中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

仕事探しもあの手、この手。CEOに履歴書手渡しや地下鉄駅に就職広告を出す人まで

20代の失業率が高止まりをしている。みな、少しでもいい職を得ようと、職選びをすることが原因だ。その中で、CEOに履歴書を直接手渡しする人、地下鉄駅に就職広告を出す人など、さまざまな就活が行われていると湘晨報が報じた。

 

高止まりが続く失業率

中国の失業率が高止まりをしている。国家統計局は、以前発表していた若年失業率は誤解を生む要素があったとして2023年7月から発表を停止した。この若年失業率は労働状況を見る指標ではなく、余剰労働力の推移を見るためのもので、学生も対象となるため、毎年7月8月に進学準備をする学生が「労働していない若年層」とカウントされ、若年失業率が急に上昇するという季節変動を生んでしまっていた。それが国内外で「若者の仕事がない」と政策上の失策と捉えられて報道されたことから、2023年12月以降、学生を除外した若年失業率を発表するようになっている。

▲中国の年齢別失業率。若年層の失業率が高止まりをしている状態が続いている。

 

希望する仕事に就きたい摩擦的失業

しかし、これも高止まりをしている。いずれの年齢層でも高止まりをして下がる気配はなく、特に20代後半の失業率が上昇傾向にある。

この上昇の原因は「仕事がない」というよりも「希望する仕事が見つからない」という摩擦的失業が主要な原因になっている。中国の企業は報酬格差が大きくなっている。大学で同じスキルを学んでも、報酬の高い大企業や成長企業の職を得るか、報酬が低い停滞企業の職を得るかで、報酬に数倍の違いが出てくる。しかも、投資をして資産を増やすというのが当たり前になっているため、余裕のある報酬をもらって投資に回せる人と、ぎりぎりの報酬で生活をする人では、10年後の人生がまったく違ってきてしまう。

そのため、誰もが少しでも有利な職を探そうとし、職を得ても、不満があれば転職を考える。その間に、専門学校やオンライン講座を受講し、スキルアップをするというのも一般的だ。

 

CEOに履歴書を直接手渡しする学生たち

このため、20代はあの手この手で職探しをしている。昨年、セキュリティ企業「360」の周鴻禕CEOは、浙江省烏鎮で開催されたインターネットサミットに出席をした。その時、路上で3人の学生に呼び止められた。学生たちはセキュリティ技術を専攻していると自己紹介を始め、周鴻禕CEOに直接履歴書を手渡した。

この行動にはいろいろ批判もあるが、大学生が自分が働きたい企業に対して、あの手この手でアプローチをする方法を考えることは肯定的に捉えられている。周鴻禕CEOはメディアの取材に対し「専門人材が360で働きたいと言ってくれることはありがたいことだ。歓迎する」と述べた。

一方で「CEOに直接履歴書を渡しても意味がない。HR(Human Resource)担当者に渡さなければ意味がない」という人もいる。学生たちが周鴻禕CEOに渡した履歴書には連絡先が記載されていなかった。つまり、学生たちは、改めてHR担当者に正式ルートでアプローチをするつもりのようだ。それでも、「あの、CEOに直接履歴書を渡した行動力のある学生」ということは大きな評価ポイントになる。

▲コンファレンス終了後に外に出てきた周鴻禕CEOに、学生たちは駆け寄り直接履歴書を手渡した。

▲周鴻禕CEO(中央)と秘書(右隣)と、履歴書を直接手渡しした学生3人。周鴻禕CEOは「歓迎する」とコメントを出した。

 

地下鉄駅に就職広告を出した向瑤函さん

湖南省の湘潭大学を卒業した向瑤函さんは、面白い就職活動をした。4月13日から4月17日までの5日間、広州地下鉄珠江新城駅のB1出口付近の通路に、自分の履歴と微信(ウェイシン、WeChat)アカウントのQRコードをつけた広告を出した。出稿料は5日間で1000元(約2.2万円)だった。

向瑤函さんは穀物会社でデータアナリストとして勤務をしていたが、AIを開発するエンジニアに転身をしたいと考えるようになった。そのためにはまだ自分の能力は足りないと考え、2023年5月に離職をし、AI開発が学べる企業への転職活動を始めた。

▲地下鉄駅に就職広告を出した向瑤函さん。このアイディアが功を奏して、30社以上から問い合わせがあった。

 

話題となって30社以上が問い合わせの地下鉄広告

この地下鉄に就職広告を出すというアイディアは、友人から「地下鉄広告は意外に出稿料が安い」という話を聞いたことで思いついた。地下鉄広告では、結婚相手を募集する広告や自分の作品の写真を掲載して買い手を探す広告もある。だったら、仕事を探す広告があってもいいのではないかと考えた。「仕事と結婚相手を見つけるのは簡単じゃない」という広告コピーも自分で考えた。

向瑤函さんは、地下鉄各駅の乗降客数を調べ、乗り換え客の多い珠江新城駅を選んだ。そして、通路壁面の広告スペースではなく、角になっていて、長時間通行人の目に触れる場所を選んだ。改札を出た人は、約20mの間、向瑤函さんの広告が視野に入ることになる。

さらに、広告が掲載された当日、向瑤函さんは広告の側に立ち、その様子を友人に撮影してもらいSNSに投稿した。これがバズり、向瑤函さんの行動は広く知られるようになった。広告を見てWeChatから連絡をくれる企業、SNSの投稿を見て連絡をくれる企業は30社以上にのぼり、向瑤函さんはその中から10数社を選んで、面接を受ける毎日を送っている。

▲広告の場所もよく考え、通路の突き当たりで、通行する人が最も目に入る時間が長くなる場所を選んだ。