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さっき話した話題のムービーが出てくる!TikTokは普段の会話を盗み聞きしているのか?

スマホで検索した内容が、表示されるデジタル広告に反映されるということが多くの消費者を不安にさせている。さらには、ただ友人と話をしただけなのに、その内容に基づいて広告が表示されるという不安を訴える人もいる。問題は広告ネットワークがサイトやアプリを超えて情報収集していることにあると央広網が報じた。

 

スマホが会話を盗み聞きしている?

スマートフォンが、普段の会話を盗聴しているのではないかという不安が広がっている。北京市の黄さんは、友人とSNSで、どんな口紅を買ったらいいかというチャットをしていた。その後、ECサイトを開くと、口紅の広告が出てきた。自分のチャットの内容を覗かれているようで驚いたと央広網に投稿をした。

さらに、山東省泰安市の王さんは、家族である商品について話していた。スマホは触っていないという。しかし、その後、スマホを開くと、ECサイトにその商品の広告が表示をされた。

特に、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)で、同様の相談が増えている。スマホでチャットをしたりウェブを見たりしてから抖音を開くと、その内容に関連をしたムービーが配信されてくる。スマホ上の行動だけでなく、友人と会話をしていても、その会話に関連したムービーが配信をされてくる。これは、抖音がスマホ上の行動を監視していたり、さらには普段の会話を盗聴しているのではないかという相談が増えている。

 

盗聴、盗撮はできない仕組みになっている

国電子技術標準化研究院ネット安全センター評価実験室の何延哲副主任も同様の体験をしたという。運動をした後に膝が痛くなり、そのことを家族と話をした。その後、抖音を開くと、医師が膝の痛みに関して解説をするムービーが配信されてきたのだ。これがきっかけになり、何延哲副主任はスマホの盗聴問題について調査をした。

その結果、盗聴行為は行なわれていないと結論づけた。もちろん、スマホにはマイクがあり、通信機能があるため、盗聴をし、そこからキーワードを抽出し、広告などに反映をさせるということは技術的には可能だ。しかし、そのような方法は現実的ではない。

iOSでもAndroidでもマイクとカメラの作動に関してはプライバシーに関わるため、OSを経由しなければマイクとカメラを使用できない仕組みになっている。さらに、マイクとカメラがオンになると、ホーム画面上にインジケーターが表示されるので、あるアプリがマイクをオンにして盗聴をしようとしても、ユーザーに気づかれてしまうのだ。

何延哲副主任によると、OSを回避してマイクとカメラを使用するのは、技術的にも難易度が高く、そのようなアプリはプラットフォーム側にすぐに発覚をしてしまい、配信停止となる。そこでまでの技術開発をして、さらに法的なリスクを背負ってまで、ユーザーのプライバシー情報を得るのはまるで現実的ではないという。それよりも、合法的な方法で情報収集した方がはるかに簡単なのだ。

iPhoneでは、マイクをオンにすると、オレンジ色のインジケーターが点灯する(下)。時刻がオレンジになり、右側にはオレンジ色の点が現れる。

 

アプリ使用中に行なわれる不明な通信

国電子技術標準化研究院ネット安全センター深圳分室の劉丹丹研究員は、ある実演を見せてくれた。それは、ある壁紙配信アプリを起動して、1枚の壁紙をダウンロードする間の通信状況を分析するというものだった。

これによると、この間に、アプリはAndroid IDを38回送信し、他にインストールされているアプリ情報を632回送信していた。さらにMACアドレス(通信機器の識別番号)、デバイス識別番号なども送信されていた。つまり、どのデバイスにどのようなアプリがインストールされているかが送信されている。

しかも、重要なのは、このような行為は違法ではなくすべて合法で、多くのユーザーが忘れているが、スマホやアプリを使い始める時に合意するボタンを押しているのだ。さらに、アプリの中には位置情報や利用履歴などを送信するものもある。これもアプリを使う時に、ユーザーが合意をするボタンを押している。すべてはユーザーの同意のもと収集されているのだ。

▲中国電子技術標準化研究院ネット安全センター深圳分室は、あるアプリを使って、その通信を記録し分類した。すると、無関係と思われる情報が大量に送信されていた。しかし、すべてはアプリ利用開始時にユーザーが同意をしている(画面は詳細がわからないように解像度が落としてある)。

 

広告側はプライバシーを侵害する意思はない

広告ネットワーク側では、ユーザーのプライバシーを侵害するつもりは毛頭ない。例えば、位置情報を取得しているからといって、ユーザーの行動を逐一監視しようとしているわけではない。知りたいのは、自宅と職場がどこにあり、普段はどのあたりで行動しているかという行動パターンだけだ。この行動パターンがわかれば、例えば自宅が世田谷区にあり、職場が港区にあり、夜や休日には渋谷で行動しているというパターンがわかれば、過去のデータ蓄積から、その人の収入だけでなく、商品の嗜好など、かなりのことが推測できるようになる。これに基づいて、適切な広告を出そうとしている。

 

問題は収集した情報の「統合」

問題なのは、このようなデータの統合が、アプリ越えで行なわれているということだ。さまざまなアプリが、同じ大手の広告ネットワークを利用しているため、広告ネットワークではAというアプリとBというアプリから得た情報をAndroid IDなどを軸に統合して、そのユーザーのプロフィールをつくることができる。このプロフィールに基づいて、各アプリではどの広告を表示するかを決定する。

「マイクを使って盗聴されているのではないか」と感じている人は、人と話をしながら、スマホを触っていないかどうかを点検した方がいいかもしれない。人とハワイ旅行についておしゃべりをしている間に、スマホをいじり「ハワイ旅行 ビーチ」などと検索をしているかもしれない。旅行アプリを起動して、ハワイの観光情報や旅行商品を見ているかもしれない。これがトリガーとなって、広告ネットワークはハワイ関連の広告を出すように指示をする。

このような行動は、現代人にとってもはや無意識のものとなっているため、主観では「話をしていただけなのに。盗聴されているのでは」と不安になってしまう。

 

問題視されるサイト越え、アプリ越えのトラッキング

しかし、問題なのは「アプリ超え」で、このような情報収集がされるということだ。ウェブについてはすでに問題となり、アップルはこの「サイト越えトラッキング」ができない仕組みをMacOSiPhoneブラウザーSafari」に組み込んでいる。この仕組みは実に単純で、ブラウザーが閲覧履歴情報などを保存するCookie(クッキー)と呼ばれる小さなファイルを、不要なものはこまめに消去するというやり方だ。

これにより、広告ネットワークは、複数のサイトから情報を得て統合するということができなくなり、広告精度が大幅に低下をし、デジタル広告業界は混乱をすることになっている。最近、さまざまなサイトを閲覧すると、「Cookieを受け入れてください」という表示が出ることが増えたのは、ユーザーの同意を得なければサイト越えトラッキングができなくなったからだ。

 

今後問題になるアプリ越えトラッキング

一方、アプリ越えトラッキングについては、まだ注目されてなく、広く行なわれているが、このような「盗聴に対する不安」に端を発して注目されるようになっている。そのような声が大きくなれば、アップルやグーグルといったプラットフォーマーもアプリ越えトラッキングを無効にする仕組みを導入しなければならなくなっていく。

サイト越えトラッキングやアプリ越えトラッキングが、プライバシー侵害であるかどうかについては、人によって見方が異なっている。デジタル広告業界は、それを秘密にしていたわけではないが、消費者に積極的に告知することを怠ってきた。それにより、「そんなところまで個人情報が収集されているのか」と驚く消費者が多い。今後、広告ネットワークによる情報収集については、議論が深まっていくことになる。