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ハーモニーOSで巻き返しを図るファーウェイ。ファーウェイのスマホは復活できるのか

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今回は、ファーウェイの復活についてご紹介します。

 

2021年、最もひどい目に遭った中国テック企業と言えば、ライドシェアの滴滴(ディディ)です。「vol.098:なぜ中国政府はテック企業の締め付けを強化するのか。公正な競争とVIEスキーム」でご紹介したように、アプリの配信停止処分を受け、事実上の営業停止となり、大きな打撃を受けました。特に深刻だった2021年第3四半期には、306億元(約6040億円)の巨額赤字を出し、企業価値は2800億元(約5.5兆円)も縮小しました。

もうひとつ大きな打撃を受けた企業があります。ファーウェイのスマホ事業です。ファーウェイはスマートフォンだけの会社ではないので、あまり目立ちませんが、スマホ事業は「消えた」と言ってもいいほどです。

 

Counterpointの出荷台数シェアをグラフにしてみるとはっきりします。中国市場では圧倒的な強さを誇っていました。1強+Nと呼ばれるほどでした。それが2020年になって急落をし、2021年Q2を最後にグラフから消えます。Counterpointのシェアの数値は、上位数社を記載し、数字が小さい場合は「その他」にまとめられてしまいます。つまり、ファーウェイはその他大勢になってしまったのです。

▲ファーウェイの中国市場での出荷台数シェア。圧倒的な強さだったファーウェイのスマホは、統計から消えた。Counterpointのデータにより作成。

 

同じく世界市場でも、ファーウェイは強いサムスンを追撃するポジションにいましたが、2020年になって急落をします。そして、2021年Q1を最後にグラフから消えます。

▲ファーウェイの世界市場での出荷台数シェア。サムスンと1位の座を争っていたものが、やはり統計から消えた。Counterpointのデータにより作成。

 

このような事態になったのは、米政府の規制というより排除、制裁の影響です。グーグルがGooglePlay、GoogleMap、YouTubeGmailなどのグーグルアプリ群=GMSGoogle Mobile Services)の提供を停止し、それだけでなく、肝心要のチップの供給も受けられなくなり、スマホの製造そのものがほとんどできなくなってしまったのです。

多くのアナリストがファーウェイはスマホ事業を放棄するのではないかと見ました。それも当然です。チップがなければスマホのつくりようがありません。しかし、ファーウェイはあきらめず、スマホ製造を細々と続け、ハーモニーOSという独自OSを引っ提げて巻き返しを図っています。

今回は、なぜファーウェイは制裁を受けることになったのか、そして、ファーウェイのハーモニーOSとはどんなものかをご紹介し、ファーウェイ復活はあり得るのかを考えます。

 

米国政府は、2019年度国防授権法に基づいて、米政府機関がファーウェイなどの製品を利用している企業との契約を禁止するという措置に出ました。ファーウェイ排除です。

その理由は、情報の安全保障の問題でした。ただし、日本で盛んに報道された「ファーウェイの機器がバックドアを通じて個人情報を収集し、中国に送っている」などと米政府は言っていません。このような歪んだ報道に対して、ファーウェイジャパンは抗議声明を出しています(https://www.huawei.com/jp/news/jp/2019/hwjp20190116p)。

このメルマガをお読みの方にとっては常識だと思いますが、スマホはそもそも個人情報を収集するデバイスです。アップルも個人情報を収集していますし、グーグルも個人情報を収集しています。スマホメーカーも個人情報を収集していますし、アプリも個人情報を集していますし、ファーウェイも当然個人情報を収集しています。しかし、それは使用前に明示的な断りがあり、多くの場合、サービスの利用改善に使われます。目的外の使用をしない限り、問題にする人はほとんどいません。

 

米国政府が問題にしていたのは、「ファーウェイは中国政府と密接な関係にある」という点です。この密接な関係が何を表すのかまでは明言されていませんが、指摘をされているのは「中国インターネット安全法」の存在です。この28条は「ネットワークプロバイダは、公安機関及び国の安全機関のため法により国の安全及び犯罪捜査の活動を維持・保護し、技術サポート及び協力を提供しなければならない」となっています。

この訳はジェトロのものを引用させていただいていますが、ネットワークプロバイダーというのは「ネット運営者」のことで、ファーウェイなどテック企業のほとんどが該当をします。つまり、中国政府や関連機関が、国家安全や犯罪捜査を行うときは、テック企業はサポートして協力しなければならないというものです。

つまり、国家安全上の問題がある、日本や米国の個人が中国に対してテロを計画している疑いがあるので、ファーウェイが持っている外国人の個人情報を提出してほしいと要請をされたら、法律の文面上は、ファーウェイは個人情報を提供せざるを得ないのです。この構造が問題なのです。日本を含めた民主的な国では、裁判所による令状が必要となり、裁判所が適法であるかどうかを判断するというプロセスがありますが、中国にはそれがなく、政府機関の思惑だけで個人情報を提出させることが可能な体制になっています。

ファーウェイの創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)CEOは、この問題を指摘されて、「ファーウェイは個人情報を守る。政府から渡せと言われても渡さない」と答えていましたが、やはり無理があります。それはファーウェイが中国の法律を守らないと言っているのと同じだからです。任正非CEOの意図は、万が一そんな事態が起きても、ファーウェイは抵抗するということだと思うのですが、現実には難しいのではないかと思います。

 

ただ、この構造が問題であるというのであれば、中国製の電子機器、アプリのすべてにあてはまります。シャオミ、OPPOvivoすべてそうですし、TikTokも問題になります。実際、TikTokは2020年8月に運営元の字節跳動(バイトダンス)との取引を禁する大統領令が出されました。

ファーウェイの問題もTikTokの問題も、中国では「酔翁の意は酒にあらず」という故事成語が使われました。酒に酔っている翁は酒ではなく、別の目的があるのだ、真意は別のところにあるのだという意味です。ファーウェイの場合は、5G技術が先行をしているため、これをなんとか止めたいという意図があったと中国では解釈されています。

また、TikTokについては、トランプ大統領の個人的な報復ではないかとも言われました。本当かどうかはわからない話であり、完全な余談となるため、ご興味のある方は、次のリンクで話半分でお楽しみください。

 

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2020/08/06/080000

▲Tik Tok使用禁止は、タルサの報復?中国ネット民の反応

 

ファーウェイの問題は深刻です。2019年5月には米商務省産業安全保障局(BIS)がファーウェイをエンティティリストに入れました。これは取引制限リストです。米国企業は、このリストに登録されている企業とその企業と取引のある企業に、指定された技術を輸出、移転をする時は、あらかじめBISに申請をして許可を得る必要があります。事実上の禁輸措置で、規制というよりも制裁です。

これにより、グーグルはGooglePlayやGoogleMapなどのグーグルアプリ群=GMSGoogle Mobile Services)のファーウェイへの提供を停止します。

ご存じのように、中国ではグーグルのサービスへのアクセスが許されていないため、中国向けスマホでは大きな問題になりません。元々、ファーウェイは独自のアプリストアなどのHMSHuawei Mobile Services)を搭載し、EMUI(Emotion UI)と称して販売をしていました。

しかし、海外向けスマホでは問題が生じます。GooglePlayがないのですから、アプリを入れる方法がありません。ファーウェイのアプリストアは中国製アプリが中心となるため、海外在住の中国人ならともかく、私たち日本人も使いこなせなくなります。

 

さらに2020年8月には規制が強化され、携帯電話のチップも製造ができなくなりました。これがファーウェイにとって最大の問題です。

ファーウェイのスマホの革新技術は、独自開発のSoC(システムオンチップ)「麒麟」(Kirin)です。この性能が素晴らしいために、ファーウェイのスマホは性能の面で他社スマホを上回り、売れていたのです。Kirinは、ファーウェイ子会社の「海思」(ハイスー、ハイシリコン)が設計を行い、台湾の積体電路(TSMC)が製造をしていました。TSMCは最大の顧客がアップルで、アップルシリコンであるM1などを製造している非常に技術力の高い半導体メーカーです。

Kirinを製造するということは、ファーウェイ関連会社と取引があるということになり、TSMCは米国製の製造装置やソフトウェアを買うことができなくなります。実際問題として、半導体の生産ができなくなりますから、TSMCはKirinの製造をやめて、ファーウェイとの関係を切る必要が出てきました。

ファーウェイはしばらくはすでに納品されたチップを使ってスマホを製造できますが、それ以降どうするのか。中国の国内企業が半導体を生産することもできません。そこも米国の製造装置などを売ってくれなくなるのですから、立ち行かなくなります。アナリストが、ファーウェイはスマホ事業を放棄することになると予想するのも当然なのです。

しかし、ファーウェイはスマホ事業を継続しました。そして3ヶ月後に、独自OS「鴻蒙」(ホンモン、ハーモニーOS)を発表するのです。

なぜ、こんな短期間で独自OSを開発することができたのでしょうか。そしてチップはどうやって手に入れるのでしょうか。このハーモニーOSで、再びファーウェイは以前の座を取り戻すことができるのでしょうか。

今回は、ハーモニーOSとファーウェイの復活の可能性についてご紹介します。

 

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