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リモートワークで離職率が33%減少。女性と子どものいる人が積極的。スタンフォード・香港中文大学の研究

オンライン旅行サービス「携程」で、リモートワークと出社を組み合わせるハイブリッドワークの実験を行ったところ、離職率が33%減少するという結果になった。今後、多くの企業がハイブリッドワークを導入していくことになると大河報が報じた。

 

リモートワーク導入で離職率が33%低下

コロナ禍は社会や経済に大きな打撃を与えたが、得るものもあった。それはリモートワークの浸透だ。コロナ禍が開け、再び以前と同じ出勤の形態に戻った企業も多いが、一部ではフルリモートワークを採用し、必要がある時だけ出社するという企業も出てきている。また、多いのが出社日と在宅日を組み合わせるハイブリッドワークだ。

オンライン旅行サービス「携程」(ジエチャン、Ctrip)では、スタンフォード大学、香港中文大学と協働をして、ハイブリッドワークの実験を行った。その結果によると、ハイブリッドワークを実施すると、離職率が33%低下することがわかり、従業員の満足度も向上することがわかった。

その研究結果は、科学雑誌「nature」に「Hybrid working from home improves retention without damaging performance」(ハイブリッドワークはパフォーマンスを損なうことなく離職率を改善する、https://www.nature.com/articles/s41586-024-07500-2)として公開されている。

離職率の変化。対照群では7.2%だが、ハイブリッドワークをした群では4.8%になった。特に女性の離職率が大きく下がっていることが注目される。

 

離職率が下がり満足度はあがる

Ctripでは2021年8月から2022年1月までの6ヶ月間、上海オフィスの航空券チームとITチームの1612人を選び、実験グループと対照グループにわけ、実験グループでは毎週水曜日と金曜日は自宅でのリモートワークを実施した。対照グループは5日間出社をして仕事をする。

実験に参加した従業員はほとんどが30歳以上で、そのうちの2/3が男性、また半数に子どもがいる。

その結果、実験グループでは離職率が4.8%となり、対照グループの7.2%に比べて、離職率が33%減少をした。また、従業員に「ワークライフバランス」「仕事への満足度」「生活への満足度」「友人への推薦度」「離職の意向」のアンケート調査を行なったところ、いずれの項目でも実験グループの方がいい結果となった。

▲業務のパフォーマンスはハイブリッドワークの方がややあがるとは言うものの、顕著とまでは言えない。リモートワークは、パフォーマンスを落とさずに、従業員満足度をあげる仕組みと考えた方がよさそうだ。

▲昇進もハイブリッドワークでやや上昇しているものの顕著とまでは言えない。

 

女性と子どものいる人がリモートワークに積極的

この結果を見たCtripでは、2022年3月からすべての部門でハイブリッドワークを導入することを決定した。Ctripによると、従業員の離職には新たな人の採用とトレーニングに2万ドルの経費がかかるため、離職率が下がると大きなコストが節約できることになるという。

現在は、希望をする従業員からハイブリッドワークを進めているが、女性の申請割合が高い傾向にあるという。また、その8割は90后(30代)と00后(20代)という若い世代だった。また、子どもがいる従業員もハイブリッドワークを申請する傾向が強く、子どもがいる男性の63%、子どもがいる女性の58%がハイブリッドワークを申請している。

▲Ctripではこの研究結果を受けて、全職種でハイブリッドワークを導入することを決めた。

 

リモートでは勤務時間が長くなるという問題も

このニュースはネットで大きな話題となり、さまざまなメディアがウェイボーなどを使って「週1日の在宅勤務、週4日の出社勤務」に関するアンケートを行ったところ、多くの人が「支持する」と回答している。

しかし、従業員の立場であるネット民からも疑問や不安の声は出ている。ある女性のネット民は「小さな子どもがそばにいる状況で仕事をすると、子どもの世話も仕事もうまくできるかどうか自信がない」と言う。また、中国では週休2日制度の浸透も大手企業に限られており、多くの中小では隔週週休2日制であるため、ハイブリッドワークよりも先に完全週休2日制を普及させるべきだという声も多かった。

また、すでにハイブリッドワークで働いているネット民からは、在宅時の勤務時間が長くなるという問題も指摘をされた。仕事の合間に家事をすることになるために、仕事が終わらずに終業時間以降も仕事をする自主的残業をせざるを得ない。就業時間が明確でなくなるため、トータルでは長時間労働になりがちだという声もあった。

北京青年報などが行ったリモートワークに関するアンケート調査。左は周1日の在宅勤務、右は週休3日制に対する結果。

 

業務目標の明確化、進捗状況の可視化が鍵になる

また、最大の問題は、従業員同士の同期問題だという指摘もある。在宅勤務の場合、就業時間は各自の裁量に任される部分が大きく、勤務時間であっても、子どもを学校に迎えに行ったりすることができる。その分は、本来の終業時間以降に追加で業務をすることを補えばいい。しかし、他の従業員からすると、連絡を取りたいのに連絡がつかないという問題が発生する。

転職情報サービス「BOSS直聘」のシニアアナリスト、単恭氏は、在宅勤務を成立させるには、明確な業務目標と個人の業務計画の設定が重要になると言う。業務の進捗状況を逐一報告をし、他の従業員からどの業務がどの程度進捗しているのか、見える状態にする必要がある。このような報告自体が新たな業務負担になってしまわないように、簡単に業務進捗報告ができ、それを全員が一目で共有できる仕組みの導入が必須になると指摘をしている。

中国では景気低迷が長引き、以前のような高給を求めて転職をする風潮は後退をし、仕事にやりがいがあったり、ストレスが少なく長く働ける職場が求められる傾向が出てきている。ハイブリッドワークはそのような企業を選ぶ際のポイントの1つにもなってきているため、ハイブリッドワークを導入する企業は増えていくと見られている。