中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

WeChat以前の中国SNSの興亡史。WeChatはなぜここまで強いのか?

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今回は、中国のSNSの歴史をご紹介します。

 

中国のSNSというと、微信(ウェイシン、WeChat)が最も普及をしていることは、このメルマガの読者であれば常識中の常識だと思います。そのため、WeChatを取り巻くビジネス状況、技術状況を繰り返して取り上げてきました。

今回は、少し趣向を変えて、中国のSNSの歴史をたどってみたいと思います。このようなストーリーというのは、読み物としては面白いけど、仕事に直接役に立つ部分が少ないのではないかと思われる方もいるかと思います。それはあたっています。しかし、重要なことを理解していただける可能性があると思うのです。その重要なことというのは「WeChatはなぜ強いのか?」ということです。

 

WeChatは中国人のネット民ほぼ全員が使っている国民インフラになっています。では、なぜWeChatはそこまで浸透したのでしょうか。ここから先を読んでいただければわかりますが、現在、テック系のトップ企業と呼ばれているところは、過去、必ずと言っていいほどSNSの開発に挑戦をしています。なぜ、他のテック企業のSNSは消えてしまい、テンセントのWeChatが残り、巨大になっていったのでしょうか。それは「便利だから」「みんなが使っているから」という単純な理由だけでは説明できません。

このWeChatの強さを理解するには、これまでのSNSの興亡史を理解していただく必要があります。

わかりやすく言うと、ゲームの世界で任天堂は日本だけでなく世界でもなぜ強いのかということを理解するには「マリオがあるから」「暴力やアダルトを扱わないから」という理由だけでは理解できません。なぜマリオが生まれて人気になったのか、なぜ子ども向けに特化をして暴力コンテンツやアダルトコンテンツを扱わないのかということは、任天堂の玩具企業時代、あるいは花札企業時代に遡って理解する必要がありますし、アタリを始めとする米国ゲーム企業とどのような競争、提携をしてきたかを理解する必要があります。

企業や製品の個性というのは、最初からそれを目指していたわけではなく、他社と競争をしたり、成功したり、失敗をしたりを繰り返す積み重ねの中で形作られてくるからです。

WeChatを理解するには、WeChatの歴史を理解する必要があります。と言っても、堅苦しくかまえず、読み物として気軽にお読みください。中国で現在有名になっているテック系企業がたくさん登場してきますので、意外な発見もあるかと思います。

 

WeChatは、中国のプロダクトであることから、中国以外ではほとんど使われません。これは私たちにとって幸運なことでした。もし、世界が、TikTokのように、製造した国にこだわることなく、優れたものを使うという合理的な選択をしたとしたら、間違いなく、世界中でWeChatを使うことになります。

なぜ、そこまで言えるのか。私たちを取り巻くIT環境は成熟をし、進化のスピードが遅くなり、最近では人々の概念から遅れをとるようになっています。最近、「iPhoneは終わった。新機種が発売されてもサプライズがない」と言われます。iPhone4からiPhone7ぐらいまでの「出すたびに世界を変えるサプライズがある」という状態を続けるのは、いくらアップルでも無理な話です。

それは仕方のないことですが、それでも人の概念の進化よりも遅れることで停滞を生み出します。ECの世界でも同じことが起きています。消費の仕方は大きく変わっているのに、それにECのシステムがついていけていないのです。

例えば、みなさんはこんな経験をしたことがないでしょうか。テレビやSNS、ブログなどで、ある商品の話を見聞きして、面白いなと思ったとします。その商品がほしいと思って、アマゾンを検索して商品を探し、購入するという経験です。

ところがこの仕組みでは、さまざまな篩(ふるい、フィルター)が生まれてしまい、消費者がこぼれていく現象が起きます。

まず、テレビで商品を知っても、アマゾンでは商品名など詳しい情報がなければ検索できません。「ソールにエアーが入っているスニーカーだった」ぐらいのぼんやりした情報だと検索をするのに苦労をしてしまいます。ここで脱落してしまう消費者が出てきてしまいます。

アマゾンで検索しても商品が見つかるとは限りません。他のECも探してみる。それが面倒であきらめてしまう消費者も出てきます。いろいろなところで、消費者を取りこぼしてしまっているのです。

 

一方、中国ではここを直結させる試みがこの数年、盛んに行われています。「vol.129:SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か」でご紹介した種草経済もそのひとつです。SNS「小紅書」(シャオホンシュー)では、画像や動画に商品タグを埋め込むことができ、その商品が欲しければタップをするだけで商品の詳細ページが現れ、商品が購入できます。先ほどの例ような取りこぼしは起きません。

種草経済では、商品を売るのに「商品を紹介するコンテンツ」「EC機能」「電子決済機能」の3つが必須になります。日本では、この3つの機能がすべて別になっています。テレビで見て、アマゾンで検索して、クレジットカードで決済するというような具合です。

しかし、小紅書では「小紅書で見て」「小紅書で買って」「アリペイなどで決済」と2つまでがそろっています。WeChatでは、「WeChatで見て」「WeChatで買って」「WeChatペイで決済する」とすべてのプロセスががWeChatの中で完結できるようになっています。

香港に旅行に行くのであれば、誰でも直行便で行きたいですよね。ソウル、広州で乗り換えだけど運賃は2/3ですというルートがあったとして、お使いになるでしょうか。WeChatは買い物直行便を実現しているのです。

と言っても、WeChatが開発当時から、このワンストップショッピングを目指していたわけではありません。激しい競争をする中で、次第に今の形になっていきました。

今回は、中国SNSの歴史についてご紹介し、WeChatの強さの源泉を考えます。

 

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