現在、シェアリング自転車の最大手はハローバイク。アリババから資金を調達し、各都市に展開をしている。ハローバイクは、ofoとMobikeという大手に隠れた弱小企業だった。しかし、逆境の中で生き延びる術を身につけ、最後に市場を制することになったと捜狐が報じた。
弱小が生き残ったシェアリング自転車
中国では、新しいビジネスが登場した時の法則がある。それは1位と2位が激しい競争をして、3位以下は消え去ってしまうというものだ。
外売(フードデリバリー)では美団(メイトワン)と「ウーラマ」が激しい競争をし、百度外売以下の小さなプレイヤーは買収されたり撤退したり倒産したりして消えた。ワクチンソフトでは、金山(キングソフト)と「360」が激しい競争をして、カスペルスキーが消えた。
ところが、この法則が通用しなかったのが、シェアリング自転車だ。第1位の「ofo」と第2位の「Mobike」が激しい競争をしたが、ofoは資金が途絶え、Mobikeは美団に買収されて消えた。残ったのは3位以下の弱小だった哈囉(ハローバイク、https://www.hello-inc.com/index.html)だった。
これは極めて珍しいことで、企業セミナーのケーススタディーに使われることも多い。
学生企業で成功したハローバイクの創業者
ハローバイクを創業した揚磊(ヤン・レイ)は、典型的な80后(80年代生まれ)で、小さな時からゲームが好きだった。大学一年生の夏休みには、電子製品店でアルバイトをした。そこであるお客と親しくなった。そのお客は、揚磊が電子製品に詳しいことを信頼し、一緒に商売をしないかと誘ってきた。その客とは、中国では有名な広州光大集団の副総裁だった。
すぐに話がまとまり、揚磊が3万元、副総裁が7万元を出資し、電子部品を製造する会社を設立し、それがうまくいき、揚磊は学生としてはあり得ない額のお金を手にすることができた。
投資が獲得できずに困難に直面するハローバイク
大学を卒業すると、揚磊はそのお金を元手に起業を考え、スマート駐車システムを開発する企業を始めた。しかし、1年経ってもまったく商売にならない。会社の経営が苦しくなる中で、2016年9月には、流行の兆しがあったシェアリング自転車にピボットをしようと考えた。
しかし、その頃はすでにシェアリング自転車は競争時代に入っており、ofoとMobikeが大量のクーポンを発行し、大量の自転車を街中に投入し、過剰な競争が行われていた。2017年になると、主だった投資機関はすべてと言っていいほどこの2社に投資をし、揚磊の始めたハローバイクなどという弱小企業に投資をしようという投資機関は現れない。揚磊の方から探しに行っても断られる。ハローバイクはすぐに従業員の給料すら支払えなくなっていった。
お金がないことが、後々大きく作用する
しかし、この資金がないということがうまく作用した。ハローバイクはお金を失うことが何よりも怖いため、細かくシェアリング自転車を管理するようになっていった。自転車が破損する、盗難に遭うというのは何よりも痛い。このような扱いを受ける自転車は決まって駐輪の仕方に問題がある自転車だ。じゃまな場所にある自転車、人目がないところに放置された自転車は、壊されたり盗まれたりする。そこで、ハローバイクはスマート駐車システム時代の資産を活かし、早くから電子フェンス技術を取り入れていた。駐輪場を定め、その中に停めないと返却できない仕組みだ。
さらに、社員数を増やさない方針をとった。社員が増えると、社員の管理に時間が取られ、事業に集中できなくなっていくからだ。そして、現場で働くことを重要視した。揚磊自身、執務室にいる時間は少なく、駐輪場を回っては自転車を整理したり、回収作業、修理作業を手伝っている。現場にいることで、肌で市場の動向を知ることができる。リーダーが現場で働くことで、社員も自然と働くようになる。
CEOが熱心に働いている姿を従業員に見せていれば、社員の管理などはほとんど不要になる。
配牌が悪い逆境の中で生き延びる術
しかし、それだけでは成長していくことはできない。揚磊は言う。「大手企業は100万台単位で大都市に次々と自転車を投入していきます。それは私たちから見れば、1年分の投入量なのです。とても、大手のように自転車を投入することはできません。私たちは大手のいない小さな都市で、小さなパイを守っていく他なかったのです。配牌が悪い中で、私たちは逆境の中で生き延びる術を学んでいきました」。
ハローバイクは、大手が興味を示さない地方都市を集中的にねらって自転車を投入していった。大都市ではofoとMobikeにまったくかなわないからだ。
これは思わぬ効果があった。ひとつは地方の方が利用時間が長くなる傾向があることだ。公共交通が発達している大都市では、公共交通が届かない「最後の1km」にシェアリング自転車を使う。しかし、公共交通が未発達な地方都市では長距離であってもシェアリング自転車を使う。
また、地方都市政府は、どこも公共交通の整備に頭を悩ませているため、シェアリング自転車の進出を歓迎した。進んで、駐輪場を提供してくれたり、放置自転車整理のボランティアを組織してくれたりする。
また、地方都市は観光が大きな産業になっている。大都市の市民が地方都市にやってきて観光をする時に、ハローバイクを利用する。そこでハローバイクの名前を知ってもらうことにより、後に大都市に進出をする足がかりになる。
1台あたりの利用率を高めるためにテクノロジー開発
ハローバイクが重視をしたのは、1台あたりの利用率だ。破損や盗難で失う自転車を最小限に抑えた上で、1台の自転車をできるだけ使ってもらい、利用効率を高めようとした。ここにテクノロジーを活用した。
高徳地図と提携し、高徳地図が持つ移動データとハローバイクが持つ移動データを合わせて機械学習をさせ、どこに何台設置すべきかを割り出して配置をしていく。また、駐輪場に戻してくれない利用者には次第に利用料金が上がっていく仕組みも導入した。これにより、ルールを守ってくれない利用者はやめていくか、ルールを守るようになる。
大都市での投入量規制がチャンスとなった
このような改善をおこなっていると、ハローバイクにも大都市に進出をするチャンスが巡ってきた。
ofoとMobikeの競争は限界を越え、大都市では放置自転車が社会問題になっていた。必要量が400万台である都市に対して、ofoも400万台投入し、Mobikeも400万台を投入するため、自転車の総台数が過剰になってしまったからだ。放置自転車があふれ、通行の妨げとなり、景観も悪くなった。
この問題を解決するために、各都市政府は、2018年から投入自転車台数の規制を始めた。駐輪場を設置しているか、回収を小まめにおこなっているかなどの観点で、各シェアリング自転車企業を評価し、その評価に応じて投入自転車台数を按分するようになった。
以前から、1台あたりの利用率を高める工夫をしていたハローバイクは、この評価が高く、どこの都市でも1位か2位を獲得し、大きな投入枠を獲得した。これにより、ハローバイクは北京、上海、深圳、成都などの大都市に進出をしていく。
弱小3位が最後に市場を制したレアな事例
この規制により、成長の可能性を失ったofo、Mobikeには投資が進まなくなる。ofoは資金が枯渇をし崩壊、Mobikeは美団に買収されることになった。一方のハローバイクには大都市という成長空間が生まれ、アリババ傘下のアントグループが6回に渡って投資をし、資金力の面でも安定をし、アリババ傘下企業として、アリババの他のサービスとの連携も可能になった。
シェアリング自転車の世界では、第3位以下だった弱小企業が最後に業界を制するという珍しいことが起きている。しかし、それは創業者の揚磊が、逆境の中でできることをひとつづつ行い、放棄をせずに続けてきたからだ。