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長時間労働を強いられるライドシェア運転手たち。朝7時から深夜まで、間に車の中で仮眠

ライドシェア運転手の長時間労働が問題になってきている。長時間労働をしないと赤字になってしまって生活していけないからだ。睡眠不足による事故なども懸念される。新聞坊は記者が実際にライドシェア運転手の応募をして実態を探った。

 

問題になるライドシェア運転手の長時間労働

ライドシェア運転手の長時間労働が問題になってきている。睡眠時間すら不足をする中で、事故につながりかねないと問題視をされるようになっている。なぜ、長時間労働を強いられているのだろうか。ライドシェアは、ギグワークとして賃金は安めであるものの、自分の好きな時間に働けるのがメリットだったはずだ。

実際に、ライドシェア運転手に取材をしてみると、多くの運転手が1日15時間以上は働いているという。ライドシェアの掻き入れ時は、夕方から深夜にかけてであるため、寝るのは深夜2時以降、起きるのは朝7時という運転手が少なくない。なぜ、自由な時間に働ける運転手たちは長時間労働をするのだろうか。新聞坊の記者は、実際に求人サイトに登録をし、ライドシェア運転手に応募をするという潜入取材を試みた。

▲新聞坊の記者は、実際にライドシェア運転手に応募をして実態を探った。車両のレンタルが大きな鍵になっていることを発見した。

 

不況で運転手が増え、当局が許可を制限

ライドシェアを始めるには、地域の交通局に行って、ライドシェア運転手許可証と車両検査証を取得することが必要になる。運転手許可証は、過去に事故を起こしていなければ簡単に取得ができるが、車両検査証は一定の安全検査を受ける必要があるために多少手間がかかる。

現在のライドシェアの問題は、運転手が多すぎることだ。この不況により職を失い、ライドシェア運転手をして糊口をしのごうという人が増えている。また、飲食店などの経営が苦しくなり、1日数時間ライドシェア運転手をして、収入を補おうと考える人もいる。

交通運輸部の統計によると、コロナ禍の2020年10月と比べても、現在は登録運転者数が2倍以上になっている。これにより、運転手の1件あたりの稼ぎが減少をすることになっている。一般には「月250件乗務をすれば食べていける」と言われているが、それを大きく割り込み、100件台前半になってしまっている。

これにより、各地の交通局では、運転手許可証と車両検査証の発行を停止したり、数を限定するようになった。特に車両検査証は厳しく制限され、なかなか取得ができない状態になっている。これが運転手の長時間労働の引き金となった。

▲ライドシェア運転手の登録者数は急増をしている。20年末では300万人弱だったものが、23年末には600万人を超えるという倍増以上の増え方になっている。

▲ライドシェアの利用件数を運転手の数で割り、運転手一人あたりの乗車件数を計算してみると、月100件台前半になる。生活費が稼げるラインは月250件と言われているが、それを大きく割り込んでしまっている。

 

車両のレンタル代が運転手の大きな負担に

記者があるライドシェアに面接に行くと、車両のレンタルを提案された。今、個人の車はほとんど車両検査証が取得できない状態になっているので、ライドシェアプラットフォーム側が用意した、すでに車両検査証を取得済みの車をレンタルするというのだ。

価格はプラットフォーム、車種によって異なるが、月6000元から8000元の間が一般的だ。このレンタル料は、毎月の報酬の中から天引きをする形で支払うことになる。だいたい1日600元の売上を上げると、車両レンタル料を支払っても黒字になる。

1日600元の売上など簡単に達成できるのだろうか。プラットフォーム側は「簡単です」と言う。1時間に2件の乗務で1時間60元以上になるので、1日10時間働けば達成できるという。しかし、それだけでは自分の生活費が出ない。そのため、多くの運転手が10時間以上働くようになっている。

 

車両レンタルはプラットフォームにとっても都合がいい

この状況は、ライドシェアプラットフォームにとっては都合のいい状況になっている。プラットフォームとしては、できれば自分の車ではなく、プラットフォームが用意した車を使って欲しい。使ってくれれば、毎月、固定したレンタル料が入ってくるからだ。

また、個人の車は、車両検査を通ったと言っても、古かったり、車内が汚かったりすることがある。乗客のスペースが狭いこともある。これらはすべて乗客のクレームにつながる。それよりは、新しい車を用意して統一をし、車体にはプラットフォームの名前を表示した車の方が、乗客は安心をしてくれる。そのため、自家用車持ち込みではなく、レンタルに誘導をしたい。車両検査証が制限されていることがその追い風になっている。

▲同僚となった運転手に話を聞くと、16時間も働いている運転手が珍しくなかった。

 

車の中で寝て客待ちする運転手

しかし、運転手の視点から見ると、レンタル料は固定費となってしまうため、休むと1日200元以上の損となる。10時間働けばレンタル料は稼げても、自分の生活費を稼ぐことができない。

以前は、昼頃起きて、夕方乗務を始め、深夜まで働くというのが一般的だったが、それでは生活費が稼げないため、朝7時頃からの朝のラッシュ時にも乗客を乗せたい。そのため、早起きをして乗務をし、10時をすぎると乗客がいなくなるため、朝食兼昼食を食べ、夕方まで休憩する。いったん自宅に戻って休んでも構わないが、オフピーク時とは言え、乗務が入る可能性もある。この時間帯は、市内から空港という客がいることがあり、運転手にとっては割りのいい仕事だ。長距離で一気に稼ぐことができ、高速道路であるため運転は楽、さらに帰りも市内へ向かう客をほぼ確実に拾える。そのため、家に帰らず、車の中で寝て、乗務のオファーが入るのを待つ。そして、夕方から深夜までに稼ぐというパターンになっている。

▲乗務がない時間帯に車の中で仮眠をとるライドシェア運転手。睡眠不足が深刻になってきている。

 

長時間労働をしなければ赤字になる運転手たち

ライドシェア運転手は、フードデリバリー、屋台と合わせて「人材の貯水池」と呼ばれる。不況による失業が増えても、この3つの業種が吸収をしてくれるため、失業率の増加が抑えられるからだ。

しかし、その人材の貯水池への流入が止まらず、溢れようとしている。ライドシェアは、もはや「1日3時間程度働いて収入を補う」ことは難しくなり、フルタイム以上の長時間労働をしなければ稼げなくなっている。運転手の睡眠不足による事故などに対する不安の声が高まり始めている。