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空飛ぶクルマ、中国を飛ぶ。eVTOLのメッカになりつつある上海

上海市が空飛ぶ車のメッカになりつつある。eVTOLのトップ企業3社が上海に拠点を定めているからだ。すでに貨物輸送では営業運転が始まり、空飛ぶタクシーとしての営業運転も始まろうとしていると上観新聞が報じた。

 

次世代の交通手段として開発が進む「空飛ぶクルマ」

上海市が「空飛ぶクルマ」のメッカになろうとしている。通称「空飛ぶクルマ」は、正式には「電動垂直離陸飛行機」(eVTOL)と呼ばれている。このeVTOLは、電力で飛行をし、滑走路を必要とせず、パイロットのいない無人自律飛行も可能になることから近未来の交通手段になることが期待されている。2035年には市場規模が5000億元になると予測されている。

 

試験飛行に成功、貨物機は実用化直前の峰飛

そのeVTOLのトップ企業は上海市に集まっている。もっとも進んでいるのは、峰飛航空科技(フォンフェイ、AutoFlight、https://autoflight.com/zh/)で、2月27日、「盛世龍」が深圳市と珠海市の間の試験飛行に成功した。航空当局の認証の問題と安全を優先して、人を載せるのではなく、人を模したダミー人形5体(パイロット1+乗客4)を載せての飛行だが、深圳蛇口埠頭を離陸し、深圳湾を一周し、珠海九洲港埠頭に着陸をした。

直線距離で約50kmの行程を約20分で飛行したが、船を使うと70分、車や鉄道を使うと2時間以上かかる。直線で結ぶことにより、大きく時間が短縮できることを印象づけた。2026年に営業許可を取得することを目指している。

一方、峰飛の貨物専用eVTOL「凱瑞鴎」は、営業許可の取得が見えており、すでに国内外から200台以上の受注をしている。商業物流に使われる他、緊急物資の輸送、離島物流、消防活動などに使われる予定だ。

▲峰飛のeVTOL「盛世龍」は、深圳と珠海を20分で飛行した。船では70分、車や鉄道では迂回が必要なため2時間かかる場所だ。

▲峰飛のeVTOL「盛世龍」は、ダミー人形を乗せた海上飛行に成功をした。

 

昨年から貨物輸送を始めている御風未来

峰飛は元々ドローンのメーカーで、その延長線上で、有人ドローン→eVTOLと事業を拡大してきた。一方、同じ上海市にある「御風未来」(ユーフォン、VERTAXI、https://vertaxi.com/)は、小型の工業用無人eVTOLの開発から入り、有人eVTOLに進出をしてきた。すでに昨年から、物資輸送を実際に行なっている。

上海市の長江の河口には、東西約80km、南北約15kmの崇明島という島がある。その東に水も電気もない無人島があり、そこにeVTOLで物資を輸送する営業運転を始めている。今までに累計で10トンの物資を輸送したという。この業務からデータを収集し、自律飛行、無人操縦の技術の開発を始めている。

また、有人機では、昨年、上海市金山区で試験飛行を成功させている。

▲御風未来はすでに物資輸送の営業運転を行なっている。

 

空飛ぶタクシーを目指す時的科技

もうひとつが2021年に創業されたばかりのスタートアップ「時的科技」(シーディー、TCab Tech、https://www.tcabtech.com/)だ。すでにeVTOL「E20」は航空当局に正式に受理をされ、順調にいけば2026年後半には飛行許可が降りる見込みだ。

時的では、eVTOLによる貨物輸送は採算性が低いと考え、有人飛行=空飛ぶタクシーにフォーカスをして開発を進めている。eVTOLが規模化して運営できれば、1人あたりの輸送コストはハイヤー並みに下がるという。具体的には、上海市浦東から蘇州市東方之門の100kmの行程を25分で結び、一人300元程度の料金設定が可能になるという。

▲空飛ぶタクシーを目指す時的科技。上海から蘇州までの100kmを25分で結び、料金は300元程度にすることが可能だという。

 

エアバスフォルクスワーゲンも参入するeVTOL

中国の国産飛行機はC919があるが、中国国内の航空会社には採用されているものの、海外展開はこれからであり、セールスには苦労をしている。やはり、長年航空機を開発してきた欧米メーカーにさまざまな優位性があるからだ。

しかし、三電(バッテリー、モーター、電気制御システム)の技術とサプライチェーンが確立した中国では、電気で飛行するeVTOLの分野では、欧米メーカーを追い越せるのではないかと、投資が集まるようになっている。

このeVTOLの世界もすでに競争が激化をしている。eVTOLに進出する企業は3つのコースがある。ひとつはドローンからの転身組で峰飛など。航空機から転身組が御風未来、時的など。また、大型飛行機や自動車などの転身組もあり、エアバスフォルクスワーゲン、小鵬、吉利などがeVTOLの開発を始めている。それぞれの企業が背景にしている技術が異なるため、eVTOLの多様性も広がっている。

上海市も、eVTOLを中心にした低空経済を、上海市の5大未来産業のひとつとして位置付け、積極的な支援策を行なっている。上海は空飛ぶクルマのメッカになろうとしている。