中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国越境ECが続々と参入する中東市場。ネックは、住所表記、代引き決済などの宅配物流

新型コロナの感染拡大で、ECの利用が急増したのは世界で共通する現象だ。中東でもそれは同じで、ECの利用が増加をしている。中国のEC企業、宅配物流企業はこれに目をつけ、中東市場への進出に活気が出てきていると深燃財経が報じた。

 

中国の越境ECが続々と中東に進出

中東は石油資源があるために、住民の購買力はきわめて高い。しかし、自国内での製造業は相対的に脆弱であるため、生活用品から贅沢品まで輸入に大きく依存をしている。

これに中国の起業家が目をつけないわけはない。2012年に、越境ECで販売業者をしていた李海燕は、浙江省で中東向けの越境EC「Jollychic」を設立した。さらに、2015年には激安アパレルEC「SHEIN」も中東に進出をした。さらに、2017年には広州市でFordeal、2018年には北京市でAjMallが設立され、この4つの中国系越境ECが中東市場で競争をしている。いずれも中国製の製品、衣類を中東市場で販売するECだ。

また、大手ECも中東に対応をしている。アリババは越境EC「速売通」(アリエクスプレス)を2018年に中東地域に対応をし、同時に宅配物流の菜鳥物流(ツィアニャオ)を進出させた。

京東(ジンドン)は、2021年7月にドバイモール、ファッションEC「Namshi」とパートナー契約を結んだ。さらに、アラブ首長国連邦B2Bプラットフォーム「Tradeling」とも提携し、京東の商品を中東でも買える環境を構築している。

 

脱落者も出て、プレイヤーは4つに絞られる

この中で、脱落をしたのは、低価格で市場に入っていったAjMallとJollychicだった。2000年代前半の中国とまったく同じように、当初は低価格であることからECが人気になったが、購買力のある中東ではすぐに品質に対する要求が強まっていった。この2つの越境ECは口コミやネットレビューにより、品質の悪さが伝えられ、AjMallは2021年12月に中東向けサービスを停止、Jollychicも経営難に陥っている。

その結果、中東で活発に活動している中国プレイヤーは、SHEIN、Fordeal、AliExpressの3つで、さらに中東系のEC「Noon」の4つが競い合っている。

▲地元系EC「Noon」。中国の越境ECの進出に対抗をして、中東のアマゾンになろうとしている。

 

EC市場としての好条件がそろっている中東

海外向けのインフルエンサープラットフォーム「Nox聚星」のデータによると、2021年の中東地域のECのGMV(流通総額)は317億ドルで、2025年までに490億ドル(約6.6兆円)を超えると予想されている。中東地域には23の国と地域があり、人口は4.9億人に達する。

特にサウジアラビアアラブ首長国連邦カタールバーレーンクウェートオマーンの湾岸諸国は一人当たりのGDPが高く、アラブ首長国連邦カタールサウジアラビアではインターネット普及率が90%を超えている。しかし、EC利用経験がある人の割合は20%未満であり、ECにとっては魅力的なブルーオーシャンになっている。

特に女性のEC利用が期待をされている。ムスリムの習慣では、1日5回礼拝をするが、最近の若い女性たちは礼拝をする前に化粧直しをするために、化粧品の消費量が突出して多い。

また、ヒジャブなどを着用しなければならないため、その分、ファッションに対する関心が強く、SHEINの中東の客単価は130ドル程度になっている。米国の場合は75ドルであるため、倍近くになる。

また、概して、中東の人々は新しいものに対する好奇心が強いと言われている。中東では以前コーヒーが流行をしていたが、ミルクティーが入ってくるとともに、多くの人がコーヒーをやめてミルクティーを飲むようになっている。また、以前は水タバコが主流だったが、電子タバコが入ってくると多くの人が電子タバコを楽しむようになっている。

あらゆる要素がECにとって追い風となる条件がそろっている。

▲中東のEC「Noon」では、中国「新石器科技」の無人販売カートを5000台購入した。走る飲料自販機として使われている。サウジアラビア北アフリカで稼働する予定。

 

ネックになる宅配物流の整備

しかし、解決をしなければならない課題も多い。中東市場で最大の課題が宅配物流だ。中東の多くの国では国土が広く、人口密度が低いために、物流コストが高くならざるを得ない。

サウジアラビではリヤドからジェッダ(約950km)に荷物を送るのに、160元(約3000円)ほどの宅配料金がかかり、最速便でも3日から5日、一般便では2週間から4週間かかる。

さらに、行政区画が不明なところがいくつもあり、住所表記も体系的になっていない。例えば、同じ家に対して、番地が2つあることも珍しくない。

そのため、多くの市民が自分の住所を記入する時に「○○モスクのとなり」「○○レストランの真向かい」「○○郵便局の左どなり3軒目」などという目立つランドマークを基準にした書き方をする。

このため、宅配物流企業では、独自のグリッド表記を構築し、利用者の記入内容から地図を参照してグリッドに変換するシステムの構築を進めている。

 

代引き決済が主流であることも大きな課題に

もうひとつの問題が決済だ。中東でもクレジットカードは普及をしているが、海外に出た時に使うものという意識であり、国内では現金を使う人が多い。そのため、多くのECが代引き宅配による決済を行なっている。

この代引きによる決済の最大の問題は、受け取り率がきわめて低くなることだ。一般的な先進国のECでの受け取り率は98%以上あるのが普通だが、最も受け取り率の高いFordealでも80%程度であり、中には50%から60%で苦戦しているECもある。

代引きの最大の問題は、直接手渡しをしなければならないため、不在の場合は配達ができないということだ。家族が在宅であっても、本人がいなければ、受け取りを断られてしまう。

さらに、商品の到着に数週間もかかることが一般的であるために、到着するまでに買ったことを忘れてしまったり、気が変わって受け取りを拒否されることもある。さらには、複数のECに同じ商品を注文して、いちばん早く到着したものだけ支払い、それ以外のものは拒否するという裏技も広がり始めている。

中東でECビジネスを成功させるには、宅配物流が鍵になる。この問題を解決するため、中国企業が中東市場に力を入れ始めている。