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不動産業界崩壊の中で、28.2%の増収を達成した不動産販売「貝殻」。貝殻はなぜ増収増益を達成できたのか

中国の不動産業界は惨憺たるありさまだ。住宅価格も下落が続いている。その中で、不動産販売「貝殻」は増収増益を達成した。なぜ、この苦境の中で、貝殻は成長できたのか。それは市場を見て、早めに方針転換をしたからだと野馬財経が報じた。

 

バブルが終わり、苦境に立つ不動産業界

中国の不動産デベロッパーが軒並み経営状態を悪化させ、これまで右肩あがりだった不動産業界が苦境に陥っている。住宅は住むためのものだが、投資信託よりも利回りがよかったため、投資対象として購入されてきた。これが住宅需要を過剰に高めることになり、過剰に価格があがるという循環が生まれていた。典型的な住宅バブルだ。

このバブルを抑えるために、中央政府は「三道紅線」(3本のレッドライン)を設定した。不動産デベロッパーの経営状況を3つの観点で評価をし、その結果によって新たな資金調達に制限をかけるというものだ。つまり、自転車操業をしているようなデベロッパーは新たな資金調達ができなくなる。これでバブルを抑え込もうとした。

この政策により、不動産市場が落ち着き、住宅価格の高騰が止まった。すると、住宅を投資として見ている人たちは、住宅以外の商品に投資をするようになる。これで住宅需要が大きく落ち、住宅価格は下がり始めている。

 

それでも業績を伸ばす不動産販売「貝殻」

しかし、その苦境の中で、住宅販売を行っている「貝殻」(ベイカー、https://bj.ke.com/)は業績を伸ばしている。2023年の販売額は3.14兆元(約65.7兆円)となり、前年から28.2%の増収となった。純利益も58.9億元となり、前年の13.97億元の赤字から大きく成長した。

住宅市場が冷え込む中で、貝殻はなぜ躍進をすることができたのだろうか。

▲貝殻は、2020年のコロナ禍でオンライン内見のシステムを開発し、これが成長の源になっている。左は中古住宅の現在の様子だが、自分の好きな内装を入れた予想図(右)が生成できる仕組みを入れている。静止画ではなく、この中をウォークスルーできるようになっている。

 

新築販売から中古リフォーム販売へシフト

その答えは、財務報告書を見るとすぐにわかる。取引のうち、在庫住宅(新古、中古)の販売額が36%となり、新築の39%とほぼ同じになっているのだ。さらに、内装家具事業は133億元となり、前年比245.8%と急成長をしている。つまり、新築住宅の販売が奮わない中で、新古、中古の住宅をリノベーション、リフォームして販売をするという事業が好調になっている。

貝殻の顧客調査で、2022年6月と2023年12月のデータを比べてみると、中古住宅を優先して考えている顧客は23%から35%に上昇した。一方、新築住宅を優先して考えている顧客は31%から18%に減少をした。

そもそも、貝殻は、投機のための住宅販売よりも、住むための住宅販売に力を入れてきた。住むための住宅需要が急に消えてしまうわけではないため、業績を落とさずに済んでいる。

投機のための住宅を購入していた人は、これから先も住宅価格が下がることを予想して、損切りのために早めに処分をしたがっている。一方、住宅価格が下がることで、これまで手が出なかった人たちも住宅購入を考えるようになり、新たな需要が生まれている。貝殻は、このような市場の変化をうまく捉えることができた。

▲貝殻では、中古住宅の3Dモデルを生成し、ほぼどの物件でもウェブから3Dモデルが閲覧できるようになっている。もちろん、拡大縮小、回転ができる。現在の居住者の私物が置かれたままの映像だが、これがあるために生活をイメージしやすいと評判になっている。気に入った物件を見つけたら、24時間いつでも担当者とチャットで連絡を取ることができる。

 

需要と供給が都市部と周辺部で大きく違っている

しかし、2024年も貝殻が同様の成長を続けられるかどうかは微妙だ。なぜなら、在庫住宅の放出は一巡をしたのではないかという見方があるからだ。統計上は在庫住宅が増え、それを購入しようとする需要も強い。しかし、都心部では需要は強いものの供給が少ない、郊外部では供給は多いものの需要は強くないというミスマッチがある。都心部の住宅は値下がり率が小さい。そのため、所有者が様子見をして損切りの処分をなかなかしない。一方、郊外部では値下がり率が高いため、所有者が焦って損切り処分をしている。

このような事情で、2024年は在庫住宅の販売額もなかなか成長できないのではないかと見られている。貝殻は、2023年に路面店の数を削減し、顧客をオンラインに誘導をした。また、研究開発部門では新築物件に関する研究開発を中止した。業績が絶好調であった最中に2つのコストダウン策を実施し、2024年以降の次の市場状況に対応しようとしている。