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第4のミルクティーチェーン「アンティー・ジェニー」が上場申請するも、急激な規模拡大に混乱も

第4のミルクティーチェーン「滬上阿姨」が香港に上場申請をしたが、急激な規模拡大でさまざまな内部混乱が起きている。この混乱を乗り越えて上場に漕ぎ着けられるかどうか注目されていると首席商業智慧が報じた。

 

穀物ミルクティーで上場申請をしたアンティー・ジェニー

すっかりブームが沈静化をしてしまったタピオカミルクティー中国茶にミルクなどを入れたアレンジ中国茶の世界では「喜茶」(HEY TEA)、「奈雪之茶」(ナイシュエ)、「蜜雪氷城」(ミーシュエ)などが上場申請をするところまできている。

その中で、ダークホースとして、香港に上場申請をしたのが「滬上阿姨」(フーシャンアーイー、Antea Jenny)だ。滬とは上海を表す言葉で、阿姨はおばさんの意味。つまり上海のおばさんと言う意味になる。英語のAnteaも「Aunt」と「Tea」を掛け合わせた造語だ。

ここの元々の売りは、穀物を使ったミルクティーだった。血糯米(赤もち米)を使った血糯米ミルクティーや紅米、燕麦、紅豆などが入った五穀ミルクティーなど、他にはない健康的なミルクティーで評判となり拡大をした。

しかし、まだ飲んだことがない中国人も多いかもしれない。なぜなら、滬上阿姨は特定の地域に集中的に展開するという戦略をとっているため、店舗が近くにない地域も多いからだ。

▲濾上阿姨のラインナップ。ホットで飲むのが適している穀物ミルクティーと、アイスで飲むのが適しているフルーツミルクティーの2つのラインからなっている。

 

八宝粥と中国茶ブレンド食品が起業のヒントに

この滬上阿姨を起業したのは、山東省出身の単衛釣と周蓉蓉の夫婦。二人は山東省の米国系外資企業で知り合い結婚をした。子どもが産まれると、子どもの進学のために上海に引っ越した。しかし、上海での生活はお金がかかる。このままではだめだと起業することを考えた。

2013年頃、上海ではミルクティーがブームになる兆しが現れていた。二人はミルクティーが大きなビジネスになると感じたが、すでに人気のチェーンも登場しており、今から参入するにはよほど特徴がないと難しいとも感じた。

そんなある日、子どもを連れて上海市内を散歩していると、個人が経営しているミルクティーのお店に行列ができているのを発見した。古い店舗で、50歳をすぎた女性が経営していて、とても若者向きには思えないのに、若者が行列をしていたのだ。気になって行列に並んでみると、その店ではタピオカミルクティーを半分、八宝粥を半分を混ぜて売っていたのだ。味は優しく、お腹にも溜まる。男性にとっては間食としてもってこいであり、女性にとってはダイエット食としてもってこいだった。ただし、見た目がきれいでない。この見た目をSNS映えするものにできれば人気となり、さらに一過性のブームでは終わらない商品になるのではないか。

▲創業者の単衛釣、周蓉蓉の夫婦。子どもの進学のために上海に引っ越し、そこで八宝粥と中国茶を混ぜるという不思議な習慣に出会い、これがヒントとなり濾上阿姨を創業した。

▲滬上阿姨の赤もち米ミルクティー。健康的で、軽食代わりにもなり、香りがよく美味しいと人気になった。

 

温かい飲み物が受ける北部でチェーン展開

2013年7月、二人は上海市の人民広場の施設内に最初の店舗をオープンした。穀物ミルクティーを販売し、わずか25平米の小さな店舗ながら大人気となった。

次は、チェーン展開をすることだが、夫婦はここで考えた。そのまま上海で店舗数を増やしていくことは得策とは思えなかったからだ。ひとつは、大都市の家賃は高く、ドリンク店では利益のほとんどが家賃に消えてしまうこと。もうひとつは、穀物ミルクティーはホットで飲んだ方が香りが立って美味しく、北部の人に受けるはずだと考えられたこと。上海でも人気となったが、それは1店舗しかないからであって、多店舗展開をしたら珍しさがなくなって売れなくなるのではないかと考えた。

そこで、二人は北部の山東省に戻って、地方都市を中心にチェーン展開をすることにした。

北部でチェーン展開を進めながら、冷たい飲み物が好まれる南部の攻略をどうするかを二人は考えた。そこで、フルーツミルクティーが生まれた。これにより、2019年、広東省に進出をした。ホットの穀物ミルクティー、アイスのフルーツミルクティーともに天然の食材を使った優しい味で、「上海のおばさん」というブランドにも合っていた。

▲濾上阿姨の出店分布。ホットで飲むのが適していることから山東省に集中出店をしている。また、アイスで飲むフルーツティーを開発してからは広東省にも集中出店した。

▲初期の滬上阿姨店舗。ロゴも現在のものではなく、起業のヒントになった飲食店の女性店主のイメージをそのまま図案化したものだった。

 

上場申請まで漕ぎ着けたが投資家の評価は厳しい

2020年10月、嘉御資本から7500万元の投資を受け、そこから投資が続くようになり、店舗数も3000店を超え、企業価値は15億6000万元に達した。その後も投資が続き、現在の評価額は51億元に達し、香港証券取引所に上場申請をするところまできている。

しかし、投資家の評価は厳しいようだ。目論見書によると、2021年、2022年、2023年の営業収入は、それぞれ16.4億元、22.0億元、25.4億元となっている。しかし、2022年の蜜雪氷城の営業収入は135.8億元であり、古茗(Guming)は56.0億元、茶百道の42.3億元と比べるとかなり小さい。店舗数の点でも、濾上阿姨は7297店舗であり、蜜雪氷城は1万店舗以上、古茗は9000店舗以上、茶百道は7900店舗以上と、遅れをとっている。

店舗数の点でも遅れをとっているが、投資家が気にしているのは営業収入が他のチェーンと比べて極端に低いことで、つまりは利益率が低いということだ。売上が下がれば、すぐに利益は固定費に飲み込まれてしまって赤字になってしまう可能性がある。

▲滬上阿姨の現在のロゴ。「アントおばさん」をモチーフにしていることは同じだが、洗練されたものになった。店舗デザインも洗練され、海外のチェーンであると勘違いしている人も多い。

▲現在の標準店舗の設計。初期の頃と比べ大きく洗練され、アンティー・ジェニーという名前を前面に出しているため、海外のチェーンだと思っている人もいる。

 

急速な規模拡大に内部で混乱も

滬上阿姨では、営業収入を増やすために、店舗拡大を急いでいる。現在、滬上阿姨のフランチャイズに加盟するには4.98万元(約100万円)の加盟費を支払い、原材料を本部から購入するだけでロイヤルティーは不要と、ハードルを低くして加盟店を増やそうとしている。

しかし、急速な拡大に内部で混乱も起きていることが窺われる。2022年には、テンセントの女性用ゲーム「光と夜の恋」とのコラボキャンペーンを行った。しかし、SNSの濾上阿姨公式アカウントで、担当スタッフがこのゲームのことを「バツイチ女性を騙すようなゲーム」だとコメントしてしまい、ゲームファンの間で炎上をした。コラボ初日には合同イベントが開催されていたが、3時間後に中断をし、コラボキャンペーンは取り止めになるという事態になった。

また、カップの図案が問題にもなった。チャイナドレスを着ている女性が描かれているが、横のスリットが深く、脚の大部分が見えている。これは、外国人にとってはよく見かける表現だが、中国人にとっては複雑な思いを抱かせる表現になる。チャイナドレスの原型は旗袍(チーパオ)であり、本来は乗馬をすることが多い満州族の民族衣装だった。下にはパンツを履き、馬に乗るときには鞍にまたがりやすくなるようにスリットが入っている。

しかし、上海などの酒場で外国人の接待をする女性たちが、素足の上に旗袍を着るようになり、これがセクシーだと評判となってチャイナドレスが生まれた。つまり、チャイナドレスでスリットから足が見えているというのは、中国人にとっては屈辱的なものも感じさせてしまう。中国企業は中国文化に見識を持ち、尊重すべきだという苦情が寄せられた。

さらに、2023年11月にはミニプログラムを通じて、9.9元でミルクティーの引き換えクーポンを10万枚販売した。9.9元で購入すれば、ミルクティーに引き換えられるというものだ。しかし、販売が終わってみると、このクーポンは「9.9元の割引券」に勝手に変更された。先に9.9元でクーポンを買っているのだから、9.9元の割引をしてもらっても、結局は定価でミルクティーを買っているのと同じことになる。

▲問題になったカップの絵柄。右の女性のチャイナドレスのスリットが深く、素足が見えている。これは中国人にとって屈辱を感じる。

 

上場前の苦しみを乗り越えることができるか

滬上阿姨は、ミルクティーブームに遅れて参入し、差別化を図っていくことで成功した事例だ。しかし、香港上場を目前としたところで、急成長の歪みがさまざま現れてきているようだ。ここを乗り越えて、上場することができるかどうか、多方面から注目されている。