ブームになっているマイクロドラマ。低予算で制作をするが、ヒットをすれば収益は莫大ということから、プロたちが続々と参入をしている。マイクロドラマのヒットの鍵はストーリーの面白さで、そのため、脚本の売買が熾烈になってきていると新榜が報じた。
プロが続々参入するマイクロドラマ
今、中国でブームとなっているのが「微短劇」=マイクロドラマだ。1話は1分から2分程度で、それが50話、100話ある。1話から10話までは無料で見られるが、次の20話から30話までを見るには課金をしなければならない。さらに、次の30話から40話までも課金が必要と、最後まで見るにはそれなりの料金がかかる仕組みになっている。しかし、映画に行くよりは安く、ストーリーに惹きつけられて見てしまう人が多く、利益が出ることから多くのプロたちが参入を始めている。
元々は、コロナ禍で、仕事を失った映画やテレビドラマ関係のクリエイターたちが集まって、仕事もないのでつくってみたところ、小遣い稼ぎになるどころか、映画やドラマの仕事よりも儲かるというケースも出てきたことから盛り上がりを見せている。
低予算でつくり、あたれば大きい
100話まであると言っても1話1分程度なので、映画1本、単発ドラマをつくる程度の労力ですむ。さらに、視聴者の目当ては、クオリティの高い映像ではなく、ストーリーの面白さ。次から次へと「続きはどうなるだろう」と思わせてくれることが重要で、セットなどにお金をかける必要はない。スマートフォンに合わせて、縦型動画となるため、たくさんの人物を登場させたり、自然の風景は合わないため、室内での映像が多くなる。つまり、低予算で10日ほどでつくってしまい、あたれば大きい。そんなところから、多くの人が参入を始め、競争が激化をしている。
脚本の質がヒットを決める
しかし、脚本はきわめて重要だ。面白い脚本かどうかでヒットするかどうかが決まる。このため、制作チームはチーム内の脚本家だけでなく、外部からも面白い脚本を購入するようになり、フリーランスの脚本家がにわかに増えている。
脚本家はまずサンプルを自分で書き、それをさまざまな制作チームに売り込む。この時は、300字から500字程度の概要と、1話1000字程度の脚本10話分を書いて提案をする。
採用された場合、報酬に関しては買取りということが多くなるが、報酬の支払い方には「334」と「37」の2つの方式があるという。334は、採用時に30%、50話まで完成した時に30%、脚本が完成した時に40%支払われるというものだ。37は採用時に30%、完成時に70%が支払われるというもの。
このため、脚本家は最初の10話を面白くすることに力を入れる。最初の10話が魅力的であれば、その後のストーリーが多少凡庸であっても、見続ける人は多いため、脚本家も制作チームも最初の10話のできを重要視している。
舞台設定を工夫することでヒット
この脚本の競争は激しくなってきて、制作チームに提案された脚本の中で、実際に採用されるのは10本に1本以下になってきているという。というのは、人気のある設定というのはほぼ固まっていて、人間の欲望に直結するお金、恋愛、社会的地位をめぐる愛憎劇だからだ。その中で、そうそう斬新なプロットを考えるというのは簡単ではない。
現在、ヒットとなっている「私は80年代の世界で継母になった」は、女子大生が80年代にタイムスリップした後、養豚場のオーナーと結婚して家庭を築くという物語だ。ストーリー的には、富裕層の家に嫁ぎ、家族との軋轢があるという典型的なホームドラマだが、80年代という舞台設定が受けた。今、中国では、昔を懐かしむという点で80年代の文化が注目されている。80年代は養豚場経営で成功したオーナーが富裕層の典型で、今の富裕層とはまた違った描写をすることができる。ストーリーとしては平凡かもしれないが、設定を変えることで成功をした。
一過性のブームで終わってしまうか、産業として定着するか
iiMediaが公開した「2023-2024中国マイクロドラマ市場研究報告」によると、2023年のマイクロドラマ市場は373.9億元(約7700億円)となり、2022年からは267.65%も増加をした。報告書によると、2027年には市場規模が1000億元の大台を突破するという。
しかし、マイクロドラマは7年ほど前にも話題となったが、あまり人気を得ることができず消えていった過去がある。当時は、課金モデルではなく、広告モデルであったために、うまく収益化することができなかった。今回のブームも一過性のものとして消えていくのではないかという不安は関係者の多くが感じている。そうならないためには、やはり脚本の質が重要になる。プロの脚本家がマイクロドラマに参入をしているだけでなく、まったく実績のない素人が脚本を書いて制作チームに提案をすることも増えている。そこで、どれだけ新しい才能、新しい着想が生まれてくるかが、マイクロドラマ市場が成長するか、消えてしまうかにかかっている。