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米国のチップ封鎖に翻弄される中国メーカー。アップルとファーウェイの両方を一気に失ったOFILM

米国のチップ封鎖はファーウェイだけでなく、部品サプライヤーも苦しめている。OFILMは、アップルとファーウェイという大きな取引先を一気に失い、会社の存続も危うくなる状態に追い込まれた。しかし、ファーウェイの復活により、ようやく明るい兆しが見え始めていると正解局が報じた。

 

自国技術で開発されたファーウェイKirin

華為(ファーウェイ)が、米国のチップ封鎖を回避し、独自技術でスマートフォンの心臓部であるSoC「Kirin9000S」を開発し、Mate60 Proの発売にこぎつけた。これまで3年の間、ファーウェイファンは新機種への乗り換えができなかったため、その需要が一気に集中し、Mate60 Proは売れに売れている。

多くの中国人は、米国の一連のチップ封鎖政策を理不尽なものと感じていたが、同時に、自国技術で海外に対抗できる半導体を製造できないことに忸怩たるものも感じていた。Mate60 Proのヒットは、ファーウェイにとってスマホビジネスへのカムバックであるばかりでなく、多くの中国人に自信を与えるものにもなっている。

 

サプライヤーでも中国排除が始まっている

それだけではなく、中国のサプライヤーをも救うことになった。中国のサプライヤーは、これまでアップルに製品を供給することで成り立ってきた。ところが、アップルが米国のチップ封鎖と協調して、サプライヤーを中国以外に移し始めているのだ。

今年2023年初め、アップルは2022年のサプライヤーリスト(https://www.apple.com/supplier-responsibility/pdf/Apple-Supplier-List.pdf)を公開した。世界に186社があり、そのうちの半分が中国(含む香港、台湾)であり、20%が米国メーカー、20%が日本と韓国という構成だった。まだまだ中国依存度は高いが、それでも大きく減少し、これからも減少をしていく見込みだ。

組立製造もiPhoneに関しては、台湾の鴻海(ホンハイ)傘下の富士康(フォクスコン)の中国各地の工場が一手に引き受けていたが、2023年は7%がインドで生産されたと見られている。

▲カメラモジュールメーカーのOFILM。ファーウェイとアップルという2つの大きな取引先を確保し成長をしていたが、チップ封鎖により両方とも失うという悲劇に見舞われた。

 

アップルに依存しすぎる「アップルの罠」

アップルのサプライヤーになることは、「アップルの罠」に気をつける必要があると言われる。アップルはサプライヤー契約をする前に、その企業を調査し、原価や利益などにも精密な分析を行うため、納入価格はぎりぎり利益が出る厳しい価格を提示してくる。通常であれば、契約をするかどうか考えてしまうところだが、アップルのサプライヤーになると2つの大きなメリットがある。

ひとつはアップルのサプライヤーであるというハロー効果だ。業界の中での評価があがり、その他のビジネスがしやすくなる。アップル案件で利益が出なくても、他のビジネスで大きな利益を出せる可能性がある。もうひとつは量の効果だ。アップル案件は薄利ビジネスになってしまうが、発注量が桁違いになる。累積する利益は決して小さくない。

ところが、アップルのサプライヤーとしてうまくマネージメントをしないと、企業のすべての資源をアップル案件に注ぎ込んでも追いつかず、アップル以外のビジネスをする余力が奪われてしまう。それでも仕事は忙しく、利益もあがるため、アップル案件に依存をしていると、ある日、突然、アップルがサプライヤーを変えてしまい、一気に業績が悪化をするということが起こる。

このため、アップルのサプライヤーになったら、リスクヘッジをするために、他のビジネスを育てておくことが必須になる。

 

アップルとの取引で成長をしたOFILM

欧菲光(OFILM、http://www.ofilm.com/)は、業界トップクラスのカメラモジュールを製造する企業だ。2016年に2.34億ドルでソニー華南電子の株を100%買取り、これにより技術レベルが大きくあがり、アップルのサプライヤーとなった。この効果は大きかった。サプライヤーになって2年目の2017年、OFILMの営業収入は昨年の79.4億元から166.32億元と一気に倍増し、2018年にはライバルである舜宇光学を抜き、中国トップのカメラモジュールメーカーになった。アップル効果であることは明らかだ。

一方で、OFILMはアップルの罠にも慎重に対処をした。アップルのサプライヤーであり高い技術力を持つということを背景に、ファーウェイと交渉をして、ファーウェイにもカメラモジュールを提供した。これで、アップルから契約を切られてもファーウェイ案件で会社を維持することができる。OFILMの将来は安泰かに見えた。

 

アップル、ファーウェイとの取引ができなくなる

ところが、OFILMは二重の悲劇に見舞われた。2019年にファーウェイが米国商務省のエンティティリスト(取引制限リスト)に入られたため、ファーウェイは実質スマートフォンが製造できなくなってしまった。OFILMも製品が納入できない。事業の2つの柱のうちの1つが失われてしまった。

さらに、2020年7月にはOFILM自体がエンティティリストに加えられてしまった。これによりアップルは2021年3月にサプライヤー契約を解除した。

これにより、OFILMの営業収入、利益ともの急落をし、2020年からは3年連続の赤字となっている。

▲OFILMの近年の業績。米国の取引制限リストに加わり、大きく業績を落とすことになったが、ファーウェイの復活により業績の悪化が止まり、明るい兆しが見え始めている。単位:億元。

 

自国技術によるMate60 ProがOFILMも救った

規模が大きくなったOFILMが、他の提供先を見つけることは簡単ではない。カメラモジュールを必要とする新たなデバイスでも登場しない限り、業績の見込みはないどころか、会社を整理することも考えざるを得ない状況だ。

そこにMate60 Proによりファーウェイがカムバックをしたことは救世主となった。業界はMate60 Proは2000万台が販売されると見込んでいる。このような状況はOFILMだけではない。多くの中国サプライヤーが似たような状況に追い込まれていた。ファーウェイのカムバックが話題になっているのは、ファーウェイ1社のことではなく、中国の電子機器産業全体のカムバックであるからだ。