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マトリクスアカウントを活用して、売上向上、広告費削減、業務品質の向上、離職率の抑制に成功した飲食チェーン「煌上煌」

最近、飲食や小売のチェーン企業から注目されているのがSNSのマトリクスアカウントだ。これは公式アカウントと店舗アカウントを連結してグループ化することができる機能。店舗が独自のアカウントをつくり情報発信がしやすくなることで、チェーンには多数のメリットが生まれると職業餐飲網が報じた。

 

公式以外に店舗のアカウントをつくる

新型コロナによる大きな打撃を受けた飲食チェーン。来店客が激減する中で、スタッフの雇用は維持をしなければならず、経営的には非常に厳しい状況に追い込まれた。その中でSNSの店舗アカウント、スタッフアカウントの活用が始まっている。

中国では、ショートムービーでは「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)、SNSでは「小紅書」(シャオホンシュー、RED)、「微信」(ウェイシン、WeChat)、「微博」(ウェイボー)などの公式アカウントをつくり、ブランドとして、さまざまな情報発信をするのは常識になっている。

しかし、今起きているのは、店舗や店舗スタッフのアカウントをつくり、情報を発信するというものだ。

滷味(煮込み料理)で有名な「煌上煌」(ホワンシャンホワン、http://www.jxhsh.com.cn/)は約5000店舗を展開しているが、抖音に約2400の店舗スタッフアカウントを作成し、情報発信やライブコマースを行なっている。

▲マトリクスアカウントを活用して、コロナ禍による打撃からV字回復をした飲食チェーン「煌上煌」。5000店舗を展開していて、約2400の店舗アカウントが生まれている。

 

複数のアカウントを連結できるマトリクスアカウント

これは抖音の「矩陣号」(ジュージェンハオ、マトリクスアカウント)の機能を使っている。マトリクスアカウントとは複数のアカウントを連結できる機能だ。よく見かけるのは、発信者同士がアカウントを連結し、共同でショートムービーを作成して公開するというものだ。それぞれの発信者が抱えているファン層には違いがあるため、共同でショートムービーを公開したり、ライブ配信をすることでファンの拡大が見込める。

飲食チェーンなどの場合は、旗艦アカウントと大量の店舗アカウントを連結する。店舗からの発信もすべて旗艦アカウントから見られるようになる。

このマトリクスアカウントが、売上に効果を出しているだけでなく、スタッフのモチベーション向上にもつながっている。

 

店舗スタッフが情報発信とライブコマースを行う

煌上煌では、ショートムービー制作の研修制度を実施し、希望するスタッフに受講をさせ、店舗スタッフアカウントを作成させた。そこでショートムービーの配信を行い、1000人のファンを獲得すると、次はライブコマースの研修が受けられるようになり、旗艦アカウントのマトリクスアカウントに組み込まれる。

そこでライブコマースを行えるようになり、販売額の3%がインセンティブとして店舗スタッフに与えられる。さらに、売上上位に入るとインセンティブは5%に引き上げられる。毎月10万元(約190万円)以上売上げるスタッフは珍しくなく、インセンティブが店舗スタッフとしての給与以上になることもある。稼ぎたいと考えるスタッフにとってはいい刺激になっている。

▲店舗は店舗アカウントから独自に情報発信やライブコマースを行い、飲食品の販売や食事クーポンを販売している。

 

地域広告費を抑えることができる

このマトリクスアカウントによるライブコマースは、飲食チェーンにとっても大きなメリットがある。

ひとつは広告宣伝費の大幅な削減だ。飲食チェーンはブランド全体の広告を常に行い、さらには店舗ごとの地域広告も打たなければならない。特に、チェーン店舗の数が多い場合には広告費は莫大になり、しかも地域の特性を細かく考慮することは難しい。しかし、店舗スタッフアカウントによる告知ができるようになると、その地域にあった広告告知ができるようになり、その地域のテレビ局、新聞、雑誌などの旧メディア広告を大きく削減できるようになる。コストが削減でき、なおかつ地域特性にあった広告告知ができるようになる。

飲食チェーンは、ブランド全体の広告に集中をすることができるようになり、ブランド広告の質を高めることができるようになる。

 

スタッフのモチベーション向上効果も大きい

2つ目が店舗スタッフのモチベーションを高めることができることだ。一般的な飲食店は昼と夜にピークがあるが、2時頃から5時頃までは比較的手が空いている。今までは、この時間に食事をとったり、休憩をしていた。

しかし、店舗アカウントができると、この時間にショートムービーを撮影する従業員が増え出した。その中で成功する従業員が出始めると、周りも刺激をされる。店舗に活気が生まれるようになる。

 

本来業務にもいい影響が

3つ目が意外なことに、本来業務や衛生面にもいい影響があったことだ。店舗スタッフの中には、朝出勤するとスマートフォンのカメラをオンにし、ずっとライブ配信をしている人も現れた。単なるライブ中継であるため、商品が大量に売れたりすることはないものの、本来の業務をしながら、わずかとはいえ商品が売れ、自分の収入になる。

また、消費者は営業時間前からスタッフが帰るまでずっとライブ配信されていることで、その店舗の衛生面や接客面を信頼し、集客にもプラスの効果があった。また、ライブ配信されているということを従業員が意識をすることで、整理整頓をするようになり、衛生面にもいい効果があり、接客も丁寧になった。

特に生産工場では、ライブ配信をすることにより、自然に整理整頓をするようになり、衛生管理がしやすくなった。

▲店舗アカウントができると、生産施設でも24時間ライブ配信を行うようになっている。商品の販売量は少ないものの、製造の様子が見られることで消費者は安心感を持ち、客数増加に貢献をしている。

 

何よりも大きいスタッフの自主性向上

最も大きかったのは、店舗スタッフの自主性を引き出したことだ。それまでの飲食チェーンの従業員というのは、マニュアルに定められたことをいかに的確に行うかが評価の対象だった。これは人間にとってつらいことで、飲食業は報酬をあげても離職率がなかなか下げられない。

しかし、店舗アカウントを作成し、自主的にショートムービーやライブ配信を促し、内容はブランドを毀損しないものであれば各自に任せるようにした。すると、ユニークなムービーをつくったりライブ配信をするスタッフも登場し、職場の中でのちょっとした有名人になっている。しかも、消費者の固定ファンができると、責任感が生まれ、意識も高くなる。そこをきちんと評価し、報酬を追加する仕組みさえあれば、そういう優秀なスタッフの離職率は小さくなっていく。

このようなマトリクスアカウントによる、店舗の発信力を活用しようとするチェーン店舗が増え始めている。