北米と中東で人気となっているアパレル越境EC「SHEIN」。商品点数の多さ、早さ、安さが人気の理由だが、もうひとつの理由はインフルエンサーと消費者の壁を取り払ったKOCという考え方にあると人人都是産品経理が報じた。
ウェディングドレスの越境ECから始まったSHEIN
北米と中東で女性から圧倒的な支持を得ているSHEIN(シーイン)。最新流行の服飾品がすぐに発売され、その価格が圧倒的に安いことから支持されている。今年2022年Q2にはアプリダウンロード数が680万件を突破し、アマゾンを上回った。企業価値も1000億ドルを突破し、企業価値1000億ドルを突破した未上場企業は、世界でも、字節跳動(バイトダンス)、SpaceXに続く3社目となる。
創業したのは青島科技大学でコンピュータ科学を専攻した許仰天(シュー・ヤンティエン)。越境EC関連のシステム開発をしていた南京市の奥道情報技術で検索エンジンの開発に従事していた。
この時、中国で大量に売られているウェディングドレスが米国では10倍以上の価格で売れることを知って、ウェディングドレスの越境ECを事業とする南京点唯情報技術を2008年10月に創立。これが受けた。
資金を得た許仰天は、ウェディングドレスだけではなく、アパレル全体を扱う越境ECに転換するため、2011年にsheinsideというドメイン名を取得。これがシーインの始まりとなった。
ZARAのビジネスモデルを徹底改善
シーインの手法には、大きなイノベーションはなく、あたりまえのことをあたりまえにやっている。しかし、その「あたりまえ」が常人の想像の範囲を超えて徹底している。ファストファッションZARAをよく研究し、ZARAのビジネスモデルを徹底的に改変していった。その結果、ZARAは企画から出荷までを30日から60日で可能にし、当時のアパレル業界では常識外れのスピードを誇ったが、シーインはこれを7日間に短縮した。そのため、リアルタイムファッションブランドとも呼ばれる。
さらにZARAは毎年1.3万件の新商品を発売するが、シーインは60万件の新商品を発売する。スピードと量が文字通り桁違いなのだ。
大学生をターゲットにした低価格戦略
シーインの強みは価格だ。多くの商品が10ドルから20ドルで、10ドル以下の商品も多い。ZARAの半分程度だ。2022年初めの米国の連邦最低時給は7.25ドルだった。最低時給の仕事をしている人でも、2時間働けばシーインの服を買えることになる。この価格帯は、米国の大学生をターゲットにしていた。それがコロナ禍により、社会人層までシーインの服を買うようになった。
大量に企画し、あたったものを大量生産する
シーインのスピード、量、安さを支えているのは、広州市番禺区という場所にある。ここは以前から無数の服飾製造業者、問屋などがひしめく中国最大の服飾生産基地だった。ここに800人のデザイナー部隊を配置し、デザインをした商品をすぐに生産できる体制を整えている。
デザインも、1人のデザイナーが構想を練って、スケッチ画を描いてなどという悠長なことはしていない。服飾デザインを要素に分解し、現在、どのような要素が流行をしているのかを分析し、それを順列組合せの要領でデザインをしていく。これにより、短時間で大量の商品が企画できる。大量の商品を製造し、発売してみて、その中からヒット商品を生み出す。いわば、数打てばあたる方式を採用している。
製造業者すべてに受発注システムを導入
これで無駄が出ない理由は、独自の受発注システムを開発し、広州市番禺区の協力製造業者に導入させたことだ。新商品の製造は、ごく小ロットでしか行われない。しかし、発売をしてみて、売れ行きがいいと追加で中ロット、大ロットでの発注が行われる。
この受発注システムでは、現在の売れ行きばかりでなく、AIによる売れ行き予測も表示される。小ロット受注を受けた製造業者は、その予測を見て、追加発注が入ることを予測し、ラインや人材の手当てを始めてしまう。これにより、正式に追加発注が入るとすぐに納品ができるようになっている。
インフルエンサーを使わないシーイン
アパレルブランドの多くが、著名人を起用して、大々的な広告活動を行う。しかし、シーインはこれも徹底的に効率を追求した。KOC(Key Opinion Consumer)を利用した。
シーインのアプリの中には、「Gals」(ギャルズ)と呼ばれるコーナーがある。ここはシーインの服を買った消費者が自撮り写真を投稿するコーナーだ。ここで、消費者は著名人ではなく、自分と同じ消費者がどのようなコーディネートをしているのかを見ることができる。そして、そこからその服を購入することができ、投稿主には3%の手数料が入る仕組みだ。
90日間、購入した利用者が購入する額の3%が次々と入ってくる。90日間、収入が得られることになるため、ある程度の額となる。一方、90日間で打ち切られてしまうため、投稿主は次々と消費者の目を惹く投稿をしていかなければならない。中国ではもはやあたりまえになっている「種草」を米国で行なっている。
大学生だけがなれるアンバサダー
このような投稿をするGalsたちは、公式にはアンバサダーと呼ばれ、FacebookやTikTokにも投稿をする。これもシーインアプリのGalsへのリンクが貼られ、Galsたちには手数料が入る仕組みだ。広告活動を著名人ではなく、普通の消費者を活用して行なっている。
このGalsになるには、18歳以上で米国の大学に通っていることが条件になっている。大学生はお金に余裕がないのでファッションを自由に楽しむことは難しい。しかし、シーインなら買うことができる。着てみて自撮り写真を撮り、投稿をすれば手数料収入も得られる。人気のGalsは職業にできるほど稼いでいるし、そうでないGalsも少ない手持ちのお金でファッションを楽しむことができる。シーインは売る方(インフルエンサー)と買う方(消費者)の壁を崩し、普通の人が買って楽しみ、投稿して楽しむ環境を構築している。これもシーインが人気になっている理由のひとつになっている。