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あなたの代わりに走ります。ジョギング代走業が流行する理由とは

SNSタオバオなどでジョギング代走業が増加をしている。ジョギングをしたい人の代わりに走ってくれるというサービスだ。ジョギング好きな人は自分が走るついでに小遣い稼ぎになると、このビジネスをする人が増えている。代走業が増える背景は最近の健康ブームがあると北京日報が報じた。

 

人の代わりにジョギングする代走業

中国では朝や夜、ジョギングをする人が増えている。多くの人が、自分の健康のために走っているが、中にはこれを商売にしている人がいる。相場では1kmが0.7元。報酬としてはごくわずかだが、お金をもらって走っている人がいる。「代跑」(ダイパオ、代走業)と呼ばれるビジネスだ。

ある広州の女性は、自分の健康のためにジョギングをしていたが、こういうビジネスがあることを知って、どうせ走るならお金をもらった方がいいと考え、代走業を始めた。1日10km以上を1km4分のペースで走る。自分も健康になり、知らないコースを走ることが多く、美しい風景に出会うこともある。生活費の足しになるほどではないが、いい小遣い稼ぎだと感じているという。

しかし、最近は、フードデリバリーの配達スタッフが、この代走業に参入をしてきた。コース指定がない依頼であれば、デリバリースタッフは電動自転車で配達をするためすぐに代走が完了することになる。代走業をする人の中にも、電動自転車を使う人が増えているという。

タオバオでは、代走業の広告が多く掲載されている。

 

SNSで募集し、計測アプリを使う

代走業を行うには、タオバオなどで募集をし、微信(ウェイシン、WeChat)などのSNSで連絡をとり、依頼を受けた人から、ジョギング計測アプリ「KEEP」などのアカウントとパスワードを送ってもらう。自分のスマホにそのアカウントを入れ、ジョギングをし、完了報告をして、依頼人のジョギング計測アプリで確認をしてもらうというものだ。単価は安いものの、中にはリュックに10台以上のスマートフォンを入れて、同時に依頼をこなし、それなりの額を稼ぐ人もいるという。

▲代走業はSNSで申し込む。左が代走業者、右が発注者。計測アプリのIDとパスワードを教え、アプリを起動して走ってもらう。

 

ジョギングが必要でも走りたくない人がたくさんいる

しかし、依頼をする人はなぜ他人に代走を頼むのか。ジョギングは自分でしなければ意味がないのではないか。代走業をしている徐さんは、代走の広告を出して初めて受けた依頼がある女性からのものだった。毎日10km走ってほしいという長期契約の依頼だった。

その女性は太っていることを気にしていて、ジョギングを始めたが長続きがしない。そのことを恋人からも責められた。それで困って代走を依頼してきたのだという。恋人に責められると、ジョギングアプリを見せて、「こんなに頑張っているのに痩せないの」と甘えるのだという。

▲ある人が、SNSに出している代走業のメニュー表。下の三つはチップで、飲み物を送ることもできる。

 

企業のジョギング奨励が追い風に

最近増えているのはビジネスパーソンからの依頼だ。大手企業では従業員の健康を増進するために、ジョギングプログラムを導入している例が増えている。これは職場ごとにチームをつくり、ジョギングの累計を競い合い、優秀なチームには賞金が出たりするというものだ。

しかし、誰もがジョギングが好きなわけではない。朝は起きられず、夜は子どもの世話をしなければならないという人もいる。しかし、ジョギングをサボって、チームの足を引っ張るわけにはいかない。そこで代走業を頼むことになる。

また、大学でもこのようなプログラムが導入され始めている。例えば、江蘇省蘇州市の常熟理工学院では、学期ごとに2km以上のジョギングを20回以上しなければ、体育の単位がもらえない。このような大学では、代返と同じように代走が流行をする。ジョギングが好きな学生が、同級生のスマホを預かってリュックに入れてジョギングに出る。

中にはSNSで代走業を探す人もいる。同級生に頼んだ場合はコーヒーぐらいは奢らなければならない。しかも、ジョギングをしている間、スマホを預けなければならない。代走業に頼めば、料金は安く、ジョギングをしてもらっている間、自分はスマホでゲームを楽しむことができるのだ。

 

ジョギングアプリのキャラクター賞品が欲しい

この代走業の増加を加速しているのが、ジョギングアプリの新規ユーザー獲得競争だ。ジョギングをオンライン競技として、優秀な成績を収めた人には特別なメダルを贈るようになっている。

特に人気になっているのが、バレンタインデーや七夕などの特別な日に行われる2.14kmチャレンジや7.7kmチャレンジだ。参加をするには参加費用を支払う必要があるが、完走をすると、さまざまなキャラクターとコラボをしたメダルが贈られる。そして、アプリの完走画面とメダルをかけた自撮り写真をSNSにアップをする。それで何か得になることは何もない。しかし、自分の自尊心が満足する。ジョギングは健康のためのものではなく、SNSの社交での通貨になっているのだ。

多くのチャレンジでは、距離、制限時間など、普段からジョギングをしていないと難しい条件が設定される。そのため、代走業を頼むということになる。

▲ジョギングアプリ運営会社では、新規顧客獲得のために、一定条件の完走をするとアニメキャラクターなどとコラボしたメダルを進呈する。このメダル欲しさに、代走業を頼む人が増えている。

▲メダルをかけた自撮り写真をSNSにアップする。周りから褒められるため、ジョギングがSNSの一種の通貨になっている。

 

誰もが得をしているが何かが間違っている代走業

このビジネスでは関与する人全員にメリットが生まれている。代走業をする人は元々ジョギングを楽しみたい人であり、自分が走るついでに代走業をして、わずかとは言え、お金を稼いでいる。代走を頼む人は、ジョギングをしなければならない理由があるがわずかなお金で楽をすることができる。健康増進プログラムを行う企業や大学では、そのプログラムの成果があがり満足をする。ジョギング計測アプリの運営会社は多くの人がアプリを使ってくれることにより利益があがる。

ずるをしていると言えばその通りなのだが、代走業により迷惑をしている人は誰もいない。しかし、全員が何かが間違っていると感じている。