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地図アプリが集客ツールになる。決め手は、地図アプリ内でのクーポン販売

アリババ傘下の地図アプリ「高徳地図」が集客ツールとして注目され始めている。原動力となっているのは、地図アプリ内でのクーポン販売だ。地図で店舗を検索し、口コミを読み、クーポンを購入することができる。多くの店舗が利用し始めていると億邦動力が報じた。

 

地図アプリが集客ツールとなる

アリババ傘下の地図アプリ「高徳地図」(ガオダー)が、実体店舗にとって流量を獲得する大きな力になり始めている。北京市通州雲景南大街にある陽澄湖上海蟹の主人は、億邦動力の取材に応えた。「高徳地図は、地球をこじ開けるテコのようなものです。小さな出費で集客ができます。高徳地図に店舗情報を出すようにしてから、旬の季節には毎日数十件の電話での問い合わせが入るようになりました。そのうち、9割ぐらいのお客さんが来店してくれます」。

この店は高級食材である上海蟹の専門店であるため、客単価は1000元近くにもなる。それが高徳地図から毎日10人前後の新規の顧客が獲得できることは非常に大きい。

▲南京市の尚明メガネ店では、店舗情報のページ内で、クーポンを販売している。魅力的なクーポンを配信できれば、これが集客ツールとなる。

 

地図アプリでクーポンが販売できる「高徳旺舗」

飲食店や個人経営の小売店が、高徳地図から集客ができるようになったのは、アリババが2021年に投入した「高徳旺舗」(ガオダーワンプー)が大きく貢献している。高徳地図には自分の店を自由に登録ができる。位置だけでなく、電話番号などの登録可能だ。また、店舗の位置情報が登録されると、誰でもその店に対する口コミレビューを書くことができるようになる。

さらに、高徳旺舗のサービスを申請し、審査を通ると、店内の写真や商品の写真なども登録ができるようになる。

それだけでなく、クーポンを販売できるようになる。これが大きい。消費者は飲食店などを検索して気になった店の口コミを見て、気に入ると、電話やオンラインで予約を入れ、そしてクーポンを購入して店に行くという流れができあがる。クーポンの設計によっては、集客に大きな効果があり、消費者にとってはお得に利用ができることになる。

▲商品のクーポンだけでなく、視力検査、老眼検査を格安でクーポン販売している。メガネの販売に結びつけることができるからだ。

 

移動ルート中のカフェに注文がいられる「沿街取」

さらに、高徳地図は、「沿街取」というサービスもスターバックスと共同開発した。自動車のルート検索をした時に沿街取を実行すると、ルート沿いのスターバックスを検索してくれる。店舗を選ぶと、コーヒーが注文することができるようになる。自動車の走行に合わせてジャストタイミングで店舗にプッシュ通知がいくため、店舗前の指定位置に停車をすると、できたてのコーヒーを店舗スタッフが持ってきてくれる。決済は注文時に済んでいるので、コーヒーを受け取るだけでいいというものだ。

この沿街取は、スターバックス以外にも展開をしていく予定だ。

スターバックスと始めた沿街取。ルート検索をした後、沿街取を実行すると、ルート沿いのスターバックスを検索してくれ、飲み物が注文できる。車の走行に合わせて適切なタイミングで店舗にプッシュ通知が行くため、アツアツのコーヒーを受け取ることができる。

 

地図アプリの莫大な流量を集客に結びつける

南京市丁家庄にある尚明メガネ店では、高徳旺舗のサービスを利用するようになって以来、来店客にこの店をどのようにして知ったのかというアンケートをとるようにしている。すると、他のSNSよりも、高徳地図から知った来店客が最も多かったという。口コミがあり店の状況がわかるということと、何よりクーポンを販売していることが大きいという。

実際、高徳地図の月間アクティブユーザー数(MAU)は7.6億人で、ショートムービー「抖音」を上回っている。多くの人が、公共交通のルート検索や目的地の場所の確認に使っているとは言え、店舗を探すという使い方が広まれば、実体店舗にとっては非常に強力なプロモーションツールになる可能性がある。

▲地図アプリのMAUは非常に大きい。SNS「WeChat」に次ぐ第2位となっている。多くの人がほぼ毎日使うからだ。今までは、この流量を活用する方法があまりなかった。

 

地図アプリにはフィルタリング効果がある

特に大きいのが集客効果だ。深圳市で鉄骨建材の販売業を営む揚建新さんは、億邦動力の取材に応えた。「以前は、都市ポータルである58同城でプロモーションをしていました。ただし、効果は薄く、1万元の費用をかけて得られた売上は数千元という感覚です。しかし、高徳旺舗はコストが小さい上に効果が高いので、1万元を投入すれば3万元から4万元の売上が得られる感覚です」。

揚建新さんは、高徳地図には顧客のフィルター機能があるから効果が上がるのではないかと考えている。鉄骨建材という生活用品ではない商品を必要とする人はきわめて少ない。そのため、多くの人が見る58同城や抖音でプロモーションをしても、必要とする人が見てくれる可能性はとても小さい。しかし、高徳地図で「鉄骨建材」で検索する人は、ほぼ間違いなく鉄骨建材を必要としている人だ。そのため、店舗の情報を見てくれる人は少ないものの、ほぼ全員が見込み客ということになり、店舗情報やクーポンでうまく誘導することで集客ができるのではないかと考えている。

▲尚明メガネ店の評価と口コミ情報。その都市内で、ユーザーの評価が上位5%に入るとマークが表示される。このマークがつくと、集客にも大きな効果があがる。

 

地図アプリの集客はコンバージョンが高くなる

地図による集客は、SNSによる集客よりも、インプレッションは低いがコンバージョンが高いという傾向がある。SNSで未知の飲食店を知っても、どこにあるどんな感じの店なのかがわからないと、なかなかそこに行ってみようとは思わない。しかし、高徳地図では近所の飲食店が表示され、地図上に場所が表示される。消費者にとっては場所を見れば、だいたいどんな感じの飲食店なのか想像ができるし、ひょっとしたら入ったことはなくても前は通ったことがあるかもしれない。さらに、行ってみて、店の雰囲気が微妙だったら、そこで入らずに別の飲食店を探すこともできる。

また、高徳地図はカーナビ機能が強く、車載アプリで大きなシェアをとっているため、高徳地図の利用者も自動車所有者が多い。つまり、収入の高い層が高徳地図を使っていると考えられる。

都市観光などでは、飲食店などを地図アプリで探すのは定番となっている。そこに口コミとクーポンが加わることで観光客の集客にも利用ができる。ECやデリバリーに圧迫をされて経営が厳しくなっている実体店舗にとって、高徳地図は強い武器になるかもしれない。