ライブコマースの著名配信者と言えば、薇娅と李佳琦。しかし、その驚異的な販売力の魔法が消え失せる事態が起き始めている。ライブコマースのホットスポットは、抖音、快適などのショートムービーや小紅書などの垂直ECに移り始めていると品閲網が報じた。
ライブコマースの元祖「タオバオライブ」
中国で成長するライブコマースの元祖と言えば、アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)でのライブコマース「タオバオライブ」だ。2016年という早い時期から始まり、薇娅(ウェイヤー)、李佳琦(リ・ジャーチ、オースティン)などのスターを生んできた。
この2人の販売力は爆発的で、1日ライブコマースを行うだけで、マンションがひとつ買えるとまで言われる。
2020年の販売額ランキングの1位は、薇娅の310.90億元(約5300億円)、2位は李佳琦の218.61億元(3700億円)で、手数料収入が20%だとしても、薇娅の収入は1000億円程度になる。
▲2020年のライブコマース配信者の売上ランキング。まだまだタオバオ達人の力が強いが、抖音や快手がランキング上位に入るようになってきている。
従業員2000人になる薇娅の個人企業
これはもう個人の収入ではなく、企業の収入だ。実際、商品選択、番組制作などの業務負担は大きく、さらにオリジナルブランドの商品の販売も行うため、薇娅は自身の企業を設立し、従業員は2000人に達している。杭州市のアリババ本社内の敷地を借地し、10階建ての本社ビルも構えている。
▲薇娅の番組制作風景。売上規模、業務ともに個人のレベルではなく、従業員2000名の企業になっている。
▲薇娅の個人企業の社屋。杭州市のアリババキャンパスの中にある。
セレクトショップのオーナーとして成功した薇娅
薇娅は、18歳の時に、恋人の董海峰と、北京市の北京動物園近くの服飾市場にわずか6平米の小さな店を持ったことがキャリアのスタートになっている。この辺りは、美術系の大学が多く、感度の高い女子大生が道を歩いている。そこに、薇娅は自分が考えた先端ファッションを自ら着てマネキンとなり、アピールをした。これが受け、薇娅の店はカリスマショップとして成功する。
すでに複数店舗を展開し成功していた薇娅は、2010年頃に、若い世代がEC「淘宝網」(タオバオ)で衣類を飼うようになっていることに気づいて、タオバオの出品業者に転身。しかし、まったく売れないという大失敗をし、築いた財産のほとんどを失った。
そこで原点に戻ることにした。販売する服を自分で着て、自らマネキンとなり、始まったばかりのタオバオライブでライブコマースを行った。これが受け、若い女性のカリスマとなり、ファッションだけでなく、化粧品や飲料、スナック、日用品など、若い女性が購入する多くの商品を扱うようになった。
▲薇娅が18歳の頃に、北京市の北京動物園服飾卸市場の中に開いた店舗。当時としては、若い女性にとっての最先端ファッションを提案し、女子大生の間のカリスマとなり成功した。
ロレアルの販売スタッフだった李佳琦
李佳琦は、元ロレアル中国の口紅の販売員だった。しかし、口紅の色を確かめるのに、多くの女性が手の甲に塗ってみることが不満だった。口紅の色は、唇の下地の色の上に乗って初めて本来の色合いがわかる。顔の色、髪の色との対比も重要だ。そこで、李佳琦は自分の唇に口紅を塗って、お客さんに見せるというやり方をした。これが「男性なのに口紅を塗る面白い販売員がいる」と話題になった。
それがきっかけで、タオバオライブをはじめ、年間に390回もライブコマースをするなどして、現在の地位を確立した。
この2人のライブは、既存のメーカーの製品を紹介するというものだ。そのため、どの商品を選ぶかは、厳しく吟味をする。消費者は、2人が紹介する商品であれば間違いないと信頼をして購入するのだから、手数料が高いなどの業者間の都合で商品を選んだ瞬間に、2人の魔法の力は消え失せてしまう。
▲李佳琦は、ドラマに出演するなど、ライブコマース以外の場にも活動の幅を広げている。
魔法の力が薄れてきたライブコマース第1世代
その魔力が薄れたかのような事態が起こり始めている。
スナック菓子メーカー「三只松鼠」は、この2人の大物インフルエンサーと契約をして、自社の商品のライブコマースをしていた。確かにライブコマースを行えば商品は売れるものの、三只松鼠自身のショップや公式アカウントへのアクセスがほとんど増えなかった。多くの消費者が三只松鼠ではなく、「薇娅や李佳琦が紹介するスナック」という認識で購入していたのだ。
三只松鼠は、2019年から独自でもライブコマースを行うことにした。三只松鼠の目的は商品の販売数だけでなく、自社の私域流量を増やすことでもあったからだ。当初は視聴者数も販売数も増えず苦労したが、2020年には中国版TikTok「抖音」(ドウイン)で春節の7日間に連続してライブコマースを行い、1.82億元(約31億円)を売り上げた。これは、2020年に薇娅が売り上げた三只松鼠の商品の販売額である1.6億元を超えた。
李佳琦のもその魔力が消え失せたかのような事態が起きている。2020年4月、李佳琦はキャデラックCT4のライブコマースを行った。キャデラックの販社は、300万元(約5000万円)で、李佳琦のライブコマース番組の9分間を購入した。しかし、結果は1台も売れなかったのだ。
▲象徴的なのはスナック菓子メーカーの「三只松鼠」。当初は、薇娅や李佳琦と契約をしてライブコマースを行っていたが、売上は立つものの、自社アカウントへのアクセス数が上がらないことから、独自のライブコマース配信を行うようになった。
人の商品を紹介するタオバオ達人たち
タオバオライブのインフルエンサーたちは、自分の商品は原則として販売しない。「タオバオ達人」と呼ばれ、タオバオで販売されている商品をピックアップして紹介をするという建て付けだ。あくまでも消費者目線であり、そのタオバオ達人の商品を見極める目が信頼をされ、消費者から支持をされている。
トップクラスのタオバオ達人はそのことがよくわかっているので、信頼を失わないように、商品の選択には気を使っているが、下位のタオバオ達人となると、業者からのオファーや自社の製品など、あまり質が高いとは言えない製品を、あたかも素晴らしい製品であるかのように紹介をして売上を上げようとする。このような理由で、タオバオライブを避ける人も出始めている。
生産者が直接販売をする第2世代のライブコマース
一方で、人気が高まっているのが、抖音、快手などのショートムービープラットフォームが行うライブコマース、小紅書(シャオホンシュー)などの若い女性に特化した垂直ECと呼ばれるECが行うライブコマースだ。
このような新しい世代のライブコマースは、CEOライブが基本だ。自分が製造した商品、販売する商品の最高責任者が登場して、ライブコマース販売を行う。ライブコマースでは、リアルタイムチャットで、視聴者は質問をすることができる。その質問は全員に見えるようになっているので、痛いところを突かれた質問をされた時に答えにつまるCEOや、質問を無視して答えないCEOはすぐにわかってしまう。視聴者からどんな質問をされても明快に答えるCEOが支持をされる。また、CEOであるので、公の場で虚偽の回答をすることはできない。「その食品には合成着色料は使われていないのですか?」「一切、使っていません」とライブコマースで回答をしたのに、実は合成着色料が使われていたとなると、信頼は一気に失われ、場合によっては地元の保健当局が調査に入ることになる。
第2世代に入った中国のライブコマース
ライブコマースの元祖はタオバオライブだが、2019年頃から頭角を表してきた抖音、快手、小紅書などのライブコマースは、内容が大きく違っている第2世代ライブコマースになっている。製造業者、販売業者が直接消費者と接することで、信頼を勝ち取る構造になっており、こちらを好む消費者が増えているということだ。
2020年の流通総額は、薇娅と李佳琦の2人が圧倒的だが、スタイルを変える必要に迫られると見られている。