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今回は、乗用車の自動運転についてご紹介します。
「vol.223:電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点」を読んでいただいたある方から、ある相談を受けました。「BYDのEVが日本で売れる勝ち筋というのはあるでしょうか?」というものです。
いろいろ考えましたが、私は「日本では難しいのではないか」と答えるしかありませんでした。日本では、中国製品は「安かろう悪かろう」「日本の技術を盗んだ劣化版」という認識が今でもまだまだあります。また、それより大きいのは、EVの普及はほぼ絶望的という日本の状況です。
中国製品に対するネガティブなイメージは変わりつつありますし、何かをきっかけに大きく変わることもあるかと思います。しかし、EVの普及が絶望的なのは、消費者の意識の問題ではなく、政策の問題なので変わる可能性はほぼありません。
私自身もEVの方がいいと思っていますが、私が住んでいるマンションの駐車場には充電設備がありません。自治会に相談をして設置をすることは可能でしょうが、住民総会の決議を取り、誰が費用を支出するのかを決めなければなりません(EVに興味がない人は負担が増えるのですから反対に回るでしょう)。かといって、近くの充電スポットで充電をしてから駐車場に入れるというのは面倒すぎます。
一方、郊外に戸建て住宅で暮らしている方は、わずかな初期投資で充電設備をつけることができます。夜の間に充電すればいいのですから急速充電は必要なく、10万円以下の費用で設置することが可能です。しかし、郊外に住まわれている方は、1日の走行距離がどうしても長くなります。走行中に、充電スポットの位置を把握し続けなければいけないというのは、やはりストレスになります。
世界の多くの国は、自動車を低エミッションのものに限定をしようとしています。EUでは、2035年に燃料車、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)の販売を禁止します。二酸化炭素を排出する自動車はすべて販売禁止になるのです。
米国でもカリフォルニア州など先進的な13州では、2035年に燃料車とハイブリッドを販売禁止にします。その他の州では、禁止はしませんが、PHEVとEV、燃料電池車などの低エミッション車を50%以上にする目標を立てています。燃料車とハイブリッドは半分以下になります。
日本は、2035年に燃料車を販売禁止にしますが、ハイブリッドは禁止をしません。割合の制限もありません。世界でも珍しいハイブッド完全OKの国なのです。となれば、誰でもハイブリッドを買いますよね。今と比べて変える必要のあることは何もないわけですから。このような目標設定であるために、EVを買う人は少なく、EVを買う人が少ないために、充電スポットの数も増えません。ハイブリッドOKにしてしまったために、あらゆるEV促進策が弱いのです。
2035年以降の日本は、ハイブリッド車が7割か8割になって、その他は、EVやPHEVでも間に合う人だけがEV/PHEVを買うということになると思います。自動車メーカーはマイナーなEVはつくりたがりませんから、大量の国産ハイブリッドと少量の中国・韓国EVが走る国になるのではないでしょうか。自動車でも、どこかで聞いたことがあるガラパゴスな国になってしまうかもしれません。
ハイブリッド車は、日本の宝のようなテクノロジーであり、日本がハイブリッドの国になることはいいことなのかもしれません。しかし、その代償に、パリ協定で国際的な約束をした温室効果ガスの排出削減は絶望的になります。
目標年度は2030年とまだ少し時間があるため、例によって数字のマジックで、あたかも達成可能であるかのように政府は言っています。しかし、「達成可能だ」と言っている専門家はほぼいません。発送電完全分離や思い切った再エネ発電投資など、大きな構造改革をしなければ、目標達成のための体制もつくれないと警告する人が大半です。
日本の排出削減目標は「2030年までに26.0%削減」です。米国は2025年までに26-28%であり、EUは2030年までに40%となっています。
▲パリ協定で各国が提出した目標。日本は2013年比で26%削減になっている。資源エネルギー庁「今さら聞けないパリ協定」より引用。
この後、日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(https://www.env.go.jp/content/900440767.pdf)を閣議決定し、削減目標を46%に引き上げました。26%から46%ですから、大幅引き上げです。しかし、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」をよく読むと、「我が国は、2050年目標と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と書いてあり、46%は「目指す」目標であって、国際的な約束ではありません。達成できなくても、国民に気づかれなければなかったことになります。
問題だと思えるのは、GDP1000ドルあたりの二酸化炭素排出量の推移です。
▲GDP1000ドルあたりの二酸化炭素排出量の推移。米国やインドですら減少傾向にあるのに、日本は緩やかにしか減っていない。国際エネルギー機関(IEA)、「CO2 emissions intensity of GDP」より引用。
世界各国とも大きくまたは緩やかに減少をしています。これから経済成長が始まるインドですら減らし始めています。ところが日本は減少が緩やかです。緑のEUと黄色の日本は1980年代はほぼ同じでしたが、2000年以降乖離が起き始めています。
つまり、日本経済が復活をして、GDPが再び増え始めると、排出量もそれに比例をして増加をしてしまうということです。
1980年と2021年のGDPあたりの排出量を比較してみました。
▲GDPあたりの排出量を1980年と2021年で比較をすると、日本は他国に比べて非常に小さい。「CO2 emissions intensity of GDP」(IEA)より作成。
中国、米国、EUは、60%以上減少させていますが、日本は40%弱です。明らかに減少率が小さいのです。これは各国が、エネルギー転換など大胆な変革で排出量を削減しているのに対し、日本は省エネ技術と節約を積み上げる方式で減らしているからです。
私のような素人にも、このようなやり方でパリ協定の国際公約、2050年にカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)など達成できるのか心配になります。パリ協定には、排出権取引が定められていて、達成国から余剰分の排出枠を買うことができます。そこに頼ることになるのかもしれません。
中国のパリ協定での削減目標は、「GDPあたりの排出量を、2030年までに2005年比で60-65%削減」です。2005年の排出量は0.79tで、2021年は0.45tです。つまり、すでに43.0%の削減を達成しています。太陽光発電とEVが普及の過程にあるため、ほぼ間違いなく目標達成をすることができるでしょう。
中国では「燃料車かEVか」という議論はとっくに終わっていて、郊外などで充電施設の整備がまだ始まっていないない地域や北方の冬が長い地域はPHEVに人気がありますが、整備が進んでいる大都市ではEVにするのが当然のことと考えられています。その理由の最大のものは、EVという製品自体の魅力ですが、ある方から、それ以外にもEVにする理由があるという話を教えてもらいましたので、ここでみなさんと共有しておきたいと思います。
ひとつの理由は、中国は電気代が安いということです。一般的なEVで100kmを走るのに15kWhの電力が必要になります。電気代は地域によって異なりますが、平均的な0.4元/kWh(家庭用。充電スポットでは1元台前半)とすると、100kmを走るのに6元で済みます。一方、ガソリンは100kmを走るのに8リットルほどのガソリンが必要になります。ガソリンがリッターあたり8元とすると、100km走るのに64元かかることになります。つまり、EVは燃料費が1/10で済むのです。すべて1.2元/kWhの充電スポットで充電したとしても21.6元で、ガソリンの1/3程度です。
日本の電気代は平均すると31円/kWh程度だそうです。同じ計算をして見ると、EVは100km走るのに465円。ガソリンはリッター170円として、100kmを走るのに1360円と、EVの方がかなり安くなります。ガソリンが以前のような100円台だったとしても、EVは半分近いコストで走ることができます。
これなら日本でもセカンドカーにはうってつけだと思うのですが、セカンドカーに適した軽自動車は、日本の技術が凄すぎて燃費が非常によく、実燃費で20km以上あるのがあたりまえになっています。リッター20kmで計算すると、EVは465円、軽自動車は850円と差は大きく縮まり、ガソリンが100円に戻れば500円と、EVと差がなくなってしまいます。日本の軽自動車はEVに対して強い競争力があり、このカテゴリーでもEVが普及する見込みはあまりありません。
もうひとつ教えていただいた、EVを選ぶ理由が、購入手続きが明朗であるということです。EVの多くは、ウェブやアプリから試乗の申し込みをして、試乗後、購入するなら車両代金+諸費用を支払うというものです。当たり前の話ですが、あらかじめいくら支払うのかがわかります。
しかし、伝統的なガソリン車は、4S店と呼ばれる販売店で販売されています。4Sとは「Sale、Spare Parts、Service、Survey」の略で、メーカーとは独立した販売店チェーンです。メーカーから自動車を仕入れて、販売店で顧客に販売をします。日本の正規販売店とほぼ同じ仕組みです。
ところが、若い世代を中心にこの4S店が避けられるようになっています。その最大の理由が、見積りを取らないと、車がいくらになるのか、よくわからないということです。メーカーの希望小売価格はありますが、これは実売価格より高く設定されていて、それをいくら値引きをするかが販売店の腕の見せ所になっているのです。そのため、複数の販売店で見積りを取る必要がありますし、販売員と値引き交渉もしなければなりません。それをしない人は高値づかみをしてしまうことになります。自動車メディアをよく読み、実勢価格を頭に入れて、4S店と交渉しなければなりません。
若い世代はこういうことに時間や労力を使うことがバカバカしいと思うようになっています。中国でも4S店では納車式という習慣があります。車に大きなリボンをかけて、大きな鍵の模型を持って、スタッフと購入者が記念撮影をするというものです。ある人は「あんなこと強要されたら、恥ずかしすぎて、その場で逃げ出す」と言っていました。
つまり、ガソリン車とEVということだけでなく、すべてにおいてガソリン車は古いのです。一方、EVはもはやECでスマートフォンを買うのと同じ感覚で、どこの店舗でも公式サイトに表示されている価格で販売されていますし、割引キャンペーンなどもどこの店舗でも同じです。せいぜい、おみやげにもらえるポケットティッシュの数が違うくらいです。故障をしてもウェブやアプリからサポートを受け、先方が指定する店舗/工場に行けば、どの店舗でも同じサービスが受けられるという安心感があります。
そのような中国で、EVを購入する際、多くの人が検討する要素が自動運転です。性能に関してはメーカーによりさまざまですが、ファーウェイのADS2.0(Advanced intelligent Driving System)が問界シリーズなどに搭載され、販売が始まったことが大きな転換点となりました。
後ほど詳しく紹介しますが、都市部であればほぼ運転操作をする必要はありません。特に高速道路は料金所近辺を除けば、運転を任せるというのがあたりまえになりつつあります。北米でもテスラがFSD(Full Self Driving)のβ版販売を行なっていて、同じく人間は運転操作から解放され始めています。
と言っても、大半の方がにわかには信じ難い思いだと思います。そこで、メーカーの公式発表ではなく、自動車評論メディアの実車走行テストの結果に基づいて、どこまで自動運転が進んでいるのかをご紹介します。
また、当然のことですが、自動運転には批判的な意見もあり、事故も起きています。このような事故の事例から、自動運転の問題点についてもご紹介をします。また、このテクノロジーはまだ成熟をしてなく、どのようなアプローチを取るのかについてもメーカーによりさまざまな考え方があります。この点でも、どこまで進んでどのようなトレンドになっているのかについてご紹介します。
今回は、中国で始まった自動運転の時代についてご紹介します。
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