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農民が手づくりで完成させたエアバスA320。リアルすぎて見学客は1日2000人

農民6人が手づくりで完成させたエアバスA320の1/1模型が話題になっている。細部までこだわり、コクピットではフライトシミュレーターを楽しむこともできる。つくりあげたのは航空機にはまったく素人の6人だったと中国民用航空網が報じた。

 

素人6人がつくりあげたエアバスA320の1/1模型

遼寧省開原市工業団地の一角に、エアバスA320が駐機している。開原市は県級と呼ばれる地方都市で、軍事用の飛行場はあるものの、民間の空港はない。なぜ、こんなところにA320があるのか。その不思議さと珍しさから、1日2000人の見学客がやってきている。

このA320は、本物のA320ではなく、この地域の農民6人が集まってつくりあげた精巧な1/1模型なのだ。その模型とは思えないこだわりぶりから、遠くからも見学客がやってくる。

エアバスA320の1/1模型を完成させた朱躍さん。子どもの頃からの夢を実現した。

▲空港も何もない工業団地の一角にA320が置かれている。

A320をつくるのに集まった6人の仲間。飛行機業界に関連のある人は一人もいない。

▲機内の様子。本物そっくりのこだわりぶりに、見学客が1日2000人やってくる。

▲見学客は思い思いに記念写真を撮り、満足して帰っていく。

 

子どもの頃から飛行機に憧れていた朱躍さん

このA320をつくったのは朱躍さん。普通の農民で航空業界にいた経験はまったくない。子どもの頃から、青空を横切る飛行機に強い憧れがあった。しかし、地方にいては航空機の設計の道に進む方法はない。そもそも当時、中国には民間飛行機を製造する企業はなかったため、飛行機をつくるなどということは夢のまた夢だったのだ。

朱躍さんは身近にあるバイクの修理を覚え、農業をしながら溶接工として働いた。2010年、中国の航空会社はA320を大量に購入し、国内路線に投入をし始めた。このニュースをテレビで見た朱躍さんは興奮をした。その優雅なラインに魅せられてしまったのだ。

しかし、ただの農民兼溶接工にA320の製造に関わるチャンスなどない。2016年、40歳になった朱躍さんは、もう自分が飛行機製造に関わることはあり得ないだろうと思い、だったら自分でつくろうと決心をした。幸いにも、A320のような大きなものを置く場所はある。A320の1/1模型をつくろうと心に決めた。

▲朱躍さんが子どもの頃からつくっていた粘土模型。いつか本物の飛行機を製造する仕事をしたいと願っていたが、その夢はかなわなかった。

 

図面が完成すると5人の友人が集まってきた

ところが、飛行機の設計などやったことはない。片っ端からA320の模型を購入し、空港に出かけて現物を見て、図面を書くことから始めた。ネットで調べて、細部がどうなっているのかをまとめていった。

この図面ができると周囲の反応が変わった。それまで、A320をつくると言っていた朱躍さんを周囲の友人たちは面白おかしくからかった。そんなことできるわけがないし、つくったとして何の意味があるのかわからないからだ。しかし、完成した図面の精密さと朱躍さんの熱意を見ると、ほんとうにできそうな気がしてくる。つくって何に使うのかはわからなくても、つくるべきなのではないかと思えてくる。このプロジェクトに5人の友人が参加をし、6人は仕事の合間を見て、A320づくりに没頭するようになった。

▲朱躍さんが最初に書いた図面。これではつくることができないと、朱躍さんの猛勉強が始まった。

A320の模型をECで大量に購入して、それを元にCAD図面を仕上げていった。

 

やればやるほど細部にこだわりが出る

つくり始めて見ると、試行錯誤の連続だった。鋼鉄は40トンが必要になった。作業を進める中で失敗をしてやり直すことによる無駄が出るだけでなく、作業が進めば進むほど細部にこだわりたくなってしまうからだ。

特に難しかったのは機首の部分で、どうやっても本物の曲線が出ない。つくっては失敗し、鋼材として売却し、新たな鋼材を買ってつくるということを繰り返し、第5版でようやく納得のいく機首が完成した。

コクピットには本物の計器を入れるわけにはいかないが、細部まで手づくりでこだわり、誰の目から見ても本物と寸分違わないほどにまで仕上げた。さらに、シミュレーターを組み込み、操縦体験ができるようにもした。

このような試行錯誤とこだわりで、当初の80万元という見積もりからは大きく膨らみ、最終的には280万元(約6000万円)がかかってしまった。6人の貯金はすべてなくなってしまった。

▲鋼鉄は40トンが使われた。すべて6人がお金を出し合って購入した。

▲黙々と作業をする朱躍さんと仲間。6人がすべて手作業でつくりあげた。

▲機体ペイント用の足場。ペイントもすべて自分たちでやった。

 

レストランを開業しようとしても許可が下りず

2019年に完成をすると、「農民がつくったA320」として話題になり、多くの人が見学にやってきた。やってきた人は、その精密さに驚いて、それが評判となり、さらに多くの人がやってくる。

朱躍さんはここでレストランを開業したいと考えているが、開原市工商局は難色を示している。なぜなら、移動をする建築物には住所がないため、飲食店の営業許可が下りないからだ。だったら、近隣の厨房で料理をし、それをA320に運んで提供をすればいいのではないか。朱躍さんは当局と相談をしている。せっかくつくったA320を保存するため、今度は収益を得る道を模索している。

▲本物そっくりのパイロットの制服を手づくりし、見学客を出迎える朱躍さん。