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無店舗営業のフードデリバリー。店舗もキッチンもないゴーストキッチンが増加中

フードデリバリーの配達元に無店舗営業のものが増えてきている。店舗営業をせずにキッチンしかないダークキッチンだ。ダークキッチンも営業許可や衛生検査は必要であるため問題は大きくないが、さらにはキッチンすらないゴーストキッチンが増え始めていると中央電子台中国之声が報じた。

 

デリバリー元が無店舗キッチンのことも

利用が広がるフードデリバリー。アプリを開けばたくさんの飲食店が見つかり、30分ほどで暖かい料理を自宅に届けてくれる。アプリに表示される店舗には3種類ある。

1)通常の飲食店:店に行って食べることもできる、通常の飲食店がデリバリーにも対応している。最も多いパターンで、安心をして注文をすることができる。

2)ダークキッチン:来店客を受け入れていないキッチンだけのデリバリー専門店。質はさまざま。大手チェーンがデリバリーのカバー率を高めるために、ダークキッチンを出店することがある。一方、個人がマンションの一室で料理をつくりデリバリー専門に販売することもある。いずれの場合でも、飲食店としての営業許可証が必要であるため、最低限の衛生状態は確保されている。

3)シェアリングキッチン:大手チェーンが効率を高めるため、別チェーンと提携してキッチンをシェアリングすることがある。こちらは特に問題はない。一方、個人がマンションの一室で、飲食店名を複数掲げ、さまざまな料理をデリバリー販売していることもある。営業許可証は取得しているものの、虚偽の内容が含まれている可能性が高く、一般的に衛生状態などはレベルが低い。

 

さらに悪質なゴーストキッチン

このようなダークキッチンやシェアリングキッチンの中には、品質や衛生状態に問題があり、しばしば消費者からの苦情の対象となる店舗もあった。しかし、さらに悪質なゴーストキッチンと呼ばれるデリバリー店も存在することが判明した。

きっかけは、ラジオ番組「中国之声」の聴取者ホットラインへの1本の通報だった。張さん(仮名)は、複数のゴーストキッチンを経営し、大きな損をすることになり、そのことを告発したいと電話をしてきた。早速、中国之声の記者が張さんと会い、詳しい事情を聞いた。

▲告発をした張さんは、デリバリー専用のキッチンを開店したが、名義はまったく知らない別人のものを使っていた。

▲デリバリー登録をするには、身分証を持った自分の写真を送信する必要がある。しかし、裏のサプライチェーンが用意した別人の身分証と写真で登録をされる。

 

休眠している名義を利用して飲食店を開業する

張さんが開いた店は、「龍門蝦局」という名前で、住所は河北省石家庄市橋西区翰観天下にある店舗ビル。メニューはザリガニと串焼きだ。

しかし、飲食店としての営業許可証は王という人物が取得をしていた。さらに、デリバリープラットフォーム「美団」(メイトワン)に登録をする時は、店舗のオーナーが身分証を手にした自分の写真をアップロードする必要があるが、それは郭翔という人物の顔写真と身分証がアップロードをされている。しかし、店を経営するお金を出したのも、実際に経営しているのも張さんなのだ。

張さんによると、このような営業許可証や身分証を用意してくれる裏のサプライチェーンが存在するのだという。どこから入手をしてくるのかは聞かされていないので知らないが、休眠をしている飲食店オーナーや倒産をしてしまったオーナーにわずかな対価で身分貸しを依頼するのだと思われる。

営業許可証を取得するには衛生当局の検査などを受けなければならない。その手間と費用を省くため、便宜を図ってくれる裏ビジネスが存在している。

▲裏サプライチェーンの人間とはSNSで連絡を取り合い、必要な手順を教えてもらう。

 

大手ファストフードの商品を右から左に

このようなゴーストキッチンでも、真面目に料理をつくってデリバリー提供をしているのであれば消費者にとっては大きな問題はない。しかし、今、このゴーストキッチンで増えているのが、大手ファストフードチェーンの代理購入ビジネスだ。

例えば「ピザハット宅配専用店」のような名前をつけた店舗を開き、ピザハットの商品をデリバリー販売するのだという。もちろん、ピザハットの許可など得ていない。

店舗経営者は、ネットでクーポンを取得したり、購入したりして、購入コストを下げる。そして、正規の店舗にデリバリー注文を入れ、届け先を注文者の住所に指定するだけだ。注文者は、よく考えれば、正規の店舗にデリバリー注文をすればいいのだが、店名に「ピザハット」という名前もあり、ピザハットのロゴまで使っているために気がつかない。クーポン割引と定価の価格差が利益になる。

キッチンすら必要がなく、パソコンの前に座って、注文が入ったら、それを正規のファストフードのデリバリー注文ページにコピペをすればいいだけなので、利益は薄くてもじゅうぶんに儲かるという。

ファストフード側で不審な注文であることに気がつくことはあっても、売上があがってトラブルも起きないため黙認をしてしまう。美団側でも調査をすれば正規のファストフード店でないことはわかるはずだが、審査や調査の手がまわらないようだ。

▲デリバリーアプリの中のピザハットの店舗。誰もがピザハットの店舗だと思うが、実は関係のないゴーストキッチンがピザハットの食品を届けている。

 

摘発が難しいゴーストキッチン

EC「淘宝網」(タオバオ)には、「代理開店」サービスが無数に存在する。これは違法のものではない。実店舗あるいはEC店舗を開く時に、さまざまな許可証や申請が必要になり、素人にはなかなか難しい。これを一式代行してくれるもので一種のコンサルティングサービスだ。このような業者の中に、営業許可証やプラットフォーム登録の偽装までやってくれるところがある。

飲食店を開店するのに、このような裏サービスを使うと、費用は1000元から1600元程度で済むという。つまり、ワンルームマンションを借りて、お小遣い程度の費用で、アルバイトを2人程度雇えば、ファストフードの代理購入店が開けることになる。代理購入をするだけなので、厨房用品もいらない。

最近では、美団も現地調査を行い、申請内容と異なる実態の店舗には契約解除をするようになっているが、全体の規模に対して調査はまったく追いついていない状態だ。また、ファストフード側でもブランドを守るために、このようなゴーストキッチンに対して損害賠償請求や告発を行なっているが、書類上のオーナーは「勝手に書類を使われた。なぜ使われたのかわからない。自分も被害者だ」と訴え、代理開店サービス側では記録を破棄して「無関係」を主張するため、ほんとうのオーナーにまでたどり着くことは簡単ではない。

▲裏サプライチェーンの人間は、すぐに開店できる店舗も紹介してくれる。

 

実害が小さいために放置をされている

ゴーストキッチンは、消費者の損害がわずかなものにすぎない。大手ファストフードチェーンの食品を届けているので、衛生や品質上の問題はまず起こらない。消費者は、自分でクーポンを探せば、安く購入がすることができ、そこで損をしていると言えるが、クーポンを探したり使ったりするのが煩わしいので、定価でもかまわないという人も一定数いる。そういう人にとっては、これといった被害は受けていないのだ。

そのため、保健局、公安、デリバリープラットフォーム、ファストフード側も、対策に本腰をいれづらい。ちょっとしたお小遣い稼ぎとして、ゴーストキッチンは増え続けている。しかし、不法状態で運営をされているため、さらに利益をあげるために時間が経った食品を届けたり、大手ブランドの名前で安物の食品を届けるなどエスカレートすることも考えられ、近い将来大きな問題になりかねないと指摘をする専門家もいる。