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タピオカブームは完全終了。コロナ禍で経営に苦しむ中国茶カフェチェーン

コロナ禍により、人気だった中国茶カフェチェーンが軒並み経営が苦しくなっている。消費者心理が、ブランドからコストパフォーマンスを求めるようになり、どのチェーンも店舗面積の縮小、販売価格の値下げに踏み切り、競争力を高めようとしていると南都週刊が報じた。

 

コロナ禍によって経営が苦しくなった中国茶カフェ

「喜茶」(シーチャー、HEY TEA)、「奈雪的茶」(ナーシュエ)、「茶顔悦色」(チャーイエンユエスー)、「楽楽茶」(ラーラーチャー)といった、コロナ禍前に流行した中国茶カフェが、いずれも苦しんでいる。

茶顔悦色は2021年末に87店舗を閉店して、給料の一部カットを行った。コロナ禍期間、毎月2000万元の赤字であったことが原因だ。

奈雪的茶も2021年の損失が1.35億元から1.65億元になるという見通しを発表し、投資による成長段階でもあったことから2018年から3年連続で赤字となった。

喜茶は大規模なリストラを行い、全従業員の30%を解雇する。さらに、商品の大幅な値下げに踏み切った。年内に価格を調整し、29元以上のメニューをなくし、60%以上のメニューを15元から25元の価格帯に収める。

さらに、楽楽茶は広州市の店舗を閉鎖することを発表し、これで楽楽茶は華南地区から完全に撤退をすることになる。喜茶は楽楽茶を買収する計画を進めていたが、これも中断となった。

2017年から中国茶をアレンジした中国茶カフェが人気となり、店舗によっては3時間、4時間待ちの行列ができるほどのブームとなった。しかし、2021年はどのチェーンも値下げとリストラに踏み切っている。好調だったブームを一転させたのは新型コロナの感染拡大だ。

▲喜茶のドリンク。クリームチーズとフルーツが入った中国茶で、味わいも見た目もそれまでにない斬新なものであったことから爆発的な人気となった。

▲2017年からコロナ禍前までは、中国茶カフェが大人気となり、喜茶には4時間、5時間待ちの行列ができるのが当たり前の状況が生まれた。

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出店ペースが過剰になっていた奈雪的茶

王さん(仮名)は、マクドナルド、奈雪的茶の店長を務め、現在はレモンティーチェーンの店長を務めている。王さんは次のように状況を説明する。

2019年に奈雪的茶の店長をしていた時は、新製品の投入は意外に多くありませんでした。人気の商品が長く売れたからです。奈雪的茶の人気商品は、チーズストロベリーティーで、2019年5月1日には私の店でも500杯が売れ、広州万菱匯店では700杯以上が売れました。

奈雪的茶は品質管理に厳しいチェーンで、店長の評価も店舗業績よりもQSCの達成度が重要視されていたほどでした。品質上の問題を起こすと、その月は報奨金の半分がカットされ、翌月には減給、その翌月には配置転換となります。

当時はものすごい勢いで新店舗を展開していたため、新店舗の出店が、既存店の売上にも大きく影響しました。本部は店舗数を多くして市場シェアを取ろうとしているため、カニバリズムが起こり、一店舗あたりの売上は下がってしまうのです。

▲奈雪的茶では、スイーツの販売に力を入れている。店内での客単価を上げるだけでなく、パッケージ販売による売上もねらっている。

 

原価率が非常に低い中国茶ドリンク

私はさまざまな飲食チェーンで働いてきましたが、中国茶カフェは最も参入しやすいビジネスだと感じています。利益率が非常に高い商品なのです。85%から90%にもなります。中国茶の原材料は安く、あとはパッケージぐらいしかお金がかかりません。調理も誰でもできる簡単さで、見た目と味がネットで評判になり、価格さえ適切であれば、面白いように儲かるビジネスなのです。

決め手になるのは人気商品の開発で、独自の供給元、独自の原材料を見つけることができれば大きな商機に恵まれます。

 

消費者の関心はブランドから価格へ

この仕事に関わってきて、コロナ禍により消費者の心理が大きく変化したことを感じます。以前はブランドを重視しましたが、現在は価格を重視するようになっています。以前は健康や生活の質を重視しましたが、現在はコストパフォーマンスを重視するようになっています。そのため、安くて美味しいチェーンに消費者が流れています。奈雪的茶や喜茶などの高級志向のチェーンも10元台の低価格商品を発売し、生き残りを図るようになっています。

中国茶ドリンクを中価格帯で販売し、若い世代の間で人気となった茶顔悦色も、大量閉店に踏み切っている。

 

サードプレイス感覚が欠けている中国茶カフェ

ジェームズさん(仮名)は、以前はスターバックスの店長を務め、某中国茶カフェの店長となった。

現在私が務めている中国茶カフェチェーンは、スターバックスを目標にしてサードプレイスを構築しようとしてきました。しかし、スターバックスのサードプレイスは他のチェーンとは大きな違いがあります。それは顧客とつながるということです。コーヒーの試飲会やドリップ教室などをたびたび開催して、リピーターをつくり、顧客の粘性を高める活動をしてきました。

現在私がいる中国茶カフェでは、顧客に快適な空間を提供し、質の高い接客はしていますが、顧客とつながるというスターバックスのような視点はありません。私がスターバックスにいた頃は、58元、68元という価格で提供をしていました(現在は30元程度)。それはコーヒーを販売しているだけでなく、コーヒー文化も販売しているという自負があったからです。コーヒーを通じて、コーヒー文化を楽しんでもらう。それがサードプレイスでした。中国茶カフェにはこの感覚はありません。

スターバックスの上海の高級業態「リザーブ・ロースタリー」。焙煎工場が併設され、焙煎したてのコーヒーを楽しむことができる。コーヒー教室なども随時開催され、コーヒーのテーマパークとなっている。

 

店舗面積の縮小と低価格競争

中国茶カフェは、大型店舗を増やすことに力を入れました。しかし、大型店舗は赤字幅も大きくなります。大型店の展開が難しくなり、標準店舗をPro店舗と名称を改め、面積を縮小して、コストを下げるようになっています。それでも、以前の売上を上回る店舗が現れ、この傾向が進んでいます。

この中国茶カフェチェーンは、いまだに黒字化ができていません。コロナ禍の影響も大きいですが、大きな要因は出店ペースが早すぎて、投資金額が膨らんでいたことです。今年になって、コストを抑えたPro店への転換を始めたことで、年内には黒字転換が望める状況になるのではないかと思います。

もうすぐ中国茶カフェにとっては掻き入れ時の夏がやってきますが、問題は週に1回は私たちのカフェにきてくれたとしても、残りの6回はより低価格のチェーンに行ってしまうのではないかという不安です。今年の中国茶カフェ業界は、低価格競争が厳しくなりそうです。

 

初期投資が小さい地方都市で成功する中国茶カフェ

温朔さんは、中国茶業界で10年働き、桂林の中国茶ブランド「茶満久伴」を創業した。

大学2年生の時、「大卡司」(ダーカースー)、「快楽檸檬」(ハッピーレモン)などのドリンクチェーンに注目をしました。それで2012年にある中国茶カフェのチェーンのフランチャイズに加盟をし、2016年には杭州市で自分の中国茶カフェを開業しました。2018年からは「19TEA」で2年働き、現在は自分の中国茶ブランド「茶満久伴」を創業しました。

桂林の1号店は2021年6月に開店をしました。出店コストも人件費も抑えられ、すでに黒字化をしています。6ヶ月から8ヶ月で初期投資を回収することができました。

地方都市の店舗はコストが抑えられるため、経営のプレッシャーは低いため、すぐに2店目を開業し、3月からは3店目の開店準備に入っています。それが終われば、4店目の開店準備に入ります。

▲桂林で温朔さんが創業した中国茶カフェ「茶満久伴」。地方都市では初期投資が小さく済むので、中国茶カフェはまだじゅうぶんにビジネスになる。ただし、高価格帯の中国茶ドリンクは売れないため、価格帯の調整が必要になる。

▲茶満久伴のテイクアウトセット。地方都市でも、グッズのデザインに気を使い、ブランドのイメージを形成することが成功につながるという。

 

タピオカミルクティーのブームは終わった

桂林では、大手の中国茶カフェチェーンがあまり進出してきていません。奈雪的茶、喜茶の店舗は少なく、激安ドリンクチェーン「蜜雪氷城」が人気です。大手チェーンは価格が高すぎて、三線、四線都市ではあまり競争力がないのです。

中国茶カフェにとって重要なのは、やはり商品そのもので、その商品をブランドの文化といかに調和をさせるかがかぎりになります。商品の名称、パッケージ、サービスなど、すべてが商品と調和をしていることで、ブランドが浸透し、リピートしてもらえるようになります。

コロナ前のような過剰な中国茶カフェブームはもうこないと思います。あの頃は、大手チェーンには長い行列ができ、無数の新規参入カフェが出現しました。コロナ禍により、損を出すべきチェーンは損を出し、業界が整理をされ、私としては業界の発展にとってよかったのではないかと思います。タピオカミルクティーのブーム以降、業界人はみな浮かれていました。それがコロナ禍により、地に足が着くようになったと思います。

▲地方で圧倒的な強さを誇る蜜雪氷城。ソフトクリームは3元、レモン水は4元という安さで、学生が学校帰りによる店になっている。地方都市を中心にすでに2万店を突破している。

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照明だけではない。5G基地、交通監視などを兼ね備えるスマート街灯。各地で本格普及が始まる

スマート街灯の本格普及が始まり、販売をするテック企業、メーカーの動きが慌ただしくなってきている。中央政府が国家標準ガイドラインを定めたことで、各地の政府が5ヵ年計画にスマート街灯の整備を盛り込んだことが要因だ。今後5年で、スマート街灯が本格普及をすることになると媒体が報じた。

 

スマート街灯の普及が本格化

スマート街灯の普及が本格化をしている。華為(ファーウェイ)、中興(ZTE)、聯想レノボ)、百度バイドゥ)なども参入し、各地方政府に対しての営業活動も活発化をしている。

その要因となったのが、3月1日に国家標準として「スマートシティ:スマート多機能街灯サービス、機能、運用管理規範」が公開され、スマート街灯の標準ガイドラインが定められたことだ。

各都市はスマートシティを実現するための重要な要素として、スマート街灯の整備計画を本格化しようとしている。

▲スマート街灯の機能。照明、5G通信基地だけではなく、交通監視、公共監視などの機能も備わっている。

 

今後5年の活況が確定したスマート街灯ビジネス

米国の無線通信業界団体のCTIAの予測によると、2021年の中国のスマート街灯関連の市場規模は3.7兆元(約73.1兆円)になると見られ、スマートシティ市場の20%を占めると予測されている。

特に、2021年3月には、全国人民代表大会において承認された第14次五カ年計画(十四五)にそって、山東省、四川省浙江省貴州省などが今後の5ヵ年計画にスマート街灯の整備を入れている。この5年で、スマート街灯は各地で整備をされ、スマート街灯市場も活況となる。

▲スマート街灯はさまざまな屋外施設の機能をまとめてしまうという「多杆合一」の考え方に基づいている。

 

テック企業、家電メーカーなどが続々参入

このスマート街灯の設置は、2016年頃から中国と米国で始まった。中国では、ZTEが深圳工場で、最初のスマート街灯システム「Blue Pillar」を開発し、陝西省で通信と照明を合体されたスマート街灯を設置した。

このBlue Pillarはアップグレードが行われ、通信基地や監視カメラ、充電機能などが追加されていった。これにより、街中に無計画に設置されている「街灯」「監視カメラ柱」「通信基地局」などを1本にまとめて、街の景観をすっきりさせる都ともに、集中管理が可能になるという「多杆合一」の考え方が生まれていった。

これに、ファーウェイ、アリババ、テンセント、レノボなどのテック企業だけでなく、家電のハイアール、AIの商湯(シャンタン)、曠視(クワンシー)などが参入をしてきている。

▲スマート街灯は街の景観も改善する。

 

北京冬季五輪で整備された「智慧の樹」

今年2022年の北京冬季五輪では、開催地域のスマート街灯を華体科技が担当し、2539本の「智慧樹」を設置した。照明だけでなく、監視カメラ、交通標識、交通信号予告、5G通信基地局などの機能があり、得られた情報は「城市大脳」(シティブレイン)で統合管理され、交通渋滞の解消、違法駐車車両の発見などに貢献をした。

北京冬季五輪では会場付近にスマート街灯「智慧樹」が会場付近に整備された。交通状況などを監視し、「城市大脳」で統合管理され、交通渋滞の解消、違法駐車車両の発見などに貢献をした。

 

スマートシティのソリューションとしてのスマート街灯

ファーウェイも早くから参入した企業のひとつで、2016年にはスマート街灯のコンセプトを公開し、2017年には国家半導体照明工程研究開発産業連盟、中国照明学会、常州市照明管理所などと共同して「NB-IoTスマート街灯エコシステム」を公開し、2018年に「PoleStar2.0スマート街灯ソリューション」を公開している。すでに、北京市海淀公園やコスタリカサウジアラビアなどに設置されている。

ファーウェイのPoleStar2.0は、多杆合一からさらに一歩進んで、スマートシティのセンサーとしてスマート街灯を活用することを目指している。

また、百度もスマート街灯に積極的で、百度が推進する自動運転システム「Apollo」の連動をねらっている。

2021年には、国内のスマート街灯関連の地方政府の支出は155億元(約3060億円)を超えた。2022年以降、この支出は急増することが確実で、各テック企業、メーカーの動きが慌ただしくなってきている。

 

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学ぶ場に変貌をするサブカル動画共有「ビリビリ」。微分方程式を講義する小学生も登場

ACGNというサブカルが中心だった動画共有サービス「ビリビリ」が、学ぶ場に変貌し始めている。教養系、学習系動画が半分近くにもなっている。さらに、プログラミングや微分方程式を教える小学生が次々と登場して話題になっていると銭江晩報が報じた。

 

サブカルから教養へとシフトしたビリビリ

弾幕付き動画共有サービスとして、若い世代から圧倒的支持を得ている「ビリビリ」(https://www.bilibili.com/)。ビリビリは、元々は初音ミクの動画を共有することからスタートし、ACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)関連の動画が投稿されるサブカルサイトだったが、現在は知識系動画が最も多くなり、投稿される動画の49%を占めるようになっている。

学科の内容解説から、プログラミング講座、高等数学やさらには時事解説、ビジネス講座など、自分の興味のある内容を学ぶ場所になっている。

 

小学生たちが教養動画を配信し始めている

この知識系動画に異変が起きている。動画を投稿するのは、その道の専門家や面白く解説ができる配信主が中心だが、最近目立つのが「10后」(2010年以降生まれ)と呼ばれる小学生たちだ。小学生がプログラミングテクニック微積分、F1レースに使われるテクノロジー、世界史などの講義をしている。

最初は、講師のあまりの幼さに、弾幕で「お前の宿題は終わったのか?」などと茶化すコメントが多かったが、その内容が本格的でわかりやすいと、今では多くの視聴者が小学生のup主を「先生」と呼ぶようになっている。

 

ティム・クックCEOも評価をしたVita君

このような小学生配信主が出現するきっかけになったのは、「小学生が教えるプログラミング」を公開している「小学生Vita君」だ。現在、26万人のファンを獲得している。

Vita君は、2019年8月に、アップルのSwift Playgroundを使ったプログラミング講座を公開し、初心者にわかりやすいと評判になった。すると、2019年12月に、アップルのティム・クックCEOが、ウェイボーの公式アカウントで、Vita君に対して誕生日のお祝いのメッセージを送った。「上海の環貿iampショッピングセンターで開催されたアップルのToday At Appleのコースに、ある親子がいます。周花巻さんは、息子のVita君をプログラミングの世界に導き、現在、お二人は次の世代のエンジニアに向けて、お二人の知識をシェアしています。Vita君、8歳の誕生日おめでとう!」。

上海のアップルストアも全面協力をし、ストア内のアップルアクセラレーター(クリエイターのためのスタジオ)を提供し、Vita君もこのアップルアクセラレーターで動画の撮影をするようになっている。

このVita君がきっかけで、次々と小学生講師が生まれている。

▲アップルのティム・クックCEOは、Vita君のビリビリでの活動を評価し、8歳の誕生部にお祝いのメッセージを公開した。

https://space.bilibili.com/456606920?spm_id_from=333.788.b_765f7570696e666f.2

 

Vita君の盟友「探索者Ongo」

「探索者Ongo」は、幼稚園の時からSwiftプログラミング講座の配信を始め、プログラミングに必要な数学技巧ーー等差数列やフィボナッチ数列の解説まで行っている。Vita君とも仲がいいようで、コラボした動画も上げている。

https://space.bilibili.com/495885500?spm_id_from=333.337.0.0

 

英語で微分方程式の講義をする兄と妹

「承光承曦」は、15歳の兄と12歳の妹の兄弟姉妹。兄が11歳の時から、2人で微分方程式に関する講座を公開している。しかも、講義に使われる言語は英語だ。

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F1テクノロジーを解説する「保守派車迷劉同学」

「保守派車迷劉同学」は、車が大好きな小学生で、BMWやホンダなどメーカーの歴史だけでなく、F1の歴史とF1に使われているテクノロジーの解説をして人気になっている。

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イギリスの歴史と資産階級革命を講義する小学生

「黄埔之星」は、小学生だが、「英国の歴史と資産階級革命」という動画を公開している。

https://space.bilibili.com/498833493?spm_id_from=333.337.0.0

 

AIの講義をする「八歳程序員治平同学」

「八歳程序員治平同学」は、プログラミング講座でAIやユニコードの解説をしている。

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否定的な意見と擁護する意見

このような神童とでも呼ぶべき小学生の大量出現に対し、ネットではさまざまな議論が起きている。否定的な意見は、大人に言わされているだけ、仕込まれているだけで、本質的な理解をした上で解説しているわけではない、文字面をなぞっているだけだというものだ。場合によっては子どもに対する虐待の疑いすらあると言う人もいる。しかし、このような意見を言う人の多くが、実際の動画を見ていないと思われる。

動画を見た大人は、わかりやすいと絶賛をしている。純粋である分、本質に最短距離で迫って理解をして話をしているので、わかりすくなるのではないかという。幼いうちはいろいろなことに触れるべきだという人もいるが、自分が得意な分野をつくり、それを核にして異なる分野のことも理解をしていくのであれば素晴らしいことではないかという意見が多い。

 

人類は進化をし始めているのか

そして、多くの人がこう言う。「自分が小学生の時は、こんなに高度なことは理解したくても理解できなかった」。

今の小学生は、3歳4歳の頃からタブレットが与えられ、ネットにアクセスをすることが当たり前になっている。自分が興味のあることは、何でも深く知ることができる環境が整っている。「人類は進化をし始めたのではないか」と言う人もいる。

 

 

追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

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今回は、アリババ包囲網についてご紹介します。

 

アリババが世界最大の流通総額(GMV)を持つEC企業であることは説明するまでもありません。アマゾンの2倍近いGMVがあります。アマゾンはグローバル、アリババは実質中国国内だけなので、その巨大さというか浸透ぶりには目を見張るものがあります。

しかし、2021年はアリババに暗雲が立ち込め始めました。コロナ禍や中国政府の規制強化、米国の中国企業に対する規制など、さまざまな外部条件がありますが、今回はそこは置いておいて、アリババのビジネスモデルが成立しなくなりつつあるという内部条件の問題をご紹介します。内部条件の問題ですから深刻です。今は、まだ中国では圧倒的な巨人ぶりですが、じわりじわりと苦しくなっていく可能性があります。

アリババのライバルである京東(ジンドン)、ソーシャルEC「ピンドードー」、SNS EC「小紅書」(シャオホンシュー)、ショートムービープラットフォームの「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)のライブコマースなどは、直接アリババに対抗をするという意図は持っていなくても、自分たちが生き延びるためには、アリババの市場を切り取らざるを得ません。このような新興ECが頑張れば頑張るほど、アリババは苦しくなります。新興ECは知らず知らずのうちアリババ包囲網のようなものをつくり始め、いよいよ巨人アリババも苦しくなってきたことが表に出てくるようになりました。

アリババのECである「淘宝網」(タオバオ)、天猫(Tmall)はそのビジネスモデルを変えていかざるを得ません。

 

これについては、「vol.117:アリババに起きた変化。プラットフォーマーから自営へ。大きな変化の始まりとなるのか」でご紹介しました。あわせて読んでいただくと理解が深まりますが、簡単に復習をしてきます。

アリババのECは、アマゾンのような自営方式ではなくマッチング方式です。アマゾンや京東などは、小売店や量販店がオンライン化をしたもので、自社で商品を仕入れ、自社で販売し、自社で配達をします。このような方式では、設備投資は莫大になりますが、利益幅は大きくなります。

一方、アリババ、eBay、楽天は、売りたい人と買いたい人をマッチングさせる方式です。倉庫や物流を用意する必要がないため、成長速度は速くなります。しかし、販売手数料などわずかな収益しか得られないため、規模を大きくしなければ運営が維持できなくなります。

このマッチング方式であったアリババが、「天猫自営旗艦店」(Tmallマート)という自営店舗を天猫の中に出店しました。マッチング方式であったのに、アマゾンや京東のような自営店方式も一部取り入れたのです。

タオバオは、出店料無料、販売手数料無料(出店時に保証金は必要だが、退店するときに返却される)の無料で出店できるECです。しかし、ただ出店しただけでは商品はなかなか売れないので、アリババに有償で広告を出稿してタオバオ内に掲載したり、有償でプロモーションに参加をしてセールなどに参加をする必要があります。この有償部分がアリババの売上となっていました。

しかし、小紅書や抖音、快手に公式アカウントをつくり、写真、ムービーなどで自社商品を紹介し、タオバオに出品している商品を直接このようなSNSやショートムービーで販売することができるようになりました。つまり、商品プロモーションはアリババに頼らなくても自分たちでできる環境が整ってきました。これにより、アリババの収益力は落ちることになります。この危機感が、アリババを自営店舗の出店に向かわせた可能性があるというのがvol.117でのお話でした。

 

しかし、アリババの収益力を削いでいるのは、これだけではなく、ピンドードーが大きな存在になっています。

最近、あまりピンドードーの話題を耳にしないという気がしている人も多いかもしれません。以前は「100億補助」や「9.9槍購」などのド派手な大型キャンペーンを矢継ぎ早に行って、常に話題を提供していましたが、最近はこのようなキャンペーンも鳴りを潜めています。ピンドードーは元気を失っているのでしょうか。逆です。2021年Q4には66.20億元の純利益を生み出し、黒字は3期連続となりました。それまでずっと赤字運営できたピンドードーが、大型キャンペーンの頻度を落として、キャンペーン予算を抑えた結果、連続黒字化をしているのです。これは、アリババが最も恐れていた事態でした。



▲ピンドードーは2021年Q2に黒字化を達成し、3四半期連続で黒字となった。これは安定運営に入ったことを示しており、アリババが最も恐れていたことだった。

 

2014年、アリババは米ニューヨーク市場に上場し、莫大な資金を調達します。上場というのは創業者にとっては一気に富豪になれるチャンスであり、喜ばしいことですが、企業としては正念場でもあります。莫大な資金を活用して、さらに成長をすることが求められるからです。ところが、多くの企業が創業時の目標である市場を制して一定の成長をしてから上場をすることになるので、上場後の成長は第2創業と言えるほどのエネルギーを必要とします。お金持ちになってしまった創業者の中には、そのエネルギーがもう出てこない人も少なくありません。結果、上場ゴールやIPO即エグジットなど、結果的に株主を裏切ることになる創業者も少なくありません。

アリババも、多くの人がタオバオを利用するようになっており、すでに利用者数や客単価に頭打ち感が出ていました。しかし、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)はそこで成長を止めてしまうような消極的な人でありません。

アリババの新しい戦略として、農村に目をつけました。これは後に下沈市場と呼ばれるようになります。ネットサービスを使うのは、都市の中所得者層から上で、そこから下の低所得者層は、スマートフォンもPCも持っていない人が多く、ネットサービスの対象消費者にならないと見られていました。しかし、ジャック・マーはこの対象消費者層の下に沈んでいる人たちも、早晩スマートフォンを使うようになり、収入さえ上がればECを利用するようになる。そう考えて、いち早く下沈市場に手を伸ばしたのです。

ECのビジネスは、小売店に買い物に行っていた都市住人を奪う肉食的ビジネスでした。しかし、下沈市場はまだ購買力が弱いので、育てて収穫する草食的ビジネスです。これは、都市と農村の収入格差の解消、農村の貧困問題の解消にもつながる国家に貢献する事業にもなります。ジャック・マーは、莫大な資金を得て、この難事業に挑むことになります。

 

2014年10月には、最初の「農村タオバオ」の店舗が開店します。これはECと農村を接続するO2O(Online to Offline)のステーションでした。下沈市場では、スマホの普及率もまだ高くはなく、決済はもちろん現金が主流でした。そのため、ECのタオバオを使ってくださいと言っても無理があったのです。そこで、農村タオバオの店舗に行くと、PCでタオバオの画面を見て商品が選べ、店長が代理で注文をしてくれます。後日、商品が配送されると連絡が行き、取りにきた時に現金で決済をするという場所でした。タオバオで買い物をする習慣を養成しようとしたのです。

これだけではECは普及しません。下沈市場は収入が格段に低いからです。そこで、アリババは「タオバオ村」「タオバオ鎮」の設置をしてきます。これは農村の産業をアリババが支援をする仕組みです。農産物とその加工品、縫製業などが主ですが、その村の特徴のある産業をアリババが支援をして、生産基地にするという試みです。最終的に3000以上ものタオバオ村が誕生しました。

つまり、下沈市場に産業を起こし、地元の人が現金収入が得られる状況をつくり、それでタオバオで買い物をしてもらおうというものです。

 

しかし、なかなかうまくはいかなかったようです。農村タオバオの専用アプリまでつくられましたが、2017年6月にはタオバオアプリに統合されてしまいました。これが大きな節目になりました。

タオバオというのは典型的なECの構造になっていて、欲しい商品を検索をして探し、レビューを読んで商品を決め、アリペイで電子決済をして、配送してもらうというものです。これが農村の消費スタイルからずれていたのです。

農村では、欲しい商品があったら、雑貨屋などに行って、店主に欲しい商品を告げます。すると、店主が商品を選んでくれるので、店主を信用して現金で購入します。商品は自分で持って帰るのが基本です。下沈市場の消費者から見れば、店主に言えば商品に詳しい専門家が選んでくれるのに、なぜ自分でレビューを読まなければならないのか。現金で決済すればお金をわたして終わりなのに、なぜ電子決済のような回りくどいことをしなければならないのか。すぐに使いたいのに、なぜ宅配便で送られてくる間待たなければならないのかと、ECの方が不便に感じたのです。ECは幅広い選択肢の中から商品が選べるので、良質のものが低価格で手に入れらることが魅力なのですが、当時の下沈市場の消費者は、必要だから買うだけで、商品を選ぶという感覚が濃くなかったのです。

そして、アリババは、もうひとつの成長戦略である新小売に相対的に軸足が移っていきます。アリババが開拓し、去った後の下沈市場にうまく入り込んだのがピンドードーでした。

つまり、ピンドードーは、アリババがやろうとして、失敗とはまでは言わないものの苦労をしているところに、後からやってきて易々と下沈市場を制したのです。この点で、アリババにとってピンドードーは単なる市場がかぶる以上のライバル心があるのです。それだけではなく、成長をするとピンドードーは、アリババのビジネスモデルを破壊しかねない影響を与えるようになります。ですので、ピンドードーが3期連続で黒字になって安定運営のモードに入ることは、アリババにとって恐怖なのです。

では、ピンドードーは、アリババのビジネスモデルに対して、具体的にどのような脅威となるのでしょうか。今回は、ピンドードーを始めとするアリババ包囲網についてご紹介します。

 

 

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vol.122:ハーモニーOSで巻き返しを図るファーウェイ。ファーウェイのスマホは復活できるのか

vol.123:利用者層を一般化して拡大を目指すビリビリと小紅書。個性を捨ててでも収益化を図る理由

 

 

中東で元アリババ社員が起業した宅配起業「iMile」。最後の1マイル問題をテクノロジーで解決する

元アリババ社員の黄珍がアラブ首長国連邦で、宅配起業「iMile」を起業し、ユニコーン企業となっている。住所表記の整っていない中東で、独自の表記システムを構築するなどして効率的な宅配業務を行なっていると創業邦が報じた。

 

中東で起業した元アリババ社員

アラブ首長国連邦に、わずか4年で中東など10カ国をカバーし、ユニコーン企業となった宅配企業「iMile」がある。このiMileを起業したのは、元アリババの社員だった黄珍(ホアン・ジェン)だ。

黄珍はアリババ子会社のCTO(最高技術責任者)をしていたが、中東の物流の課題を知り、起業をすることを考えた。2017年5月にアリババを辞職し、その2ヶ月後の7月にiMileを創業した。中東の物流の最後の1マイル問題を解決し、地元のアマゾン、カルフール、中東最大のEC「Noon」などの配送や、中国の越境アパレル販売「SHEIN」などの配送を担当している。わずか4年で、中東24カ国のうち6カ国にサービスを提供し、さらにアフリカ、南アメリカでもサービスを提供している。

2021年、iMileの営業収入は10億元(約200億円)を突破し、2022年はその3倍から5倍になる見込みだ。

中国バイトダンスは2021年12月に、1000万ドル(約12.8億円)の投資を行った。そこから、iMileという企業の名前が中国やアジア圏でも知られるようになった。

アラブ首長国連邦を拠点とする宅配企業「iMile」。創業者は、ファーウェイ、アリババなどで海外事業を担当していた黄珍だ。

 

中東に宅配インフラをつくりたい

黄珍は以前から起業をして、価値のある仕事をしたいと考えていた。しかし、黄珍は言う。「大切なのは、何をしたいかではなく、何ができるかなのです」。

iMileは創業4年目の企業だが、黄珍の海外生活はもう14年になる。黄珍はファーウェイに入社をし、海外販売業務を担当し、2008年26歳の時にアフリカに駐在し、その後中東を担当することになった。2015年、アリババに転職をしたが、アリババはこの時、中東の企業と現地に合弁会社を設立し、黄珍はこの会社のCTOとなった。

このような経歴の中で、中東の現地企業とビジネスをすることを学び、CTOを勤めることで技術に対する理解を深めていった。欧米、日本、韓国、中国で宅配インフラが整っていく中で、中東は取り残されているようなところがあった。「誰にでも、どの時代にも、その人に与えられた使命があります。私に与えられた使命は、ネットテクノロジーを駆使して、中東に宅配インフラをつくることだと感じたのです」。そして、黄珍にはそれを実現する能力が蓄積されていた。

▲iMile創業者の黄珍。前職はアリババ子会社のCTOだった。国際的な宅配物流企業も進出をしてきて、これから中東宅配物流の競争が本格化をする。

 

2017年のEC進出ラッシュが好機に

2017年に、起業をするのに適したチャンスが巡ってきた。それまで小さなECが乱立をしていたが、アマゾンが地元のEC「Souq」を買収し、同時にNoonがサービスを開始した。この状況を見て、中国の越境EC「環球易購」「アリエクスプレス」、越境アパレル「SHEIN」などが中東市場に参入をしてきた。

ここから、中東のEC市場がにわかに成長をし始めた。2017年の中東のEC流通総額は83億ドルだったが、2022年には285億ドルになると予測されている。

中国で淘宝網タオバオ)や拼多多(ピンドードー)が急成長できたのは、その背後に宅配企業が急成長をしたということがある。ECと宅配は互いに影響を与えながら成長をしていく。黄珍は同じことが中東でも必要だと考えた。

「中東のECで販売されている商品の80%は中国製です。中国の越境ECも複数サービスを展開しています。しかし、どのECも適切な宅配企業を見つけることができず、課題になっていたのです」。

 

住所表示すら確立していない中東地域

しかし、実際に宅配サービスを提供するのは簡単ではない。中東では、まだ住所表記が整備されてなく、そこに住んでいる人ですら、自分の正確な住所を知らないことがある。送付先住所にも「○○モスクの近く」「カルフールの隣り」など曖昧な書き方をする。それで今までは問題がなかったのだ。

住所情報は、正確な表記システムが公的機関にもないため、iMileは独自の住所体系を構築した。消費者が入力した住所を、iMile独自の住所体系に変換をし、効率的な配送を行う。自動変換できない住所については、iMileの地区担当者が手作業で修正し、その知見が集まることで、多くの住所がiMilleの住所表記システムに自動変換できるようになっている。このような正確な住所表記システムは他にはなく、地元政府からも注目されるようになっている。

▲iMileはテクノロジーで中東の宅配の課題を解決しようとしている。住所表記が整備されていない中東で、独自の住所表記体系を構築した。

 

アフターサービスも宅配企業の仕事になっている

もうひとつは、アフターサービスの考え方の違いから、実質的なアフターサービスは配達をする宅配企業が対応をすることが多いという問題だ。多くの人が、ECと宅配は別企業であるという感覚がなく、同じ会社の人だと思っている。そのため、商品に対するクレームや返品なども宅配企業に申し入れてくる消費者が大半なのだ。

この2つの課題を解決するため、黄珍はアマゾンと中通を研究した。アマゾンからは末端配送とデジタル化を、中通からはデジタル管理運営を学んだ。さらに、両者から専門家を招聘し、社内で学習会を開いた。

 

失敗をするのに3ヶ月もかからない

しかし、iMileの企業としての課題はまだ山積みだ。最も大きいのは、ドイツの物流企業DHLの進出だ。国際物流の点では巨人であり、各国での適応能力も高い。DHLが中東に本格参入をすれば、iMileにとって強烈なライバルになる。さらに、UPSFedexなども参入を本格化させ、現地企業のFetchr、Aramaxなども成長中だ。さらにはEC「Noon」も自社で配達網の構築を始めている。

「当たり前ですが焦燥感はあります。未来は誰にも予測できないのですから。中東には政治的なリスクだってあります」。黄珍は今、ひとつの金言を念頭におきながら、iMileを成長させている。その金言とは「失敗をするのに3ヶ月もかからない」というものだ。中東の宅配物流の競争は、これから本格化をする。

 

 

シャオミにはKPIやノルマは存在しない。管理しないでも動く組織の秘密とは

スマホだけでなく、家電製品などの製造もてがける「小米」(シャオミ)。この企業は、KPIやノルマというものが存在しない超フラット組織であることでも知られる。なぜそのような組織で結果を出せるのか。創業者の雷軍が、管理しないでもいい組織をつくるには、管理しなくてもいい人を集めればいいと語ったと和牛商業が報じた。

 

KPIが存在しない超フラット組織「小米」

2008年、金山軟件キングソフト)を退職した雷軍(レイ・ジュン)は、Google中国研究院の林斌(リン・ビン)副院長と知り合い、雷軍のスマートフォンに対する情熱と林斌の起業に対する情熱が結びついて、2010年、小米(シャオミ)が誕生した。

小米が成功できた最大の理由は、雷軍の独特な組織管理の考え方にあるかもしれない。KPI(重要業績評価指標)のようなものは存在しない。組織は超フラット型だ。しかし、それでどうやって大きな集団を動かしていくのか。その秘密を、雷軍自身が講演で語っている。

▲小米の創業者、雷軍(左から2人目)。2021年第2四半期には、出荷台数でアップルを抜き、世界第2位のスマホメーカーとなった。

 

世の中を擬似信号で理解をする

私は完璧主義者で、他人に対する要求も厳しいと思います。今では多くの人が私と会うと、話がしやすく、心が広い人だと感じてくれます。しかし、それは社会人になってから身につけたもので、私の本質はあらゆることに対して厳格です。

私はITエンジニアなので、世界を0か1かで見ています。正しいか間違っているかで見ています。しかし、これでは世間とうまくやっていくことができません。そこで、私は世界は疑似信号でできていると考えるようにしたのです。「0に偏った信号」「1に偏った信号」から世界は構成されていると考えることで、私はものごとを柔軟に見ることができるようになり、世の中を受け入れることができるようになりました。

 

誰からも反対された小米の創業

小米を創業する時に、最大の問題だったのは、周囲の誰もが反対をしたことでした。その頃、私に会った人は、必ず3つの質問をします。「あなたはスマートフォンを製造するというけれど、メーカーの社長に知り合いはいますか?」。私は「いません」と答えます。「あなたはスマホを売るというけれど、小売業の社長に知り合いはいますか?」。私は「いません」と答えます。「あなたはスマホをつくった経験があるのですか?」。私は「ありません」と答えます。

最初に10人のエンジニアを誘いましたが、結局誰もきてくれませんでした。それから100人の人に声をかけましたが、2/3はその場で断られます。特にハードウェアエンジニアはまったくきてもらえませんでした。

あまりに誰もきてくれないので、私は優秀そうな人の名前を聞くと、自分で電話をかけて「会って話を聞いてほしい」と交渉しました。実を言うと、電話営業のようなことをしたのは20年ぶりのことです。

▲小米創業の記念写真。全員で社名にちなんで、創業メンバー全員で、お粥を炊いて食べた。

 

管理をしなくても動く組織をつくる

私は、キングソフト時代、数千人の組織を率いていました。その時、体得したのは、組織というのは過剰に管理してはならないということです。ですので、小米を創業する時には、どうしたら管理をできるだけしないですむかを考えました。理想はまったく管理などしていないのに、目標に向かって動く組織をつくることです。特に、この進歩が速い時代には、管理しない組織というのが重要になってきます。

この問題を考え始め、管理しないでいい組織をつくるには、管理しないでいい人を集めればいいのだということに思い至りました。ですので、4つの特性を持っている人を小米に誘うことにしました。

ひとつは当然ですが、能力がある人です。2つ目は高い責任感を持っている人です。成果がまだ現れない段階では、本人の責任感だけが原動力になります。ですので、小米が要求する責任感のレベルは非常に高いと思います。責任感がある人が集まることにより、管理というのはほとんど必要がなくなります。

 

強い駆動力を持ち、志を共有する

3つ目は、強い駆動力を持っている人です。この駆動力とは目標を共有する力です。組織の利益と個人の利益が一致をすることで、組織は駆動をしていきます。簡単に言えば、志を同じくすれば同じ道を歩むということです。

小米を創業した最初の1年間、私は自分の時間の80%を面接に費やしました。その中で、あるハードウェアエンジニアの方と合い、その人は実績もあり、能力も高く、私はぜひ小米にきてほしいと思い、1週間に5回も会いました。しかも、毎回10時間ほど一緒に食事をして酒を飲み話をしました。3ヶ月の間に17、8回は会ったと思います。そして最終的にその人は小米に転職することに応じてくれました。

その最後に、私は「小米の株式をどれほど欲しいか?」と訪ねました。その人は「気にしていない」と答えました。この一言で、私はこの人は小米には合わないのではないかと思い直しました。

創業メンバーになるのであれば、株式を要求するのは当然のことです。株式を持つということは組織に対して責任感を持つということです。小米が利益を出すことで、個人の報酬も増えます。この、組織と個人の利益が一致をすることが強い駆動力となるのです。株式のことを考えていないというのは、会社に対して責任を持とうとしないし、組織と個人の利益が一致をしないため、組織の目標と個人の目標がずれてしまうことも起こります。

この人の面接には膨大な時間をかけましたが、時間の無駄になってしまったとは思いません。人を見極めるのにどれだけ時間をかけてもかまわないのです。「三顧の礼」という言葉がありますが、私は人を採用するには「三十顧の礼」でも足りないぐらいだと思っています。

▲小米の創業者、雷軍。金山軟件キングソフト)で、ビジネスツールやゲームなどの開発に関わるソフトウェアの人だった。退職後、小米を創業した。

 

優秀な人でも価値観が合わなければ断る

4つの特性の最後は価値観が共有できる人です。2015年に、ある経営層に入る人を面接したことがあります。素晴らしい経歴の持ち主でした。しかし、私は採用しませんでした。

面接の時、彼はメーカーの重要なポジションにいて、900万ドルだった売り上げを4年で2億ドルに成長させた経験を話してくれました。麦わらを金の延べ棒に変えたという話で、それは素晴らしいものです。きっとどこの企業でも欲しい人材でしょう。でも、小米の価値観には合いません。

私たちはデジタルの世界での農民で、毎日少しずつ田畑を耕し、少しずつ収穫をします。その積み重ねによって成長していくのです。これは価値観の問題であり、どちらが正しいということではありません。しかし、小米はそういう集団であり、異なる価値観を持つ人は能力を発揮できないでしょう。

 

優れた組織をつくるには、人選びがすべて

このような4つの特性を持った人が集まり、超フラットな組織で、小さなチームに分かれて仕事を進めていきます。そのチームの中では、細部にわたって情報が共有できている。そういう組織であれば、会議、プレゼン、報告の多くは省くことができるようになり、業務が前に進んでいくようになります。

ですので、小米は他の企業に比べて、報告書、会議が少なく、KPIも必要としていません。KPIなどなくても、仕事を進める人の集まりだからです。強い組織をつくるには、組織の形や仕組みではなく、どのような人を集めるかがすべてです。

 

 

配膳ロボットは飲食店の標準設備に。大手飲食チェーンでの大量導入が進む

大手飲食チェーンで、配膳ロボットの大量導入が進んでいる。配膳コストが1/10から1/25になるという理由からだ。火鍋チェーンの「海底撈」「巴奴」、中華料理チェーンの「外婆家」ではすでに標準設備化をしていると中国機器人網が報じた。

 

飲食店の標準設備になりつつある配膳ロボット

少し大きめの飲食店であれば珍しくなくなった配膳ロボット。料理を乗せ、テーブル番号を指示するだけで運んでくれるというものだ。人を感知すると一旦停止をするのは当たり前で、最近のモデルではSLAM機能を搭載するようになっている。SLAMとは「Simultaneous Localization and Mapping」(自己位置推定と環境地図作成)のことで、センシングしながら動くことで、店内の地図を作成するというものだ。もはや特殊な技術ではなく、家庭用お掃除ロボットでも上位機種であれば搭載されている。

▲典型的な配膳ロボット。商品を乗せてテーブル番号を指定すれば、配膳をしてくれる。最新型ではSLAM機能が備わっており、自分で店内地図を作成するため、レイアウトの変更などにも簡単に対応できる。

 

スタッフ5人分の働きをする配膳ロボット

一般的な配膳ロボットは、3層から4層のトレーが備えられていて、スタッフは料理を乗せ、操作パネルまたはスマートフォンからのリモートで、テーブル番号を指定するだけ。あとは人を避けながら指定されたテーブルに行き、来店客が料理を取ったことを重量で感知をすると、自動で配膳ステーションに戻ってくる。1回に運べる料理数は6品から16品程度で、だいたい4人の来店客に対応できるイメージだ。2000平米の飲食店で、厨房からテーブルまで40秒ほどで運ぶことができ、スタッフ5人分の働きをする。これにより、数ヶ月で投資を回収できるという。また、最近ではリース方式の配膳ロボットも多くなり、これであればさらにコストを抑えることが可能だ。

▲厨房から出てきた料理を配膳ロボットに乗せ、テーブル番号を指定するだけで配膳作業が終わる。客が料理をとると、重量センサーが感知をし、配膳ロボットは厨房に戻っていく。

 

配膳業務のコストは1/10から1/25に

一般的なリースでは月額1000元から2000元程度。一方、人間のスタッフの人件費は4000元から5000元程度。1台の配膳ロボットは5人分の働きをするから、2万元から2.5万元の人件費コスト分の働きができる。つまり、配膳コストは1/10から1/25程度に下がることになる。

上位機種では自走をし、SLAM技術により店内マップを作成し移動をするが、より簡便なものでは、床に磁気レールを敷いてしまうという方法もある。これであれば、SLAMなどの高度な機能が不要となり、レールの上を移動するカートと同じになるため、より初期コストを下げることができる。

▲人件費と配膳ロボットのコストの関係。人件費は常にかかり続け、同時に少しずつ上昇をしていく。しかし、配膳ロボットは初期投資は大きいが、8ヶ月ほどで人件費を下回るようになる。また、最近はリースによる導入が進み、さらにコストは下がる。

 

大手飲食チェーンで進む配膳ロボットの標準設備化

四川火鍋で有名な「海底撈」(ハイディーラオ)は中国だけでなく、シンガポール、香港、台湾、日本など海外を含め935店舗を展開しているが、すでに958台の配膳ロボットを導入済みだ。重慶火鍋の「巴奴」(バーヌー)は30店舗を展開しているが、100台ほどの配膳ロボットを導入している。中華レストラン「外婆家」(ワイポージャー)は50店舗ほどを展開しているが200台の配膳ロボットを導入している。

いずれも当初は、人件費の節約、スタッフの負担軽減などが目的だったが、コロナ禍以降、非接触という観点からも導入が拡大をしている。UBSによる海底撈の調査では、スタッフの労力の37%が減少し、1月に17.2万元(約340万円)のコスト減になっているという。

▲火鍋の有名チェーン「海底撈」では、配膳ロボットがほぼ標準設備になった。

 

今なら写真がSNSにあがる客寄せ効果も

配膳ロボットのメリットは、人件費の節約が主眼だが、現在はまだすべての飲食店の標準装備になっているわけではないため、客を惹きつける効果もあるという。配膳ロボットがやってくると多くの来店客がスマホで写真を撮る。そのままスマホに保存しておくだけの人は少なく、SNSやショートムービープラットフォームにあげる。これが大きな宣伝効果になっているという。

配膳ロボットは、飲食店だけでなく、ホテル、カラオケ店などでも導入が始まっていて、さらには病院の病室などでも導入が生まれている。ある程度以上の広さ、ある程度以上の規模の飲食チェーンでは、ほぼ標準装備になっていくと見られている。