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ハイエンドスマホに挑戦するシャオミ。簡単ではないiPhoneの壁

ミドルレンジのコストパフォーマンスに優れたスマートフォンでブランドを築いてきた小米(シャオミ)がハイエンドスマホに挑戦をしている。ハイエンド化することで広告収入が大きく伸びることを期待している。しかし、ハイエンドユーザーは増えたものの、シャオミのミドルレンジユーザーからの移行組が多いと見られ、ハイエンド化の難しさに直面していると投資界が報じた。

 

全方位に躍進をしたシャオミの2021年

2021年は小米(シャオミ)にとって重要な1年となった。販売店であるシャオミストアを1年で7000店を出店し、店舗数は一万店を突破した。2021年は、毎日19店以上を開店したことになる。

さらに、自動車製造にも乗り出し、まずは100億元を投資し、10年で100億ドル規模の投資をしていくと発表した。

また、主軸事業のスマートフォン販売では、これまでコストパフォーマンスに優れたミドルレンジ製品で伸びてきたが、いよいよハイエンドへの進出を始め、Xiaomi 12はiPhone13に対抗する機種として開発されている。

小米が全方位で躍進をするための環境を整えるための1年となり、その成果がどうなるのか、多くの投資家が小米の財務報告書が公開されるのを心待ちにしていた。

 

絶好調の2021年の財務報告

小米の2021年の財務報告書によると、2021年の営業収入は3283億元で、33.5%の伸びとなった。純利益も220.4億元で69.5%増と大幅に伸びた。絶好調と言っていい数字だ。

主力事業である「スマートフォン」「生活用品(家電)」「ネットサービス」のいずれも順調に成長をしており、営業利益率も順調に伸びている。また、小米のAndroidベースのOS「MIUI」の月間アクティブユーザー数(MAU)が5.09億人となり5億人を突破、IoT機器の接続デバイス数も4.34億台と4億台を突破、2021年だけが絶好調というわけではなく、着実に成長してきた結果だと評価されている。

▲小米の営業収入の推移とその内訳。スマートフォンが主力事業だが、近年は広告を含むネットサービスの貢献が大きくなってきている。

▲小米の営業利益率の推移。営業収入だけでなく、利益率も着実に高くなってきている。



ハイエンド化により広告収入が伸びる

この成長に大きく寄与しているのが広告ビジネスだ。主なものはスマホのアプリなどに表示される広告で、2021年の広告収入は181億元で、42.3%も成長した。

2021年の四半期ごとの収入も39億元、45億元、48億元、49億元となり順調に成長をしている。

これは、Xiaomi12などのハイエンドスマホが伸びていることと関係している。ハイエンドスマホユーザーが増えるということは、高価格商品の広告が表示できるということで、これにより小米は単価の高い広告主を獲得できていると見られている。

2021年、価格3000元以上のハイエンドスマホの出荷量は全体の13%となり、昨年より6%ポイントも増加した。これが利益率の高い広告ビジネスを成長させ、さらに今後ハイエンドスマホが増えることにより、より広告による収入と高い利益率が確保できると見られる。

実際、主要事業の営業利益を見ると、スマートフォンとネットサービス(含む広告)の貢献が競い合っている。

▲小米の利益の内訳の推移。生活用品(家電)は収入は大きくなるものの利益はさほど大きくならない。利益に貢献しているのはスマートフォンと広告を含むネットサービスだ。

 

収益面では、スマホと広告が牽引している

つまり、小米は事業という点では、スマートフォンであり、家電が主体だが、利益という点で見ると、スマートフォンとその上で展開する広告の会社ということになる。

小米によるハイエンドスマホへの挑戦、iPhoneにねらいを定めた挑戦は、スマホメーカーとしての挑戦ではあるが、ハイエンドスマホユーザーの割合が増えることにより、単価の高い広告が得られ、その利益でさらに技術開発をし、ハイエンド化を進めるという循環を生み出すという戦略にもなっている。

 

ハイエンドではアップル、ローエンドではオナーというライバル

ただし、死角もある。ユーザーからはすでに小米のスマホは広告が多すぎるという不満が起き始めている。また、小米のアプリストアの検索結果は、ダウンロード数の多さや評価の高さだけでなく、広告を出しているアプリも優先されるようになっており、これ以上の広告シフトはユーザーの不満を招きかねないところまできている。

また、ハイエンド化には避けて通れないアップルの壁は決して低くない。小米の雷軍CEOは、2021年で最も興奮した出来事として、Q2に小米の販売台数がアップルを抜き、サムスンに次ぐ第2位になったことを挙げている。

そのことは素晴らしいことだが、アップルがiPhone13を発売する前の販売数が最も少なくなる時期のことであり、Q4にはアップルはiPhone13の販売により、小米とサムスンを抜き、第1位の座に返り咲いた。それどころか、iPhone13は中国でも人気となり、中国でも第1位のシェアを獲得した。さらに、OPPOvivoが強く、小米は国内では第4位の座に甘んじている。アップルまでの距離は、国内でも国外でも遠い。

さらにファーウェイから独立した栄耀(オナー)はMagic 4により、欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋地区でのセールスを強化することを発表しており、この地域は小米が得意としている地域とまったく重なる。小米にとっては、ハイエンドでアップルに追いつこうするだけでなく、ローエンドではオナーに追いつかれないようにしなければならない両面作戦を強いられている。

▲小米のアプリストア。検索順位が広告出稿をしているアプリが優先されるため、ユーザーから不評を買い始めている。

 

ハイエンド増加分は、ミドルクラスからの移行組

さらに、小米のハイエンド化は順調に進んでいるとは言えない。ASP(平均販売価格)は上昇しているとはいうものの、その上昇度合いはわずかでしかなく、ハイエンドの販売量は増えているものの、その分は従来のミドルレンジ層から移行によるもので、相対的にローエンドも増えているのではないかと推測される。

だとすると、「ハイエンドユーザーが増える→広告単価が上がる→技術開発を行いハイエンド開発をする」というシナオリが成り立たなくなる。ハイエンドユーザーを増やして広告収入が増えても、その分、ミドルレンジユーザーが減って、さらにはローエンドに移行するユーザーまで現れると、全体での広告収入も低下をしかねない。

実際に、小米のASPは2021年通年では1097.5元であり、2020年からわずか57.7元しか上がっていない。

専門家によると、2021年はコロナ禍の影響により半導体不足、部品不足が続き、原材料コストが上昇をしている。この上昇分はとても57元の上昇では吸収ができないはずだと見ている。つまり、ハイエンドユーザーだけを見れば確かに増加をしているものの、全体で見ると、ハイエンド化がほとんど進んでいないことになる。

実際、スマートフォンの利益率を見ると、2021年Q4には大きく下落をしている。これは原材料価格が高騰をしても、価格を据え置き販売をしているか、あるいはむしろ割引価格にすることで販売台数を伸ばしているのだと考えられる。

2021年には、小米は折りたたみスマホを発売したメーカーの一つとなったが、このMIX FOLDも9999元の販売価格を6999元に大幅値下げしている。財務報告書の数字が表すほどハイエンド化の道は簡単ではなさそうだ。

ASP(平均販売価格)の推移。着実に情報をしているが、ハイエンド化が進んでいるとまでは言えない。特に2021年後半は、原材料費が高騰していることを考えると実質的な平均価格は伸びていないとも言える。

▲小米のスマートフォンの出荷台数と利益率。2021年の後半に出荷台数が減少をしているのは、原材料不足によるもので、すべてのメーカーに共通をしたことだが、利益率が落ちているのが目立つ。

▲小米のハイエンド路線の目玉であった折りたたみスマホ「MIX FOLD」も大幅割引をしている。