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ライドシェアの運賃はタクシーとほぼ同じ。それでも7割の人がライドシェアを選ぶ理由とは

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今回は、ライドシェアについてご紹介します。

 

いよいよ日本でもライドシェアが始まることが報道されました。タクシーが不足している地域、時間帯に限定され、タクシー会社が管理を担うという形ですが、第一歩としてはいい落としどころではないかと思います。

一部では、料金がタクシーよりも安くなることを期待する向きもありますが、当面は料金はタクシーと同じ体系になるようです(交通過疎地では8割程度にするという仕組みも用意されるようです)。中国のライドシェアでも運賃はタクシーとほぼ同レベルです。異なるのはタクシーは基本的に距離従量制でいつでも同じ料金(深夜割増などはある)ですが、ライドシェアは需給バランスで価格が決まるダイナミックプライシングであるということです。そのため、午後などの需要が弱い時間帯には、ライドシェアはタクシーよりも1割から2割ほど安くなりますが、夕食後の需要の強い時間帯にはタクシーよりも高くなることもあります。運賃に関しては、若干安めではあるもののタクシーとほぼ同じ。キャンペーンなどで配布されるクーポンを使うとお得になる程度のことです。

これは考えてみればあたり前のことです。タクシーもライドシェアも、乗客を運ぶ「業として」自動車と運転手を提供します。安全、接客など求められるサービス水準も基本的には同じです。つまり、同じコストがかかるのですから、運賃もほぼ同じになるというのはあたり前のことです。「いや、私が海外で乗った時は、タクシーよりはるかに安かった」とおっしゃる方もいるかと思いますが、それは優待クーポンが適用されたり、割引キャンペーン中で、ライドシェア企業が利用者を獲得するために戦略的に大幅割引をしていたからです。中国では2016年にライドシェアが本格的に始まって7年、優待クーポンや割引などもまだありますが、多くの場合は本来の運賃になっており、タクシーよりは若干安い程度に落ち着いています。

 

ライドシェアのことを議論する場合に、気をつけておかなければならないのが、ライドシェアは大別して2種類あるということです。ひとつはC2Cのヒッチハイク型で、もうひとつはB2Cのタクシー型です。

C2Cのヒッチハイク型ライドシェアは、利益を出さないシェアリングエコノミー活動です。私がマイカーを持っていて、元々、明日、東京から静岡まで移動する予定があったとします。そのことをプラットフォームに登録をすると、同じ移動をした人とマッチングされます。移動には燃料代や高速代がかかりますが、これは元々自分で負担をするつもりのものでした。誰かを乗せて、その半分程度を負担してくれれば御の字です。このため、C2C型は運転手としての報酬はなく、必要な経費が安く済むというものです。乗客の方は必要な経費を半分程度負担するという、運賃としては格安料金で移動できることになります。

もうひとつはB2C型のタクシー型ライドシェアで、こちらは運転手と自動車を提供して、「業」としてサービスを行います。仕事として車を運転するわけですから、必要な経費に加えて、運転手としての報酬も乗客からもらわなけれなりません。運転をするには、ライドシェア運転手免許を取得する必要がありますし、自動車も安全検査を受けなければなりません。

企業努力により多少価格は下げられるものの、基本的にはタクシーと同じビジネス構造であり、運賃もタクシーとほぼ同じ水準になります。

 

ライドシェアの議論では、しばしばこの2つが混同されてしまうことがあります。元々の発想は、月に2、3回しか自動車に乗らないのにマイカーを持ち、駐車場を占有しているのは資源の無駄なので、シェアリングをした方が社会効率が高まるというシェアリングエコノミーの考え方に基づくものでした。いわゆるC2C型ライドシェアです。

しかし、多くの国で普及をしているライドシェアはタクシー型のライドシェアで、私は静岡に行く必要など何もないのに、お客さんが行きたいからというから行くことになります。仕事として運転するわけですから、経費をすべて支払ってもらうのは当然であり、なおかつ私の運転業務に対する対価も求めることになります。

ライドシェア企業は、新興の会社が多いですから、さまざまな面で合理化がされており、管理経費が少なくなるため、タクシーよりも多少安くなるということはあります。しかし、タクシー会社だって合理化をすれば、値下げをすることは可能で、条件は同じです。

「ライドシェアは、個人が気軽に運転手になれる。タクシー運転手は資格が必要だったり、厳しい研修を受けるため、養成にコストがかかっている」とおっしゃる方もいますが、今ではライドシェア運転手として働くには、ライドシェア免許の取得やプラットフォームが主催する研修が必要になってきています。運転免許だけを持っている人が、いきなり明日からライドシェア運転手として働けるかというと、大手のプラットフォームではもはや無理になっています。車両検査や研修を受けないと、格付けがあがらず、路上に出ても乗務案件が回ってきません。

一方、タクシー運転手の資格試験や研修などでも、今や意味がないものもあります。たとえば、あまりに細かい地理試験がいまだに行われていますが、多くの場合、試験を通るためだけの暗記科目になってしまっています。それよりは、カーナビの使いこなしを練習した方がはるかに有益です。運転手の水準も、ライドシェアとタクシーで次第に収斂をしていく傾向にあります。いずれ、タクシーサービスとタクシー型ライドシェアは、垣根がなくなって融合していくことになるのではないでしょうか。

 

中国はなぜ2016年という早い段階でライドシェアをスタートできたのでしょうか。中国のタクシーの歴史は古く、100年企業がザラにあります。その中でも最も古い天津タクシーは1915年の創業です。そのため、業界の利権構造がガチガチにできあがっていて、なおかつ考え方は古臭く、外部の新興企業が参入できる余地などありませんでした。タクシー運営は免許制であり、業界は政府に圧力をかけて新たな免許発行をしないように運動をします。そのため、独占業界であり、ライドシェアが登場する以前は、どの都市でもタクシー不足に悩まされました。特に夕食後の時間帯は絶望的で、とぼとぼ歩いて自宅に帰ったという経験がある人は少なくありません。そのような状況から見れば、ライドシェアがあり、シェアリング自転車があるという状況は天国のようだと思います。

 

この問題に課題感を感じたのが、アリババで法人営業をしていた程維(チャン・ウェイ)氏でした。出張でさまざまな都市にいくのですが、どこでもタクシーが捕まらずに苦労をします。そこで、普及が始まったスマートフォンで、アプリでタクシーが呼べるようになったらありがたいと感じ、これはビジネスになるのではないかと考えます。程維氏は、そのアイディアを上司に相談しますが、当時のアリババはECに注力をしていることもあって、アリババでの実現は難しいと言われます。しかし、その上司の王剛(ワン・ガン)氏は、出資をするからアリババから離れて起業してみてはどうかとアドバイスします(王剛氏は後に、滴滴に合流をします)。

程維氏は、2012年6月に、この話に乗って小桔科技(シャオジュー)を創業します。これが後の滴滴(ディディ)になります。小桔とは小さなミカンのことで、現在の滴滴のロゴがオレンジ色で、Dの字でありながらミカンをイメージする形状になっているのは小桔が由来になっています(小桔の時代は、ほんとうにミカンの絵がロゴになっていました)。

小桔のビジネスモデルは、タクシーと乗客をアプリでリアルタイムでマッチングさせ、マッチングするたびにタクシー運転手から送客手数料をもらうというものです。いわゆるタクシー配車アプリです。本来はタクシー会社に導入したかったのですが、タクシー会社は体質が古く拒否をされたため、タクシー運転手個人を攻略していきました。「このアプリを使うと、どんどんお客さんが捕まえられる」ということをウリにして、次第に運転手の間に広がっていき、その後、運転手全員に導入するタクシー会社も現れるようになりました。

 

小桔は北京でサービスを始めましたが、ほぼ同じ時期に浙江省杭州市で同様のサービスを始めた快的打車(クワイディ)がありました。小桔は北京の次に上海にサービスを提供したい、快的も杭州市から近い大都市である上海でサービスを始めたい。こうして、2013年4月、両者が上海で激しい競争を始め、それは網約車大戦と呼ばれる資金消耗戦になりました。両社とも乗客には割引クーポン、タクシー運転手には報奨金をばら撒き、市場を確保しようとしたのです。

当時、上海ではクーポンをうまく使うと、タダでタクシーに乗ることができ、近所のスーパーに買い物に行くのにもタクシーを使うという人が続出しました。しかし、そこに両社にとっては衝撃のニュースが飛び込んできます。米国でライドシェアで成功したウーバーが、上海でライドシェアサービスを始めるというのです。すでにウーバーは、莫大な資金を持つ企業に育っていたため、タクシー配車アプリを運営するだけの小桔など吹き飛ばされてしまいます。

そこで程維氏は、新たな投資先を募ります。国際的な投資会社であるテマセク、DSTグローバルなどが投資団を結成し、7億ドルという大規模投資をする話を取り付けます。ただし、この投資には条件がありました。それは、小桔と快的の無意味な焼銭大戦を終結させて、両社を合併し、ライドシェアサービスを始めるというものでした。そうすることで、ウーバーと競うことができるのであれば、投資する価値があるというわけです。

しかし、小桔と快的は熾烈な焼銭大戦を経て、感情的にも関係は悪化をしていました。合併話を持っていっても、門前払いされてしまうでしょう。そこに、救いの女神が登場するのです。柳青(リュウ・チン)氏です。柳青氏は、北京大学を卒業後、ハーバード大学の大学院に進み、その後、香港のゴールドマンサックスでアナリストをしている才媛です。以前から、小桔のビジネスに注目をしていて、投資をさせてほしいと申し入れていました。しかし、程維氏はこれを断ってしまいました。すると、柳青氏は「だったら、小桔で働かせてほしい」とまで言っていたのです。しかし、その話も「ちょっと待っていてほしい」と保留状態にありました。

合併話の問題が出た時、柳青氏は自分が使者に立ってこの話をまとめると手を挙げました。柳青氏はこのビジネスに将来性を感じていましたが、その時は、まだゴールドマンサックスの人間で、中立的な第三者です。しかも、柳青氏にはもうひとつ大きな肩書きがありました。それはレノボを創業した柳伝志(リュウ・チュアンジー)の娘だったのです。快的側も柳青氏の面会を断ることはできず、そこから道が開けて、2015年2月に合併が成立し、滴滴出行に社名変更します。程維氏と快的の創業者が共同CEOとなり、柳青氏は総裁に就任します。

 

合併した滴滴はライドシェアサービスをスタートさせ、ウーバーも予告通りに上海でライドシェアサービスをスタートさせました。ところが、中央政府はこのライドシェアサービスに厳しい規制をかけました。それは、運転手や運営プラットフォームは利益を出してはならないという内容でした。つまり、中央政府は、ライドシェアをタクシー型ではなく、本来のヒッチハイク型、シェアリングエコノミーに基づく民間活動のひとつとして位置づけたのです。

必要コストを乗客に請求することはできるものの、利益を出すことはできないため、ビジネスとしては成り立ちません。それなのに、滴滴はウーバーに対してクーポン合戦をしかけていきました。運転手には報奨金を出し、仕事として稼げるようにしました。滴滴もウーバーもやりたいのはタクシー型のライドシェアで、ビジネスとして利益を出したいのです。それを、シェアリングエコノミー活動という枠組みの中で始めたために、滴滴もウーバーも大きな赤字を出します。滴滴は100億元(約2000億円)、ウーバーは10億ドル(約1400億円)の損失を出したとも言われます。

 

先に根をあげたのはウーバーでした。ウーバー本社は中国事業は規制もあり、黒字化は見えないと判断しました。だとしたら、これ以上資金を消耗するよりも、事業を滴滴に譲渡をして、それに見合う分の滴滴の株式を所有した方が得策だと判断しました。2016年8月、ウーバーは滴滴の株式の20%を取得して、中国事業から撤退をします。

ところが、この時、中央政府は「ネット予約タクシー経営サービス管理臨時法」を公表します。これは、ライドシェアであっても、車両検査や運転手登録を行うことでタクシーサービスをして、利益を出してもかまわないというガイドラインでした。

この流れがどういうことなのかはよくわかりません。滴滴と中央政府はあうんの呼吸でウーバーを追い出したのか、それともウーバーが中国の政策の動向を読めていなかっただけなのか、そこはよくわかりません。しかし、ここから滴滴を中心に、中国のライドシェアサービスが本格化をします。

しかし、冒頭でも触れたように、タクシーもライドシェアも基本的な料金はほぼ同じです。だったら、誰だって、安心できるタクシーを使いたくなります。なぜ、中国人はライドシェアを使うようになったのでしょうか。それはライドシェアには、さまざまなメリットがあるからです。

今回は、なぜ中国ではライドシェアを好む人が多いのか、その理由をご紹介します。また、多くの人が懸念をする、運転手による犯罪トラブルに対して、どのような対策がほどこされているのかもご紹介します。

 

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