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ライブコマース成功の方程式は、私域流量×コンテンツ消費時間で決まる。ゲームチェンジが起きたEC

快手、抖音のライブコマースが急成長をしている。快手は2018年から流通総額が4000倍になるなど、驚異的な成長ぶりを見せている。その鍵は、消費者の信頼を得て、リピート購入をしやすい私域流量にある。快手では、流通額を増やすための方程式も、伝統的なECとはまったく違ったものになると提唱していると胖鯨研究所が報じた。

 

わずか3年で4000倍に成長した快手のライブコマース

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)、快手(クワイショウ)、淘宝網タオバオ)のライブコマースが急成長をしている。快手科技の財務報告書によると、2020年のライブコマースの流通総額(GMV)は3811.7億元(約6.5兆円)となっている。ところが、2019年は1771.1億元、2018年は0.966億元でしかなかった。3年で4000倍に成長したことになる。

抖音を運営するバイトダンスは未上場企業であるため、詳細な数字は不明だが、バイトダンスは2020年のGMVが5000億元(約8.5兆円)を突破したことを公表している。タオバオは、タオバオで販売されている商品をライブコマースで紹介するという形式であるためライブコマースのみのGMVは不明だが、同様の規模に達していると見られている。

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▲快手のライブコマースの流通総額。2018年はわずか0.966億元で、2020年はその4000倍に急成長した。

 

すでにBtoC流通総額で世界10位以内に入る躍進

この規模は、にわかに信じられないほどの大きさだ。国連貿易開発会議(UNCTAD)は、レポート「Estmaites of Global E-Commerce 2019 and Preliminiary Assessment of COVID-19 Impact on Online Retail 2020」の中で、世界のBtoCサービスのGMVランキングを掲載している。2019年のデータに基づいているため、快手、抖音のライブコマースは登場していないが、ここに2020のGMVをはてはめると、それぞれ9位、7位に相当する。

わずか3年で、世界のトップ10にランキングされるECが2つも登場したことになる。

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▲国連貿易開発会議の2019年の世界BtoCサービスの流通総額ランキングに、快手、抖音の流通総額を当てはめてみると、7位と9位に相当する。僅か3年で、世界クラスのECが登場したことになる。

 

公域流量の伝統的EC

2021年3月21日、快手は、初めての販売業者大会「引力大会」を杭州市で開催した。快手ライブコマースの責任者である笑古(シャオ・グー)氏が登壇をし、「ライブコマース2.0時代」という概念を説明した。鍵になるのは「コンテンツ+私域流量」だ。

タオバオやアマゾンなどのような伝統的なECは、商品棚方式をとっている。これは「商品+公域流量」のモデルとなる。公域流量(パブリックトラフィック)というのは、典型的なのは検索や広告からの流入だ。消費者の頭の中には、具体的な商品がイメージされていて、それを検索したり、広告を見かけたりして、ECサイト流入をしてくる。あるいはタオバオのような信頼できるECにアクセスをして、それから商品を検索する。

 

私域流量のライブコマース

一方で、ライブコマースは「コンテンツ+私域流量」のモデルだ。この引力大会では、成功した配信主として参爺(シェンイエ)が紹介された。すでに500万人近いファンがいて、2020年の優秀配信者にも選ばれた人で、健康食品やサプリメントを販売している。

参爺は健康食品の店舗を10年以上も前に開き、他のECでの販売も始めていた。しかし、売上は目立って大きなものとは言えなかった。2020年の9月に快手に参入すると、わずか3ヶ月でファン数が100万人を突破、月商1300万元(約2.2億円)を超えた。

参爺はライブコマースだけではなく、ショートムービーも数多く公開している。その中で、健康食品の製造工場や生産地を訪問し、健康食品の原材料がどのようにして生まれてくるのかをレポートしている。また、身近な食品の原材料表示の読み方を解説して、健康な食生活をすごすためのコツなどを紹介している。

500万人のファンは、このようなコンテンツに惹かれ、参爺のムービーを見にくる。そして、ライブコマースで参爺が健康食品を販売すると、商品に対して信頼ができるため、購入をする。これがコンテンツ志向の私域流量(プライベートトラフィック)だ。

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▲2020年の優秀配信者にも選ばれた参爺。健康食品をライブコマースで販売している。製造現場からレポートするなど、製品が安全で質が高いことがわかるムービーを多数発表している。

 

成功の公式がまったく異なる伝統的ECとライブコマース

笑古氏は、ライブコマースは伝統的なECとはまったく違った考え方で運営する必要があるという。そこで、笑古氏は伝統的なECとライブコマースの公式を紹介している。

伝統的なECの公式とは、

GMV=UV×コンバージョン×客単価

というものだ。UVとはユニークビジター(訪問者)のこと。売上をあげるには、この3つの項目をそれぞれ高めればいいことになる。UVを高めるために、広告を打ち、コンバージョンを高めるために時間限定割引セールやポイント付与を行い、客単価を高めるために2個目以降は割引するなど、3つの項目に着目して施策を考えていく。

一方で、快手ライブコマースの公式は次のようなものになる。

GMV=UV(私域固定UV+公域流動UV)×コンテンツ消費時間×単位時間コンバージョン×客単価×リピート率

合計5つの項目が登場し、ライブコマースを成功させるには、この5つの項目ごとに施策を考えていくことになる。

 

私域流量とコンテンツ消費時間が決め手になるライブコマース

UVは、私域流量と公域流量の2つからなる。この中で重要なのは私域流量で、私域流量を高めるにはコンテンツの内容を高め、ファン数を増やしていくしかない。一方で、新規にファンになってもらうために公域流量も集める必要がある。これには、広告やSNSによる拡散を利用する。

コンテンツ消費時間は、長ければ長いほどいい。ムービーの内容を飽きさせないように工夫をしたり、あるいは他のムービーも見たくなる工夫をする。また、コンバージョンやリピート率を高めるには、配信主と商品に対する信頼感を作らなければならない。

この5つの項目は、快手の配信主にはすべて数値化されて表示されるようになっている。数値の変化を常に把握をし、弱い項目を改善する工夫をすることが重要だという。

 

品質にばらつきが多い食飲遊楽泊領域がライブコマース向き

このようなライブコマースの公式を改善していくには、非標準品がうまく適合しやすいと笑古氏は言う。電子製品のようなどこで買っても同じ商品ではなく、参爺が販売するような健康食品、酒、旅行など食飲遊楽泊関連の商品がライブコマースには適している。市場で、品質や価格が玉石混交状態になっている商品で、質の高い商品を提案し、信頼を得ることがライブコマースで成功するひとつの道になっている。

 

快手が意識をするライバルはテンセントのWeChatチャネルズ

現在、ライブコマースの分野では抖音と快手が急成長をしているが、快手では、ダークホースとしてWeChat視頻号(WeChatチャネルズ)の動向を注視しているという。

WeChatチャネルズは、テンセントのWeChatのひとつの機能で、TikTokに対抗してショートムービーが共有できるようにしたものだ。国民的インフラともなっているWeChat内の機能であるために、2020年末で日間アクティブユーザー数が2.8億人となり、快手の3.0億人に接近をしている。すでにライブ配信、オンライン販売機能なども備わり、これからWeChatでのライブコマースが本格化をする。

また、WeChatチャネルズが強いのは、「WeChat豆」と呼ばれる投げ銭の仕組みがあることだ。ライブコマース配信者は、私域流量を集めることで、商品の販売と投げ銭という2つの収入源が得られるため、ライブコマース配信者がWeChatチャネルズを利用する傾向が生まれる可能性もある。

ライブコマースは現在でも成長中だ。今後も、快手と抖音が中心になることは確実だが、そこにWeChatチャネルズが加わるかもしれない。