中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国が「世界の玩具スタジオ」となる日。進む下請け製造工場から、企画提案スタジオへの転換

世界の玩具の8割は中国で生産されている。その多くは、米国玩具企業の下請け製造だったが、中国企業側から企画提案をし、米国でヒットする玩具が増えている。中国は、世界の玩具の工場だけではなく、世界の玩具のスタジオになろうとしていると雨果網が報じた。

 

世界の玩具の8割は中国でつくられる

世界の玩具の70%から80%は中国で生産されている。電子機器などは海外需要から国内需要に移り、中国は「世界の工場」から「中国の工場」に移りつつある。しかし、玩具に関しては世界の工場であり続け、その存在感を増している。中国の玩具産業は「再進化」を遂げようとしている。

浙江省蘭谿市の玩具製造企業、伯仲工芸品の陶伯翺経理は雨果網の取材に応えた。「以前の製造は、海外企業向けが主で、海外玩具企業の設計に従って製造をし、納品をするというものでした。しかし、今では消費者と直接コミュニケーションを取ることが簡単になり、自主開発ができるようになっています。参考になるのは、TikTokやインスタグラムといったSNSで、ここから発想のアイディアを得て、自主開発した玩具を海外企業を通じて販売するようになっています」。

▲薬剤を魔法の壺の中に入れていくと、煙が湧き上がってくる。最後には、壺の中からぬいぐるみが出てくる。Magic Mixiesという玩具で、米国でヒットをした。

https://www.tiktok.com/@asmrplayroom/video/7049008907653565743?_r=1&_t=8V3dMRdgzsv&is_from_webapp=v1&item_id=7049008907653565743



企画から量産まで15日間というスピード

伯仲工芸品では、主にストレス解消の癒し系玩具と、発掘キットなどの考古学玩具を生産している。癒し系玩具の生産は既に14年になるが、次第に自主設計、自主開発の玩具が増え、現在ではすべて自主開発製品になっているという。

伯仲工芸品の開発周期は圧倒的に短い。平均開発周期は15日だ。3日で設計をし、1日でプロトタイプ、2日で改善。サンプルを最短3日で米国企業に送り、4日間で海外企業の反応を得て、同時並行で量産体制を組み、量産計画を立てる。

「毎月少なくとも10の新製品を開発しています。そのうちの80%以上は量産をすることになります。最近のヒット商品はミュートボールで、特殊な素材を使っているため、国内では3社しか生産することができません。主に海外で売れています」。

▲柔らかい素材ながら、反発力があるMute Ball。マンションでも騒音にならずにボール遊びをすることができ、子どももケガをしない。

https://www.tiktok.com/@celcocjesteabraham/video/7043460052019252526?_r=1&_t=8V3gP3Bwfdi&is_from_webapp=v1&item_id=7043460052019252526



権利取得によりすべての玩具が黒字

玩具の製造コストは安い。原材料費は非常に安く、量産に必要なコストも一般的に2000元ほどで、大量生産するような場合でも1万元から2万元で生産ができる。米国には270社以上の玩具卸があり、自主開発をした玩具はどこかが契約をしてくれる。伯仲工芸品は2016年以来、赤字となった自主開発玩具はないという。

「2016年、米国で私たちが製造した3つの玩具がヒット商品となりました。しかし、当時は自主開発製品であっても、商慣習から米国企業が商標権や版権を取得し、私たちは製造委託をされるという形でした。3つの玩具がヒットをすると、あっという間に100以上の中国企業が偽物を生産し始めました。しかし、私たちは権利を持っていないために手の打ちようがなかったのです。それを教訓とし、2016年以来、私たちは自主開発製品のすべてに商標権などの権利申請をするようにしています。これにより、赤字になる玩具がなくなりました」。

▲非常に柔らかい素材で、落とすとつぶれる。Squishmallowsという玩具で、Toy of the Year AwardsのToy of the Yearに選ばれた。

https://www.tiktok.com/@catstocking/video/7088853409679379754?_r=1&_t=8V3ehcOfjfe&is_from_webapp=v1&item_id=7088853409679379754

 

TikTokとライブコマースで市場の反応を見る

このように、下請けとも言える海外企業の受注生産工場から、自主開発をする玩具開発企業へと進化できた大きな理由がTikTokだ。

米国玩具財団(The Toy Foundation)が主催する「今年の玩具」を選ぶ表彰制度「Toy of the Year Awards」に選出された玩具の多くがTikTokで拡散をしてヒットした商品だ。すでに米国の玩具卸、小売業者では、従来通りの市場調査はするものの、サンプル品をTikTokで配信し、その拡散ぶりを見て、発注数を考えるようになっている。

ただし、ショートムービーから商品価値を判断するのは不安定なこともあるという。TikTokでは広く拡散したのに、実際の商品はほとんど動かないということが起こる。商品の面白さでショートムービーが拡散したのではなく、配信者の面白さなど別の要素で拡散をすることがあるからだ。

この問題を補うために、ライブコマースが次第に用いられるようになっている。米国のライブコマース環境は、まだまだビジネスとして成立する水準に達していないが、ライブコマース販売をしてみると、消費者の商品に対する反応が見えてくる。これにより、発注数を再考するということで、ショートムービーの不安定さを補おうとしている。

▲米国玩具財団が主催する「今年の玩具」アワード。発売は米国企業だが、その多くが生産は中国で、しかも持ち込み企画のものが増えている。

https://www.toyassociation.org/toys/events/toy-of-the-year-awards-home.aspx?&New_ContentCollectionOrganizerCommon=4#New_ContentCollectionOrganizerCommon



中国製スマート玩具が世界を席巻する可能性

さらに、中国玩具は進化をしようとしている。ドローンの開発で有名な大疆(ダージャン、DJI)は、スマート玩具とも言えるRoboMaster S1を発売している。ロボット戦車だがAIを搭載し、自動運転、人や物体認識などの機能を持ち、プログラミングをすることで自律行動が可能だ。高校生や大学生の教育用に使われることも多いが、大人が、親子が玩具として楽しんでいる。ハードウェア的には5つのSoC(チップ)を搭載し、31のセンサーを搭載するという高機能デバイスだ。

今後、このような高機能スマート玩具市場が大きく成長すると見られていて、中国が得意な分野であり、ますます玩具の中国の存在感が大きくなると見られている。

▲DJIが発売したRoboMaster S1。プログラミングが可能で、障害物を認識し、自律装甲が可能な本格ロボットだ。