評を買い始めている。

 

ハイエンド増加分は、ミドルクラスからの移行組

さらに、小米のハイエンド化は順調に進んでいるとは言えない。ASP(平均販売価格)は上昇しているとはいうものの、その上昇度合いはわずかでしかなく、ハイエンドの販売量は増えているものの、その分は従来のミドルレンジ層から移行によるもので、相対的にローエンドも増えているのではないかと推測される。

だとすると、「ハイエンドユーザーが増える→広告単価が上がる→技術開発を行いハイエンド開発をする」というシナオリが成り立たなくなる。ハイエンドユーザーを増やして広告収入が増えても、その分、ミドルレンジユーザーが減って、さらにはローエンドに移行するユーザーまで現れると、全体での広告収入も低下をしかねない。

実際に、小米のASPは2021年通年では1097.5元であり、2020年からわずか57.7元しか上がっていない。

専門家によると、2021年はコロナ禍の影響により半導体不足、部品不足が続き、原材料コストが上昇をしている。この上昇分はとても57元の上昇では吸収ができないはずだと見ている。つまり、ハイエンドユーザーだけを見れば確かに増加をしているものの、全体で見ると、ハイエンド化がほとんど進んでいないことになる。

実際、スマートフォンの利益率を見ると、2021年Q4には大きく下落をしている。これは原材料価格が高騰をしても、価格を据え置き販売をしているか、あるいはむしろ割引価格にすることで販売台数を伸ばしているのだと考えられる。

2021年には、小米は折りたたみスマホを発売したメーカーの一つとなったが、このMIX FOLDも9999元の販売価格を6999元に大幅値下げしている。財務報告書の数字が表すほどハイエンド化の道は簡単ではなさそうだ。

ASP(平均販売価格)の推移。着実に情報をしているが、ハイエンド化が進んでいるとまでは言えない。特に2021年後半は、原材料費が高騰していることを考えると実質的な平均価格は伸びていないとも言える。

▲小米のスマートフォンの出荷台数と利益率。2021年の後半に出荷台数が減少をしているのは、原材料不足によるもので、すべてのメーカーに共通をしたことだが、利益率が落ちているのが目立つ。

▲小米のハイエンド路線の目玉であった折りたたみスマホ「MIX FOLD」も大幅割引をしている。