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ロボタクシーに対する意識調査では関心があるが60%以上。一方、タクシーへの不満の対象は運転手

ロボタクシーが広がり、DT商業観察では市民に対する意識調査を行った。その結果、60%以上の人が関心を持っていた。一方、タクシー/ライドシェアへの不満は、その多くが運転手が原因のものだった。移動に運転手はいらないと考えている人が増えている可能性がある。

 

すでに始まっているロボタクシー時代

百度のロボタクシーサービス「蘿卜快跑」(ルオボ)が武漢市など12都市で正式営業を始め人気になっている。料金は10km43元程度とタクシーの30元前後に比べて割高だが、現在は「8割引サービス」「無料乗車+洗濯石鹸プレゼント」などのキャンペーンをしているため、物珍しさからも利用客が殺到し、予約も取りづらい状況になっている。武漢市では数百台規模の投入が行われ、1日平均で20件程度の乗務をこなしている。年内には1000台規模になる予定だ。

蘿卜は大根のことだが、読み方が「ルオボ」で、Roboと音が通じる。一部の試験車両には安全監視員や計測スタッフが乗務することがあるが、原則、運転手はいない無人運転になる。臨時の車線規制など無人運転が処理できない状況に直面した場合は、アラートがあげられ、管理センターのスタッフがリモート運転で処理をして、自動運転に復帰をさせる。現在は法令により、1人の遠隔監視員が3台までのロボタクシーを担当することに制限をされているが、百度によると20台まで担当をしてもじゅうぶん安全を確保することができるという。

 

市民の60%以上が関心を持っている

しかし、無人運転は事故を起こさないのか、安全なのか。多くの市民が疑問に感じている。そこで、DT商業観察は読者に対して、ロボタクシーに対する受け止めの意識調査を行った。第1財経と共同で行ったもので1502件の回答を得た。

まず、「ロボタクシーに関心があるか」という基本的な質問では、「非常に関心がある」「どちらかと言うと関心がある」が60%を超えている。

面白いのは、一般的にこのような新しいテクノロジーを使ったサービスは若い世代が強い関心を持つ傾向があるのに、85后(85年以降生まれ、30代後半)が最も高い関心を持っていたことだ。また、都市級別では「三線都市以下」つまり地方都市の方が関心が高かった。これは、公共交通があまり発達していない地方都市で、タクシーサービスを使う機会が多い30代後半の人が関心を持ちやすいと見ることができる。

▲ロボタクシーへの関心を世代別に尋ねると、最も高いのは「85后」(30代後半)で、都市級別では三線都市(地方衛星都市)だった。つまり、公共交通が不十分で移動をする現役世代が高い関心を持っていた。

▲ロボタクシーを使ってみたいかの問いには、「したい」「少ししたい」合わせて74.9%の人がポジティブな回答をした。

 

30代後半の現役世代が好感を持っている

市民の基本的な受け止めはポジティブなものだった。ロボタクシーに対する気持ちに合う言葉を複数選択してもらったところ、期待56.7%、好奇心53.4%、慎重32.2%、傍観30.0%、興奮25.8%という言葉が上位になった。

また、世代別に見ると、ポジティブな感情は若い世代ほど高く、やはり85后が他の世代に比べて高くなっているのが目立つ。また、ネガティブな感情は世代があがるほど高くなるが、そのあがり方は緩やかなものだった。

▲ロボタクシーにあてはまる言葉を世代別に選んでもらった。ポジティブな言葉「期待」「好奇心」「興奮」は若い世代ほど高いが、現役世代である85后に小さなピークが出る。一方、ネガティブな言葉「慎重」「心配」は世代があがるほど増えるが、その増え方は緩やかなものだった。

 

利用経験がない人は「安全」、ある人は「価格」に関心

ロボタクシーのどの要素に関心があるかを尋ねると、1位になったのはやはり安全性87.3%だった。それに移動効率60.3%、価格53.9%が続く。

しかし、ロボタクシーに乗ったことがある経験のある人(79人、5.3%)とない人(1423人)では、注目する観点が異なっている。利用経験のある人の方が関心が高いのは「価格」「配車効率」「移動効率」であり、利用経験のない人の方が関心が高いのは「安全性」「自己責任の判定」「歩行者や他の車両への影響」だった。つまり、安全性に関しては乗った経験のない人が強く心配をしているということになる。

▲ロボタクシーに関心がある要素を尋ねると「安全性」が87.3%となった。しかし、乗車経験がある人よりも乗車経験がない人の間で、安全性がより強い関心が持たれている。

 

自動運転の事故率は人間の1/10以下

もちろん、無人運転はその安全性が大きな関心になるのは当然だ。運営元の百度バイドゥ)自動車ロボット部の尹穎総経理は、今年2024年5月に開催されたApollo Day 2024で次のように述べている。

「4月までに、百度アポロの自動運転の走行距離は1億kmを超えましたが、重大な死傷事故は起きていません。また、百度はすべての車両と乗客に対して最高補償額500万元の保険に加入をしています。過去2年間のデータでは、無人運転の車両の事故発生率は、人間の運転のわずか1/14程度です」。

また、ロボタクシーサービスを始める予定のテスラも、2024年Q1の有価証券報告書でこのように記述している。

「テスラオートパイロット(FSD、Full Self Driving)使用中の事故は、平均763万マイル(約1228km)に1回です。これは、米国の2022年以来の交通事故統計の平均値67万マイル(約108万km)に1回よりも非常に低い値になっています。つまり、FSDの安全性はすでに人間の運転の10倍以上であると言うことができます」。

ただし、この2つの数値は注意深く読む必要がある。テスラのFSDは、運転手がオン/オフを決定することができ、現状では事故が起こりそうな複雑な交通環境ではオフにして自分で運転をする傾向がある。また、百度、テスラともに、自動運転が安全な走行ルートが確保できないと判断した時は、人間(運転手または遠隔監視員)に運転介入を求める。そのため、無理にすべての行程を自動運転にした場合は、この事故率はもう少し高くなることが想像される。

 

タクシーへの苦情は人間由来のものが大半

それでも、まだロボタクシーに乗った経験がない人でも53.0%の人が「体験したい」、21.9%の人が「少し体験したい」と回答しており、関心は高いと思われる。

この背景にあるのは、ライドシェアが各都市で普及をし、乗車体験が悪化をし始めていることが関係しているようだ。

過去、タクシーやライドシェアでどんな悪い体験をしたかを複数回答で尋ねると、「車内環境が悪く、臭い」が66.1%、「運転手の違反行為」(運転中の電話、駐停車禁止区域への停車など)48.5%、「運転手の態度、言動」37.3%があがる。

つまり、ロボタクシーへの注目度が高いのは、新しいテクノロジーや利便性だけでなく、既存のタクシー/ライドシェアの接客体験が劣化をしていることも大きな要因になっているようだ。

タクシー/ライドシェアの運転手たちは、自分たちの仕事を奪う存在としてロボタクシーに反発をしている。この「運転手の問題」からロボタクシーに期待をする人たちが意外に多いという事実が広まれば、タクシー/ライドシェアの接客体験の向上につながり、タクシー、ライドシェア、ロボタクシーの共存の道が見えてくるかもしれない。

▲既存のタクシー/ライドシェアに関する悪い体験を尋ねると、「社内環境が悪い、臭い」「運転手の違反行為」「運転手の言動」「運転手の乗車拒否」「運転手の遠回り」など、運転手起因のものが上位を占めた。移動に運転手は不要と考え始めている人が増えている可能性がある。