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ファーウェイの独自開発OS「ハーモニーOS NEXT」とは。脱Androidだけではないその意味

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今回はファーウェイが発表した「ハーモニーOS NEXT」についてご紹介します。

 

2024118日、ファーウェイの「鴻蒙系統」(ホンモン、HarmonyOS)の新しいバージョン「鴻蒙星河版」(HarmonyOS NEXT)が発表になりました。現在のハーモニーOS4.0で、この新たに発表されたOSはハーモニーOS 5.0に相当するものです。それを5.0ではなく、NEXTという愛称をつけたのは、大きく変わった次世代版だということをアピールするためです。

最も大きいのは、サービス各社が続々とハーモニーネイティブアプリの開発を発表したことです。これまでのハーモニーOSは、Androidアプリのランタイムルーチンを内部に持っていたため、Androidアプリを実行することが可能でした。アプリの実力をフルに発揮するには、本来はハーモニーOSネイティブアプリの方がいいわけです。しかし、これまでなかなかネイティブ版アプリは登場してきませんでした。サービス各社にしてみれば、コストがかかってしまうからです。これまでもiOS版、Android版を別々に開発しなければならなかったのに、さらにハーモニー版をつくるというのは厳しいというわけです。

それがファーウェイMate60などの復活により、ハーモニーOS利用者が3億人を突破、搭載デバイス8億台を突破というボリュームになってきました。もちろん、そのほとんどが中国国内ですが、ユーザー規模としてはAndroidiOSに続く規模となったため、中国のサービス各社はコストをかけてもネイティブ版アプリを開発する意義があると判断したわけです。

特に「微信」(ウェイシン、WeChat)、「支付宝」(ジーフーバオ、アリペイ)などのスーパーアプリ、「小紅書」(シャオホンシュー)、「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)などのSNS、「王者栄耀」などの人気ゲーム、さらにはマクドナルドなどの外資系企業もネイティブ版アプリの開発を宣言しています。主要アプリはほとんどと言ってかまいません。2024年末にはネイティブアプリの数が5000に達するとされています。

これにより、エンジニアの間ではちょっとしたハーモニーブームが起きています。どのサービス企業でもハーモニー関連のエンジニアがまったく不足しているため、高給で募集がかかっているからです。ハーモニーといっても、開発言語はAndroidと同じようにJava/C/C++/JavaScripなどなので、Androidアプリ開発経験のある人であればスムースに転身をすることができます。もちろん、後ほど触れますが、開発環境はAndroidとかなり違うため、新しく学ばなければならないことは多いですが、自分のスキルを活かしながら報酬を大きく増やすチャンスであり、久々に湧いていて、人材の流動が激しくなっています。

 

いかにハーモニーOS NEXTが素晴らしいもので、中国のテック業界が盛り上がりを見せても、しょせんは中国ローカルの話、なのでしょうか?というのが今回のメルマガの大きなテーマです。確かにハーモニーOS搭載のスマホは日本では発売にならないでしょうし、発売になってもほぼ売れません。なぜなら、グーグルのアプリ群=GMSGoogle Mobile Service)が搭載できないからです。Google検索やChromeブラウザーは代替があるとしても、アプリストアのGoogle Play、地図のGoogle Mapsがないというのは致命的でしょう。

しかし、ハーモニーOSは、次第に海外に展開できる道筋が見え始めています。その理由は2つあります。ひとつはグーグルの凋落で、もうひとつはスマホ以外の家電や自動車への搭載です。

 

グーグルが凋落をしているなどというと、「この人は何を言っているのか?」と驚く方もいるかもしれませんが、グーグルのビジネスは順風満帆ではありません。

次の図は米国の調査会社「eMarketer」のデータです。「Slow fade for Google and Meta's ad dominance」(グーグルとメタの優位性はゆっくりと後退する、https://www.axios.com/2022/12/20/google-meta-duopoly-online-advertising)という記事より引用しました。

▲これまでデジタル広告の市場シェアの70%を占めていたグーグルとメタが、広告収入を下げ始めている。

 

米国のデジタル広告収入のシェアの実績と予測で、メタとグーグルの広告収入は大きく減少するモードに入っています。その代わりに大幅に増加をしているのがECで、アマゾン、eBayウォルマートなどです。つまり、デジタル広告を出稿する場所が、検索広告やウェブのバナー広告からEC内への広告へとシフトが始まっているのです。一体何が起きているのでしょうか。

このすべての始まりは、アップルが2017年から導入したITPIntelligent Tracking Protection)の影響です。アップルの公式ブラウザーSafariに導入されたもので、簡単に言えばcookie(クッキー)を消去してしまう仕組みです。そのため「クッキー規制」と呼ばれることもあります。cookieというのはどのブラウザーにも搭載されている機能で、小さな保存用のファイルです。ECにウェブからアクセスをすると、ログイン状態が保存され、次からはIDとパスワードを入力しなくてもよくなります。これはログインしているということをcookieに保存をしているからできることです。cookieは本来はこのような便利なものでした。

しかし、グーグルとメタは、この仕組みをうまく使い、その人がどんなサイトを閲覧してきたかを把握できるようにしました。これはサイト越えトラッキングと呼ばれます。例えば、ハワイ観光局のサイトやワイキキのレストランのサイトを見た人が直後にオンライン旅行会社のサイトにアクセスしたとしたら、この人はハワイ旅行商品の有望な見込み客であるということがわかります。それがわかれば、旅行会社はトップページにハワイ旅行パッケージのおすすめ商品をいきなり表示すれば、消費者の心を捉えることができ、購入率(コンバージョン)が大きく上昇するかもしれません。

しかし、これは正しいことでしょうか。その人がどんなサイトを閲覧したかというのはプライバシー情報です。それを利用して、商品を効率よく売ろうとすることはモラルに合致するものでしょうか。どう捉えるかは、人それぞれです。しかし、アップルはサイト越えトラッキングはプライバシー侵害だと考えました。

アップルはプライバシー特設サイト(https://www.apple.com/jp/privacy/)でこう書いています。「こんなことをする必要はありません。広告主は、ユーザーを追跡しなくても、広告キャンペーンの効果を測定できるのです。Appleは、ユーザーのプライバシーを守りながら広告キャンペーンの効果を測るツールの開発に取り組んできました」。

つまり、モラルに反しない方法があるのにも関わらず、それが楽だから、手っ取り早く効果があるからといって、消費者のプライバシーを侵害するのは正しいことですか?と問いかけています。そして、ITPを導入し、グーグルやメタに大きな打撃を与えました。

アップルのSafariからのアクセスでは、(設定をオンにしていれば)どのサイトを閲覧したかという情報はサイトや広告プラットフォームに伝わりませんし、その人がこれまでにそのサイトに何回アクセスしたかすらわからなくなりました。つまり、広告プラットフォームは、正確なユーザー分析を広告主に提出することができなくなり、デジタル広告業界はパニックになっています。そのため、今では多くのサイトが、初めてアクセスすると「cookieを受け入れることに同意してください」というダイアログをを出すようになりました。サイト越えトラッキングは、違法ということではなく、利用者が同意をするのであれば問題ありません。そのため、多くのサイトが利用者の同意を取り付け、トラッキングを有効にしようとしているのです(ただし、サイト超えトラッキングにより消費者が受けるリスクについてきちんと説明しているサイトはほぼ見たことがありません)。

それに応じるかどうかは、ご自身の判断です。トラッキングに同意をすれば自分のプライバシーを提供する代わりに、そのサイトを便利に利用することができるようになります。ただし、そう考える人は少数派で、よく利用するサイトであればともかく、たまたま検索で引っかかったよく知らないサイトでは拒否をする人が多いようです。これによりデジタル広告を出稿する意味がなくなり、広告出稿量が減少をしているのです。

一方、アマゾンなどのEC内の広告は好調です。アマゾンは、アマゾンの中で利用者がどのような商品を見て、どのような商品を購入したかを把握しており、広告効果が高いからです。これにより、ウェブ広告からサイト内広告へのシフトが起きています。

 

グーグルの強みは検索の性能でした。しかし、これにもかげりが見られます。というのはSEO対策が過度に進み、検索上位に不要なサイトばかりが表示されるようになっているからです。SEO対策とはSearch Engine Optimiziton(検索エンジン最適化)のことで、ウェブの構造を工夫することにより、検索上位に表示させる技術です。

ウェブサイトの訪問者を増やしたい企業は、大量のランディングページを制作します。例えば、洗濯機の販売サイトであれば「ドラム式と縦型式の違いとは」「洗濯機にカビを完全にシャットアウトする意外な方法とは」など、グーグルの検索数のデータを見て、洗濯機に関係のありそうな単語を抽出し、それに基づいて記事をつくります。そして、SEO対策を施していきます。すると、検索でその記事が引っ掛かる可能性が高くなり、自社サイトに誘導できるというわけです。

もちろん、そのような記事に優れた内容のものもありますが、多くは、他の類似した記事を真似て構成し、他社も同じことをするために、グーグルで何かを検索すると上位にずらりとこのような内容がほぼ同じの広告記事が並ぶことになってしまっています。

グーグルもこのことは問題に感じているようで、検索順位の表示アルゴリズムを日々改善していますが、イタチごっこになってしまっていて、なかなかこの状況が改善できません。

ここにグーグル検索のライバルが登場しています。AI検索のBing(ビング)です。ビングではChatGPTをベースにした対話型AIが回答をしてくれますが、その回答の根拠となったウェブをソースとして提示してくれます。そのため、グーグル検索で検索結果を上から下まで読んでいくより、ビングで一度で聞いてしまった方が早いのです。実際、多くの企業が程度は異なるものの「グーグル検索からの流入が減って、ビングやSNSからの流入が相対的に増えている」と言います。

 

また、アップルとグーグルのアプリストアも独占が指摘され、他のアプリストアも登場をしてきています。アップルもEU市場などで公式アップストア以外のアプリストアを認めざるを得ない状況になっています。

つまり、これまではGMSがなければスマホとして成り立たない状況でしたが、もはやなくてもなんとかなる状況にきています。

しかし、中国以外にグーグルのサービスなしのスマホを使う国があるでしょうか。EUはその可能性がじゅうぶんにあります。EUはモバイルインターネットの分野では米国に大きく遅れをとったため、さまざまな国際規格を制定することで、この分野での主導権を取ろうとしています。GDPR(一般データ保護規則)がその最たる例で、個人のデジタル情報を保護するためのルールですが、事実上の世界標準となり、欧州以外の企業もGDPRに準拠をするのが常識になっています。欧州でビジネスを展開するにはGDPRに従わなければならない。だったら、そもそもGDPRに準拠するように商品やシステムを設計した方が賢いわけです。

さらに、EUはさまざまなルール設定を行い、グーグルのアプリストアの独占、グーグルショッピングの検索順位が不当に上位に表示される問題、アップルがUSB Type-Cに対応しないことなど、独占禁止法がらみの問題も次々と指摘しています。EUは、米国企業による独占を抑え、欧州市場で複数のプレイヤーが公正に競争をすることを望んでいます。そこにファーウェイのハーモニーOSが参入をしてくると、欧州のスマホプラットフォーム市場はアップル、グーグル、ファーウェイの3社で競い合うことになり、非常に健全な状況となります。そのような競争がある市場では、欧州のテック企業もさまざまに参入する余地が生まれることになります。

ファーウェイはハーモニーOSの海外展開については、特段アナウンスをしていませんが、中国の中だけにとどまるものではなく、海外展開をする余地はかなり出てきています。日本や米国で普及するとは思えませんが、中国とEU、アジア圏、中東、アフリカなどで普及することで、アップルやグーグルと対抗できるプラットフォームになる可能性は否定できません。

では、ハーモニーOS NEXTとはそもそもどの程度の実力があるプラットフォームなのでしょうか。今回はハーモニーOS NEXTについてご紹介します。

 

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