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乗ってもいないライドシェアの注文メッセージが届く怪奇現象。追い詰められるライドシェア運転手たち

ライドシェアを注文もしていないのに、受け付けたというメッセージがいきなり届くという不思議な現象が起きている。乗車賃の請求もないため実害はないが、気味が悪い。その背後には追い詰められているライドシェア運転手たちの厳しい状況があると中国青年網が報じた。

 

乗ってもいないのに乗ったことになるライドシェア

最近になって、ライドシェアに関する不思議な苦情が増えている。ライドシェアを利用する時は、アプリやミニプログラムから現在地と目的地を入力し、呼び出しをかけると、呼び出しを受け付けたショートメッセージが送られてくる。そこには、運転手の名前、自動車の車種、色、ナンバーなどが記載をされている。乗客はこの情報を頼りにライドシェアの車を見つけて、乗り込むという手順だ。

山東省に住む高さん(仮名)は、ここ1ヶ月ほど、毎日のようにライドシェアの注文を受け付けたというショートメッセージを受け取っている。しかし、乗車場所は上海市内であり、目的地も上海市内だ。高さんは、上海にはいないし、上海に行ったこともない。

何かの間違いだと放っておくと、運転手から電話がかかってくることもなく、料金を請求されることもない。どうも自動的にキャンセルをされているようだ。しかし、実害はないとは言え、どうも気持ちが悪い。そこで、高さんは、中国青年報の記者にショートメッセージなどのスクリーンショットを送って、相談をした。

▲高さんのスマートフォンに届いたライドシェアの注文を受け付けた内容のショートメッセージ。放置しておくと自然にキャンセルされているようで、連絡もなければ料金の請求もない。実害はないとはいうものの何か気持ちが悪い。

 

運転手が勝手にキャンセルする幽霊注文

中国青年報が、このショートメッセージを確認すると、運転手の電話番号が記載をされている。中国青年報は、この運転手に連絡をとり、事情を尋ねた。すると、運転手は確かにそのような注文を受けたが、待ち合わせ場所に行っても注文主が現れない。そこで規定によって、運転手側でキャンセルをしたという。しかし、その話にはおかしなところがある。それは普通、注文主が見つからない場合は、運転手は注文主に電話をかけてみる。それで連絡が取れない場合に、運転手側がキャンセルをする。しかし、高さんには運転手からの電話はかかってきていないのだ。

 

インジェクションと呼ばれる不正行為である可能性

中国青年報は、ライドシェアプラットフォームである享道出行に取材をした。すると、享道出行はインジェクションと呼ばれる不正行為である可能性があり、調査をすると応えた。

これは運転手同士が組みになり、互いに注文を入れあってキャンセルというところから始まった。しかし、運転手同士で注文を入れ合うとプラットフォーム側に不正行為であることがわかってしまうので、次第にでたらめな電話番号を使うようになった。でたらめな電話番号と言っても、実際に存在していてショートメッセージが届かないと注文が成立しないため、何回か電話番号を入力し直さなければならない場合がある。うまく注文が成立すると、その番号を何回も使うため、たまたま高さんの電話番号が使われ続けたということのようだ。

 

ノルマの件数を達成するためのカラ注文の可能性

しかし、注文を入れてもキャンセルをしてしまうため、運転手は報酬を得ることはできない。なぜ稼ぎにならないのに、運転手は偽の注文を入れ合うのだろうか。

それは、ライドシェアプラットフォームが「1日何件」というノルマを課したり、達成することで報奨金を与えるようになっているからだ。

▲ライドシェアの登録運転手数は、ここ数年で倍増をしている。不況により、職を失った人が、ライドシェアとフードデリバリー配達員に流れ込んでいる。

 

生活可能な月250件が達成できない状況

中国の景気悪化で、ライドシェアの運転手登録数は2020年末の300万人弱から23年末の600万人以上と倍増以上になっている。一方で、ライドシェア注文数は微増でしかない。そのため、運転手一人あたりの注文数は2020年末の1月300件弱から2023年末の100件+程度と半減以上にまで減っている。

一般に、ライドシェア運転手は1日10件、月250件の注文があれば生活が成り立っていくと言われている。それが現在は月100件台前半になっている。つまり、運転手が増えすぎて、全員共倒れという状況になってきているのだ。

そこで、プラットフォームはノルマを課して、達成した者には報奨金を与えて、達成できない者には格付けを落とすなどして、注文を回す優先度に格差をつけようとしている。乗務数をこなせる優秀な運転手には生活できるだけの注文を回し、1日数時間しか働かずに乗務数をこなせない運転手には注文を回さないようにしようとしている。

そのため、なんとかノルマを達成しようとして、運転手同士で偽の注文を入れ合う不正行為を行なっているというわけだ。しかし、実害はないとは言え、偽注文に使われた消費者にとっては、ライドシェアのイメージはきわめて悪くなる。各プラットフォームではこのような不正行為への対応を急いでいる。

▲ライドシェアの受注件数を登録運転者数で割った、一人あたりの受注件数の推移。運転手が生活をしていけると言われる月250件を大きく割り込んでしまっている。