上場したばかりの中国茶カフェ「奈雪的茶」の業績が悪化をしている。洗練された中国茶ドリンクと、欧州風のパンが楽しめる体験重視のチェーンで、女性に人気となっていた。しかし、上場後、店舗数を急増させ、メニューも拡充する中で、「体験」が曖昧になり始めているとRQ商業観察室が報じた。
上場した奈雪的茶の業績が悪化
2015年に創業した中国茶カフェ「奈雪的茶」が苦境に立たされている。鉄観音や烏龍茶をベースにアレンジしたドリンクと、フランスパンをベースにアレンジをした菓子パンを販売し、20歳から35歳の女性を中心に歓迎され、2021年には香港証券取引所に上場をした。
共同創業者の彭心氏は、奈雪的茶にとって店舗が重要であることを強調する。「店舗は商品を販売する場所だけではなく、私たちのブランドを体験してもらう場所だと考えています」。
上場後に損失が拡大傾向に
しかし、上場後、2022年第1四半期、2022年上半期と2回の財務報告書が公開されると、その業績数字に多くの人が落胆をした。店舗の人気に反して、損失が拡大をしているのだ。
2022年上半期の財務報告書によると、営業収入は前年同期比で3.8%減少し、純損益は2.49億元となり、昨年は黒字であったものが赤字転落となり、2021年通年の純損益の1.7倍となった。
つまり、上場をした年の業績はよかったものの、上場をした途端に突然赤字企業に転落をしてしまったことになる。
その理由を奈雪の茶は、コロナの感染再拡大と市場環境の悪化の2つの理由を挙げているが、財務報告書を読み解くと、奈雪の茶自身の戦略に問題があることが見えてくる。
店舗展開が早すぎて、店舗間でのカニバリズムも
問題の最大のものは、店舗を重視しすぎる戦略だ。奈雪的茶は猛烈な勢いで店舗展開をしており、上場をした2021年には326店を新規開店し、現在、85都市に904店舗を展開している。しかもほぼすべてが直営店だ。
奈雪的茶は、中国茶版スターバックスを目指していて、元々店舗展開を積極的に行っていたが、店舗を展開するということは支出が大きく増え、店舗も競合するようになり店舗売上は下降をしていくことになる。
効率の悪い体験店舗を大量出店してしまった
さらに、店舗は「ブランドを体験してもらう場所」でもあるため、店舗効率がよくない。RQ商業観察室がまとめた奈雪の茶と喜茶(HEY TEA)の店舗収益構造の比較では、奈雪の茶の坪効率(1平米あたりの売上)は年5万元であるのに対し、HEY TEAでは年12万元となり、大きな差がついている。
坪効率の高い小型店、スタンド店を積極展開していくのであれば、業績にもプラスの効果をもたらすが、坪効率の悪い大型店、標準店を積極展開するのは業績にマイナスの効果をもたらす。
奈雪的茶は2022年になって小型、スタンド型の第2類PRO店の展開を急いだが、現在のところ、業績を戻すところまでの効果は出ていないようだ。
しかも、それまで大型店舗=ブランドを体験する場所が中心であったのに、一部のファンからは小型のPRO店の評判がよくない。それまで奈雪的茶の楽しみ方は、飲食だけでなく、洗練された空間の中で飲食を楽しむという体験も大きかった。PRO店ではその体験ができない。しかも、一部の消費者からはパン類の鮮度が落ちているのではないかという疑惑もあげられている。
ユニークなプロモーションも炎上
奈雪的茶は、バーチャル株式という仕組みを2022年6月30日から始めて失敗をした。奈雪の茶では独自の還元ポイント制度を持っている。購入金額1元につき1ポイントがもらえるというもので、一定量たまると景品やクーポン券などに引き換えることができる。
この引換対象にバーチャル株式を追加した。バーチャル株式とは、実際の奈雪の茶の株価と香港ドルとの為替相場により決まるもので、ポイントをバーチャル株式に交換し、好きな時にポイントに戻すができるというものだ。株価が安い時にバーチャル株式に交換をし、株価が高い時にポイントに戻せば、得をすることができる。奈雪の茶の株価にも興味を持ってもらおうというプロモーションのひとつだ。
しかし、始めて見ると、このバーチャル株式の仕組みが、賭博にあたるのではないかという指摘が相次ぎ、2週間後にこの仕組みは停止をすることになった。
さらに、昨年12月にはオリジナルのNFTアートグッズ「NAYUKI」シリーズを公開した。購入者は、価格が高騰した時に転売をすれば利益を得ることができる。
このような施策は話題を集め、宣伝効果はあったが、それ以上に宣伝費を使うことになった。財務報告書によると、2021年上半期の広告プロモーション支出は3748.4万元であったものが、2020年上半期には7519.7万元と倍増近くになっている。ユニークな試みではあるものの、業績が低迷をしている時にやるべきプロモーションであるのかと考えると疑問が残る。
メニューの拡充が、ブランド体験を曖昧にさせた
そして、最大の問題がブランドのコンセプトが曖昧になり始めていることだ。奈雪的茶は創業当時、「一口好茶、一口欧包」という消費者メッセージを多用していた。美味しいお茶を飲み、ヨーロッパのパンを食べるというもので、ターゲットにした若い女性に刺さるメッセージだった。日差しの穏やかな季節の午後に、洗練された店内で、中国伝統のお茶をモダンにアレンジした飲料と、欧州の香りがするケーキのようなパンを食べるということが憧れとなり、奈雪的茶に客を惹きつけることに成功した。伝統とモダン、健康とエコなどのイメージを確立することに成功した。
しかし、現在ではメニューが野放図に増えている。タピオカティーやフルーツジュース、さらにはアイスクリームをふんだんに使った中国茶ドリンクなども登場している。パン類も健康的なものだけでなく、さつまいもクリームを使った甘味の強いパン、お腹を満たすことができるボリュームのあるパンなども登場している。
需要に応えるたびに、当初のコンセプトは揺らいでいき、現在では中国茶ドリンクも楽しめるパン屋さんになってしまっている。
戦略転換が求められる奈雪的茶
店舗を中心にした飲食チェーンが苦境に立たされているのは奈雪的茶だけの話ではない。2022年の新型コロナの感染再拡大により、客流が途絶え、多くの店舗ビジネスが苦境に立たされている。奈雪的茶は、財務報告書ではコロナ禍と市場環境の急激な変化を理由に挙げているが、実態は奈雪的茶の戦略そのものに問題があるようだ。財務報告書で戦略の誤りに触れていないのは、株主を意識してのことかもしれないが、早急に戦略転換をしない限り、コロナ禍が終息をしても、奈雪的茶の苦境は続くことになるかもしれない。