中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国企業の敵は中国企業。米国を舞台に繰り広げられるシーインと拼多多の熾烈な戦い

常識外だったSHEINの成長率が、常識的な成長率の範囲にまで下がってきている。その要因となっているのが、拼多多の越境EC「Temu」の参入だ。米国市場を舞台に、SHEINとTemuの熾烈な競争が始まっていると捜狐が報じた。

 

常識外の成長をしてきたSHEIN

米国を中心に若い女性の間に定着をしたスーパーファストファッション「SHEIN」(シーイン)。毎年驚異的な成長率を示し、一時は年成長率が250%を超えたこともある。しかし、一昨年の2021年は60%に低下をし、9年ぶりに100%を割り込んだ。低下をしたと言っても、60%という成長率は通常の小売業にとっては急成長ということになる。むしろ、それまでの9年間、毎年倍増以上の成長をし続けてきたことが驚異的なのだ。そして、2022年は成長率は50%に低下をした。

常識外とも言えたSHEINの成長率が、常識内の成長率に落ちつこうとしている。

▲SHEINはショップをショールーム化している。陳列されている商品タグにはQRコードがプリントされ、その場でオンライン注文ができるようになっている。

 

米国で激突する拼多多とSHEIN

このSHEINの成長率を下げることになった最大の要因が、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)だ。拼多多は、「Temu」(テム)という越境ECを2022年9月から米国で提供している。拼多多で販売されている商品を中国から直送することで、驚きの安さで売るというもので、当然、服飾品も扱っている。SHEINと真っ向からぶつかり、2つの中国企業が米国市場で激しい価格競争を始めた。

▲SHEIN、Temuは米国市場であっても、そのコア利用者は在米中国人だ。そのため、Temuは中国語の広告をYouTubeに配信している。

 

価格が安く、配送料無料のTemu

多くの人がSHEINからTemuに移るきっかけになったのが、配送料の問題だった。SHEINは購入すると配送料が別に必要になる。Temuは無料で配送をしてくれる。それでいて、商品価格はTemuの方が安いのだ。

ブラックフライデーなどのセールでは「70%オフ」「90%オフ」という無茶な割引を行った。さらには90日間であれば無料で返品ができる。

▲Temuはブラックフライデーのセールでは、最大70%オフという常識外の割引を行った。

▲SHEINも対抗して70%オフセールをせざるを得なくなっている。

 

製造拠点にまで手を伸ばす拼多多

拼多多は明らかにSHEINをターゲットに定め、競争をしかけている。SHEINの本社は広東省広州市番禺区にある。ここには伝統的な服飾関係の下町工場が集まっている。SHEINはこのような家内制手工業に近い小規模工場をまとめあげて、小ロット生産、低価格などを実現している。

Temuもこの番禺区の近くにオフィスを開いた。目的は服飾品を製造してくれるサプライヤーの確保だが、当然ながらSHEINのサプライヤーを奪っていくことになる。

それだけではない。SHEINの従業員にも注目をし、2倍から3倍の給料を支払うという条件で引き抜きまでしているという。SHEINでは、Temuに転職した社員は永久に採用しないという社内通告を出したとも言われている。

SHEINとTemuでは、米国では価格競争を行い、中国では人材の争奪戦をしている。全面戦争の様相になってきている。

▲SHEINの商品をつくっている広州市番禺区の服飾工場。AIが導入され、下町工場が急速に近代化をされていっている。

 

品質の向上、コスト上昇。SHEINの課題

しかし、SHEINの課題はTemuだけではない。SHEINそのものにもさまざまな課題が出てきている。収益圧力、コスト上昇、盗作問題、雇用問題などだ。

SHEINは上場が視野に入ってきているため、従来のようなスーパーファストファッションのコンセプトを変えてきている。従来は、品質よりも低価格を優先し、非常に利益の低い、薄利多売を追求していた。しかし、上場をするためには、利益率をあげることが必要になっている。利益率をあげるには、品質を高めて、価格帯を上に押し上げていく必要がある。

もうひとつはコスト上昇だ。SHEINで販売される商品は、そのほとんどが中国から宅配便で購入者に届けられる。このような越境小包は、現在800ドル以下のものであれば略式輸入として扱われ、免税扱いになっていた。しかし、この限度額が廃止される動きになってきて、そうなるとSHEINも関税を支払わなければならなくなる。このコスト上昇は避けられない見込みだ。

盗作問題に関しては、SHEINは世界各地でデザイナーを増やし、オリジナルデザインの生産能力を高めようとしている。それはアパレルブランドとして正しいことだが、その分、生産コストは上昇をすることになる。

 

価格戦略を変更するタイミングでTemu参入

つまりは、SHEINは値上げをしなければならなくなっている。しかし、SHEINが急速に受け入れられたのは、アマゾンやZARAに比べて圧倒的に安いということだった。その強みが消えかけているところにTemuが圧倒的な低価格で米国市場に参入をしてきた。

Temuはしばらくの間、拼多多の豊富な資金力を背景に、常識外の低価格戦略を続けることになる。一方、SHEINは低価格戦略から脱すべき時期にあたっている。SHEINがアパレルブランドとして認知されるか、それとも安売りブランドとしてTemuに飲み込まれてしまうか、難しい時期を迎えている。