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横行するライドシェアの「転売」。食い物にされるライドシェア運転手たち

ライドシェアのプラットフォームが徴収できる手数料率は、運賃の30%までという規制がある。しかし、運転手からは30%以上の手数料が抜かれているという苦情が寄せられている。その背後にあるのは、乗務の転売で、これがライドシェアの品質を壊しかねないとして問題になっていると網約車観察室が報じた。

 

食い物にされるライドシェア運転手

ライドシェア運転手が苦しめられている。その原因は、長引く不況により、ライドシェア運転手の応募が殺到をしているからだ。これが「運転手はニラの芽を刈り取るようなもの」(次から次へと出てくるという中国特有の表現)と見なされ、足元につけ込まれ、運転手が食い物にされ始めている。

ライドシェア運転手をするには、事前にライドシェア運転手免許を取得し、自分の車を使うのであれば車両検査を受けなければならない。運転手免許は、地方政府の交通局に申請をすれば簡単に取得できることから、希望者が殺到している。登録運転者数は2020年末では300万人弱だったものが、2023年末には600万人を突破し、2倍以上に増加をしている。

▲経済の低迷により、ライドシェア運転手の登録者数は増え続けている。2020年には300万人前後であったものが、2023年には倍の600万人を突破した。

 

運転手が増えすぎ制限が始まる

このため、運転手免許の発行業務を休止する地方政府も現れた。それ以上、運転手が増えると、全員が共倒れになりかねないからだ。しかし、運転手になりたい失業者からは不満が出る。そこで、多くの地方政府は、制限をつけながら運転手免許を発行し、車両検査にはさらに厳しい制限をかけるという対応をしている。

運転手所有の車を持ち込みでライドシェア業務を行えるのは比較的小さなプラットフォームで、大手ではプラットフォーム側が用意をした車をレンタルすることを推奨している。統一された車でサービスを行うことによりブランドイメージやユーザー体験がよくなるからだ。

 

車両レンタルが運転手を苦しめている

このレンタル車が運転手を苦しめている。なぜなら、レンタル料は月6000元から8000元程度の月額契約が一般的だ。ところが、運転手は毎日働けるとは限らない。稼働日数が15日だとすると、15日は休むか他の仕事をすることになるが、それでもレンタル料は同じだ。稼働日数が少ないと、生活費を稼ぐどころか、赤字になってしまうこともある。

プラットフォーム側では、ブランドイメージを向上させ、同時に毎月レンタル料という定収入が入ってくるため、レンタル車の使用を推進している。

 

手数料上限規制は、抜け穴だらけ

ライドシェア運転手は月250件の乗務をこなせば生活がしていけると言われているが、乗務件数を単純に運転手数で割ると、月250件を大きく割り込んでしまっている。現在は120件程度しか仕事がない。さらに、不況が長引き、ライドシェア/タクシーの利用数の減少が始まっている。今後、運転手の置かれている状況はさらに厳しいものとなりかねない。

そこで、国家交通運輸部は、プラットフォームが徴収する手数料の上限30%を遵守させる取り締まりを始めた。運転手からプラットフォームに40%以上の手数料を取られてしまい、ほとんど稼げなくなっているという苦情を受けてのものだ。

しかし、交通運輸部が調査をしてみると、30%以上の手数料を徴収しているプラットフォームはほぼ皆無だった。しかし、運転手からは、規定以上の手数料を取られているという苦情は続いている。これはいったいどういうことなのか。

▲ライドシェア運転手は増えているものの、需要は増えていない。そのため、運転手一人あたりの乗務件数は低下をしている。運転手が生活していける目安の「月250件」を大きく割り込んでいる。

 

乗務の転売が横行するライドシェア

2024年4月9日、ライドシェア運転手の張さんは24kmの乗務を受けた。張さんの運転手アプリには、乗客は58.03元を支払い、張さんは43.04元を報酬として受け取ったと表示されている。手数料率は25.83%であり、上限の30%以下だった。

しかし、乗客のスマホの乗客アプリを見ると、実際の支払いは71.55元だった。張さんは43.04元しか受け取っていないので、実際の手数料率は39.85%にもなり上限の30%を大きく超えている。なぜ、運転手と乗客の表示が異なっているのか。

これは、ライドシェアプラットフォーム同士で乗務の転売が行われているのだ。転売は本来は利益を出すことが目的ではなく、需給バランスを調整するためものものだ。ライドシェアプラットフォームでは、需給バランスに基づくダイナミックプライシングを導入している。配車注文が多く、運転手が足りなくなってくると、価格は自動的に高く調整をされる。一般的には、価格が高くなれば利用する人が減るため、供給不足が解消されていく。

しかし、それでも配車注文がある時は、提携をしている別のプラットフォームに「転売」をする。プラットフォームとしては「現在配車不可能」と表示することは、ユーザー体験の悪化につながり、利用されなくなってしまうからだ。しかも、ダイナミックプライシングによって価格が高くなっている状態の注文なので、利用が少ない別プラットフォームには相場価格で転売することができ、その差額分を儲けることができる。このようなことから、乗務の転売が盛んに行われるようになっている。

乗客にして見れば、Aライドシェアに注文を入れたのに、Bライドシェアの車がくることになるが、目的地まで移動ができるのであれば文句を言う人は少ない。交通運輸局も、最終的な管理責任が注文を受けたAライドシェアにあることが明確にされていれば、円滑な公共交通の運営を促すことから禁止をしたりしていない。

つまり、乗客は71.55元で配車を注文し、Aプラットフォームは運転手がいないために、これを58.03元でBプラットフォームに転売をした。ここでの手数料率は18.90%で合法だ。Bプラットフォームは58.03元で乗務を引き受け、運転手に報酬として43.04元を支払った。ここでの手数料率は25.83%であり合法だ。ところが、全体での手数料率は39.85%になってしまう。

▲あるケースでは、乗客のライドシェアアプリには支払い金額が71.55元と表示され、乗客はその金額を支払った。

▲しかし、運転手のアプリでは、乗客の支払額が58.03元と少なく表示され、手数料は25.83%と、規制上限よりも下であると表示される。しかし、乗客は71.55元を支払っているのだから、お金がどこかに消えていることになる。乗務の転売がこの問題を起こしている。

 

転売により、手数料が二重取りされている

この乗務の転売自体は合法であり問題ではないが、手数料率に関する規制がないことが問題になっている。本来は転売をしても、全体で手数料率が30%以内になるように、双方プラットフォームで按分をしなければならない。この例で言えば、71.55元の30%である21.47元を双方のプラットフォームで按分し、運転手には71.55元の70%である50.01元以上を報酬として渡すべきだった。実際の運転手の報酬は43.04元だったので、7元近く運転手のあるべき報酬が消えていることになる。

また、運転手のアプリと乗客のアプリが別アプリとなっていることが問題だと指摘する人もいる。運転手は乗客をいくら支払ったかはわからないし、乗客は運転手がいくら報酬を得たのかはわからない。この透明性がない状況を改善すべきだという指摘もある。

 

転売がライドシェアの不正と危険を呼び込む

このような状態が続くことは好ましくない。すでに起きているが、運転手と乗客が相談をして、配車注文をキャンセルし、直接取引をするという不正行為が増え始めている。今回の場合では、運転手と乗客が相談をし、「55元で乗せていく」という話がまとまれば、乗客は15元ほど得をすることができ、運転手も12元ほど得をすることができる。

しかし、配車注文をキャンセルしてしまう個人取引になるため、プラットフォームの管理が及ばなくなることが問題になる。プラットフォームは位置情報と音声情報をモニターして管理を行なっているが、キャンセルをされると個人のプライバシーの問題からモニターができなくなる。そのため、個人取引で価格にまつわるトラブルやそれ以上の事件が発生しても対応ができない。

乗務転売による手数料の二重取り問題を放置すると、結局は不正行為を呼び込むことになり、ライドシェアの安全性が損なわれることになる。公安局、交通運輸局などもこの問題に注目をしている。