中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

欧米では無関心、東南アジアで盛り上がるTikTok Shopとライブコマース。ライブコマースが欧米で受け入れられない理由はウォルマート?

TikTokのEC機能「TikTok Shop」が東南アジアで始まり、ライブコマースの習慣が定着をしようとしている。ライブコマースは欧米では受けないが、対照的に東南アジアでは好評で、販売チャンネルのひとつとして定着しそうな見込みだと環球時報が報じた。

 

東南アジア各国でライブコマースが浸透

中国でしっかりと販売チャンネルのひとつとして定着をしたライブコマース。しかし、他国では試みられているはものの、欧米ではほとんど関心を持たれないことから、ライブコマースは中国特有の現象だと考えられるようになっている。

しかし、その見方は誤りかもしれない。昨年2022年3月から東南アジア各国で、TikTokで商品が購入できるTikTok Shop機能が利用できるようになり、東南アジアでもライブコマースが行われるようになり、人気となり、定着をする見通しも生まれている。

▲マレーシアのOdoso Storeのライブコマース。日用品を販売している。

 

東南アジアで始まったライブコマース

タイのオンライン決済「Omise」が6月に公開したデータによると、東南アジアのライブコマースGMVは、TikTok Shopのリリース後306%増加し、購入件数も115%増加し2倍以上となった。Omiseの予測によると、東南アジアのライブコマース市場は2023年には190億元(約3600億円)に達するとされている。

タイのあるインフルエンサーインキュベーターの責任者、石雷氏が環球時報の取材に応えた。「現在、タイのライブコマース市場の競争は熾烈になってきています。毎日、数千人の人がライブコマースを配信するようになっています」。

ベトナムの中国メディア「サイゴン解放報」によると、ベトナムでも毎月250件以上のライブコマースが配信されるようになっているという。

▲タイのMax valueのライブコマース。水筒の販売。

 

若い世代が多い東南アジアはECへの親和性が高い

東南アジアは、ライブコマースに適した状況になっている。人口は4.4億人であり、インターネット浸透率は75%。その多くがスマートフォンユーザーだ。ECのGMVも1740億元(約3.3兆円)に達しているが、その利用者の多くは若い世代で、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの4カ国を合わせた人口構成では、35歳以下が50%を超える。

もちろん、一口に東南アジアと言っても、ネットサービスの受け入れ方は国によって異なっている。タイは、その中でもSNSやキャッシュレス決済手段が整い、東南アジアの中ではライブコマースに最も向いている国になっている。ベトナムは、現在ライブコマース基盤を構築中で、これからが期待されている。

フィリピンはECの浸透がこれからだが、それだけに娯楽性の高いライブコマースが受け入れられ、今後大きな販売チャンネルになる可能性がある。

マレーシアとシンガポールは状況がよく似ており、ECが定着をしているため、ライブコマースにも関心が高まりつつある。

シンガポールのMOBOTのライブコマース。電動自転車の販売。

 

EC利用率が高まる東南アジア

東南アジアでは、ECの利用率が急速に高まりつつある。ひとつの理由は、東南アジア各国の経済が成長し、物流インフラが整ってきたことだ。2つ目の理由は、市民の経済力があがり、購買力が上昇していることがある。

そして、最も大きな要因がコロナ禍だ。外出を控えたいという意識が強くなり、日用品をECで購入する傾向が強まっている。このような状況で、娯楽性のあるつくり込みをしているライブコマース番組の人気が高まっている。

インドネシアのErigo Store。男性向けファッションブランド。

 

欧米ではライブコマースへの関心は低い

一方で、欧米ではECは早くから定着しているものの、ライブコマースへの関心は高くない。英国のフィナンシャルタイムズの報道によると、バイトダンスはTikTokのEC機能であるTikTok Shopの米国と欧州での投入計画を放棄したという。欧米でのライブコマースは、いまだに導入段階にとどまっており、軌道に載る気配が見られない。

最も大きな理由は、ウォルマートなどの巨大スーパーの存在だ。巨大スーパーはいずれも大量仕入れで安価で日用品を提供しており、オンラインでの販売も行なっている。その価格競争力が強すぎて、ライブコマースが「安価で消費者を惹きつける」ということができない。

中国では、スーパーの物流がまだ成熟をしていないために、スーパーが最安値で商品を提供することができていない。そのため、ライブコマースがスーパーよりも安価で商品を提供することが可能となり、多くの消費者を惹きつけることに成功した。欧米ではライブコマースを行なっても、スーパーと同価格で提供するのが限界で、消費者からすれば、なぜ買い物のために長時間の番組を視聴しなければならないのかとなる。

 

ライブコマースはブランド認知にも大きく貢献

東南アジアでライブコマースが軌道に乗り始めたことで、中国メーカーにも大きな商機が訪れている。

東南アジアでは、中国製の化粧品、衣類、電子製品などはすでに人気となっているが、それ以外のブランドはなかなか進出することができなかった。その理由は、ブランドを知る機会が少ないため、認知度が低く、東南アジア消費者の購入の選択肢に入ってこないからだ。

しかし、ライブコマースでは、ブランドの紹介をして、認知度、理解度を高めることができる。これから東南アジアに進出をしたい中国メーカーにとっては、ライブコマースがプロモーションと販売を兼ねたチャンネルになってきている。

ベトナムのShin Case。カスタマイズ可能なスマホケースを販売するスタートアップ。

 

ライブコマースが消費者との接点となっている

また、ライブコマースを行うことで、意外な需要を発見することも起きている。以前、中国の果物は東南アジアでは売れないと考えられていた。東南アジアは果物の宝庫で、わざわざ中国の果物を輸入してまで買う人はいないと考えるのが自然だからだ。

ところが、ライブコマースで中国のドライフルーツを販売してみたところ好調に売れる。東南アジアの果物はパイナップルやマンゴー、バナナといった熱帯フルーツが中心であり、中国製ドライフルーツに入っているリンゴや梨が新しい味で、人気となった。

また、中国で人気の辛いスナック菓子「辣条」(ラーティアオ)も、意外なことに人気商品となった。ライブコマース配信者側が試しに販売をしてみたところ、確保した在庫の7000箱が1回のライブコマースで売り切れてしまった。東南アジアの人には珍しいスナック菓子であるため、興味本位で購入した人が多かったのだと思われる。

中国でのライブコマースは、一時の流行ではなく、店舗、ECに続く第3の販売チャンネルだと認識をされている。東南アジアでも、ライブコマースは一時の人気ではなく、定着をすると見る人が多くなっている。