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知られざるミルクティーの故郷「平南県」。人口の20%以上がミルクティー関連に従事する町

ほとんどの人に知られていないミルクティーの故郷が平南県だ。1人の成功者が出たことで、ミルクティーの商売をする人が続出し、人口の20%以上がミルクティー関連に従事している。その町に、全国で成功した蜜雪氷城が出店したことにより、町の様子が一変したと半熟経済が報じた。

 

ミルクティーの故郷「平南県」

広西省地ワン自治区貴港市の小さな県である平南県(ピンナン)は、知られざるミルクティーの故郷だ。人口は111万人程度だが、そのうちの26.5万人が中国茶ミルクティー関連の仕事に就いている。平南出身者が開店をしているミルクティー店は、全国に6.3万軒もある。

平南発のミルクティーブランドは200以上もあり、多くは広西省チワン自治区広東省貴州省雲南省江西省などの小さな町に出店をしている。

現在のタピオカミルクティーのブームは、台湾台中市の春水堂が始まりで、2017年頃から中国、日本、韓国などに広がったものだが、中国では2000年代から中国茶を使ったミルクティーのスタンドが見られるようになっていた。その65%は、平南出身者によるものだった。そのため、平南はミルクティーの故郷と呼ばれる。

▲ミルクティーの故郷、平南県。中国茶ベースのミルクティーを出す店が密集して出店している。

▲小さな町に過剰な数のミルクティースタンドが出店している。価格は安いが品質は低い。都市生活者の多くは、平南県の存在を知らなかった。

 

1人の成功者が大量のフォロワーを生む

平南でミルクティーの原材料が収穫できるということもない。平南がミルクティーの故郷になったのは偶然のことからだった。90年代の終わりに、食用油を絞る仕事をしていた陳有傑という人が、台湾の春水堂のタピオカミルクティーが評判になっていることを知って、広州市の天河区に12平米の小さなスタンド「台客聚吧」を開店して、中国茶ベースのミルクティーを1杯1元で販売をした。これが受け、初日には8000杯も売れた。陳有傑は大儲けをし、春節に平南に帰り、自宅を建てた。

この話は、小さな町である平南県で評判となった。そんなにうまい儲け話があるのかと、平南の人が集まってきて、陳有傑に話を聞き、親戚からお金を借りてミルクティースタンドに挑戦をする人が続々と現れ、その数は500人にも達したという。

その中から成功をする人も現れる。すると、今度は親戚が「私もその商売がしたい」と訪ねてくる。成功した経営者は、快く親戚にノウハウを教え、支店を出させる。親戚は成功をすると、お礼として幾ばくかのお金を贈る。このような親戚ベースの原始的なフランチャイズ方式で、平南発のミルクティースタンドが広まっていった。

2016年に平南にショッピング広場ができると、そこに平南発のミルクティースタンドがこぞって出店をすることになった。ここはミルクティー街と呼ばれている。

▲90年代に平南県の人により出店された台湾タピオカミルクティースタンド。タピオカミルクティーのブームが起こるのは20年後のことだ。

▲平南県全景。人口111万人の小さな町だが、そのうちの20%以上がミルクティー関連に従事をしている。

 

地方だけに展開する独特のチェーン展開

平南のミルクティーには大きな特徴がある。それは品質はよくなく、安いということだ。現在でも5元以下という価格で提供をし、庶民の飲み物になっている。そのため、都市部に出店をしてもうまくいかないため、小都市や小鎮といった下沈市場=地方市場でチェーン展開をしている。

数百店、数千店のチェーンになることはなく、親戚、知人のネットワークを活かした数十店のチェーンが限界で、成長も考えない。日銭が稼げて暮らしていくことを目的とした地方の商売だ。若者に受けるようなオシャレ感もなく、都市生活者の視界には入ってこないし、地方に行ってこのようなミルクティースタンドを見かけても買うのはためらわれ、多くの人がスマホスターバックスや喜茶の場所を検索してしまうことになる。

▲平南ミルクティー協会に参加をしているブランド。多くが広東省などに出店し、小規模なチェーン運営をしている。

 

平南県に蜜雪氷城が出店をしたことで大波乱

しかし、平南のミルクティー街に蜜雪氷城(ミーシュエビンチャン)が出店をしたことで波乱が起きている。蜜雪氷城は、河南省商丘市出身の張紅超が、1998年に鄭州市で創業し、レモン水5元、ソフトクリーム3元という低価格で下沈市場に次々と出店し、2022年末で2万1619店を出店し、現在、深圳証券取引所に上場申請をしているという大成功をしているチェーンだ。出自は、平南のミルクティースタンドと同じだが、全国規模の成功をしている。

この蜜雪氷城が平南のミルクティー街に出店をした。価格でも平南のミルクティースタンドは太刀打ちができない。多くのミルクティースタンドの価格は9元が相場になっているが、蜜雪氷城は7元で販売をしている。蜜雪氷城には店舗の前にマスコットの雪だるまの着ぐるみに入った人が踊り、全国的に人気となったテーマソングで通行客を惹きつける。SNSを使ってクーポン券を配布し、集客をする。地元の人たちも蜜雪氷城にいくようになり、あっという間に平南のミルクティー街でいちばんの人気店になってしまった。

▲平南県に蜜雪氷城が出店をすると、あっという間にお客を奪われてしまった。これにより、平南県の様子が様変わりをした。

▲蜜雪氷城の脅威にさらされたミルクティースタンドは、都会のブランドに学び、内装などを一気に今風のものに変えた。

▲蜜雪氷城の脅威にさらされたミルクティースタンドは、モバイルオーダーやデリバリーにも対応をした。

▲蜜雪氷城の脅威にさらされたミルクティースタンドは、こぞってSNS「小紅書」に公式アカウントをつくり、情報発信を始めた。

 

品質があがり、知名度があがるミルクティーの故郷

平南のミルクティースタンドたちの中には、商売をあきらめてしまう人もいた。しかし、生き残っているチェーンは、奈雪的茶や喜茶といった都会の中国茶カフェに学ぶようになった。

店舗のインテリアを刷新し、若者たちが好むような内装にし、さらにフードデリバリー、モバイルオーダーにも対応をし始めた。また、SNS「小紅書」に公式アカウントをつくり、情報発信を始めている。

2022年の夏、ネットでは「××であなたのことを思う」というフレーズが流行した。旅行にいった時などに美しい風景の写真を撮り、地名を入れて、恋人や家族に贈るメッセージとして使われた。平南のミルクティースタンドの「沁口香檸」では、店舗の前にこの流行フレーズを使った看板をつくり、SNSで発信をした。

平南のミルクティー街は、地方のさえないスタンドの集まりにすぎなかったが、蜜雪氷城の出店により、大きく変わり始め、遠方からわざわざミルクティーを飲みに平南を訪れる人も増え始めている。

以前は多くの人が知らなかった、「知られざるミルクティーの故郷」だったものが、SNSでもよく知られる「ミルクティーの故郷」になろうとしている。

▲「××という場所であなたのことを想っています」というフレーズがSNSで流行すると、そのフレーズを使った看板が設置された。写真を撮ってもらうためだ。この看板めあてに都会から訪れる観光客も増えているという。