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中国各地に続々と出現した「謎のシェア硬貨」。誰が、何のために?と大きな話題に

街頭に、数百枚の硬貨を入れた箱が置かれる謎の現象が、中国各地に飛び火をし、少なくとも数十の街で硬貨の箱が出現して、話題になっている。「必要な方は自由にお持ちください」と書いてあることから、「シェアリング硬貨だ」という声も上がっていると大連日報など、各メディアが報じている。

 

一体、誰が何のために?謎を呼ぶシェア硬貨

中国各地の街に、箱の中に数百枚の硬貨を入れた箱が置かれて、大きな話題になっている。「必要な方はお持ちください。ただし1人5元まで」と書かれているのが特徴だ。最初に出現したのは、広州市だったとも言われるが、SNSで拡散されると、他の都市にも飛び火をし、報道されているだけでも数十の街に、この「シェア硬貨」が出現している。

一体、何のために置かれているのか。ネットでは大きな議論になり、若者から年配の人までが関心を寄せている。

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▲「急に必要ならばお持ちください。一人5元まで」と書かれている。

 

ノスタルジーを呼ぶシェア硬貨

このシェア硬貨は、改革開放以前の中国を知っている人には懐かしいものだ。当時、公共交通はバスぐらいしかなく、政府運営であったため、釣銭は出さないルールになっていた。乗客の方が、事前に釣銭が出ないように、乗車賃を準備しておかなければならなかったのだ。

しかし、時には小銭が足りないこともある。そこで、大きな企業や工場の出入り口には、小銭を入れた箱が置かれ、バス代が足りない人はそこから拝借をしていく。翌日、小銭がある時に返すという仕組みがあったという。各地に出現しているシェア硬貨は、バス停や地下鉄の出入り口のそばに置かれることが多く、昔の習慣を再現したものだとも言われている。

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▲大連市の地下鉄駅出入り口に置かれたシェア硬貨。硬貨を持っていく人もいれば、自分の持っている硬貨を入れていく人もいる。

 

無現金都市週間に出現したシェア硬貨

折しも、8月1日から7日までは、アリババが主催した「無現金都市週間」の真っ最中だった。スマホ決済のアリペイを中心に、無人スーパー、シェアエコノミー企業などが合同して、優待キャンペーンを行い、無現金都市を拡大していこうという一大イベントだ。

その時期に、このような「シェア硬貨」が置かれた。電子決済に馴染めない年配者が置いたのではないかという説もある。あるいは、急速に進む無現金化に対する皮肉ではないかという人もいる。

無現金都市週間の中心地である杭州市では、置かれたシェア硬貨の箱に「ありがとう。でも、地下鉄は交通カードがあるし、バスはスマホで乗れるし、硬貨はもういりません」と書かれた紙が貼られた。

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▲8月1日からは、無現金都市週間が開催された。さまざまなイベントを通じて、よりスマホ決済を使ってもらうというものだ。シェア硬貨は、このイベント時期に中国各地に出現している。

 

中国人の助け合い公共心を象徴しているシェア硬貨

多くの中国人がここまでこの話題に関心を寄せるのは、箱の中に置かれたお金が盗まれないし、5元以上取っていく人もいないということだ。それどころか、お金が減っているのを見て、硬貨を補充する人まで現れている。

中国が急速に経済成長をするにつれ、人を押しのけてでも成功をつかむという熾烈な競争社会の面が強く出るようになっていった。しかし、多くの中国人が、それは中国人の本質ではなく、本来は人への思いやりを大切にする民族だったはずだという思いがある。このシェア硬貨は、その中国人の善良な部分を思い出させてくれるのだ。

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▲盗む人、多めに持っていく人は皆無で、中国人の間では、中国人の良心、公共心を示す現象だとして、若者から年配者までの間で話題になっている。

 

シェアリング経済の動力は「公共心」

このシェア硬貨は、今後、中国のシェアリング経済を発展させる上でも、重要なことを教えてくれると論評する識者もいる。ライドシェア、シェア自転車などのシェアリング経済を定着させるのに最も重要なのは公共心だ。シェアサービスを、「お金を払っているのだからどう使おうと、自分の自由」という従来の経済社会の感覚でいるとうまく回らない。駐輪禁止地区に自転車が放置され、扱いが粗く故障率があがり、すぐに汚れるので次の人が気持ちよく使えない。次第に、人の気持ちがシェアサービスから離れていってしまう。

重要なのは、「次に使う人のことを考える」優しさ、公共心だ。それがなければ、シェアリング経済は成り立たない。その気持ちがあれば、シェアサービスを利用することが、公共につながる心地のよいことだと感じられ、シェアリング経済は発展をしていく。

さまざまな面で、このシェア硬貨は、中国人の関心を惹きつけている。この現象は、まだまだ各都市に拡大すると見られている。f:id:tamakino:20170812140148j:plain

▲このような無残なシェアリング自転車の光景がたびたび報道される。利用者が、駐輪禁止地区で乗り捨ててしまい、交通などの妨げになってしまうことが原因だ。シェアリング経済は、公共心なくして回っていかない。