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新世代EC小紅書、抖音、快手がタオバオ遮断。タオバオは拍立淘で対抗。種草をめぐる攻防

種草の仕組みを使い、大きな成果を上げている小紅書、抖音、快手がタオバオを始めとする旧世代ECの遮断を始めている。一方、タオバオは写真から商品が検索できる拍立淘の機能を大幅アップデートして対抗をしていると天下網商が報じた。

 

タオバオvs新世代種草EC

新世代ECとも言える「小紅書」(シャオホンシュー、RED)、「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)と、旧世代ECとも言えるアリババの「淘宝網」(タオバオ)との種草を巡る争いが激化をしている。

種草(ジョンツァオ)とは「作物を植える」という意味。一般の人が投稿する写真、ショートムービーなどの記事に商品タグを埋め込むことを指している。消費者は記事を見て、その商品が欲しくなれば、商品タグをタップすると、その場で商品詳細ページが表示され、購入することができる。アフィリエイト広告の進化版だ。販売業者から見ると、投稿者の記事を畑に見立てて、商品タグという作物を植え、購入してもらえると収穫ができることになる。

中国以外の国では、インスタグラムやTikTokが同様の役割を担っているが、種草の仕組みがないために、消費者は商品名を記憶してアマゾンなどのECサイトで検索をしなければならない。あるいはリンクをタップして、外部のECサイトに飛ばなければならない。この「商品名の記憶」「外部サイトへの移動」という作業の心理的なハードルが高く、消費者の離脱が起きてしまう。種草ではSNSとECを直結することで、この作業ハードルを省き、高いコンバージョンを得ることに成功した。

▲小紅書の種草。左が小紅書の記事の画面。商品タグが表示されている。これをタップすると、下からウィンドウがポップアップして、そのまま購入できる。

 

当初はタオバオの商品も販売をされていた

当初は、種草される商品は、既存EC「タオバオ」「京東」(ジンドン)、「拼多多」(ピンドードー)などに出品されているものだった。消費者は抖音で購入をしても、実はタオバオの商品を買っていることになる。

これは既存の販売業者にとってはたいへんありがたい仕組みだった。タオバオに出店をし、小紅書や抖音で種草を行うことで、販売販路を広げることができる。しかし、問題は販売手数料だった。種草の場合は、その販売に貢献をした「記事の配信者」「プラットフォーム」「EC」の3者に、販売額の20%を手数料として分配する必要がある。例えば、タオバオに出品している商品を抖音のショートムービーに種草をして販売した場合、抖音は手数料を取らないものの、タオバオに7.4%、配信者に12.6%を分配する必要がある。快手で販売した場合は、タオバオに7.4%、快手に6.3%、配信者に6.3%を分配する必要がある。

▲2020年段階での抖音、快手の手数料体系。例えば、京東の商品を抖音で販売をすると、京東に2.0%、抖音に1.8%、記事を配信した投稿主に16.2%の手数料が入る。

 

手数料の高さにより、ブランドが直接記事も配信

この手数料の高さを解決するには、他人の記事に種草をするのではなく、販売業者やブランドが自分で記事も配信することだ。自分自身が配信者となるため、配信者の手数料は自分に入ってくる。そのため、タオバオに出品した商品を抖音で販売した場合は7.4%、快手で販売した場合は13.7%となり、20%の手数料よりはかなり下がることになる。

さらに、手数料を下げる方法がある。それはタオバオに出品をするのではなく、抖音、快手、小紅書に直接出品をする方法だ。店舗が増えることになり、管理の手間はかかるが、抖音、快手とも手数料は5.0%で済むことになる。

こうして、ブランドが直接、抖音、快手、小紅書で公式アカウントを取得し、記事を配信し、商品を販売するという私域流量(プライベートトラフィック)の獲得に動くようになっていった。

 

取り残されたタオバオの零細業者

しかし、零細業者にとっては、簡単に抖音、快手、小紅書に出店できるわけではない。タオバオは出店のハードルが非常に低く、わずかな保証金(退店時に戻ってくる)を払うだけで個人でも出店できるが、抖音、快手、小紅書ではかなり厳しい審査が行われる。

ひとつの理由は、新世代ECの販売業者管理システムの規模が小さく、大量の販売業者を管理するには人も足りないため、販売業者を絞り込んでいることだ。また、無制限に販売業者に出店させてしまうと、質の悪い業者も入り込むことになり、消費者の信頼を失う可能性もある。

そのような理由から、抖音、快手、小紅書に出店をしているのは、多くがある程度の規模のメーカー、ブランドになっている。

そのため、タオバオに出店している業者の大半を占めるセレクトショップ系=仕入れルートを確保してタオバオで販売する小規模業者は、タオバオにしか出店することができず、高い手数料を受け入れて、抖音、快手、小紅書に種草で販路を広げるしかなかった。

 

新世代ECはタオバオを遮断へ

昨年から、抖音、快手、小紅書はタオバオなどの外部ECとの遮断を始めている。種草ECを開始したばかりの頃は、独自の販売業者を集めるのが簡単ではなかったため、既存ECからの出品を許していたが、独自に業者を集められるようになると、外部からの出品は、自社の利益を損なうことになる。抖音の場合、自社業者での販売であれば5.0%の手数料が入るが、タオバオからの出品では0%、京東からの出品では1.8%の手数料しか手に入れることができない。自前で運用できるようになれば、外部からの出品を遮断して、自社の販売業者の商品だけを売るようにしたいのは当然のことだ。

 

販売ページリンクの投稿も禁止に

大手ブランドはそれでかまわない。タオバオと並行して、抖音、快手、小紅書にも出店をすればいいだけだ。しかし、タオバオには出店できるものの、抖音、快手、小紅書には出店が難しい小規模販売業者は非常に困った事態になる。

そこで、行われたのが、記事本文にタオバオのURLや店舗名を記入するという方法だ。消費者はURLなどをコピーしてタオバオにアクセスし直して購入をする。抖音内で購入まで行えるという利便性はなくなるものの、苦肉の策として行われるようになった。

しかし、これはすぐに抖音、快手、小紅書に対策をされた。この3つのプラットフォームだけでなく、どこでも外部の商品などの広告にあたる記事の投稿は禁止をされている。抖音、快手、小紅書はこのような記事を規約違反として、削除、あるいはアカウントの停止などの措置をとっていった。

 

タオバオの対抗策「拍立淘」

この問題を解決し、零細販売業者を救うため、タオバオは「拍立淘」(パイリータオ)と呼ばれる機能を強化をした。これはカメラで撮影をすると、商品を認識して検索してくれるというものだ。アマゾンなどでも使われているアマゾンレンズやグーグルレンズとほぼ同じものだ。

本来は、街中でポスターを見かけたり、雑誌で見た写真を撮影して、商品を検索することに使われる。

タオバオはこの拍立淘を強化して、検索精度を大幅に強化した。服や靴だと、画像検索を行っても、似ているはいるが別物が多く検索されてしまうが、拍立淘ではそれが大幅に少なくなった。また、キャップ、ジャケット、バッグ、パンツ、靴というコーディネートの場合、すべての商品が別々に検索される。

▲左は小紅書の画面をスナップショット撮影したもの。これを拍立淘で読み込むと、商品が認識され、タオバオで販売されている商品がポップアップされ、購入できる。パーカー、シューズ、キャップそれぞれに認識し、画像検索ができる。

 

電子透かしにより業者、配信者の特定も可能

さらに、販売業者にとって重要な機能を実装した。それは電子透かしだ。販売業者が写真や動画をつくる時に、業者の電子透かしを埋め込むことができる。これは見た目ではまったくわからない。拍立淘は、画像検索をするときに、この電子透かしも認識して、その電子透かしを入れた業者を検索トップに表示をしてくれる。

この電子透かしはコピーをされても有効という点がポイントになっている。例えば、消費者がある業者の記事をコピーして、ブログに貼り付けたり、SNSで拡散しても、その画像を拍立淘で読み込めば、電子透かしが有効でその業者が検索トップに表示される。

さらに、悪質な業者は、自分で商品画像を制作せず、同じ商品、似た商品の画像をネットで探して、あたかも自分で撮影したかのように使ってしまうことがある。この場合も、拍立淘では電子透かしが有効となり、オリジナルの業者が検索トップに表示されることになる。

 

拍立淘を使う消費者のコンバージョンは高い

問題は、消費者がこのような面倒な作業をしてくれるのかということだ。小紅書を見ていて、欲しい商品を見かけたら、画像を保存するかスナップショットを撮影し、それからタオバオを起動して画像を読み込ませて検索する。かなり面倒な作業になる。

しかし、タオバオではコンバージョンは悪くないという。なぜなら、そこまでの作業をする人は、購入意欲が高まっているため、非常に高い確率で購入まで結びつくのだという。

さらに、拍立淘で検索をすると、他の業者の出品や見た目はそっくりの別商品も検索される。これを目当てに拍立淘を使う人が増えている。小紅書である商品が欲しいと思っても、拍立淘で検索をしてみると、同じ商品がより安く出品されていたり、類似商品が見つかるからだ。

抖音、快手、小紅書から接続を遮断されて、タオバオの中小販売業者は一時は販路を失い困った状態に追い込まれたが、拍立淘を使う手法が広まるにつれ、売上を回復させ始めている。