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消えゆく長距離バス。閉鎖が続くバスターミナル。移動は長距離バスから高鉄やマイカーに

この数年、長距離バスターミナルの閉鎖が続いている。長距離バスよりも高鉄を利用する人が増えているからだ。一方で、地方中核都市が発展をし、長距離移動する人そのものも減少していると正解局が報じた。

 

消える長距離バス、閉鎖されるバスターミナル

長距離バスが消滅の危機に直面している。中国では長年、長距離移動の低価格な移動手段として長距離バスが利用されてきた。日本の夜行バスに相当するものだ。ある程度の規模の都市には必ずバスターミナルがあり、そこから中距離、長距離のバスが発着している。

しかし、昨年2023年10月7日、53年間営業してきた福建省福州市のバスターミナルが閉鎖となった。それだけではない、3月には湖北省武漢市の武漢漢口北旅客輸送センターが閉鎖となり、安徽省合肥市では、合肥バスターミナルが閉鎖となり、合肥旅客ターミナルに統合された。9月には、アモイでは枋湖長距離バスターミナルが閉鎖となった。

広東省の統計によると、2021年だけで、広州市では10のバスターミナルが閉鎖となり、広東省全体では42のバスターミナルが閉鎖となった。これは広東省だけのことではなく、全国でバスターミナルの閉鎖が続いている。

▲53年間営業してきた福建省福州市のバスターミナルも昨年10月に閉鎖となった。

合肥バスターミナルは閉鎖となり、市内にある別のバスターミナルに統合された。

 

発着バスは1/10。閑古鳥が鳴くバスターミナル

生き残っているバスターミナルでも人影が少なくなっている。上海市の上海中山旅客ターミナルでは、最盛期には1日120本以上が出発をしていた。乗車率は全体でも70%を超えていた。しかし、今は1日に10本程度のバスが出発するだけで、50人乗りのバスに10人乗っていればいい方で、数人ということもしばしばある。

上海には大小合わせて40近いバスターミナルがあったが、現在は20程度にまで減少している。

▲上海中山旅客ターミナルは営業を続けているものの、ショップの多くが撤退をしてしまっている。バスを待っている間に食事をしたり、お茶をすることもできず、ただバスを待つだけになっている。

 

10年で利用者が1/3になった理由

それも当然だ。交通運輸部の統計によると、道路旅客輸送量は2012年には355.7億人だったものが、2022年にはわずか35.46億人まで減少している。わずか10年で、1/10以下になってしまっているのだ。理由は3つある。

ひとつは、中国版新幹線「高鉄」や高速道路が充実をしてきたことだ。多くの人が多少高くても、早く着くことができる高鉄を選ぶようになっている。例えば、成都市から宜賓までは高鉄では1.5時間だが、長距離バスでは3.5時間かかる。乗車料金は高鉄が110元で、長距離バスは106元とほぼ変わらない。これにより、長距離バスは60元に値下げをしたが、高鉄に流れた旅客を取り戻すことはできなかった。高鉄のシートは広く快適だが、長距離バスのシートは狭く、乗り心地も悪く、それに3.5時間も耐えなければならないことで、多くの人が高鉄を選ぶようになった。

一方、バスで、1時間から2時間程度の場所であれば、多くの人が車を持つようになったため、マイカーで高速道路を使って移動する。1人では長距離バスよりも割高になるが、3人以上で移動すれば長距離バスよりも割安になる。

▲バス利用者は、この10年で355.7億人から35.46億人と1/10以下にまで現象をしている。

 

寄り道をする長距離バス

2つ目の理由は、長距離バスのユーザー体験が悪いことだ。シートは狭く、一人で乗った場合は、知らない人と隣り合わせになる。特に女性は2人や4人などの偶数人数でなければ長距離バスを利用しない傾向がある。知らない人と長時間隣り合わせになることを避けるためだ。

長距離バスの人気が下がり、乗車率が下がるとともに、この体験の悪さは皮肉にも解消されていった。しかし、今度は乗車率があまりにも低いために、長距離バスが寄り道をするようになった。市内の数カ所のバスターミナルを巡回したり、途中でも停車をする。乗降できる場所を増やして、少しでも収益をあげようとするためだが、長距離を移動する人にとってはますます時間がかかることになる。

また、バスターミナルには、以前はさまざまな飲食店、小売店がターミナル内にあったが、業績の悪化により撤退をしている。そのため、バスターミナルでもただ座って待つしかなくなっている。

 

そもそも長距離移動する人が減っている

このような傾向にコロナ禍が拍車をかけたが、長距離バス利用者の減少はこの2つだけでは説明できない。なぜなら、2012年から2019年にかけて長距離バスの利用者は165億人減少しているが、同じ期間に鉄道旅客数は10億人しか増えていないのだ。高速道路の利用者を加えても、長距離バス利用者の減少を説明できない。

第3の理由が、国内の長距離移動者がそもそも減少をしていることだ。従来の中国では、東部の沿岸地域の都市が発展をし、内陸の中部、西部の発展が遅れていた。そのため、中部、西部の人は東部に仕事を求めてやってくる。そして、中国のお正月である春節には帰省をする。これは民族大移動のような混雑となり、毎年、「春運」と呼ばれ、バスターミナル、鉄道駅、空港は大混雑となる。

しかし、中西部から東部への人口移動という傾向は変わらないものの、その数が減少し始めている。例えば西部からの流出量は2000-2005年に809万人だったものが、2015-2020年には490万人まで減少をしている。地方の中核都市の都市化が進み、農村の人が仕事を求める時に、わざわざ遠方の大都市まで行かなくても、近隣の都市で間に合うようになっているからだ。つまり、広域移動から域内移動へのシフトが起きている。

 

消えゆく長距離バス

長距離バスも中国を横断するような長距離路線を減らして、域内移動に即した路線に変更をするなどの対応を行なっているが、なかなか乗客を取り戻すことができないでいる。長距離バスターミナルは、都市の周辺部にあることが多く、市の中心部に行くにはそこから再びバスや鉄道を使う必要があり、利便性が悪いからだ。そのため、中心部にあるバスターミナルは生き残る余地があるものの、郊外にあるバスターミナルは消えていく傾向が続いている。

これは、長距離バスにとっては衰退だが、中国の地方の発展が実り始めているということでもある。長距離バスはノスタルジーを感じさせるものになろうとしている。